小特集

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小特集
マイクロプラズマー基礎から応用まで一
3.高周波(HF》励起マイクロセルプラズマ
真壁利明,栗原
優
(慶慮大学理工学部)
Micro−Cell−Plasma Driven by High Frequency Voltage Source
MAKABE Toshiakl and KUR田ARA Masaru
D8pαπ配εn∫げEl6αron∫csαn4EZ8c尻6αZ Eng∫n667’ng,κE10Un’vαsの,yoんohα配α223−8522,/卯αn
(Received27January2000)
Abstract
Thispaper(lescribesthe basicconcept ofamicro−cellplasmainagasmixture,sustainedbyaHighFrequency
(HF)voltage source.The key to maintaining a micro−cell plasma is to re(luce awamoss andincrease plasma
pro(1uction.THe advantage ofHFmicro−ce且plasmais the spatialtrappingofionsan(lpartly electronsbythe
extemal HF voltage source。As a result,the efficiency of UV ra(iiation caused by the high rate of excitation
is improved as compared with that of low{requency operation.
Keywords=
micro−cell−plasma,relaxation contlnuum mo(lel,high frequency operation,plasma display panel,
efficiency ofUV ra(liation,excitation proces亀Penning ionization,stepwise ionization,Xe/Ne mixture
3,1 はじめに
点と,(2)パルス印加時に2個の金属電極を被覆している
新材料や超微細加工によるエレクトロニクスの発展は
誘電体表面に十分な量の単極性電荷が蓄積し逆極性の表
留まるところを知らない.極限サイズのプラズマはPDP
面電位が生まれ,この壁電位が引き続くプラズマ維持パ
(Plasma Display Pane1)の光源要素としての応用に加
ルスの大きさを生成時に比べ十分低く押さえることがで
え,新しい機能を持った要素としてより広い立場で21世
きる利点が生まれる.この2つの現象は誘電体バリア放
紀のエレクトロニクスを支えることになるであろう.こ
電に本質的なものであり,低電力でかつLSIと整合性が
こでは,一個のマイクロセルが高周波電源で維持される
いい駆動回路を設計しようとすると(1)と(2)はトレードオ
プラズマ(highfrequencymicro−celLplasma)の可能性に
フの関係になる.低周波誘電体バリア放電を使用した現
ついて論じてみたい.
用PDPに本質的な効率改善を望めない点がここにあ
μsオーダのパルス幅をもった低周波電源でマイクロ
る.
セルに放電を生成し維持する慣用的な駆動では,電源の
LSIと整合性のいい低電圧駆動が可能で,しかも低消
パルス幅がイオンのセル内走行時間程度となる[1,2].こ
費電力化が見込めるマイクロセルプラズマ(Micro−CelL
のとき,(1)投入パワーの約半分が質量の大きいイオンの
Plasma;MCP)源として高周波(HF)駆動タイプがある
ドリフト輸送に使われ,セル側壁の高温加熱に消費され
[3].しかし,マイクロセルにプラズマを生成し維持する
るため,プラズマ生成や励起分子(発光源)生成に費や
ことはそう容易ではなく,極限サイズのプラズマ維持の
されるパワー効率が原理的に低く押さえられてしまう欠
観点から放電プラズマを研究することは,現在大変意義
α漉ho〆58一規α〃’規αん訪8@規肋己818αんε∫ααc伽
444
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3.高周波(HF)励起マイクロセルプラズマ
lnsulator
真壁,栗原
[eV1
Ne+
20.7
1.2mm
1m
十
晒撫 繍恥倒纏剛el 毒
HF Cbb
Xe2
Ne★
16.3
か無
12、1
II陶
鍛
曝細も
Xe*★ 9.8
美馨陶§・葦
一銅禰1
0.8mm
m胴
Xe2(3Σ〉
Xe2(1Σ)
十
Xe
Xe2(Ou)
譲㌧一
メ篇
Xe
Ne
0.3mm
Xe2
Fig.2 Excitation Ievels of Ne and Xe.
