永岡 佳子 - 千葉市教育センター

自分の思いや考えを持ち、豊かに表現できる児童の育成
―共感的な態度で交流する活動を大切にして―
千葉市立稲毛小学校 教諭 永岡
佳子
≪研究の概要≫
本研究の目的は、自分の思いや考えを持ち、豊かに表現できる児童を育成する学習指導の在り方を
明らかにすることである。そのために、交流する活動を効果的に取り入れる必要があると考え、共感
的な態度の育成を軸に、単元間につながりを持たせて交流する活動を取り入れた実践を行った。その
結果、交流することのよさを実感することができ、自分の思いや考えを持つだけでなく、考えの幅を
広げることができた。また、相手や目的に応じて話したり書いたりすることができるようになった。
1
問題の所在
は、自分の考えを受け入れてもらえる安心感や、
これまでの学習に関する各種の調査から、知
聞いてもらえる喜びを感じられるようにする必
識・技能の活用など思考力・判断力・表現力に
要がある。つまり、共感的な態度の育成が必要
課題があることが示されてきた。『学習指導要
だと考える。
領』では、各教科の中で基礎的・基本的な知識・
これらのことから、思考力・判断力・表現力
技能の習得を重視するとともに、それぞれの知
を育むために、共感的な態度で交流する活動を
識・技能を活用し、思考力・判断力・表現力を
取り入れた学習指導の在り方を明らかにする。
育むための言語活動の充実に重点を置いている。
また、千葉市の教育課題の中にも、
「共感的な
特に、国語科においては、言語力育成の中核
態度で交流する活動の充実を図る」とあり、
「共
を担う教科として、実生活で生きてはたらく力
感的な態度で交流する活動」をいかに取り入れ
を身に付けることができるよう、言語活動の一
るかに着目した学習指導の在り方を追究するこ
層の充実が求められている。
とは、その解明に応えるものになると考える。
『言語活動の充実に関する指導事例集』
には、
2
研究の目的と方法
「互いの存在についての理解を深め、尊重して
研究の目的は、自分の思いや考えを持ち、豊
いくこと」や、
「感じたことを言葉にしたり、そ
かに表現できる児童を育成するために、交流す
れらの言葉を交流したりすること」などといっ
る活動を取り入れた学習指導の在り方を示すこ
た言語活動の留意点が例示されている。
とである。その際、自分の思いや考えを単に発
しかし、本学級の児童は、
「何か言われたり、
表するのではなく、友達とかかわり合う中で他
笑われたりするのが嫌だ」というような理由か
者を認め、友達の考えをもとに自分の考えを見
ら、自分の考えを積極的に発表する児童は特定
直すといった共感的な態度で交流する活動が必
の4、5名に限られていたり、
「人の考えを聞か
要であると考える。研究方法としては、
「書く能
なくても自分で考えればわかる」というような
力」
「読む能力」の育成を目標とする単元それぞ
理由から、相手の考えを聞かなくても満足する
れについて、交流する活動を取り入れた実践を
姿が見られたりし、学習の深まりが見られない
していく。友達の考えをもとに自分の考えを見
ことがある。自分の考えのよさを改めて感じた
直すことで学習を深めるとともに、生きてはた
り、友達の考えのよさに気付いたりするために
らく力が身に付くようにしたい。
2-1
3
研究内容
かったこと」について、学級の児童 27 名に自由
Ⅰ
意識調査と年間指導計画の作成
記述による意識調査を行った。
(1)発表することへの意識調査
「話し合いが必要な理由」からは、話し合いは
「発表の得意・不得意」について、学級の児童
27 名に自由記述による意識調査を行った。
まとめるための手段であり、話し合うことで自
分の考えを伝えたり、相手の考えを知ったりす
発表が苦手な理由
るという意識が薄いことがわかった。
・はずかしいから。
「話し合いで難しかったこと」からは、一つに
・聞いてもらえないかも
しれないから。
まとめることよりも、共感的に聞くことが難し
・まちがえるのがいやだ
いと感じている児童が多いことがわかった。
から。
交流することのよさを実感することが「学習
[資料1] 発表への意識調査
[資料1]から、発表することが「得意・や
