6.1 安定評価の方法

6.1 安定評価の方法
(1)フィードバック制御の安定性の概念
ステップ 入力
ステップ 応答
目標値 r
制御量 y
システム
−
図 6.1 フィードバック 結合とステップ 応答
①安定度小
y
y
②安定度中
y
③安定度大
t
t
(a) 安定
t
( b ) 安定限界
図 6.2
( c ) 不安定
フィードバック制御の安定状態
(2)ナイキストの安定判別法
R(s)
E(s)
Y(s)
G(s)
et
rt
yt
−
×c
G(s)
ct
H(s)
H(s)
ct
図 6.3
et
閉ループ結合(閉ループ伝達)
W ( s) =
図 6.4
開ループ結合(一巡伝達)
Y (s )
G( s )
=
R ( s ) 1 + G( s ) H ( s )
……(6.1)
C ( s ) = G (s ) H ( s )
……(6.2)
(3)ゲイン余裕と位相余裕
ゲイン
ゲイン交点
B
虚数軸
E
0 dB
−1
D
A
0
∠C ( jω)
実数軸
φm
gm
B
図 6.5
gm
1
C
③
位相
②
①
ベクトル 軌跡
φm
A
位相交点
logω
図 6 . 6 ボード線図
-180°
本節では PID と I-PD フィードバック制御の安定性とその評価方法を、よく知られているナイキス
トの安定判別法とゲイン・位相余裕法から、簡単に説明する。
(1)フィードバック制御の安定性の概念
図 6.1 に示すフィードバック系に目標値としてステップ 入力を加えた場合、その出力である操作量
が目標値に近づくか、発散するかで、その制御系の安定性を評価している。つまり、制御量が図 6.2(a)
に示すように ①、②および③のように時間の経過と共に目標値に収束する場合、安定であるといい、
図 6.2(b)のように 持続的な振動をする場合、安定限界という。また、図 6.2(c)のように 時間の経過と
共に次第に振幅が大きく発散する場合を不安定という。
フィードバック制御の目的は安定して目標値に一致させることであるが 、実際には、ただ安定であ
るだけでは制御の要求を満足しない。この要求は多くの場合、振動せずに速やかに精度良く目標値に
一致すること 、つまり、図 6.2(a)の②と③の間が望まれる。しかし、速応性と安定性とは相反する事
象であり、両者の和をとった制御が一般的にならざるおう 得ない。下記にシステム制御の安定度合い
を調べる評価方法を説明する。
(2)ナイキストの安定判別法
図 6.3 に示すフィードバック 制御系の閉ループ伝達関数は式(6.1)で表わされる 。また分母=0、
すなわち、1+G(s)H(s)=0を特性方程式 という。そして偏差 et からスタートし、閉ループをc点で
切り開いた図 6.4 の婦ロック線図を考えると、その伝達式は式(6.2)で表わされる。この式を開ルー
プ伝達関数あるいは 一巡伝達関数という。
ナイキストの安定評価法は、まず一巡伝達関数のベクトル 軌跡を描き(図 6.5 )、一巡伝達関数 の
位相角∠C(jω)が-180°になる角周波数がωのとき
①|C(jω)|<1
ならば安定
②|C(jω)|=1
ならば持続振動(安定限界 )
③|C(jω)|>1
ならば不安定
であると判別する。したがって、ただ単に(制御側からの要求条件とは異なるの意で)、フィードバッ
ク制御系が安定であるためには、角周波数 が0から∞まで増加するとき、図 6.5 の示すベクトル 軌跡
が点(−1,0)の右側を通り、0に収束すること(①の場合)である。
(3)ゲイン余裕と位相余裕
一巡伝達関数におけるベクトル軌跡(図 6.5)の点(−1,0)は∠C(jω)=−180°かつ|C(jω)|
=1の場合である。ゲイン余裕gm は位相交点 A での角周波数 をωA とすると、
gm =1−OA=1−|C(jω A )|
で表わされ、位相∠C(jω)が−180°のとき、ゲイン|C(jω)|があとどれだけ増加すれば 1 になり、
不安定になるかという余裕の量を定義している。また、位相余裕 φ m はゲイン|C(jω)|が 1 である
ゲイン交点Bでの角周波数 をωB とすると、
φm =180°+∠C(jωB )
で表わす。そして、ゲイン|C(jω)|が1のとき、位相∠C(jωB )があとどれだけ遅れたら−180°に
なるかという 余裕の角度を位相余裕 として定義している。
また、ボード線図におけるゲイン余裕と位相余裕を図 6.6 に示している 。ゲイン余裕と位相余裕は
大きいほどフィードバック 制御系の安定度は良くなり、ゲイン余裕と位相余裕が負になるとフィード
バック制御系は不安定になる。このようにゲイン余裕と位相余裕 の正負と値の大きさは制御系の安定
度の目安として利用される。
(4)安定判別の例
1 + aTs
, a >1
1 + Ts
ゲイン dB
1.5
0
0.001
2
40
0.1
10
30
20
5
10
0
1000
0
0
logω
図 6.7 (a) C1 (jω)のベクトル軌跡
(b) C2 ( s ) =
20
10
0
1
実数
50
15
2
0.5
25
4
0.5
0
60
(b)C1 (jω)のボード線図
2
4
6
時間
8
10