些i ∼ 齪鍵舞
z翫 −箔
一15
10
Fig、1 Micro−cell considered inthisstudy.
O
o① 一17
ノ
!
!
ノ
!
Qsi”
■
’#
(VHF)に上げることにより,センチサイズのプラズマ
Qsi3P2
ω10
ω
の維持電圧が低くなることに着目し[4,5],マイクロセル
ω
o
o
−18
プラズマの予測とその後のデザインを緩和連続モデル
10
(Relaxation ConTinuum(RCT)model)[6,7]をもとに行
\
’
’
O −16
−10
ζ
筆者はプラズマの励起源を高周波(HF),超高周波
、 ↓
∈
がある.
!一 Qi
Qm
『
Qsiex
Xe
一一一Ne
” 、藁
、
xl∼
寒
“
’ 悪 、
ぺ ノ ヨ
ペ
・Q3P ¥
ノ、、 、
ノ, 、、 ¥ト
ずノ ヌ
,, Qex才・
レ 、、
μ 、¥
レロ ペ
1:1 \ρex
l目 Q3P2\、
:昌
っている[3].
0.01 0.1 1 10 100 1000
electron energy[eV]
3.2 マイクロセルプラズマのモデリング
3.2.1マイクロセル構造と衝突素過程
Fig.3 Cross section ofXe(solid line)and Ne(dashed line),
本研究で考慮したマイクロセルの構造をFig.1に示
Fig。3にNeとXeの電子衝突断面積を,また,Fig.4
す.マイクロセルは円筒形で底部にアース電極を配し,
リング状側壁の一部がドライブ電極でブロッキングコンデ
に電子ボルツマン方程式から解析したNe/Xe(10%)混
ンサを介して高周波電源に接続されている.電極を除い
合ガス中の反応レート係数を示す.ゐ、n,κi,たexはそれぞ
たセル壁材は比誘電率ε,ニ3,8のガラス(誘電体)である.
れ運動量移行,電離,電子励起衝突の反応レート係数で
Fig。2は慣用的PDPの原料となるNeとXeの励起準位
ある.また尭siは励起状態からの累積電離衝突の反応レー
図である.PDPはXe原子,分子の共鳴準位Xe(3P1),X♂
ト係数である.
(1βΣ,0、)から放射される紫外光が蛍光板を通して可視光
3、2.2 RCTモデル
に変換される機構を利用している.電子生成の観点から
ここではRCTモデルが数密度連続の式,有効電界緩和
は,Xe基底状態からの直接電離とともに準安定励起準位
の式,ポアソンの式で構成された高圧力の系を対象とす
Xe(3P2)からの多段階電離が重要である.また,現用機で
る.この方程式系の時間発展を数値解析し,放電構造が
はペニング効果による電子生成を期待してNe/Xe混合
周期定常状態になるまで続ける.
ガスを使用している.ここでは,電子,XeちXeを
数密度連続の式は,
Ne+の4種の荷電粒子と,7種の励起分子を考慮した.
これらの粒子の時空間数密度分布をRCTモデルから解
警一Σ為階Σ碗一▽・r♪
析した[8].
l m
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(1)
プラズマ・核融合学会誌 第76巻第5号 2000年5月
境界条件として,数密度は壁表面でOである.正弦波
10『6
の高周波維持電圧V(♂)はブロッキングコンデンサCb
一 一8
1
r 10
ω
一’蓑S罵i3p2ksi㎝kiXe罵”k隔匿”’1;”≡…
を介してリング電極に印加されている.したがって,リ
kex紐Ne , 一一二二星.ブ鰐び
ング状のRF電極には70sin碗+耽の電位が現れる.
”レ/5グ 一
E −10
010 払てニニ・4二写勿”’ /’”’
の
=
q)は1.OpFとした.
3.2.3 紫外光の発光効率
44イ kex3P2Ne
⊂
.虫
O −12
ε10
80
kex3PIN!ノ
Φ _14
お10
L
マイクロセルの消費電力と紫外光発光効率について考
『kexI e
察するために励起粒子からの紫外光エネルギーは
!!