の深まり」にとって大切だと考え、以下の図の
や得意」と感じている児童も、反応が無かった
ように、単元間につながりを持たせて交流する
り、何か言われたりすることへの不安があるこ
活動を取り入れることにした。
とがわかった。まずは、受け入れてもらえると
(3)単元間のつながり
いう安心感を持てるようにする必要があると考
え、「認め合う言葉[資料2]」を児童と共に考
「おんどくでつたえよう(読む)」≪6月≫
さまざまな考えに
触れさせたい。
称賛型
感嘆型
追加型
一緒だよ
同じです
~が似て
いるよ
上手だね
よく書けて
いるね
~がいいね
なるほど
ああ
すごい
他にもあるよ
付け足しがあります
~と書いたよ
伝えることに自信を持たせる工夫
≪課題≫
えて分類し、どの教科でも意識させた。
同調型
≪手立て≫
かかわるよさを共有させる工夫
「むしはかせになろう(書く)」≪6月≫
交流の必要感を持たせる工夫
交流の必要性を感じ
させたい。
[資料2] 認め合う言葉の例
また、伝えることに自信が持てるようにする
ねらいから外れない
ねらいに沿った交流をさせる
ように交流させたい。
工夫
必要があると考え、年間を通して、授業の最初
「モーターショーをひら
こう(書く)」≪11 月≫
(5分間)には、
「声のトレーニング[資料3]」
(4)年間指導計画の作成
・しこを踏む。
「どっこいしょ」と大声を出す。
などのエクササイズ ・人さし指に向けて息を吐く。
人さし指をだんだん遠くする。
を取り入れた。
「続き
・姿勢の確認をする。
話づくり」の際には、
(富士山・スカイツリー・東京タワー)
視線や表情、うなず ・口の形を確認する。(早口ことば)
き、速さ、声量など ・声の大きさを確認する。
詩を1から5の声で音読する。
計画的に交流する活動を取り入れられるよう
や「続き話づくり」
を確認するようにした。 [資料3]
「声のトレーニング」
安心感や自信を持てるようにすることが「共
「パペットでしょうかい
しよう(読む)」≪3月≫
年間指導計画を作成した。縦の列に指導事項等、
横の行に単元名や教材名を記載し、その単元で
評価する事項に○、特に重点的に評価する事項
に◎を付けた。単元で身に付けさせたい力が育
ったかどうか評価・修正できるよう、[資料4]
のように、下段には、修正した際に書き込む欄
を設け、次の単元に生かせるようにした。
感的な態度」の育成につながると考え、年間を
通してどの教科でも意識して取り組んだ。
(2)交流することへの意識調査
「話し合いが必要な理由」と「話し合いで難し
2-2
[資料4] 年間指導計画
Ⅱ
授業実践
(2)かかわるよさを共有させる工夫をした実践
(1)伝えることに自信を持たせる工夫をした実践
単元名:むしはかせになろう
単元名:おんどくでつたえよう
教材名:なにが、かくれているのでしょう
教材名:けむりのきしゃ
<単元を貫く言語活動>
<単元を貫く言語活動>
目的意識:虫はかせに認定される
目的意識:音読発表会を開く
相手意識:違う種類の虫を選んだ児童
相手意識:6年生
写真と結び付け、本文に書かれていない「ど
本文に書かれていないせりふを付け加えなが
のように」を補いながら説明する。自分で選ん
ら音読する。挿絵と結び付けながら様子や気持
だ虫の隠れ方も、交流することで大事なことを
ちを想像し、交流することでよりよいせりふを
落とさず、わかりやすく説明できるようにする。
付け加え、
心を込めた音読ができるようにする。
<具体的な手立て>
<具体的な手立て>
第三次では、同じ種類の虫について書いた人
想像したことを全体で確認する前に、隣同士
同士で考えを交流させる時間を確保した。
で交流させる時間を確保した。そして、友達の
全体に発表する際は、話し合ったことを再現
考えでよいと思ったことは、
「 と (友達のと)~」
し、発表者以外はその様子を聞くことを「ビデ
としてノートに付け加えて書くようにした。
オ発表[資料6]」とネーミングして発表できる
全体に発表する際は、二人組で手を合わせて
発表することを「さくらんぼ発表[資料5]
」と
ようにし、かかわる姿(共感的な態度)のよさ
を共有できるようにした。
