通常の学級における効果的な教育的支援のあり方に関する研究(2 年次)

平成24年度
研究報告書
(第78号)
通常の学級における効果的な教育的支援のあり方に関する研究(2 年次)
~ユニバーサルデザインに基づく授業づくり( ひとりの支援からみんなの支援へ )~
Ⅰ
研究主題設定の 理由
1
現状から
衛藤
勇治(福岡市立博多小学校
教諭)
宮成
三保(福岡市立博多小学校
教諭)
仁保
可奈子(福岡市立西新小学校
教諭)
2
子どもの実態か ら
通常の学級には,「文字が書けない」「集中
平 成 2 4年 7 月 に中 央 教育 審 議 会よ り 出 され
できない」「コミュニケーションをと るのが難
た第 80 回初等中等教育分科会の報告に は,「平
しい」など,学習面,行動面,対人関係面で支
成2 3 年 に改 正 さ れた 障 害者 基 本 法の 趣 旨 を踏
援を必要とする児童生徒が在籍している。
まえ , イ ンク ル ー シブ 教 育シ ス テ ムの 構 築 に 向
学習面の困難さとして,知的には遅れがない
けた特別支援教育を推進する」と示されている。
にも関わらず,文字を書くことや読むことが難
「 イン ク ル ーシ ブ 」 に は , 「包 括 的 な」 「 包
しい,計算することが難しいなど,読み書き,
み込 む 」 とい う 意 味が あ る。 イ ン クル ー シ ブ教
計算等に著しい困難さがみられる場合がある。
育で は , 障が い の 有無 に かか わ ら ず, 同 じ 場で
行動面の困難さとしては,離席や教室からの
多様 な 個 人が 能 力 を発 揮 しつ つ , お互 い を 正し
とび出し,集中の持続が難しい,多動性が見ら
く理 解 し とも に 助 け合 い なが ら 学 習で き る よう
れるなどが挙げられる。
にな る こ とが 求 め られ て いる 。 さ らに , そ の特
また,対人面の困難さとしては,児童生徒同
徴は「子どもは一人一人ユニークな存在であり,
士のコミュニケーションがうまくいかない,状
一人 一 人 異な る の が当 た り前 で あ るこ と を 前提
況の理解が難しいなど,他者との関係構築や集
とし て , すべ て の 子ど も を包 み 込 む教 育 シ ステ
団活動がうまくいきにくい場合も見られる。
ムの 中 で ,一 人 一 人の 特 別な ニ ー ズに 応 じ た教
育援助を考えることにある」とされている。
このように通常の学級において,子どもたち
に対し支援を考える際,一人一人のつまずきや
つ まり , 通 常の 学 級 に 在 籍 する 何 ら かの 教 育
苦手さを十分に把握し,支援を講じることが重
的支 援 を 必要 と し てい る 子ど も た ちへ の 支 援の
要となってくる。さらに,様々なタイプの児童
具現 化 は ,日 々 の 教育 活 動を 考 え てい く 上 で,
生徒が共に学び合いながら成長していくこと
必須の課題となっている。
を促すために,ユニバーサルデザインの考え方
福 岡市 に お いて も , 「 福 岡 いき い き チャ レ ン
ジプラン」において,大きな柱の一つを『共に』
を取り入れた環境づくりを進めていくことも
大切である。
とし , 「 認め 合 い ,支 え 合い , 学 び合 う 教 育環
境を つ く る」 取 り 組み の 一つ と し て, 過 ご しや
3
指導の組み立て から
すさ と わ かり や す さの 両 側面 か ら 教育 環 境 の充
学 習面 や 行 動面 に つ ま ず き のあ る 子 ども た ち
実を 図 る ,「 ユ ニ バー サ ルデ ザ イ ンに 基 づ く学
が学 級 で 過ご し や すく な るた め に ,子 ど も の実
校づくり」を進めているところである。
態を 踏 ま える こ と に加 え ,学 級 経 営や 授 業 のあ
り方を改善・工夫することも必要となる。
通 常の 学 級 にお け る 教 科 指 導 に お い て, 特 別
な教 育 的 ニー ズ の ある 子 ども に 対 して 行 う 支援
を対 象 に した 配 慮 や支 援 の効 果 に より , 他 の子
ども た ち にと っ て も過 ご しや す い 環境 や 分 かり
やすい環境となることがある。
を考 え た 場合 , 対 象と し た子 ど も にし か 使 えな
いも の も ある 。 ( ひと り の支 援 ) しか し , ある
Ⅲ
研究の目標
一つ の 支 援が , 対 象と し た子 ど も だけ で な く他
通 常 の 学級 に お いて , 困り 感 を 感じ て い る子
の子 ど も にと っ て も, よ り 学 習 活 動を 円 滑 に進
ども が 「 わか り や すさ 」 を感 じ る こと が で きる
め, よ り 理解 を 深 める た めの 支 援 にな る 場 合が
環境 づ く り, 授 業 づく り のあ り 方 につ い て より
ある。(みんなの支援)
明ら か に する 。 さ らに , 手立 て を 選択 ・ 調 整す
困り感をもった子どもにとって有効な支援
る際の,ふりかえりの観点を明らかにする。
が, み ん なに と っ ても 有 効な 支 援 とな る こ とが
ある 。 こ のこ と は ,よ り 多く の 子 ども に 学 習の
Ⅳ
研究の仮説
手応 え を 与え , 活 動に 達 成感 を 抱 かせ る こ とに
ユ ニバ ー サ ルデ ザ イ ン の 考 え方 に 基 づい た 教
つな が る と考 え る 。こ の 考え 方 を ユニ バ ー サル
育環 境 ( 環境 づ く り, 授 業づ く り )を 整 え るた
デザインととらえ,研究の主題として設定した。
めに , 児 童の 姿 に 則し た 手立 て の 選択 や 調 整を
