長崎河川国道管内における事故ゼロプランの取り組みについて

長崎河川国道管内における事故ゼロプランの取り組みについて
長崎河川国道事務所
交通対策課
◎時川 三千夫
○橋爪 隆介
●沼野 猛 他 3 名※
1.はじめに
国土交通省では、公共事業の効率性や透明性を向上させることを目的として、平成22
年度より『政策目標評価型事業評価』を導入した。その中でも交通安全事業においては、
事業のマネジメントサイクルを「事故ゼロプラン」と位置づけ、公共事業のより一層の効
率性・透明性を図るものとして運用している。
そういった状況の中、今回の発表では、昨年度に長崎県佐世保市で、連続する2件の重
大事故が発生し、対策検討から対策実施、効果の分析・検証までを事業マネジメントサイ
クルに沿って実施した事例を用いて、事故ゼロプランへの取り組みを報告する。
2.事故ゼロプランについて
事故ゼロプランとは、PDCAから構成される事業のマネジメントサイクルにより、効
率的な事業の実施を行うものである。PDCAとは①Plan(計画)②Do(実施)③
Check(評価)④Action(反映)のことで、その頭文字を取ってPDCAと呼
ぶ。①から④までを一連の流れとし、 P
評価の高い効果的対策は他の事業
へ、また、効果の確認出来なかった
対策は、その改善点を講じて効果を
A
ction
ction
lan
lan
局所的な課題を把握
データ、地域の声
委員会開催
意見
第三者委員会
地方公共団体
検証した後に他の事業へのプランの
要対策区間(リスト)
の特定・公表
策定に活かすという、PDCAのサ
課題の要因を分析
イクルによって事業の効率的なマネ
対策案の選定
C
他の事業へ反映
heck
heck
分析・評価
(対策の有効性検証)
効果計測(データ)
D
oo
ジメントを図っている。(図 2.1)
事業実施(対策)
図2.1事故ゼロプランの概念
3.事業箇所の概要
3.1事故の概要
長崎県佐世保市大和町の国道35号が緩やかに
カーブする区間に市道が接合する信号のないT字
交差点で、平成23年4月に市道から国道への右
折車と国道を直進する二輪車、5月には国道から
市道
市道への右折車と国道を直進する二輪車の事故が
発生し、2件とも死亡事故となった。連続する重
大事故であり早急な事故対策が必要であるとし
て、昨年度、緊急的に対策を実施した。
※九州技術事務所 防災技術課長
事故発生箇所
国道35号
写真 3.1 事故発生箇所写真
崎野信二、長崎河川国道事務所 佐世保国道維持出張所
山口正明、柳島司
3.2過年度の事故の特徴
当地区でこれまで
8
発生した事故の状況
6
を過去5年間の統計
4
データを基に整理す
ると、下記の様な特
H17~H21
サンプル数:21
正面衝突:1件
4.8%
7
正面衝突
5
合計 / 軽傷者数(人)
7
5
合計 / 重傷者数(人)
7
3
追突:10件
47.6%
6
2
合計 / 死者数(人)
車両相互
出会頭:3件
その他:4件
14.3%
19.0%
右折:3件
14.3%
2
左折
右折
車両単独
1
徴がある。
出会頭
車両相互その他
1
0
追突
0
H17
H18
1
0
0
H19
H20
H21
図 3.2 事故による死傷者数(H17 ~ H21)
・死亡事故は0件
人対車両
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図 3.3 事故類型別の発生割合(H17 ~ H21)
・重傷者は2名のみ
・追突事故が5割を占める
・出会頭事故は2割弱
・右折時事故は2割弱
・昼間の事故が8割
・路面乾燥時の事故が8割
(図 3.2、3.3、3.4、3.5 参照)
図 3.4 過去の事故発生時間帯
図 3.5 過去の事故発生時の路面状態
今回発生した2件の事故は夜間20:00頃の右折時事故、出会頭事故であり、過去の
事故発生状況と比較すると、少ないケースであることが分かる。
4.事前調査
現地踏査を実施し、当地区の事故の要因となる危険因子を調査した。さらに、踏査結果
からビデオ調査箇所を選定し、固定カメラ3台で詳細な交通の状況を把握する。
4.1現地踏査結果
現地は国道が緩やかにカーブ
する区間であり、市道から国道
を見ると直進する車両が視認し
づらい。(写真 3.4)また、国道
から市道への右折時には下り線
第二車線の渋滞も発生している
ことが分かる。(写真 3.5)
写真 4.1 市道から国道を望む
写真 4.2 市道への右折車による渋滞
4.2ビデオ調査結果