(c)C1 (jω)のステップ応答
K
s (1 + T1s )(1 + T2 s )
100
1
ゲイン
位相
50
0
0
180
160
-50
140
-100
-50
-150
-100
-200
-3
-150
-250
-4
-200
0.001
ゲイン dB
0
-1
-2
120
制御量
虚数
1
6
30
制御量
8
1.5
虚数
ゲイン
位相
位相 deg
10
2
位相 deg
(a) C1 ( s) =
100
80
60
40
-4 実数
-2
0
( b ) C 2 (jω)のボード線図
150
ゲイン
位相
100
2
4
6
8
10
時間
( c ) C 2 (jω)のステップ 応答
-180
-50
-240
-3
-2
-1
0
実数
図 6.9 (a)C 3(jω)のベクトル軌跡
25
20
15
10
-150
-4
35
30
0
-100
-2
40
位相 deg
0
45
-60
-120
50
ゲイン dB
虚数
2
-4
0
K (1 + T2 s)
, T1 > T2
s 2 (1 + T1 s )
4
-5
0
-300
1000
logω
図 6.8 (a)C2 (jω)のベクトル軌跡
(c) C3 ( s ) =
10
制御量
-6
0.1
20
-200
0.001
0.1
10
logω
-300
1000
(b) C 3(jω)のボード線図
5
0
0
2
4
6
8
10
時間
(c) C3 (jω)のステップ 応答
(4)安定判別の例
フィードバック制御系の2,3の開ループ伝達関数 Ci(s)のベクトル 軌跡、ボード線図およびステッ
プ応答の事例を紹介する。下記の事例では式(6.2)で H(s)=1、G(s)= Ci(s) の場合である。
(a) C1 ( s) =
1 + aTs
, a > 1 の場合。
1 + Ts
(ただし、図 6.7 では a=2、T=1)
1 + jωaT 1 + a (ωT ) 2
( a − 1)ωT
開ループ周波数伝達関数:C1 ( j ω ) =
=
+ j
2
1 + jωT
1 + (ωT )
1 + (ωT ) 2
[dB]
ゲイン
: C1 ( jω ) = 20 log
1 + j ϖaT
1 + j ωT
= 20 log
1 + ( aTω ) 2
1 + (Tω ) 2
[deg]: ∠C ( jω ) = ∠(1 + jωaT ) − ∠ (1 + jωT )
1
位相
= tan −1 aωT − tan −1 ωT = tan −1
( a − 1)ωT
1 + a(ωT ) 2
図 6.7(a) 、(b)および(c) に C1 (jω)のベクトル軌跡、ボード線図およびステップ 応答を示す。a>1
の条件でTの大小に関係なく安定である。
(b) C2 ( s ) =
K
の場合。
s (1 + T1s )(1 + T2 s )
開ループ周波数
伝達関数:
C2 ( jω ) =
=
ゲイン
[dB]:
[deg]:
位相
(ただし、図 6.8 では K=5,T 1=0.75 、T 2 =0.2)
K
j ω (1 + jωT1 )(1 + j ωT2 )
− K (T1 + T2 )ω 2
− K (1 − T1T2ω 2 )ω
+
j
(T2 + T2 ) 2 ω 4 + (1 − T1T2ω 2 )ω 2
(T2 + T2 ) 2 ω 4 + (1 − T1T2ω 2 )ω 2
C2 ( jω ) = 20 log
K
j ω 1 + jωT1 1 + j ωT2
= 10 log
K
ω {1 + (ωT1 ) 2}{1 + (ωT2 ) 2}
∠C 2 ( j ω ) = ∠K − {∠jω + ∠(1 + ωT1 ) + ∠(1 + ωT2 )}
= −(90° + tan −1 ωT1 + tan −1 ωT2 )
図 6.8(a)、(b)および(c) に C1 (jω)のベクトル軌跡、ボード線図およびステップ応答を示す。K が
小さいときは 安定、K が増大すると不安定になる。
(c) C3 ( s ) =
K (1 + T2 s)
, T1 > T2 の場合。 (ただし、図 6.9 では K=0.5 ,T 1=50、T 2=10)
s 2 (1 + T1 s )
開ループ周波数伝達関数: C3 ( jω ) =
ゲイン
位相
[dB]
K (1 + jωT2 )
ω (T2 − T1 ) 
− K  1 + ωT1T2
= 2 
+j

2
2
( j ω ) (1 + j ωT1 ) ω 1 + (ωT1 )
1 + (ωT1 ) 2 
: C3 ( jω ) = 20 log
K 1 + jωT2
( jω ) 2 1 + jωT1
= 20 log
K
ω2
1 + (ωT2 ) 2
1 + (ωT1 ) 2
[deg]: ∠C 3 ( j ω ) = ∠K + ∠ (1 + ωT2 ) − {2∠jω + ∠ (1 + jωT1 )
= tan −1 ωT2 − (180° + tan −1 ωT1 )
図 6.9(a)、(b)および(c) に C1 (jω)のベクトル軌跡、ボード線図およびステップ応答を示す。ベクト
ル軌跡が点(-1,0)の右側を通らないので不安定になる。