多発骨転移を有するEGFR遺伝子変異陽性肺癌一症例に対する

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
6 月 1 日(日)12 : 15∼13 : 05 ポスター会場
(展示ホール A・B)【ポスター 内部障害!その他 4】
1592
多発骨転移を有する EGFR 遺伝子変異陽性肺癌一症例に対するリハビリテーションアプローチ
多職種によるアプローチを通して
北原エリ子1),加藤
長岡 正範4)
智美1),三浦季余美1),阿瀬
寛幸1),高木
陽2),小山
良2),高木
辰哉3),
1)
順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室,
順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器内科,3)順天堂大学医学部附属順天堂医院整形外科,
4)
順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション科
2)
key words 骨転移・EGFR変異陽性肺癌・日常生活動作
【はじめに】骨転移を有するがん患者に対するリハビリテーション(リハビリ)においては,骨折と神経症状出現のリスクを伴
うため,多職種チームによる迅速なリスク評価と目標設定が求められる。患者・家族を含めてリスクと目標について共通認識
し,リハビリを進めることが重要である。目標設定に関わる因子として,全身状態,骨折のリスク,患者・家族のニーズなどが
挙げられるが,予後予測と治療効果が目標設定に与える影響は大きい。肺癌の上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性例
においては,ゲフィチニブの有効性が報告されており,リハビリを実施するうえでは,その治療計画と効果を把握することが必
要である。今回,左大腿骨と脊椎に多発骨転移を有し,ゲフィチニブ療法が有効であった EGFR 遺伝子変異陽性肺癌一症例に対
するリハビリを経験したので,その経過を報告する。
【倫理的配慮】本研究の目的を患者・家族に説明し,同意を得た。また個人が特定されないよう,配慮した。
【症例】
70 歳代女性。X 年 Y 月左膝の疼痛を自覚。整形外科で骨転移を疑われ,当院受診。右上葉に腫瘤を認め,原発性肺癌の
骨転移が疑われ,X 年 Y+3 月に精査と疼痛コントロール目的で入院。原発性肺癌(cT3N0M1b StageIV)
,多発骨転移(T4,L
1,L5,仙骨,左大腿骨,右肩甲骨)の診断。EGFR 遺伝子変異検査を実施。左大腿骨と腰仙椎への放射線治療(RT)
,デノス
マブ療法,疼痛コントロール,リハビリの実施が計画された。入院 3 日目より理学療法(PT)開始(週 4∼5 回,1 回 40∼60
分)
。開始時 Barthel Index(BI)60 点。左大腿骨と左腰背部に Numerical Rating Scale(NRS)安静時 3∼4!
10,動作時 5∼6!
10
の疼痛あり。筋力は左膝関節伸展が MMT2 で,他の筋は 4。杖歩行が可能だが,RT 終了まで臥床安静,食事時端座位可,トイ
レ時車椅子可,検査時ストレッチャーの安静度指示。左大腿骨は Mirel s score 11 点で骨折準備段階の診断。脊椎は The Spine
Instability Neoplastic Score で T4 : 7 点,L1 : 6 点,L5 : 11 点で,T4 と L5 は切迫骨折の可能性ありの評価。PT 介入時は EGFR
遺伝子変異検査の結果がまだ出ておらず,予後予測において,1 年後生存率は 50% か 6% の状況にあった。リハビリ目標を骨病
変部への捻れや圧迫のリスクを最小限にする動作習得と筋力維持とし,動作指導および筋力トレーニング指導を開始した。入院
9 日目より左大腿骨,腰椎・仙骨に RT(4Gy×6 回 合計 24Gy)を施行。入院 14 日目に,安静度が車椅子可(検査・RT 時は
ストレッチャー)となり,座位時間を徐々に延長。同日,EGFR 遺伝子変異陽性の診断。入院 17 日目よりゲフィチニブ療法
(250mg!
日)
を開始。この頃より疼痛軽減がみられ,NRS 安静時 1∼2!
10,動作時 3∼4!
10。入院 23 日目より安静度 TWB 歩行
可となり,固定型歩行器にて歩行練習を開始。目標を自宅退院,室内の歩行器歩行とし,家屋環境へのアプローチと具体的な環
境を想定した移動練習を開始した。また転移部へのリスクを最小限にした洗面動作やシャワー動作を,本人・家族に指導。入院
52 日目の CT にて原発巣の著明な縮小と,骨の硬化像出現が確認されたが,この段階ではまだ骨折のリスクは高く,退院後の屋
内移動は固定型歩行器で,外出時は車椅子の生活として指導。入院から 55 日目に退院。退院時 BI は 70 点。疼痛は NRS 安静時
0∼1!
10,動作時 1∼2!
10。筋力左膝関節伸展 MMT3。日常生活指導および筋力トレーニングの維持を目的に,訪問リハビリテー
ションへ移行した。
【考察】本症例のリハビリにおいては,EGFR 遺伝子変異検査の結果が出ていない段階では,リハビリ目標を緩和的あるいは回
復的な両者への移行を想定し,その後の評価治療経過に合わせて目標設定する必要性があった。どの時期においても,最も骨折
リスクの高い左大腿骨の荷重管理について多職種で共通認識し,患者・家族への説明と動作指導を繰り返し行うことが重要で
あった。本症例はゲフィチニブ療法効果により数年の予後が見込まれ,退院後の安静度管理と運動指導の継続が課題である。今
後,症例検討を重ね,訪問リハビリとの連携のあり方について検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】転移性骨腫瘍のリハビリにおいて,理学療法士が把握しておかなければならない情報と,医療
機関と訪問リハビリ機関との連携について検討課題を示す症例報告として意義があると考える。