ネーミングして発表できるようにし、伝えるこ
とに自信が持てるようにした。
相手に言われてうれしかった言葉は、
「ことバ
ンク(言葉の銀行)[資料7]」として、教室に
掲示し、交流の際に参考にできるようにした。
み
ん
な
に
伝
え
た
い
な
。
○
○
さ
ん
の
い
い
と
こ
ろ
も
《
称
賛
型
》
自
信
を
持
っ
て
発
表
し
よ
う
。
△
△
く
ん
と
一
緒
だ
か
ら
足
し
て
書
く
よ
。
《
《
同
調
型
》
称
賛
型
》
よ
く
書
け
て
い
る
ね
。
ぼ
く
も
付
け
「
線
と
そ
っ
く
り
」
の
と
こ
ろ
が
書
い
た
よ
。
見
つ
か
り
に
く
い
の
で
す
。
」
と
枯
れ
葉
の
線
と
そ
っ
く
り
だ
か
ら
[資料6] 「ビデオ発表」の様子
[資料5]「さくらんぼ発表」の様子
<児童の反応>
交流を繰り返すことで、友達の考えを書き込
むスペースが無くなるほど自分の考えを書くこ
とができるようになった。しかし、書けたこと
<児童の反応>
[資料7] 「ことバンク」の掲示
に満足してしまい、自分から意欲を持って友達
第三次では、交流するよさを感じることがで
の考えを聞こうとする姿が見られなくなった。
きるようになり、考えを書き込むスペースが無
グループ構成を変えるなどし、様々な考えに
いにもかかわらず、友達の考えを積極的に聞こ
触れることで、交流するよさを感じることがで
うとする姿や、自分の考えを伝えようとする姿
きるようにする必要があると感じた。
が見られた。
2-3
「
は
ね
を
と
じ
た
と
き
の
模
様
が
、
また、本文の变述にならって自分で選んだ虫
また、
[資料 10]のように、学習計画を児童
の隠れ方を[資料8]のように、大事なことを落
と共に設定し、確認しながら進めることで、交
とさずに説明することができた。
流する際のねらいが明確になるようにした。
しかし、必要の
ないことまで「 と
学習計画表に◎
~」としてノート
○△を書くこと
に書き込む児童が
で、短時間で自己
見られた。具体的
にした。(上段は本
評価ができるよう
時のめあてについ
な観点を示したり、
て下段は交流につ
自己評価させたり
[資料8] ノート例
いての振り返り)
することで、交流
[資料 10] 学習計画表
さらに、学びの足跡が見える掲示物[資料 11]
する際のねらいを明確にし、ねらいに沿って交
流できるようにする必要があると感じた。
を用意して交流する前に具体的な観点を示し、
(3)必要感を持たせ、ねらいに沿って交流させ
ねらいから外れないで交流できるようにした。
る工夫をした実践 ≪書くこと≫
単元名:モーターショーをひらこう
「つくり」の部分
がよりよくなるよ
教材名:のりもののことをしらせよう
う、交流します。
<単元を貫く言語活動>
・順序は大丈夫で
すか?
目的意識:モーターショーを開く
・つなぎ言葉を使
っていますか?
相手意識:2年生
交流してお互いに
確認しましょう。
「はたらくじどう車」で身に付けた力を活用
し、自分が選んだ乗り物の説明文を書き、絵を
見せながら発表する。交流することで順序に気
<児童の反応>
を付けて、わかりやすく説明できるようにする。
<具体的な手立て>
[資料 11] 掲示物の一部
交流するメンバー構成を変えたり、交流する
際のねらいをはっきりさせたりすることで、自
必要感を持って交流できるよう、同じ乗り物
分の考えに自信を持って発表する姿が見られた。
について書いた人に聞いてもらった後、違う乗
交流した後、4名の児童が[資料 12]のように
り物の人に聞いてもらい、再度、同じ乗り物の
入れ替えたり付け加えたりして、自分の考えを
人に聞いてもらうといったように、交流するメ
よりよくしようとしていた。残りの児童は、自
ンバー構成を変えた。
分の考えのよさを再確認することができていた。
また、意欲的に交流できるように、違う乗り
物の人にクイズ形式[資料9]で発表した。
何をする車でしょう。
(絵を見せる)
正解!救急車
は、~自動車です。
ですから、動くベ
ッドや治療する機
械を積んで…。
[資料9] クイズを出す様子
病人を急いで
病院まで運ぶ車!