行う こ と で, よ り 児童 が 過ご し や す く , 分 かり
Ⅱ
研究主題の意味
1
ユニバーサルデザインとは
配 慮を 必 要 とす る 子 ど も た ちの た め にす る 支
やすい授業を展開することができるであろう。
Ⅴ
研究計画
援は そ の 子ど も た ちだ け では な く ,誰 に と って
月
研究事項
も分 か り やす く な る支 援 とな る 。 この 考 え 方に
4
○研究の構想
立ち,より多くの子どもたちが,分かりやすく,
5
○研究主題の検討・決定
かつ , 過 ごし や す くな る ため に 学 習活 動 や 学習
6
○研究計画の検討
環境を調整・工夫することである。
7
○研究計画の決定
・家庭訪問(個人懇談)
2
「ひとりの支援」とは
子どものよさを大切にして,子どものできる
ことを伸ばす支援である。そのために,つまず
いている子どもの困難さの背景を探り,実態に
・学校生活サポートファイルⅡの記入
8
○サポートファイルⅡの加筆・修正
9
○授業実践(算数)
○中間報告書の作成
合わせた方法を考えて過ごしやすい環境や理
解しやすい授業にする必要がある。
3
「みんなの支援」とは
あ る子 ども の苦 手さ や つま ずき に対 して 考 え
た支 援 が ,他 の 子 ども に とっ て は より 過 ご しや
すく な っ たり よ り わか り やす く な った り す る支
援に な る こと で あ る。 通 常の 学 級 にお い て は,
様々 な タ イプ の 子 ども た ちが い る 。程 度 の 差は
○研究計画の修正
10
○中間報告会
11
○授業実践(算数)
○実践のまとめ
12
○研究報告書の作成
1
○研究発表会の検討と準備
2
○発表会リハーサル
○研究発表会
あれ , 同 じよ う な 苦手 さ や つ ま ず きの あ る 子ど
もが 複 数 在籍 し て いる こ とも あ る 。あ る 子 ども
○授業実践(算数)
3
○研究のまとめ
Ⅵ
研究の構想
研究の内容・方 法
①
特 別 な教 育 的 ニー ズ を必 要 と する 子 ど もに
たユニバーサルデザインに基づく環境づく
ついて,サポートファイルⅡを活用しながら,
り, 分か りや す さを 目指 した ユニ バー サ ルデ
細 かな 日 常 での 観 察 を 行 い ,子 ど も の実 態 把
ザインに基づく授業づくりを考え,実践する。
握を行う。
②
③
観 察 した 子 ど もの 姿 に基 づ い て, 支 援 の 手
チェックリストで分かった子どものつまず
立 ての 調 整 を行 う 。 有 効 で あっ た 支 援を 生 か
きや苦手さに応じて,過ごしやすさを目指し
して学級全体に役立つ支援へと広げて行く。
研究構想図
クラス全体に役立つ支援(みんなの支援)
子どもの変容
・授業への参加の様子
例:ノートをとる,発言
傾聴態度 など
環境づくり
手立ての
調整
改善
過ごしやすさ
・発 達 教 育 センター
相談
・特 別 支 援 学 校
ユニバーサルデザイ
ンに基づく環境づくり
・前面掲示の簡素化
・スクールカウンセラー
・座席の配置
・通 級 指 導 教 室
・校 内 支 援 委 員 会
→・物理的な位置
助言
・子ども同士の配置
・予定カード
・学習開始前のルーティン
↓
刺激が少ない環境
分かりやすさ
子どものつまずきや苦手さを
もとに考えて手立てを選択
関係諸機関
授業づくり
ユニバーサルデザイ
ンに基づく授業づくり
・板書の構造化
→ノートの構造化
・活動場面の切り替え
・モデリング
・学習プリントの工夫
・具体物の提示,操作
・学習のパターン化
↓
生活しやすい環境
刺激を整理しやすくなる
支援を受けやすい環境
分かりやすい授業
特別な教育的支援(ひとりの支援)
家庭
・家庭訪問
・個人懇談
・学習参観
・懇談
情報交換
特別な教育的ニーズを必要とする児童について
サポートファイルⅡを活用しての実態把握
Ⅶ
研究の実際
(1)実態を把握する
① プロフ ィー ルシ ート を使 って, 本人 の情 報と 家庭 での情 報( 行動 面, 情緒 ,対人 関係 ,
学習面,生活面,興味関心など)を把握する。
② 観察項 目チ ェッ クシ ート (図1 )を 使っ て, 学校 生活に おけ る実 態把 握を 行う。 子ど も
の苦手さだけでなく,よさや優れた面にも気付ける ようにした。
③ 観察項 目チ ェッ クシ ート から, 「子 ども にの ぞむ 行動」 (評 価の 指標 とす る行動 )と ,
子どもが現在見せている,「のぞむ行動」の代わりに行っている「してほしくない行動」
をリストアップして,支援をふり返る際の指標を決める。
(2)支援を考える
教師が普段何気なく行っている配慮や
支援を洗い出した。それぞれにどんなと
きに行うか,どんな子どもに行っているか
を見直し,「過ごしやすさ」や「分かりや
すさ」の視点と照らし合わせながら分類,
整理していった。
観察項目チェックシートをもとに,子
どものできることや得意なことを活かし
ながら,がんばらせたいことや苦手なこ
とに対する支援を考えていく。
図1
観察項目チェ ック ①
(平成 22 年度研究報告 書第 68 号より)
(3)支援を見直す
実際に支援を取り入れながら指導を
行う中で,子どもの「のぞむ行動」と「し
てほしくない行動」の頻度をチェックし
ておく。行動の変容をもとに,支援が適
していたかどうか考察し,必要に応じて
支援の変更や改善を行う。
(4)サポートファイルⅡにまとめる
サポートファイルⅡに,実態把握か
ら,支援の流れを一枚に分かりやすく示
す。特に,支援シートに実際の支援の手
立てと子どもの姿の変容を記録するこ
とで次年度への重要な引継資料になる。
(図2)
図2 支援シート
図2 支援シート
(平成 22 年度研究報告書 第 68 号より)
Ⅷ
授業実践
事例1
