超小型グロー点火エンジンの性能評価 - 日本機械学会

No.07-5 日本機械学会熱工学コンファレンス 2007 講演論文集〔2007.11.23-24, 京都〕
Copyright©2007 社団法人 日本機械学会
超小型グロー点火エンジンの性能評価
Performance test of a miniature glow ignition engine
○学 小川 俊徳(東理大)
正 川口 靖夫(東理大)
Toshinori Ogawa, Yasuo Kawaguchi, Tokyo University of Science, Nodashi, Chiba
Although portable electric devices have become increasingly sophisticated and compact, the
amount of energy required for their operation has increased and device performance may be
restrained by the energy source in the near future. Small, portable distributed power sources
with higher energy density than the conventional battery are required. In this research, we
focused on the small glow-ignition engine developed for model airplanes. In order to clarify the
combustion process, a miniature pressure sensor was built into the cylinder head, and pressure
fluctuation was measured. Analysis was conducted to detect cycle-to-cycle variation. The base
engine was a commercial glow-ignition four-stroke engine with a swept volume of 4.89 cc.
Although the nominal output was 368 W, the value measured by this research was much lower.
Key Words: engine, glow ignition, combustion pressure, miniature
1.緒言
近年、携帯型電子機器の高機能化・小型化が著しいが、
これらを駆動するためのエネルギー量は増加している.携
帯機器はエネルギー源のエネルギー密度によってその機能
が常に制限されている.そのため、従来の電池より高エネ
ルギー密度である小型で携帯可能なエネルギー源が求めら
れている.
本研究ではそのエネルギー源として模型航空機用小型グ
ロー着火エンジンに注目した.グローエンジンに関する研
究はすでにいくつかのチームが行っている.Cadou(1)(2)は出
力や効率など性能に関して発表している.Raine(3)(4)は2ス
トロークエンジンの性能と燃焼特性について発表していて、
プラグタイプ、燃料中におけるニトロメタンの量、キャブ
レターのニードルバルブの戻し回転数の3つを変化させる
ことによって性能と燃焼特性がどのように変化していくの
かを調べている.これによるとプラグタイプと燃料中のニ
トロメタン量によって燃焼特性が大きく変わることがわか
った.また、グロー点火2ストロークエンジンは火花点火
の 2 ストロークエンジンよりサイクル間の燃焼状態が激し
く変動することがわかった.
本研究では 4.89cc のグロー点火4ストロークエンジン
の性能と燃焼特性に関して調査した.電磁ブレーキによっ
てエンジンに負荷を与え、回転数・出力を測定した.また、
シリンダーヘッドに燃焼圧センサーを組み込むことにより
燃焼圧を測定した.5cc クラスの4ストロークグロー点火
エンジンの燃焼圧を測定した報告は確認しておらず、この
点からも今回の報告には意義がある.
2.模型グロー点火エンジンの構造と点火原理
グロー点火は火花点火のように運転中は点火のための電
気回路を必要とせず、軽量で単純な模型用エンジンに向い
ている.始動時のみプラグに通電することでエレメントを
加熱して点火させる.一般的にグロー点火は 3 つの方法で
予混合気に点火エネルギーを与えている.一つは混合気の
圧縮による熱、二つ目は前の燃焼によって加熱されたグロ
ープラグによる熱、三つ目はグロープラグのエレメントに
よる触媒反応による熱である.このため火花点火エンジン
のように厳密に点火タイミングを制御するシステムが存在
せず、燃焼室内部で自律的に制御されている.
3.実験装置および実験方法
3.1 実験装置
図 1 に実験装置の概略を示す.エンジンは小川精機(株)
製 OS エンジン、S-30s 型を使用した.燃焼圧測定にはシチ
ズンファインテック株式会社の燃焼圧センサーCAS-15s と
アンプ PCA2-E010 を用いた.CAS-15s は圧電素子タイプの
センサーなので小型だが燃焼状態によってゼロ点がドリフ
トする欠点がある.今回は吸気開始時の圧力を大気圧とし
て全てのデータを比較した.クランク角の測定にはロータ
ーリーエンコーダを使用した.これは 1 回転に 600 パルス
出力する.トルクの吸収には Magtrol のヒステリシスブレ
ーキ HB-450M-2 を使用した.燃料流量は電子天秤によって
測定した.吸気流量は積算式空気流量計を用いて測定した.
図 2 に加工したシリンダーヘッドの概略を示す.スペース
の関係からアダプターを介してセンサーを取り付けた.
Amplifier
Electromagnetic Brake
Pressure Transducer
Servo motor
Needle valve
Pressure
Electric balance
Rotary encoder
Fig.1
Index pulse
Crank angle
Fuel flow rate
PC
Experimental setup.
Pressure Transducer
Adapter
Fig.2
Modified cylinder head with adapter.
Oil
28
4.実験結果と考察
4.1 正味出力と燃料消費率
図 3 に空燃比に対する出力と燃料消費率の変化を示す.