なるほど。
《感嘆型》
よくわかったよ。
2-4
[資料 12] ノート例
(4)必要感を持たせ、ねらいに沿って交流させ
<児童の反応>
る工夫をした実践 ≪読むこと≫
交流する活動を継続して取り入れてきたこと
単元名:パペットでしょうかいしよう
で、すぐに交流が始まるようになった。共感的
教材名:お手がみ
な態度が育ち、安心して交流することができる
<単元を貫く言語活動>
ようになった表れだと考える。
目的意識:パペット(人形)劇をする
交流した後、23 名の児童が[資料 15]のように
相手意識:新1年生
的確に「 と ~」として友達の考えを付け加え、
パペット(手にはめて操作する人形)を動か
想像を広げることができた。
しながら、登場人物の気持ちを想像し音読に表
す。交流することで、さらに想像を広げ、登場
人物になりきった音読ができるようにする。
<具体的な手立て>
意欲的に交流できるように、パペットの操作
を通してアドバイスするようにした。[資料 13]
む
け
な
が
ら
読
む
と
い
い
よ
。
お
願
い
し
て
い
る
み
た
い
に
、
か
た
な
る
ほ
ど
。
そ
う
す
《る
同よ
調。
型
》
[資料 15] ノート例
また、[資料 16]のように、全員がアドバイス
を受け入れ、台本をよりよくし、想像したこと
を音読に表すことができた。
[資料 13] 交流の様子
また、必要感を持って交流できるよう、同じ
「お気に入りの場面」を選んだ人に聞いてもら
った後、違う場面を選んだ人に聞いてもらい、
再度、同じ場面を選んだ人に聞いてもらうとい
ったように、交流するメンバー構成を変えた。
交流する時間を確保するだけでなく、掲示物
[資料 14]を用意することで、ねらいから外れな
いで交流できたか自己評価できるようにした。
友
達
の
知考
りえ
たを
いも
なっ
。と
ぼ
く
こ
れ
で
し
あ
わ
せ
に
な
○ れ
○ た
○
よ
。
あ
り
が
と
う
か
え
る
く
ん
。
ろ自
を分
付に
け足
加り
えな
らい
れと
たこ
。
[資料 14] 掲示物の一部
付
け
加
え
た
い
な
。
は
今書
度け
はて
大い
事な
なか
とっ
こた
ろ。
を
落
と
さ
ず
けと○
どこ○
「ろ○
しはく
あ
ん
わとの
せで「
に
あ
な付り
け
れ
が
た加と
え
う
」
のて」
と書と
こけい
ろたう
[資料 16] 台本例
4
研究のまとめ
(1)研究の成果
実践を行う前と同様に、「話し合いが必要な
理由」と「話し合いで難しかったこと」につい
て、学級の児童 27 名に自由記述による意識調
査を行った。
2-5
[図1] 話し合いが必要な理由
児童の感想
・話し合いがいっぱいできてよかった。
・おとなりさんに「上手だね。」と言われてうれしかった。
・二人でやるとうまくできた。協力してできてうれしかった。
・みんなに自分の気持ちを伝えられてよかった。
・いろんな言葉をいろんな人に言えてうれしかった。
・手を挙げてみたらうれしかったので、もっと手を挙げようと思った。
・いろんな人の意見が聞けて楽しかった。
・友達の考えを聞いて「なるほど」
「まねしてみたい」と思った。
[図2]の
「話し合いで難しかったこと」から、
児童の感想
・話し合いは、自分の考えを伝えるためにある。
・話し合いは、人の考えを知るために必要。
・話し合うと、人の考えがよくわかる。
・話し合うと、人の考えを聞けることがわかった。
・話し合うことで、いろんなことがわかった。
・話し合うと、自分の気持ちや相手の気持ちが伝わる。
[図1]の「話し合いが必要な理由」から、実
践前は、話し合いは「なかよくするために必要
実践前は、うなずきながら聞いたり、目を見て
話したりする「共感的な態度」に関することが
難しいと感じていたことがわかる。実践後は、
「理由を伝えたり、まとめたりする」という交
流する際の内容面を意識しており、感想からも
共感的な態度で交流することはできるようにな
ったと感じていることがわかる。
だ」という意識が高かったことがわかる。実践
「認め合う言葉」をどの教科でも意識させたこ
後は、
「自分の考えを伝えたり、相手の考えを知
とや、年間を通して「さくらんぼ発表」や「ビ
ったりすることができる」という本来の目的を
デオ発表」、「エクササイズ」に取り組んだこと
意識し、交流することができるようになったこ
が、共感的な態度が育った要因だと考える。
とがわかる。
年間を通して共感的な態度を育成し、実践を
伝えたくなる
(知りたくなる)
課題を設定し、
積み重ねたことで、自分の考えを受け入れても
交流することへの必要感を持たせるとともに、
らえる安心感や、聞いてもらえる喜びを感じる
交流する際に具体的な観点を示したり、自己評
ことができ、相手や目的に応じて豊かに表現す
価させたりして、ねらいに沿って交流できるよ
ることができるようになった。
うにしたことが有効であったと考える。
(2)今後の課題
単元間につながりを持たせて交流する活動を
自分の考えの幅を広げたり、相手や目的に応
取り入れたことで、交流することのよさを実感
じて豊かに表現したりすることができるように
することができ、自分の思いや考えを持つだけ
なったことからも、共感的な態度で交流する活
でなく、考えの幅を広げることができるように
動の大切さを実践の中で検証することができた
なった。
といえる。しかし、現在の発達段階では、友達
[図2] 話し合いで難しかったこと
の考えをもとに、もう一度自分の考えを見直し、
深めるところまでは至らなかった。今後、発達
段階に応じた交流の在り方や求める姿(系統性)
を明らかにしていく必要がある。
【主な引用・参考文献等】
水戸部修治『小学校国語科「言語活動」パーフェクトガイド』
明治図書 2011
2-6