1 「せいび」誌 2010 年 1 月号掲載 働く仲間 バイオ洗剤 人と共に暮らし、人の役に立ってきた生物は数多くいます。牧羊犬、狩猟犬、ネズミを捕 る猫、馬などはその代表と言えるでしょう。 同じように、微生物も人の役に立ってきました。酒造、チーズ、味噌、漬物など数多くの 微生物が人の生活の役に立ってきています。 バイオ洗剤が開発されたのは、世界的には 1990 年代とされています。日本では EM 菌が その前に開発されていたようですが、世界的に使用が開始されたのはこの 10 年と言ってよ いでしょう。 バイオ洗剤の開発にはバイオベンチャーの進出が大きく関係しています。現在世界には数 多くのバイオベンチャーがありますが、バイオベンチャーには色々な得意分野があること は言うまでもありません。遺伝子操作を主とした、医療、食品関係などです。私たちが関 係するのは清掃分野になります。 清掃分野に関連している大手は世界的にみると 3 社と言われています。この分野では勇敢 なバイオハンター(博士号をもつ若者が多い)が地球上のあらゆる場所で様々なバイオを 採取し、また優秀な微生物学者が日々研究することで、現在では 3 つの大きな分野でのバ イオの組み合わせが定型化されています。水の浄化(浄水の意味)、汚水の浄化、ビルクリ ーニングの分野の 3 つです。 3 つの分野 * 水の浄化の分野 * 汚水の浄化分野 * ビルクリーニング(建物等に着く汚れ)分野 バイオ洗剤に含まれるバイオは 1 種類ではありません。汚れには様々なものがあり(糖分、 脂肪、蛋白質)、それぞれ分解に適するバイオがあります。バイオが汚れを分解した後で、 その食べ滓や消化物を次のバイオが食べ、またその次のバイオが控えていると言う具合に バイオを連鎖的に組み合わせることで、最後に汚れを水(H2O)と炭酸ガス(CO2)に分 解し、自然に戻すことを目的にしています。汚れが排水を流れた後でも、汚れを消化する バイオが共に流れていくため、自然に負荷が掛らず、返って自然の分解能力を強化します。 (Bioaugmentation バイオオウギュメンテーション=分解細菌の強化の意) この組み合わせが難しいのです。バイオには球菌、桿菌(棹状の菌)、グラム陽性、グラム 陰性、好気性、嫌気性、通性嫌気性など様々な種類がいます。勿論、人体や動物に害を及 ぼすものは使用することはできません。こうした中から、汚れに適し、汚れを貧欲に食べ 2 てくれるバイオを効率よく組み合わせていかなければなりません。 汚れ バイオA バイオB バイオC CO2 H2O CO2 H 2O CO2 H 2O CO2 H 2O 一例をあげましょう。我が日本で最初にバイオ洗剤が使用されたのは、私の記憶ではグリ ーストラップや汚水槽での使用でした。グリーストラップは主に厨房の床に設置されてお り、悪臭の除去やグリーストラップからの汚泥の回収回数を削減できるという入りこみで、 私も様々な場面で色々な会社からのアプローチを受けました。2∼3年続きましたが、そ れ以後パタリと話を聞かなくなりました。話を聞いてみると、なかなか結果が出にくく、 グリーストラップに空気を挿入する装置(曝気=バッキ)が必要になることもあるなどと いう話を聞きました。この用途で使用するには不向きなバクテリア群だったのです。 即ち、グリーストラップの構造は以下の様になっています。 汚水 排水 汚泥 ご覧の様に、グリーストラップは構造的に、液体が流れて行く層と油などの汚れが堆積す る層に分かれてしまいます。液体が流れる層には空気(酸素)が含まれることから、好 気 性 バ ク テ リ ア が適しています。一方汚泥には酸素が入りませんので好 気 性 バ ク テ リ ア で は 歯が立たないのです。初期の日本製バイオ洗剤がうまくいかなかったのは正にこのためで す。想像ですが、好 気 性 バ ク テ リ ア が中心だった為に、本来の大きな目的であった汚泥の 分解がうまくいかず、曝気が必要になってしまったのでしょう。蛇足ですが、グリースト ラップ内で泡を立てる(曝気する)と言うことは、汚泥を撹拌することになりますので、汚泥 が直接排水施設に出され、環境破壊につながってしまいます。グリーストラップはグリー ス(油)をトラップする(捉える)ことが本来の役割で、役に立たなくなってしまいます。 3 数年後にスパルタンケミカル社が発売した「コンシューム」という、こうした用途に最適 の洗剤では、通 性 嫌 気 性 バ ク テ リ アを中心としたバクテリア群で洗剤を組み立てました。 