!!
隔一ナ∫丁万v伸dVdあ
〆
, kexNe
ノ
! kex2Ne
10『16 ! kiNe Ne/Xe(10%)
で表すことができる.Tとhはそれぞれ印加電圧の周期
!
10
100
(6)
とプランク定数,レjと窃は紫外光の周波数と発光ライフタ
1000
イムである.7はマイクロセルの体積である.
dc−E/N[Tdl
セル内で電子とイオンの加熱に消費される電力はj種
Fig,4 Ratecoefficient in Ne/Xe(10%).
荷電粒子の伝導電流密度を謀r,オ)とすると,
楕はj種粒子の数密度,%1、,%1,,%mは1種粒子の生成消滅
に関係する粒子の数密度を表す・T」は粒子フラックスで
四D一Σナ∬v綱・E(r,オ)dVdあ
あり,荷電粒子と中性粒子のフラックスはそれぞれ次式
」
で表される.
(7)
と求まる.
乃=叩dj一身▽楕,
(2)
Tj一一Po▽循,
(3)
結局,紫外光発光効率ρは
Σ確UVj
ρニ1 。 (8)
ここで%と易はそれぞれドリフト速度と拡散係数,
マVD
Z)oは中性粒子の等方拡散係数である.電子の輸送係数と
と表せる.また,非弾性衝突により失われる電子のエネ
反応レート係数はボルツマン方程式からDC換算電界
ルギーは
E/ノ〉の関数として算出している.その他の反応レートは
肱一払丁∫γεj脚1d臨
文献から引用した.電子の各反応レートはそのしきい値
(9)
エネルギーを超えた電子の有効電界E,ffを緩和式から求
め,奴E。κ/N)と求まる.例として電離に関する有効電界
ここで角と亀は非弾性衝突のしきい値エネルギーと反応
の式は
レート係数である.
∂ E2−E2
3.3 高周波マイクロセルプラズマの特性
∂渉(%e鴫)一一e監、%e
Flg.5は圧力100Torr,印加電圧の振幅100V,電源周
(4)
一▽{噛鴫一Pレ▽(躍eE藷)],
波数50MHz,Ne/Xe(10%)におけるマイクロセルプ
ラズマの結果である.プラズマはマイクロセル内に広く
ここでEは瞬時局所電界を,Ee∬とτ,、は有効電界と電離
分布している.マイクロセルプラズマはそのスケールの
しきい値エネルギー以上の電子のエネルギー緩和時問で
微小さゆえに,内壁における損失が支配的で,セル近傍
ある.また,ポアソン方程式は
でその数密度が急激に減少する.このために周期定常プ
ラズマをマイクロセル内に維持するには,電子のネット
プ7一一▽・E一一舌[早咽・
生成レートを1020cm−3s−1と,センチオーダのリアクタ
(5)
内に比べ4桁も高くなる.マイクロセルプラズマでは,
であり,銘Pjと編はそれぞれ正イオンと電子の数密度で,
このようにいかに表面損失を減らし生成量を増加させる
6とεoは素電荷と真空中の誘電率である.
かが鍵となる.高周波(HF)源を使用すれば,イオンと
446
小特集
真壁,栗原
3.高周波(HF)励起マイクロセルプラズマ
(a)
(a〉
2.4
一1.O
T
臣
1
σ)
叩
∈
ξ…o・5
Q1.2
8
さ
孚
o
ド
』ざ0。0
マー0.0
⊂
ロ
ぐ
0
0
1.2
α6 。賃αぜ
zfm呵糠%o
1.2
0.6
zfm呵
(b)
。鴛αぜ
怨〃o
(b)
rr6.4
一1.O
Tの
マ
の
叩
叩
∈32
ρ
る
∈o・5
8
ら
γ0.0
ド0.0
ロ
ぐ
ロ
ぐ
0
α6 ・一。鷺αぜ
zfm呵熾%O
0
α6 。貧αぜ
1,2
1,2
z絢徹%o
Fig,5 Time averaged(a)electron number density and(b)net
Fig。6
Timeaveraged(a)stepwiseionizationbywayofX(3P2)and
(b)penning lonization ofNe*.
iOniZatiOn rate.