【小4男子】
(2) 指導案(4年生算数)
実践①
算数「小数のしくみ」
(1) 児童の実態
A 児は,これまで教育相談など専門機関での相
談を受けた経緯はなかったが,12月に初めて保
護者の希望で専門機関にて相談を受けたところで
ある。
行動面では,会話でのコミュニケーションをと
ることが苦手だが,進んで話を聞いてくれる相手
に,思っていることを話すことはできる。
(→手立
て①②)また,廊下などに貼ってある掲示物に時
間を忘れて見入ることがある。(→手立て③④)
学習面では,内容に興味があることや,自分の
生活体験に即して考える道徳の時間は,集中して
取り組み,積極的に発表をすることができる。
(→
手立て⑤⑥⑦⑧)発表は,自分で考えたことを皆
に聞こえる声で話すことはできるが,相手に聞き
やすいように順を追って話すことは難しい。
( →手
立て⑨)書く活動が苦手であるが,担任が見てい
ると一生懸命書こうとする。
(→手立て⑩)計算が
得意な為,ドリルに取り掛かると素早く集中して
終わらせることができる。(→手立て⑪)また,
よく声に反応して前を見ることがあるので,A 児
は聴覚優位だと考える。(→手立て⑫)
(2)実態に即した手立て
A 児の実態から,次のような手立てを考えた。
【過ごしやすさ】
①
意図的な座席の配置
②
グループの話し合い
③
活動の流れカード
④
教室環境の構造化
【分かりやすさ】
⑤
隠したところから出す
⑥
具体物を用意する。
⑦
ヒントカードの提示
⑧
板書の構造化
⑨
発表の仕方の統一
⑩
書く活動を減らす
⑪
行動開始の合図
⑫
全体で唱える
実践②「面積のはかり方と表し方」
(4)手立ての活用の様子
②グループの話し合い
環境づくり(過ごしやすさ)
①意図的な座席の配置
A児は,自分からグループの話し合いに入るこ
とが苦手である一方で,話し掛けてくれたり,話
自分から友だちの輪に入ることが苦手なA児も,
グループで一緒に話し合い活動ができるように,
以下のようなグループの話し合いの仕方を決め,
児童に示した。
を聞いてくれたりする児童に対して自分の考えを
話すことは得意である。また,一生懸命教えてく
〈グループの話し合いの仕方〉
・
れる相手の話を聞くこともできる。
この実態から,席替えの際に,A児の隣や同じ
筆記用具など)は片付ける。
・
グループに,積極的にA児に関わろうとする児童
を配置した。さらに,身辺整理が苦手な為,担任
グループ活動時は,必要ないもの(教科書.
リーダーが「話し合いカード」を持ち,話し
合いを進める。
・
班の考えをまとめる際には,役割を分担する。
の手が届く前列に配置することで,身の回りに気
役割分担の内容に関しては,グループ活動の前
を向けることができるように見守ることができる
に教師がミニ黒板に書いて貼っておいた。さらに,
ようにした。
話し合いの後に何をするのかまで書いておくこと
他の児童においても,自分で学習を進めること
ができない児童の隣には,声を掛けてくれるしっ
で,早く終わったグループが時間を持て余すこと
なく学習を進めることができた。
かり者の児童を配置したり,前列に配置すると後
ろが気になってしまう児童には,2列目以降に配
置したり,自分の考えを話すことが苦手な児童の
隣には,考えを話せるように優しく促すことがで
きる児童を配置するなど,それぞれの児童の実態
に即した座席の配置をした。
すると,1学期はあまりグループの話し合いに
参加できなかったA児が,徐々に自分から話を聞
図4
話し合い後の手順を示したボード
A児の班では,A児ともう一人が発表の練習を,
く様になった。そして,同じグループの児童がく
残りの2人が図と説明をかく作業の担当割りにな
り返し考えを教える為,A児自身が学習に関する
っていた。A児とペアになった児童は,A児が内
考えを持てることが多くなった。
容を理解して自分で具体物を動かせるようになる
他の自分で考えを話すことが苦手な児童におい
まで,何度もくり返し教えていた。その後の発表
ても,積極的に話すことができるようになってい
では,A児も自信を持って具体物を動かすことが
て,有効であると考える。
出来て,大変嬉しそうであった。
図3
自分で考えを話す児童
図5
くり返し伝える姿
③活動の流れカード
④教室環境の構造化
A児は廊下などに貼ってある掲示物に時間を忘
A児の様々な掲示物に見入ってしまうという実
れて見入ることがある反面,興味のないことには
態から,教室のどこに何を掲示するかを決め,教
集中することが苦手である。この実態から,活動
室環境の構造化を図ることが必要であると考えた。
の流れカードを作り,黒板に貼ってみた。
前面には,学習に必要なものだけを掲示した。
以前は,給食コーナーを前面に掲示していたが,
後方に移動したことで,学習中に給食の話をする
児童がいなくなった。
窓側には,学校全体の年間のめあてや,月のめ
あてなど,目標とすることや守るべきことを掲示
した。
廊下側には,既習の学習を振り返ることができ
るように学習の足あとを残した。すると,2学期
になり,この教室環境に慣れてきた頃から,児童
図6
学習の流れカード
が問題を解いていてわからないことがあると,す
しかし,
「⑧板書の構造化」によって既に見通し
ぐに,廊下側の掲示物に目をやるようになってい
が持てていた為か,わざわざこのような手立てを
た。また,児童同士の伝え合いの際にも廊下側の
とる必要はないように感じた。このことにより,
掲示物を活用して伝える姿があった。
児童の実態を見て,手立ては精選する必要がある
と考えた。
このように,環境を構造化することで,児童自
身がその時に必要な情報を探して活用できるよう
になっていった。
こ
級
声のものさし
訓
発表の仕方
窓
側
→音楽のめあて
→今年度のめあて
今月のめあて
→朝の会・帰りの
会の流れ
図7
教室環境の構造化
廊下側
学習のあしあと