通 性 嫌 気 性 バ ク テ リ ア とは、酸素のあるところでは好 気 性 バ ク テ リ ア として、酸素のな い場所では嫌 気 性 バ ク テ リ ア としての両方の役割を果たすバクテリアのことです。汚れや 場所によって選ぶバイオの種類によって結果が大きく違ってしまう良い例と言えましょう。 余談ですが、このコンシュームのシリーズが非常な評判を呼び、スパルタンケミカル社を 米国でも不動の地位に置くようになったのです。 その後もスパルタンケミカル社では数多くのバイオ洗剤を開発し、多くの特許を得、世 界的な評価を受けています。弊社のバイオボウル(トイレ用)やエコライザー(消臭用) も非常に良く売れており、お客様から他社のバイオ洗剤との差を尋ねられた際には、上記 の説明をし、まずスタートとしてのバイオ群の違いを説明するようにしています。 その上、スパルタンケミカル社は界面活性剤の開発力では定評のある会社ですので、こう した汚れに合ったバイオと洗剤を組み合わせる技術を発達させました。米国でも様々なバ イオ洗剤が開発はされていますが、バイオボウルではトイレ清掃に必要なクエン酸とバイ オを同居させることに成功し、特許をとりました。エコライザーでは除菌洗剤とバイオを 同居させるという従来の常識からかけ離れた技術を開発し、特許を 2 つ取っています。 今回のテーマとして、バイオを仲間にしてお掃除をするということを述べて行きましょう。 最近、大手のビルメンテナンス会社から、トイレ清掃の合理化でバイオボウルを使用する 例が多くなってきています。バイオボウルを使用して、メンテナンススケジュールをジャ ンプし、コスト競争力を上げようと言う動きです。 メンテナンス業界ではコスト競争が激しく、既存の清掃方法では合理化も限界に近づこう としています。一方、日常清掃でトイレ清掃は(通常のオフィスビルでは)25∼40% の時間を占めています。弊社のバイオボウルを使用し、トイレの内側の清掃を毎日ではな く、週2∼3回にし、作業時間の削減を計ろうという動きです。ご存知の様に、バイオボ ウルを使用すると目皿の清掃回数も激減しますので、1 回あたりの清掃作業も時間短縮にな ります。ある教育機関では(大きな大学ですが)、トイレ清掃係を作業費の切り詰めと共に 10 人から 5 人に削減した実績を持っています。 使用頻度の激しい駅では、隔日は無理でしょうが、オフィスビルでは十分に可能な方法で、 現在幾つかの商業ビルでも、隔日清掃(翌日の見回り清掃は必ず実施しますが)の取り組 みも始まっています。「今日は私、明日はバイオがお掃除」ということです。バイオ洗剤は 上手に使用し、自分たちがバイオをうまくコントロールし、バイオを仲間の様に扱ってや ると、こうした便利な使い方が可能になります。消臭効果だけでなく、駅以外のトイレで は是非お試しください。 バイオの種類 スパルタンケミカル社のバイオ洗剤のコンシュームシリーズは主に無害のバチルス(バシ 4 ラスとも言う)種を使用しています。このバクテリア群の特徴は牙胞菌であるというこ と、酵素を良く出し、消化力に優れているという特徴があります。牙胞菌とは、周囲の環 境が自分に不利になると殻をかぶってしまうという性質を持つ細菌群のことです。亀や貝 を例に出して説明する研究者もいます。牙胞菌は耐性が強く、洗剤と一緒にして、すぐに 死んでしまうということがありません。また、酵素はバクテリアのナイフやスプーンと評 されるように、対象有機物をバクテリアが食べやすいように分解する非常に強力な力を持 っており、酵素を出せば出すほど、モリモリと消化をして行きます。従って、皆様のお使 いになるバクテリアは消化力の強い奴とお考え下さると宜しいと思います。 バイオの成長曲線 増加 細 胞 数 䥹 対 数 䥺 定常期 対 数 期 死 滅 期 誘 導 期 時間 バイオの成長曲線は以上の様になっています。バイオ洗剤は定着に時間が掛ること、援軍 を送ってやることが必要であることが理解しやすいと思います。 バイオ洗剤のメカニズム バイオ洗剤を使用する場合は通常の洗剤と同様に、洗剤の特性を生かすことが重要です。 弊社の洗剤を扱う講習会では「 正 し い 所 に 正 し い 洗 剤 、正 し い 稀 釈 で 」などと唱和させ ま すが、プロ用の洗剤は使用範囲が狭く効果が高いのが特徴になっています。バイオ洗剤も 同様に、用途に合ったものをご使用下さい。 バイオ洗剤で重要なことは「 洗 剤 + バ イ オ 」であることです。汚れを落とすメカニズムと しては洗剤で汚れを浮かせ、バイオに追及させて汚れ落ちの効果を高めます。