空燃比が高くなるにつれ、つまり混合気が薄くなるにつれ
出力が増加し、燃料消費率が低下しているのがわかる.ま
た、出力のデータにおいて空燃比 2.2 近傍で急激な変化が
見られる.今回の実験では空燃比 3.12 において出力 178 W、
燃料消費率 0.64 mg/Ws となった.
図 4 に各空燃比におけるインジケータ線図を示す.各条
件で約 100 サイクルを平均したものを示している.モータ
リング時の圧力も示した。ATDC 120°を過ぎたところで波
形が落ち込んでいるが、これはバルブが開いたためである.
空燃比 1.99 において最高圧力がモータリング時の最高圧
力より低くなっている.これは点火に失敗したサイクルが
多いからである.点火に失敗した場合、メタノールの蒸発
エンタルピーが高いことにより混合気がモータリング時の
空気より冷たくなり結果として低い圧力になる (3).これに
よって平均時の最高圧力がモータリングより低くなった.
空燃比 2.53 において最高圧力の値はモータリング時と同
じくらいであるものの、ATDC 18.5°で記録しており有効な
仕事をしているのがわかる.空燃比 3.12 において最高圧力
は ATDC 14°で 2.71 MPa となった.
図4に示したサイクル平均をとったグラフでは点火タイ
ミングは良いように見えるが、平均前のサイクル毎の圧力
では波形のばらつきが多い.図 5 は取得した約 100 サイク
ルの最高圧力の変動係数を示したものである.混合気が薄
くなっていくと変動係数が増加しているのがわかる.特に
空燃比 2.5 を超えると急激な変化が見られる.この遷移域
は始動後にニードルバルブを調整していくとき聴覚で明ら
かに運転音が変化するのがわかるほどである.グロー点火
エンジンの点火系では空燃比は重要な要素である.空燃比
が変化すると、燃焼速度だけでなく運転中の熱履歴も変化
すると考えられる.混合気が薄くなるにつれ圧縮行程中の
温度は高くなる.したがって空燃比 3.12 からさらに混合気
を薄くしていくと点火タイミングが早くなり、出力の増加
は頭打ちになると考えられる.そして過早着火を誘発しや
すくなる.これは CV 値の増加からも予測ができる.
今回の実験からこのエンジンの実用域は空燃比約 2.3∼
であることが分かったが、これは変動係数が 10 を超える高
い状態での運転となる.グローエンジンをより高効率化す
るには点火タイミングを制御して変動係数を低く抑えるこ
とが重要であると考えられる.
Power (W)
6
150
4
100
2
50
0
1.5
2
2.5
A/F (kg/kg)
3
0
Specific Fuel Consumption
(mg/W・s)
8
Power
SFC
200
Fig.3 Relation of A/F to net power and SFC
3
A/F 3.12
A/F 2.53
A/F 1.99
Motored
2
Pressure (MPa)
%(Volume)
Table 1 Fuel constituents
Methanol
Nitromethane
43
15
250
1
0
-90
0
90
Crank Angle (deg)
180
Fig.4 Indicator diagram
30
CV of Pmax
3.2 実験方法と条件
燃料は一般的に用いられているグロー燃料を使用した.
燃料に含まれるのは主燃料であるメタノール、燃焼補助剤
であるニトロメタン、潤滑用のオイルである.配合は表 1
に示した.グロープラグは OS エンジンの Type-F を使用し
た.
キャブレターはスロットルを全開とし、燃料通路にある
ニードルバルブのセッティングを変化させることで燃料流
量を変えた.これにより空燃比の影響を観察した.実験時
の回転数は約 9000 rpm とした.
サンプリング周波数は 100 kHz とし、一定負荷のもと各
条件で約 100 サイクルサンプルを取得した.
20
10
0
1.5
2
2.5
A/F (kg/kg)
3
Fig.5 Relation of A/F to Coefficient variation
5.結言
4.89 ㎝ 3 の 4 ストロークグロー点火エンジンをキャブレ
ターの燃料ニードルバルブのセッティングを変化させて運
転し、シリンダー内圧力の測定と性能評価を行った.結果
を要約すると以下のようになる.
• 今 回 の 実 験 で は 最 高 出 力 178 W 、 燃 料 消 費 率 0.49
mg/Wsとなった
• グロー点火では空燃比と点火タイミングそして最高圧
力の変動係数に相関がある
• グローエンジンの高効率化には点火タイミングの制御
が重要である
6.謝辞
本実験を遂行するにあたっては、小川精機(株)殿の助
言を頂いた。ここに記して感謝します.
参考文献
(1)C. Cadou and S. Menon, AIAA, 2003-0671, (2003).
(2)C. Cadou et al, AIAA, 2002-3448, (2002),
(3)R. R. Raine and H. Thorwarth, SAE Paper,
2004-01-1407, (2004).
(4)R. R. Raine et al, Int. J. Engng Ed, Vol.18, No.1, pp.
50-57, (2002).