撮影したビデオデータを解析し、ブレーキ回数※1)、右折ギャップ時間※2)を計測。
明確なデータにより事故の要因となる状況を定量的に評価する。
市道から国道への右折ギャップヒストグラム
※交差点から
区間1(~ 10m) 区間2(~ 20m) 区間3(~ 30m)
図 4.3
国道直進車がブレーキを踏む割合
図 4.4 右左折車による国道直進車のブレーキ回数
図 4.5 右折ギャップの秒数別分布
※1)市道から国道への右左折車両により国道直進車がブレーキを踏んだ回数
※2)市道から右左折車両と国道直進車、市道への右折車両と国道直進車の通過時間差
・市道からの右左折車により国道直進車両は6割がブレーキを踏んでいる(図 4.3)
・朝ピーク、夕ピーク時に多くの車両がブレーキを踏んでいる(図 4.4)
・市道から国道へ右折する車両が通過した5秒後には国道直進車が交差点へ到達(図 4.5)
4.3事故との関連性
以上の調査結果により、事故の形態に対する現況の問題点を整理すると、右左折事故は
①市道からの右左折車は国道方向の視距が取れない②右左折車は国道直進車の隙間を縫っ
ての右左折によるもの。追突事故は①国道の直進車は信号のない交差点からの右左折車に
よりブレーキをかけることによるもの②交差点の認識不足によるものだと考えられる。
5.対策案
対策案は事故の要因に対して、それぞれ最適な対策を分析結果により選定しており、主
には右折レーンの設置と信号設置による交差点改良とした。その他にも、減速を促すドッ
トラインや、交差点として認識するよう注意看板等の設置を行う計画とした。
6.対策の実施
当地区はJR大村線との併走区間でもあり、用地の制約があった為、右折レーン設置は、
現況用地内で歩道を狭めてスペースを確保
し、右折帯として整備した。なお、歩道を狭
めることについては、地元住民とも協議し、
歩行者の利用が少ない下り線側を切り取るこ
ととした。また、信号については交通管理者
の管轄となるが、警察も早期の信号整備を検
討しており、同時期に工事を実施し、今年3
月には信号交差点として運用開始している。
図 6.1 対策完了後の写真(起点から終点を望む)
7事後調査、評価
事前調査データを基に、同様の事後調査を実施して対策の効果を定量的に把握する。
7.1右左折ギャップの比較による評価
市道への右折車と国道の直進
車との時間差について、事前事
後を比較すると、5秒以内の無
理な右折車が約60%減少して
いることが分かる。なお、市道
から国道への右左折車は信号制
御による為、無理な右左折は全
て解消している。
図 7.1 右左折ギャップ前後比較(国道から市道)
7.2ブレーキ回数の比較による評価
国道から市道への右折車両により国
道直進車のブレーキ回数は、ピーク時
に80%以上の減少が確認された。前
述の右左折ギャップによる結果も踏ま
えて、市道への右折車は信号の切替り
時に右折することによって、国道のブ
レーキ回数が大幅に減少したものと考
えられる。なお、市道から国道への右
左折車は信号制御による為、それに起
因するブレーキは全て解消している。
図 7.2 ブレーキ回数前後比較(国道から市道への右折車)
7.3道路利用者アンケートによる評価
現地の計測によるデータ比較に加え、道路利用者の事後アンケート調査を実施した。ア
ンケートは国道から市道へ入った付近にあるスポーツセンターの利用者や、保育園の送迎
で利用する方、国道を利用する周辺住民の方に協力して頂き、その結果を取りまとめた。
交差点の安全性の向上、事業の満足度は94%以上の方が肯定的な意見であった。
図 7.3 アンケート結果集計(安全性の向上)
図 7.4 アンケート結果集計(交差点改良の満足度)
8.今後の展開
今回、対策による期待通りの効果が確認されたことから、事故ゼロプランの事業マネジ
メントサイクルに沿って、他の事業への展開を今後検討していく。なお、他の事業への適
用にあたっては、交差点の視距が悪く、信号のない交差点での事故が発生している箇所で
あるといった、当地区と地形的な条件や事故の発生要因が同様な箇所に適用できるのでは
ないかと考えている。
9おわりに
今回の事例によると、想定した効果を対策前後での客観的なデータ比較に基づいて定量
的に示しており、さらに想定通りの効果を検証することが出来た。事故ゼロプランは運用
が始まって間もない為、継続事業では効果検証の際に事前データが不足する箇所もある。
効率的な事業を展開する為には効果の把握は重要であり、適切な事前調査を実施していく。
今回のような事故をなくす為にも、本検討を活かし事故ゼロプランへ取り組んでいきたい。