授業づくり(分かりやすさ)
⑥具体物を用意する
⑤隠したところから出す
A児の興味のあることには意欲的に取り組むこ
A児の興味があることには意欲的に参加できる
という実態から,A児の注意が引きつくような方
法を考えた。
とのできる実態から,A児や他の児童が興味をも
てるような具体物を考えた。
実践②で用意した具体物は,動かすことで考え
実践②の導入部分では,封筒に隠しておいた四
方が分かるものだった。この具体物を,まずはヒ
角形をクイズ形式で出して見せた。すると,A児
ントコーナーに置いた。すると,動かし方の分か
は前のめりになり,興味津々で問題に取り組んだ。
る児童がわからない児童に,動かし方を教える姿
他の児童も同様に,積極的に挙手をし,発表する
があった。教えてもらう方も意欲的に話を聞き,
姿があった。
何度も動かしてもらう内に,自分でも動かし方が
この方法には,以下のようなものがある。
・
封筒から出す。
・
教卓から出す。
・
背中に隠して
分かるようになっていた。
おいて出す。
図8
封筒から出す様子
また,単元によっては,既習学習の反復練習の
為に使えるはてなBOXも有効である。
例えば,分数の学習では,
「分数BOX」と名付
図 10
動かして考える具体物
次に班の話し合い活動でも具体物を配り,具体
物を使いながらの発表の練習をするように促した。
けた箱を作り,中には,真分数や仮分数,帯分数
の書かれたカードを入れておいた。児童2人に黒
板の前でBOXからカードを引かせ,分数の大き
さを競わせる。これは,ゲーム形式で楽しみなが
ら,分数の大きさを比べることができるようにな
るという,算数科の支援である。
この場合,隠れたところから出るだけでなく,
友だちが教室前方でBOXからカードを出す作業
をしているだけでも児童の目を引く。そして,自
分もカードを引いてみたいと思うことから,意欲
も湧くので,有効であると考える。
図 11
具体物を動かしながら発表する様子
すると,
「②グループの話し合い」にあったよう
な教え合いの姿が多く見られ,自分の班の考えを
理解することができたであろう児童が多くいた。
その後の発表でも,多くの班が具体物を有効に使
いながら,動かす役と,説明する役に分かれて,
発表していた。この為,文字を並べるだけではな
い,わかりやすい説明が出来ていた。また,多く
の児童が,各グループの発表を興味を持って聞く
図9
分数ボックスを活用する様子
ことができていた。
⑦ヒントカードの提示
⑧板書の構造化
A 児が興味の湧かない授業は,
「分からない」授
A 児が集中して授業に取り組むことが苦手な姿
業でもあると考え,自分の考えをつくるためのヒ
は,何(内容)をどれくらい(量)行うかの見通
ントカードを作った。
しがないためだと考え,授業開始時に板書での学
実践①では,ヒントカードを全員に配り,それ
ぞれの児童に使うか使わないかを選ばせた。
習問題,めあて,まとめ,練習問題の配置を決め
て黒板に貼付しておくようにした。
1 時間の流れが分かるとともに,大まかな板書
量もあらかじめ視覚的に示しておくことができた
ことで,児童が教師よりも先に書く準備をする姿
を見せた。 この方法は,他の教科(特に理科,社
会)でも取り入れることができた。特に社会のよ
うに板書量が多い教科では,
「 まとめまで頑張れば
図 12
実践①のヒントカード
しかし,ヒントカードで児童の考えを縛りすぎ
終わると思うと安心する。」と漏らす児童もいた。
【授業開始前の板書】
て,多様な考えが出ないという課題点が出てきた。
そこで,実践②では,ヒントカードを多数用意
し,教室後方にヒントコーナーを設けて,自分で
考えを選ぶことができるようにした。ヒントコー
ナーには,ヒントカードと一緒に具体物を置いた。
【授業終了後】
水色
白
図 15
図 13
ヒントコーナーの様子
各項目の配置を決めた板書の授業前と後
また,構造化された板書をそのままノートに写
すると,自分で考えを作れなかった児童がたく
すように指導した。基本的には,算数でも理科で
さん後方に集まり,具体物を動かしながら自分の
も見開き 1 ページに 1 時間のノートを作るように
考えを選んでいた。また,「⑥具体物を用意する」
した。このことで,整理された見やすいノートが
であったように,具体物の動かし方がわからない
作れるようになり,わからないことがあると,自
児童を中心に教え合いを始める姿も見られた。
分のノートを見返す児童も出てきた。
図 14
ヒントコーナーで教え合う姿
問
←学習問題
め
←めあて
思
←思ったこと
友
←友達の考え
見
考
←見通し
←自分の考え
ま
←まとめ
練
←練習問題
感
←感想(書ける日は)
図 16
算数ノート例(見開き 1 ページ)
⑨基本的な話形の提示
⑩書く活動を減らす
A児は,自分の考えを話すことはできるが,聞
A 児は,書く事が苦手だが,担任が見ていると
き手にわかりやすく順を追って話すことが苦手で
一生懸命書こうとする。ノートを完成させて,担
ある。そのために,発表の仕方のモデルを示した。
任に「認められたい」という気持ちがあると思う。
は じめに・○
つ ぎに・○
さ らに・○
だ から」
算数科の「○
このように書くことが苦手な児童のために,文字
を使った「はつさだ」発表ができるようにしたい
数の多い箇所はノートに書くのではなく,プリン
と考えた。実践①までは,
「はつさだ」を使ってノ
トにして貼ることができるようにした。実践①で
ートに説明を書くように伝えていた。しかし,言
は,文字数の多い箇所が多かった為,3種類のプ
葉で伝えるだけでは,説明が苦手な児童はなかな
リントを用意した。
か書こうとしなかった。そのため,あまりクラス
で普及しなかった。
そこで,
「はつさだプリント」を作り,班の話し
合い時に配布した。プリントに説明を書き込ませ,
発表時に「はつさだ」を付けて話すように促した。
図 19