また、バイ オが洗浄箇所に残ることで消臭効果を高めたり、作業効率をアップさせたりします。こう したメカニズムであるために、まず洗剤の適正が大切です。トイレであれば当然酸性洗剤 が必要になりますし、カーペットであれば結晶化する洗剤と一緒でなければ使いにくいと いうことになります。単なる中性洗剤+バイオでは、最初に強い洗剤で汚れを落とすなど 2 回の処理が必要になることが多く、手間が返って掛ってしまうことになりかねませんので 注意が必要になるでしょう。 5 バイオと温度 バイオの効果は温度に比例します。通常10℃異なると、効果は倍になると言われていま す。但し、バイオが良く働く温度は概ね20℃∼55℃と言われていますので、その範囲 で考えて行けば宜しいでしょう。 バイオ洗剤と稀釈 バイオ洗剤で稀釈して使用するタイプでは(弊社ではエコライザー、CX バイオアシスト、 マイクロマッスルなど)、稀釈後24時間以内に使用することが重要です。これは稀釈する と水で洗剤分が薄まり、バイオの活動が始まってしまうからです。バイオ洗剤では稀釈前 はバイオを不活性化しています。洗剤とバイオが一緒になっていることが重要だと前項で 述べましたが、この技術は中々難しいのです。洗剤とバイオをやみくもに一緒にしてしま うとバイオが死んでしまいます。万が一生き残ると今度はバイオが洗剤を食べてしまうの で、洗剤としての力が無くなってしまうのです。バイオ洗剤では稀釈前は不活性化(冬眠 のようなものとお考えください)していることが重要なのです。バランスと選択が非常に 難しく、その為数多くの特許が取得出来たのです。 バイオ洗剤を稀釈した場合はその日のうちに使い切って下さい。余った洗剤は排水口に流 して下さい。排管を綺麗にしてくれるでしょう。 バイオ洗剤の使用上の注意 1.バイオ洗剤は医療現場と、食べ物が直に触れる場所には不向き バイオ洗剤はバイオを大量に使用する方法です。医療現場には易感染者(いかんせん しゃ=非常に病気に掛りやすい人で常在菌に対しても感染してしまう)がおりますの で、医療現場では使用するべきではありません。また、バイオを大量に使用すること から、食べ物が直接触れる場所(=まな板、食べ物を入れるカゴなど)での使用は控 えるべきです。 2.散布する際には細かい霧は避ける。 バイオ洗剤を散布する際には空気中を散布液が漂うほど細かな霧にせず、粗めの粒子 で散布しましょう。安全なバイオを使用しているとはいうものの、肺に大量に吸い込む 状況は避けるべきです。 最後に弊社のバイオ洗剤の種類と特徴を簡単に述べておきます 弊社で最も売れているトイレ用バイオ洗剤。悪臭の除去とメンテナンス スケジュールを少なくすることが特徴。便器に手を入れずに清掃が出来る。 目皿の清掃回数が激減する。オフィスビルや一部の商業ビルでは便器内の 清掃を毎日から週2∼3回の清掃回数にし、その他は見回り清掃とするこ とで人件費の削減を目指す会社が増えている。 コンシュームバ イ オ ボ ウ ル 除菌中性バイオ洗剤。圧倒的な悪臭の除去。1:64(4ℓに稀釈ポンプ 2回)と高稀釈で経済的。ノンリンスで使用可能なので、手間は水拭きと コンシュームエ コ ラ イ ザ ー 6 一緒。トイレ床、ゴミ置き場、ペットの悪臭除去、ロッカー、 悪臭のする道路など様々な場所で使用可。 カーペット用洗剤。1:64と高稀釈。中性に近いpH 値で高い洗浄 効果。合わせてカーペットをバイオが保護することから、カーペットの 寿命を延ばす。 CX3 バ イ オ ア シ ス ト 中性バイオ洗剤。グリーストラップ、汚水槽など汚水や汚泥の浄化。1: 10に稀釈すると、カーペットのシミ抜きとしても使用可。悪臭除去の中 性洗剤としても使用できる。 コンシューム 牧場や養豚場などの悪臭の除去 コンシュームパウダー 池、湖沼、河川などで使用するバイオを使用した蚊取り剤。バイオが蚊 のサナギ化を阻止することで防蚊効果をもたらす。同様のコンセプトの 化学物質があるが、高価で環境問題からも疑問視されているのでその解 決策。 コ ン シ ュ ー ム M P (ビスケット状パウダー) 以上の様になっています。バイオと仲間になり、うまく活用することで、作業効率を上げ たり、差別化を図るなど様々なことが可能だろうと確信しています。 (連絡先) 株式会社アムテック 営業担当 原 繁利 7 Tel. 03-5469-6667
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