FMBEM による遮音壁の 3 次元解析 ―有限長モデルと減音効果評価に関する検討― ◎安田洋介,佐久間哲哉(東大・環境),大嶋拓也(新潟大・工) 1.序 道路交通騒音予測において, 様々な形状の遮音壁 に対するユニットパターンを算出するには3次元解 析[1, 2]が不可欠である. しかしながら,数値解析手 法を適用する場合有限長モデルを用いることとなる ため, 側方からの回折波の影響に十分配慮する必要 がある.また,地表面の影響により干渉が顕著な音 場となることから, 受音点の空間サンプリングによ り音圧レベルが変動しやすく, 特に鋭いディップ部 においては, 異なる手法間での比較や実測との比較 の際に差が顕著になる場合がある.本報では,高速 多重極境界要素法(FMBEM)[3]による有限長遮音壁 の3次元解析を通して, はじめに壁の側端部と音源・ 受音点の位置関係による側方回折波の影響について 検討する.続いて,受音点による空間サンプリング に対する音圧レベル値の安定性を高めるため, 空間 エネルギー平均による音圧レベル値を導入し, 平均 領域の影響を調べる. 2.数値解析方法 (1)解析モデルとケーススタディ 地表面上(剛) の有限長遮音壁(剛,厚み 0)と点音源,受音面か ら成る解析モデルの断面図をFig. 1に, 平面図 (6種) を Fig. 2 に示す.タイプ A(音源・受音面が同一平 面) ,タイプ B(音源・受音面間距離 20m)のそれぞ れについて,壁の側端部・受音面間距離(dとする) を変化させ,側方からの回折波の影響を調べる.こ こではタイプA-40 (hを壁高としてd = 16h), B-20 (d = 8h)の音圧レベルを無限長壁と同様のものと見なし (以下,基準タイプ),これとのレベル差(絶対値)で 評価することとする. (2)解析手法 剛床を対称面とする鏡像を考慮す ることでモデルを有限境界とし[1], 法線方向微分型 に基づくFMBEMを適用する.境界要素は四角形一 定要素とし, 要素一辺を解析波長の1/6以下とする. 行列方程式の反復解法, 及び無限和打ち切り次数等 の各種設定パラメータについては既報[4]に準ずる. 3.結果と考察 (1)側方回折波の影響 基準タイプの受音面にお ける挿入損失分布, 及び他のタイプと基準タイプの 音圧レベル差(絶対値)の分布を Fig. 3 に示す.壁 の側端部から5m (= 2h)離れた受音面 (A-5, B-5)では z [m] 5 barrier 2.5 receiving area point source 0 x [m] -4 0 10 Fig. 1 Geometry of a rigid straight barrier, a point source, a receiving area (site cross-section) and infinite rigid ground. point source 40 20 barrier 40 receiving area A-40 40 10 5 B-20 20 A-10 B-10 10 A-5 B-5 5 Type A Type B unit: [m] Fig. 2 Types of models for numerical study (site plan). 壁の影となる領域全体でレベル差が大きいのに対 し,端部から 10m (= 4h) の受音面 (A-10, B-10) の場 合,ディップ付近を除いては周波数・タイプによら ず2dB以内のレベル差となっていることがわかる. (2)減音効果評価量 受音点による空間サンプリ ングに対する音圧レベル値の安定性を高めるため, rrを中心とする一定領域内部に複数の受音 各受音点r 点を設定し, 次式のような空間領域でのエネルギー 平均による音圧レベルLm(rr)を算出する. 1 L m (rr ) = 10 log 10 N | p (rk ) | 2 2 rk ∈Gm ( rr ) | p 0 | ∑ (1) 但し,p(rr):rr での音圧,p0:音圧基準値,Gm(rr):rr を中 心とする直径 m 程度の平均領域,N:1受音点のための平 均点数. この値は平均領域Gm(rr)全体に対するレベル評価値 といえる. これにより空間領域における長さm以下 程度の波長成分が除去される. 本報では平均領域を 1辺mの立方体とし,平均化のための受音点間隔を 波長 λ の 1 / 4 以下とした.