プリントを貼ったノートの様子
さらに,のりを使うことが苦手なA児の為に,
プリントの裏に両面テープを貼っておいた。実践
①では,A児と合わせて2人だけ両面テープを貼
ることにした。
図 17
はつさだプリント
図 20
両面テープを使ってプリントをはる様子
このことは,A児の意欲につながり,作業が速
まった。他の児童においてもノートづくりに掛か
る時間が縮まった。しかし,4年生という学年の
図 18
はつさだプリント活用の様子
実態から,3枚ものプリントを貼ることに混乱し
「はつさだプリント」に書くようになってから
た。そして,
「貼る」という作業に「書く」以上に
というもの,児童達は,算数ばかりでなく,他の
時間がかかる児童もいた。その全ての児童に両面
教科の際も意識して説明に「はつさだ」を取り入
テープを貼って配ることは難しい。効果のある児
れるようになった。これからは,徐々にプリント
童もいたことから,クラスの実態や発達段階に応
なしで説明できるようにしたいと考える。
じて取り入れ方を柔軟に考えるべき手立てである。
⑪行動開始の合図
実践①の学習の中で,早く終わらせている児童
と遅れてしまう児童の行動の時間差が大きく,課
⑫全体で唱える
実践②では,下の図 21 のように,図の辺に長
さが書いてないものを問題として提示した。
題として出た。
A 児の場合は,始めたことは素早く終わらせる
ことができるが,その取り掛かりが遅れてしまう
ことで様々な行動に時間が掛かってしまっている。
このことから,行動開始を揃えることで,行動
の時間差を縮めることができると考えた。
そこで,実践②では,板書をする前に,
「めあて
を書きます。鉛筆を持ちましょう。」と声を掛けた。
すると,全体指導で話が聞ける児童の動きが止ま
図 21
実践②の学習問題
り,鉛筆を用意した。すぐに鉛筆を用意できなか
クラスの実態から,この図のまま長さを書き込
った他の児童も,周りの様子に気付いき,鉛筆を
まずに自分の考えをつくることは難しいだろうと
持った。また,自分で鉛筆を持つことができた児
考え,問題提示時に全体で周りの辺の長さを書き
童が,全体指導で行動開始することが苦手な児童
込む作業をした。
に気付き,声を掛けて持たせてくれた。始まりが
同じであることで,全体の行動の時間差を縮める
ことができた。そして,このことは行動を区切り,
切り替える効果もあったと考える。
図 22
図 21 に長さを書き込んだ図
その際に,教師が「4マスだから」と言い,児
童が「4cm」というように全体で唱えながら進
めていった。すると,最初は顔を上げていなかっ
た児童も顔を上げ,全体が話す言葉を聞き始めた。
この時,A児も声に反応していた。
このことから,全体で確認したいことは,全体
で唱えると聴覚優位であるA児にとっては有効で
あることがわかった。
また,全体で唱える度に図に書き込み,板書に
残すことも,聞くことについていけなかった児童
が,後で見て確かめていた姿から有効であったと
考える。
事例2
【小6男子】
(2)仮説
(1)児童の実態
B児は,体を動かすことが好きで休み時間も
友だちと活発に遊んでいる児童である。1 年生
B児の実態から以下のような仮説と手立てを
考えた。
○
の時から落ち着きのなさや学習の積み重ねの難
→・やり方がわからない。自信がない。
しさが目立っており,保護者もそのことを気に
はしているが,専門機関での相談を受けたこと
共同作業を意欲的に参加しない。
【手立て】⑥⑧⑨
○
はなく,現在に至っている。
一斉授業では手遊びをする。
→・やり方や見通しが立てられない。
生活面では,人の気持ちを推し量ったり,共
・説明を聞いてもわからない。
感したりすることが難しく,周りから見ると自
分本位であるように受け止められることがある。
【手立て】①②④⑨
○
板書をノートに写さない,落書きをする。
共同で作業をする場合にも,上手くできないこ
→・どこを見たらいいのかわからない。
とをみんなに見られることを嫌がり,そのこと
・何を書いていいのかわからない。
の予防線であるのか「面倒くさい」
「最悪」等の
・ノートのどこに書いたらいいのかわか
言葉を多用し,意欲的に参加しない姿が見られ
らない。
る。
学習面では,体育や図工の工作のような活動
【手立て】①②③⑦
○
が中心の教科では主体的に取り組むが,教室の
ボールペンを使用したがる。
→・鉛筆を使うことに違和感をもっている。
一斉授業では,ある一定の時間,集中して取り
【手立て】③
組むことが難しい。自分一人で考えたり,作業
※
B児に理由を尋ねると,鉛筆の先が丸
したりするような時間には,離席はないものの,
くなって書きにくくなるため,ノートに
じっとしておくことができずに,必要のない物
は鉛筆で書きたがっていた。周りの児童
で手遊びをする姿が増える。また,板書をノー
のすすめによりシャープペンシルを使っ
トに写すことが苦手で,友だちの書いているノ
てみると,きれいに書けるようになった
ートを見てそれを写すこともあるが,ほとんど
ので,現在はシャープペンシルを使用さ
が始めから書かなかったり,途中でやめてしま
せている。
ったりして落書きをしている状況である。その
○
際,筆記用具は好んでボールペンを使用したが
→・自信があることは意欲的になる。
る傾向がある。
教師からの注意が重なると,全てにおいてや
【手立て】①②⑤⑨
○
る気をなくしてしまうことが多い。しかし,認
→・自尊感情が低い。
欲はもっており,認められたり褒めたりすると
が,わかったことは積極的に発表する姿が見ら
れる。また,繰り返し行うことで,手順や見通
しが明らかになって把握できていることについ
ては,自分から取り組むことができる。また,
教師の言葉などには,すぐに反応することが多
い。
認められたり,褒められたりするとやる気
が持続する。
められたいという気持ちや発表したいという意
やる気が持続する。授業中もノートはとらない
