極早生ウンシュウミカンの点滴かん水施設の有効利用による液肥施用技術

極早生温州ミカンにおける点滴かん水施設の有効利用による
液肥施用技術
紀南果樹研究室 ○須﨑
徳高・鈴木 賢
1.背景
カンキツ産地では担い手の高齢化が進み、管理作業の省力化及び軽労働化が望まれていると
ともに、近年は地域住民の環境に対する関心が高まり、環境負荷の少ない農業技術の開発が求
められてきている。また、生産現場では高品質果実生産のための透湿性マルチを利用した栽培
方法が普及し、その水分コントロール用資材として点滴かん水施設の導入が進んでおり、この
施設のかん水以外への有効利用が求められている。
そこで、施肥作業を点滴かん水施設を利用して液肥で行えば軽労働化が図れることから、液
肥施肥の実用性と、減肥の可能性について検討した 。
2.試験研究方法
場内の「宮本早生」13年生を供試して、平成10年10月から平成14年にかけて、下記の試験設
計で施肥を行い、葉内成分および葉色の推移、果実品質、収量等への影響について調査した。
表1 処理の概要
施肥時期
処 理
春肥
秋肥
年間窒素量
液 肥*
4月上旬から10日間隔5回 10月下旬から10日間隔5回 12.6kg/10a
(1回N量=1.26kg/10a)
(1回N量=1.26kg/10a)
**
慣 行
N=4kg/10a
N=6kg/10a N=8kg/10a
18.0kg/10a
(3/中)
(10/上)
(10/下)
注)* 液肥区は年間窒素量を慣行区の70%に減肥。10-6-5-1のものを200倍に希釈し、樹幹の
両側地表面に設置した点滴かん水チューブ(かん水穴30㎝ピッチ)で施用。 * *配合肥料は6
-5-4-1(南紀極早生号)のものを用いた。
3.結果および考察
(1)葉中窒素濃度は、液肥区で新葉が硬化する6月頃から高く、ほぼ1年を通して高めに推
移した(図1)
。
(2)葉中のリン、カリウム濃度には、いずれの年も処理による大きな差は見られなかった(表
2、表3)
。
(3)葉色は、試験期間を通して液肥区が慣行区より高めに推移した(図2)
。
(4)1樹当たりの収量や果実品質には、液肥区と慣行区との間に大きな差が認められなかっ
た(表4)
。
以上のことから、点滴かん水装置を利用した液肥による施肥は、年間窒素成分量を慣行の
70%に減じても、慣行栽培と収量や果実品質に差がなく、栽培ができることがわかった。な
お、慣行に比べて葉中窒素濃度、葉色が高めに推移するなど、施肥した肥料が効率的に吸収
利用されていると考えられ、さらなる減肥の可能性が伺える。
4.普及上の留意点
(1)点滴かん水装置を利用した液肥施用は、降雨がない時や少ない時でも効果的な施肥がで
きる。
(2)液肥は、慣行の配合肥料より効率的に吸収されていると考えられることから、施用にあ
たっては窒素量を通常の施肥量の70%に減じること。
(3)液肥施肥は、かんきつ類全般で適用できると思われる。
(4)液肥による年間施肥は可能であるが、高品質果のための適正な施肥体系については、現
在研究中であり、果実肥大期の夏肥や収穫後の樹勢回復のための追肥として利用するのが
望ましいと考える。
5.主要成果のデータ
3.3
3.2
3.1
2.8
2.7
2.6
2.5
2.4
液肥
慣行
99/06
7
8
10
11
00/01
3
6
7
8
9
10
11
12
01/01
2
3
6
7
8
9
10
11
12
02/01
%
3
2.9
図1 葉中窒素濃度の推移(宮本早生 15年生、H13)
表2 葉中リン濃度
処理
葉中リン濃度(%)
H11
H12
H13
液肥
0.18
0.17
0.18
慣行
0.19
0.18
0.18
注)
測定は全て8月。
全ての項目で有意差なし。
表3 葉中カリ濃度
処理
葉中カリ濃度(%)
H11
H12
H13
液肥
0.93
1.59
1.63 b
慣行
1.18
1.52
2.19 a
有意性
NS
NS
*
注)測定は全て8月。
英小添字は一元配置法により異符号間に
有意差(*5%)あり。
85
75
70
液肥
65
配合
60
99/06
7
8
9
10
11
12
00/01
2
3
6
7
8
9
10
11
12
01/01
2
3
7
8
9
10
11
12
02/01
SPAD値
80
図2 葉色の推移(
宮本早生 15年生、H13)
表4 収量と果実品質(宮本早生 15年生、H13)
年 度
処理
1樹当たり 果実重
果皮色 糖度 クエン酸
調査日
収量(kg/樹)
(g) (カラーチャート) (%) (%)
H12
液肥
31.5
125.1
1.4
8.1
1.01
9/29 慣行
24.0
97.5
1.6
8.4
0.91
H13
液肥
30.8
83.6
−
9.3
0.82
10/3 慣行
23.7
89.3
−
9.3
0.88
有意性
NS
−
NS NS
NS
注)有意性はF検定。