一部の電子がセル内に捕捉される利点が生きる.また,
励起粒子の生成レートが増加し,結果として,電子生成
投入電力の大半が電子に供給されるため,電子衝突によ
が増加することになる.この機構により,放電維持電圧
る励起粒子の生成が増加し,発光効率の改善が期待でき
を低下させることができる.
る.
現用PDPではXe(3P1)共鳴励起粒子からのλ=147nm
さて現用機ではペニング電離を利用して電子生成レー
の紫外光(Fig.7(a))を蛍光材にあて可視光を発光させ画
トを増加させる目的で,混合ガスNe/Xe(10%)を使用
像を表示している.このほかにもXeエキシマ粒子からの
している.本研究によると,定常状態ではXe(3P2)準安定
紫外光(Fig。7(b))も利用される.紫外光を放射する励起
励起粒子からの累積電離(Fig.6(a))が電子生成レートの
粒子はおもに,電子衝突で生成されるため,より電子に
98%を占め支配的となる.一方,Ne*準安定原子によるペ
エネルギーが注入可能な高周波(HF)駆動のマイクロセル
ニング電離(Fig.6(b))の寄与は少ない.これはNe*の励
プラズマがこの目的に有用である.本研究では147nm
起準位が高いためネット生成レートが低いことと,さら
の共鳴線は全紫外光の45%を占め,173nmのエキシマ線
にバルクプラズマ中で,電子との累積電離衝突により枯
は54%であった.Xe混合比が低くなるにつれ,共鳴線が
渇してしまうためである.このように定常状態ではペニ
支配的になる.しかし,Xe(3P1)からの共鳴線は,放射閉
ング効果による電子生成レートの増加は原理的に望めな
じ込め効果により蛍光材に届きにくい.このため,Xe
い.しかし,非弾性衝突の断面積がXeに比べ小さいNe
の混合比を増加し,エキシマ線を多くすることが発光効
ガスを混合すると,電子の高エネルギー成分が増加しXe
率を高くする鍵となる.
447
プラズマ・核融合学会誌 第76巻第5号 2000年5月
電維持電圧の低下が望める.また,発光効率については,
(a)
[
12.0
σ)
Xe混合比の増加が電子生成の減少を導くマイナス点と
λ=147nm
紫外光放射効率の改善という利点を生み,トレードオフ
叩
の関係にある.
EO1.0
じ
oア
3.4 おわりに
マイクロセルプラズマ(MCP)を用いたPDPが実用化
』一〇.0
され,極限サイズのプラズマにもわずかではあるが関心
3
が注がれているのは大変喜ばしい.マイクロサイズのプ
く
ラズマはこれを生成する容器,すなわち,リアクタ壁で
0
1.2
α6 。貧αぜ
z伽呵楡〃o
のプラズマ損失過程に強く依存し,リアクタ形状がMCP
実現の鍵となることを述べた.極限サイズのプラズマ源
はPDPに限らず,今後各種の機能材料の高効率発現セル
(b)
一
19.7
の
や生体治療用としてその役割を演ずると筆者は考えてい
λ=173nm
る.この小解説により読者諸氏がMCPに関心を持たれる
機会となれば幸いである.
叩
∈
04.8
参考文献
㌍
o
ア
ー0.0
3
く
1.2
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P’α5用αProcε35貌8(Nagasaki,2000〉.
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0
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zfm呵怨〃0
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PDPではマイクロセルプラズマの放電維持電圧の低
[7]T.Makabe,N Nakano,and Y.Yamaguchi,Phys.Rev.
下,および発光効率の改善が重要な鍵である.以上述べ
A45,2520(1992).
てきたように高周波(HF〉でプラズマを維持すれば,放
[8]M.Kurihara and T.Makabe,s諭n漉8めoJ。ApPl.P鼓ys.
448