わかったことは積極的に発表する。
【手立て】⑧
○
教師の言葉に反応することが多い。
→・聴覚優位の可能性が考えられる。
【手立て】①②③④⑦
(3)具体的な手立て
B児の実態を捉え,苦手なところをできるよ
(4)
実践1「比例をくわしく調べよう」
指導案
うにするために,授業づくり(分かりやすさ)
と環境調整(過ごしやすさ)の面から支援の手
立てを考えた。
授業づくり(分かりやすさ)
①板書の構造化
②拡大図の提示
③学習問題をプリント
④具体物の提示
⑤学習形態の変化
⑥発表の仕方の提示
環境調整(過ごしやすさ)
⑦前面掲示の簡素化
⑧座席の配置
⑨学習開始前のルーティン
【使用した手立て】
授業づくり(分かりやすさ)
①板書の構造化
②拡大図の提示
③学習問題をプリント
⑤学習形態の変化
環境調整(過ごしやすさ)
⑦前面掲示の簡素化
⑧座席の配置
(5)手立ての活用の様子(実践1)
授業づくり(分かりやすさ)
①板書の構造化
視覚からの情報を整理しやすいように,黒
②拡大図を示す
掲示した図や表のどの部分について考えてい
るのか,明確にしやすくするために,視覚に働
きかける板書を構成した。
「比例をくわしく調べよう」の学習では,拡
板は簡潔で見やすくした。事前に学習問題,め
大した表を黒板に掲示した。児童には同じ表を
あて,見通し,考え,まとめを書く位置を明確
縮小したものを渡し,自分の算数ノートに貼ら
にし,どこの部分を板書しているのかを分かる
せた。さらに,説明の際に,拡大した表の中の
ようにした。そのことでB児は全体の流れが分
数字を赤枠で囲むことにより,B児がどこを見
かり,見通しをもって学習することができてい
ればいいのか焦点化できるようにした。そのこ
た。
とで,どの部分を指して説明しているのかが明
確になり,自分から黒板を見る回数が増え,見
通しをもつのにつながっていた。
図 23
書く位置を決めた板書
また,視覚的に識別しやすいように,学習問
題は白,めあては黄色,まとめは赤色のチョー
クで色分けした。児童のノートも黒板の板書と
同じような形で書くように指導をした。その結
果,ノートをきれいに書ける児童が増えたこと,
今ま でノ ー トを 書 かな か った 児童 が 徐々 に書
けるようになったような成果が見られた。
図 25
拡大図と赤囲み
課題としては,拡大図は図形については有効
であったが,表などについては後ろの席から文
字が見づらく,文字については手書きをする方
図 24
囲み線を色分けした板書
がより効果的だと言える。
③学習問題をプリントする
⑤学習形態の変化
学習問題や本時に使う表や図形をプリントに
集中力が持続しない子どもや,内容の理解が
してノートに貼らせた。ノートに書く時間を短
難しい子どもについては,学習形態を変えるこ
縮することで,活動のスタートを揃えることが
とで,学習に区切りが生じて,集中力が持続し
でき,考える時間や活動する時間を確保できる
やすくなったり,友達と関わることで授業に参
ようになった。
加しやすくなったりすることができる。グルー
プ学習は,自分が分からないときは友だちの考
えを聞いたり教えてもらったりできること,分
かったときは少人数のため発表しやすいことな
どから,クラス全体での話し合いに比べ,発言
しやすくなり,積極的に話し合いに参加しよう
とする姿が見られた。
図 26
プリントをノートに貼る様子
また,プリントの横幅をノートのスペースに
揃えることで,ノートに貼る位置を固定させる
ことができた。そのことで,ノートが見やすく
なり,前時の振り返りのときに,見るべき部分
を見つけやすくなり,理解の深まりにつながっ
た。
図 28
班での話し合い活動の様子
さらに,班で話し合いをするときには,画用
紙を使って,自分たちが話し合ったことを視覚
化し,共有できるようにした。その際,一人ひ
とりに,役割を分担させることで,話し合いに
より参加できるようにした。
図 29
図 27
B児のノートの変容
班の考えを画用紙にまとめる様子
環境づくり(過ごしやすさ)
⑧座席の配置
集中力が持続しない子どもには,隣の席や同
⑦前面掲示の簡素化
じ班に,上手に声をかけたり,注意を促したり
教室環境は,全体的にシンプルなものを心が
することができる子どもを配置した。普段から
けるようにした。特に,子どもの目がいきやす
B児とコミュニケーションを取ることができ,
い前面掲示においては,黒板の上の級訓,話し
授業中にB児が集中していないときには,やり
方,声のものさしだけにし,子どもへの視覚的
方を教えたり励ましたりできるような児童を選
な刺激を極力軽減し,集中力を高めるようにし
んだ。
た。
また,3人並びの真ん中に配置し,班での話
し合いの時には,必ず中心の場所になるように
し,話し合いに参加しやすくなるようにした。
その結果,以前は手遊びをしたり,話し合いに
なかなか参加しなかったりしていたB児も,話
し合いに参加して,発表するようになった。そ
の後は,席を二人席に戻しても,ノートを書く
ようになってきている。
図 30
前面の掲示物の簡素化
また,前時のふり返りがしやすいように,前
面横にホワイトボードを置き,前時までに学習
した内容を貼っておいた。特に,本時につなが
る内容に絞り掲示しておくことで,そこを見れ
ば,本時の学習の見通しが書けるようにした。
図 32
3人並びの真ん中にB児を配置
さらに,B児をサポートする児童も以前に比
べると,手を挙げる回数が増えたり,積極的に
前へ出て発表したりするようになってきた。他
の児童のノートのふり返りでも,
「 友達に教える
ことができた」
「最初は分からなかったけど,友
達に教えてもらったので分かった」などの,感
想を書く児童が増えてきた。
図 31
前面横のホワイトボード
(6)
実践2「体積の求め方を考えよう」
指導案
(7)手立ての活用の様子(実践2)