タイプ A-40 の受音面に おける500Hzでの挿入損失分布と, 対応するLm(rr)の Three-dimensional analysis of noise barriers using FMBEM -on the length of barriers and evaluation of sound reduction -. By YASUDA Yosuke (Instit. of Environ. Stud., Univ. of Tokyo), OSHIMA Takuya (Fact. of Eng., Niigata Univ.) and SAKUMA Tetsuya (Instit. of Environ. Stud., Univ. of Tokyo). (a) A-40 (a) B-20 40 30 20 10 0 -10 z[m] 4 3 2 1 0 (b) [A-10] - [A-40] (b) [A-10] - [A-40] 5 Insertion loss [dB] (a) A-40 5 (b) [B-10] - [B-20] 3 2 4 3 2 1 0 1 0 0 1 2 3 4 (c) [B-5] - [B-20] (c) [A-5] - [A-40] (c) [A-5] - [A-40] 5 6 x [m] 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 x [m] 7 8 9 10 0 1 2 3 Type A at 500Hz Type A at 125Hz 4 5 6 x [m] 7 8 SPL difference [dB] z[m] 4 9 10 Type B at 500Hz Fig. 4 Contour maps of (a) insertion loss in the receiving area of types A-40 and B-20, and (b, c) absolute SPL difference due to the length of barriers. 5 (b) m = λ / 4 4 10 0 20 10 30 20 40 30 3 2 4 3 2 1 0 1 0 5 (b) m = λ / 2 4 z[m] Insertion loss [dB] 0 3 SPL difference [dB] z[m] (a) without averaging (a) m = λ / 4 2 1 0 0 40 5 x [m] 5 10 0 0 10 20 30 40 z[m] 0 0 5 x [m] 5 10 0 z[m] Fig. 5 3-D contour maps of insertion loss in the receiving area of type A-40, (a) without averaging and (b) with averaging in cubes of λ / 4 edge around each receiving point. 分布 (m = λ / 4) を Fig. 5 に示す.本計算例では全面 剛境界のため, 干渉による鋭いディップが多いが, λ / 4程度の領域平均により十分除去され, かつ全体の 分布傾向は変化しないことがわかる. 次にこのエネ ルギー平均レベル分布に関して,m = λ / 2,λ / 4 と した場合のタイプA-10と基準タイプ(A-40)の音圧 レベル差をFig. 6に示す.平均化前(Fig. 4)と比べて 著しく差が減少しており,特にm = λ / 2ではディッ プ部を除きほぼ1dB以内である.このことから,本 エネルギー平均手法は3次元解析の際の側方回折波 の影響の除去にも有効といえる. 1 2 3 4 5 6 x [m] 7 Type A at 500Hz 8 9 10 λ: wave length Fig. 6 Contour maps of absolute difference in energyaveraged SPL between types A-10 and A-40: (a) averaged in cubes of λ / 4 edge around each receiving point, and (b) in cubes of λ / 2 edge. 4.まとめ 有限長壁における側方回折波の影響に関して FMBEMによる解析を通して検討した.本計算の設 定範囲内では, 音圧分布のディップ部を除き周波数 による違いは小さかった.また,空間エネルギー平 均による音圧レベル値を提案し, 音圧分布における 鋭いディップの低減効果,3次元解析における側方 回折波の影響の低減効果を示した. 参考文献 [1] Y. Kawai, T. Terai, Appl. Acoust., 31, 101-117 (1990), [2] 井 上,藤原,ASJ 講演論文集,823-824 (2001. 10), [3] T. Sakuma, Y. Yasuda, Acta Acustica / Acustica, 88, 513-525 (2002), [4] 安 田,佐久間,ASJ 講演論文集,747-748 (2000. 9).
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