授業づくり(分かりやすさ)
①板書の構造化
実践1で行った板書の構造化を継続して行う
ことにより,作業効率が上がり,ノートを自分
で整理できるようになってきている。
実践2では,実践1で行った手立てに加えて,
授業で使うキーワードを付箋や画用紙に書いて
黒板の書いた文字の上に貼り,まとめの段階で
移動させることで,考えとまとめがつながるよ
うにした。板書のどの部分がまとめにつながる
のかが明確になり,繰り返し行っていくうちに,
自分でキーワードからまとめにつなげられるよ
うになっていった。
【使用した手立て】
授業づくり(分かりやすさ)
図 33
キーワードを画用紙に書いて貼る
①板書の構造化
②拡大図の提示
しかし,キーワードは同じものを二重にして
③学習問題をプリント
おかないと,移動させた際に,キーワードがそ
④具体物の提示
の場所になくなってしまい,黒板を見ての振り
⑤学習形態の変化
返りができなくなってしまった。
⑥発表の仕方の提示
環境調整(過ごしやすさ)
⑦前面掲示の簡素化
⑧座席の配置
⑨学習開始前のルーティン
図 34
キーワードの移動
②拡大図を示す
④具体物の提示
三角柱の底面が分かりやすいように,拡大し
体積の求め方の学習では,三角柱の模型を準
た図に教科書と同じ配色で色をつけた。そのこ
備し触らせることで,三角柱のイメージを持ち
とにより,B児も底面がどの場所なのかを確認
やすいようにした。話し合いの段階で,日頃ノ
することができていた。
ートに自分の考えを書いただけでは,うまく説
しかし,教科書と同じようにしようと濃いピ
ンクで色をつけたが,児童によっては視覚的に
明できない児童が,具体物を使って生き生きと
説明している姿が見られた。
刺激が強すぎて,目が疲れて見にくくなる場合
も考えられるため,刺激の少ない色を選ぶ必要
がある。
図 37
模型を触って説明している様子
また,模型を発表に使うグループもあり,
図 35
拡大図に色をつける
考えを広げたり,深めたりするのに有効であ
ったと言える。しかし,グループに渡す具体
③学習問題をプリント
物の個数が多すぎると,それを使って遊ぶ児
学習問題をプリントにしてノートに貼らせる
童が出てきたため,ただ準備するだけでなく,
ことを継続して行った結果,作業効率が上がり,
個数や使うタイミングなど効果的に使える工
考える時間や活動する時間をより確保できるよ
夫が必要となってくる。一人ひとり準備する
うになった。
のであれば,子どもに作らせると展開図から
また,のりで貼ることが苦手な児童には,予
め両面テープをプリントの裏に貼って渡してい
立体への変化を実際に体験することができ,
よりイメージがわきやすくなる。
たが,自分からのりで貼ることを選択し,戸惑
うことなく貼れるようになってきている。
図 38
図 36
次の活動にスムーズに入る様子
模型を使って発表資料をつくる様子
⑤学習形態の変化
環境づくり(過ごしやすさ)
集中力が持続しやすいように,一斉学習から
グループ学習への学習形態の変化を引き続き行
⑦前面掲示の簡素化
った。最初は友だちの話を聞いていることが多
実践1から引き続き,前面掲示の簡素化を行
かったB児も,自分から分からないことを尋ね
った。余分な刺激を与えるものを取り除いて,
たり,自分の考えを積極的に発言したりするよ
子どもの集中力を高めるようにした。教室全体
うになっていった。
がすっきりとして見え,黒板を集中して見る児
童が増えていった。
図 41
図 39
グループ学習の様子
簡素化した前面掲示
⑧座席の配置
3人並びの真ん中に配慮を要する児童を置く
また,全員が話し合い活動に参加できるよう
形態を継続して行った。そのことにより,学習
に,グループ内で「画用紙に書く」
「発表原稿を
中に教師が声をかける前に,隣の児童が声をか
考える」
「発表をする」などの役割を決めて活動
けたり,教えたりする場面が多くなり,教師か
を行うようにした。グループ学習からより細分
らB児への声かけが少なくなった。B児にとっ
化された共同作業になるため,立場が明確にな
ては,教師から注意されたり,教えてもらった
り,進んで責任を果たそうとする姿が見られた。
りするよりも,友達から声をかけてもらうほう
が,意欲的に取り組めていた。
⑥発表の仕方を示す
一人に一枚ずつ発表の仕方を書いたカードを
渡すことで,班での話し合いを自信もってでき
るようにした。始めは見ていた子も,回数を重
ねると見なくてもできるようになっていった。
図 42
図 40
発表の仕方プリント
意欲的に発表するB児
③学習開始前のルーティン
学習に対して苦手意識をもっているため,気
持ちが乗らない子どもや取りかかりの遅い子ど
もも,学習にとりかかりやすくするために,学
Ⅸ
研究の成果と課題
1
研究の成果
本研 究に おけ る成 果 とし ては 以下 の ような
ことが挙げられる。
習開始前のルーティンを設けた。体積の求め方
の学習では,今までに学習した面積や体積の公
式をフラッシュカード形式で復習することによ
り,これから学習することへのヒントにもなり,
意欲を高めることにつながった。
(1)子どもの苦手さに応じた支援の手立ての広がり
①支援のヒントは苦手さやつまずき
環境づくり(過ごしやすさ),授業づくり
(分かりやすさ)という2つの柱で支援を
考える際,学年や年齢も考慮しながらでは
あるが,チェックリストと手立て一覧表を
用いて,子どもの苦手さやつまずきを中心
に据えてそれに応じた手立てを複数考え,
選択することができた。
②手立ての柔軟なアレンジや切り替え
一度取り入れた手立てについて,その手
立てを取り入れる前後の子どもの様子の変
化をもとに,アレンジしたり他の手立てに
図 43
学習開始前のルーティン
切り替えたりと,ある一つの方法に固執せ
ずに柔軟に考えていくことができた。
③手立てを活かす環境の調整や他の手立て
グループでの学習形態に先立ち,特性や
性格,習熟度などを考慮した意図的なグル
ープ編成を行ったり,具体物の操作や発表
の形態を仕組んだりすることで,子どもた
ち同士での働きかけ合いが増えた。
教師が考えがちな,「できる子」が「分
からない子」に教えるという姿だけでなく,
苦手さのある子が「分かった」ことを「ま
だ」分かっていない子に具体物を使いなが
ら「分かるまで」繰り返し伝える姿も見ら
れ,教え合いが深まったことがうかがえ,
「グループでの話し合い活動」という手立
てがより活かされたと考える。
(2)評価につながる子どもの見取り
③保護者との情報交換への活用
①複数の子どもの見取り
子どもの苦手さを把握したり,焦点化し
サポートファイルのチェックリストを,
て子どもを見取ったりしながら保護者へ働
複数の子どもを対象にしてもつけやすい形
きかけることができるので,具体的な姿を
に変えたものを準備し,活用した。
伝えながら,より絞り込んでプロフィール
子どもたちの様子を目で見える形で比較
を作ることができる。また,具体的に褒め
することができ,あらかじめ似た苦手さの
ながら保護者との話ができることは家庭と
ある複数の子どもを想定して手立てを考え
の連携を促す上でも重要であると考える。
ることができた。
②手立て導入前後の子どもの見取り
チェックリストを活用し,具体的な行動
の変容で子どもの姿を見取ることができた。
また,子どもたち本人の自己評価をアンケ
2
研究の課題
また,取り組みを進める中で以下のような課
題も明らかになった。
ートにより把握することで,意欲や心情に
ついてもある程度見取ることができた。そ
れらを材料に,手立ての有効性について考
察することができた。
(1)手立てを授業づくりに取り入れやすくする
ための,分かりやすいリソース作り
今回,環境づくり・授業づくりに向けて,
子どもの苦手さから考える手立ての一覧表
を作成したが,使いやすさに配慮して改良
(3)教師の気付きをスタートにした,いつでも
始められる環境作りと授業作り
①短い準備期間
していく余地がある。
また,どの手立てを選択するかの決め手
になる,苦手さの背景を探る方法について,
あらかじめ子どものプロフィールの聞き
さらに文献などで研修する必要がある。学
取りを行っていなかったとしても,チェッ
校生活の中で担任教師が手軽に確かめられ
クリストや手立ての一覧表を使うことで,
る方法について提示することで,手立て選
教師の気付きから実際に手立てを取り入れ
択の根拠がより明確になると考える。
るまでの時間を可能な限り短くすることが
できた。
(2)ユニバーサルデザインに基づく授業作りの
評価方法
②一歩を踏み出せる材料
チェックリストからつなげて手立てを探
すことができる一覧表を作成した。
チェックリストでの気になる行動の変容
と,主にノートの書き取りの状態,話し合
い活動への参加の様子(時間),テストでの
「子どものこんなところが気になるが,
習熟度,子どもたち本人の自己評価アンケ
どんなことをしてみたらよいか迷い,二の
ートで手立ての有効性を見取ることができ
足を踏んでしまう」という教師の状態を緩
ないか試みた。どれも,手立て導入前後で
和し,「とりあえず,これをやってみよう」
変容が認められたが,客観性や普遍性には
「上手くいかなければこっちを試してみよ
欠けている。客観性や普遍性のある方法を
う」と一歩を踏み出す足がかりになれば,
確立する必要がある。
と考えている。
(3)欲張らない手立ての取り入れ方
チェックリストや手立て一覧表を活用す
ることで取りかかり易さは改善されたが,
手立てはある程度精選して取り入れなけれ
ば,教師自身がたくさんの手立てを使うこ
とに振り回され,子どもたちを混乱させる
ことがある。基本的な学習規律の確立と併
せて1つか2つ取り入れてみるところから
始めてみることも重要であると考える。
○研究報告書第68号
特別支援教育に関する研究
特別支援教育における授業の実際と評価
― 通常の学級の授業における多様な教育的
ニーズに応じた指導方法の工夫―
茨城県教育研修センター 2007 2008
○研究報告書第73号
通常の学級における効果的な教育的支援のあり方に関する研究
ユニバーサルデザインに基づく授業づくり
福岡市発達教育センター 2012
<研究指導者>
<引用・参考文献>
○イラスト版 発達障害の子がいるクラスのつくり方
これが基本 子どもが困らない 35 のスキル
梅原厚子 合同出版 2009
○つまずきのある子の学習支援と学級経営
-通常の学級における LD・ADHD・高機能自閉症の指導吉田昌義他編著 東洋館出版社 2003
○ユニバーサルデザインの授業づくり・学級づくり
高槻市立五領小学校 明治図書 2011
○場面サインを見逃すな!
通常学級担任用:特別支援教育対応シート
新潟特別支援教育研究会 明治図書 2010
○-特別な支援が必要な子どもたちへ5通常の学級担任がつくる授業のユニバーサルデザイン
広瀬由美子他編著 東洋館出版 2009
○授業のユニバーサルデザイン Vol.1 2 3
授業のユニバーサルデザイン研究会 東洋館 2010
○教室でできる 特別支援教育のアイデア172 小学校編
月森久江編 図書文化社 2005
○教室でできる 特別支援教育のアイデア 小学校編 Part2
月森久江編 図書文化社 2008
○特別支援教育 はじめのいっぽ!
井上賞子 杉本陽子 学研 2008
○特別支援教育 はじめのいっぽ! 国語のじかん
井上賞子 杉本陽子 学研 2011
○特別支援教育 はじめのいっぽ! 算数のじかん
井上賞子 杉本陽子 学研 2011
○学校における授業のユニバーサルデザイン
会津教育事務所 2011
○明日から使える支援のヒント
~教育のユニバーサルデザインをめざして~
神奈川県立総合教育センター 2010
筑紫女学園大学
発達教育センター
教
授
研修係長
指導主事
酒井
野口
八尋
均
信介
健史