機械設計演習に利用可能な機構モデルの製作

機械設計演習に利用可能な機構モデルの製作
旭川工業高等専門学校
1.諸 言
機械系学科においては,もの作りの知識および技
術の基礎から応用までを修得するため,実習,製図
および設計の科目が本科1年次から5年次まで継続
的に展開されており,旭川高専もその例外ではない.
製図および設計の対象となる製品は様々あるが,
旭川高専機械システム工学科(以下,本学科)の4
年次前期開講の機械設計演習Ⅰでは「手巻ウインチ
の設計」に取り組んでいる 1).
授業で配布する資料にカラー写真などを入れてい
るものの,注意深く見ることをしない学生がいるこ
と,また,平面的な写真ではイメージが苦手な学生
もいるようになってきたことから,何らかの対策の
必要性を感じていた.
そこで本報告では,設計すべき装置の動作や構造
のイメージを補うことを目的として,学生机上に置
けるサイズの機構モデルを製作したこと,およびこ
れを利用しながら機械設計演習の授業に取り組んだ
ことについて述べる.
○後藤孝行
手書きおよびトレースによる製図,無償版 2D-CAD
(JW-CAD,鍋 CAD)による設計で授業が進められ
ていた.その後,3D-CAD(SolidWorks)が学内に導
入されたことから,これを機に利用するようになっ
た.3D-CAD の利用方法については,平成 23 年度以
降入学生は,2年次後期開講の CAD/CAMⅠ,3年
次後期開講の CAD/CAMⅡ,および3年次通年開講
の機械総合実習において学習済みである.
図 1 は,初回授業のガイダンスで配布する授業の
予定表や留意事項をまとめた書類(左)および設計
資料(右)
(ともに A4 版)である.書類の中には,
部品名や動作についてコメントを記載した手巻ウイ
ンチのカラー写真および設計資料内の設計計算例に
取り上げられている部品図や組立図等も綴じてある.
3.機構モデルの製作
図2は,旭川高専実習工場に展示してある手巻ウ
インチの実機モデルである.モデルサイズは,全幅
600 mm×全高 600mm×奥行 450mm,総重量約 100kgf
であることから,毎授業時に教室等に移動させるこ
2.機械設計演習 I「手巻ウインチの設計」について
とは容易ではない.
本学科4年次では,前期開講科目の機械設計演習
そのため,各学生において設計する装置が少しで
I において「手巻ウインチの設計」
,後期開講科目の
もイメージしやすいように,また,3D-CAD による
機械設計演習 II において「歯車ポンプの設計」に取
モデリングにおいて参考にできる機構モデルとなる
り組んでいる.両科目において,各学生に異なる設
ように製作することが望まれる.
計条件を与え,教員が準備した設計資料等を参考に
製作する機構モデルは,毎授業時に持ち運べる重
設計計算を行う.その後,3D-CAD(SolidWorks)を
量および学生机上に置けるサイズとする.また,各
使用して 3D-CAD モデルを各自作成し,設計書およ
種部品がそれぞれの機能を果たせる動作が可能なも
び指定された図面と電子ファイルを提出させている. のとする.その結果,実機モデルとほぼ同仕様であ
本学科において,
「手巻ウインチの設計」は,筆者
る,巻上げ荷重 P=29kN,揚程 H=35m の 1/4 スケー
が担当する以前から取り組まれていたが,その頃は, ルモデルとした.
図1 留意事項書類(左)と設計資料(右)
図2
手巻ウインチの実機モデル
【連絡先】〒071-8142 北海道旭川市春光台2条2丁目 1-61 旭川工業高等専門学校 機械システム工学科
後藤孝行 TEL:0166-55-8006 FAX:0166-55-8006 e-mail:[email protected]
【キーワード】機械設計演習,機構モデル,手巻ウインチ,3D プリンタ,卓上切削加工機(5 つ以内)
図3は,製作した 1/4 スケールの機構モデルであ
る.モデルサイズは,全幅 265mm×全高 340mm×奥
行 270mm,総重量約 2.2kgf である.組み立て用ねじ
は,最低でも M4 となるように一部修正した.
設計計算の対象となっている主要部品である歯車
装置,つめ・つめ車,差動ブレーキ等は,3D プリン
タ(Dimension SST768,ABS 樹脂)2)で製作した.巻
胴用の伝達歯車直径の設計値が 1000mm であること
から,4 分割して製作した後,接着剤により貼り合
せた.これ以外の 3 種類の伝達歯車,つめ車,ブレ
ーキドラムおよびすべり軸受等は一体で製作した.
クランクハンドル軸,中間軸および巻胴軸は,強
度と軽量化を図るためアルミ丸パイプを使用した.
軸の回転を歯車に十分に伝達できるよう,3D プリン
タで製作したキーで軸と歯車を固定した.
巻胴本体は,薄肉かつ長さが比較的大きくなるこ
とから,塩ビ管を利用した.
フレームは,手巻ウインチの内部部品構造が容易
に観察できるよう,透明の塩ビ板を利用した.塩ビ
板の加工には,ATC 搭載の卓上切削加工機(MDX540)3)を利用した.
差動ブレーキのオモリ(円形状)は,ケミカルウ
ッドを卓上切削加工機で加工した.
組み立てた機構モデルにおいて,クランクハンド
ルを回転させると歯車装置により減速した回転数で
巻胴が回転すること,つめとつめ車により巻胴の逆
回転が防止できること,および差動ブレーキハンド
ルを下げるとブレーキが効くことが確認できた.
4.自己評価・授業評価アンケートの結果
図4は,自己評価・授業評価アンケート(平成25
年度本学科4年生,37名)の結果である.
評価5(大変よくできた)と評価4(よくできた)
の合計値は,「設計計算の取り組み」では80%超,
「 3D-CADへの取り組み」では75%超となり,授業
中の様子とほぼ同じように概ねの学生が積極的に取
り組んでいることが分かった.その一方で,
「設計演
習での自己取り組み」では,若干厳しく自己評価し
た傾向にあると考えられる.
「実機モデルの観察」では,評価3(ふつう)が
最も高いが,評価2(あまりできなかった)と評価
1(できなかった)の合計値が約46%であり,他の
設問項目よりとても高い値となった.
「機構モデルの観察」では,実機モデルよりも観
察してくれた割合が高くなったが,評価5と評価4
の合計値は51%程度に留まっていた.また,
「各モデ
ルの観察で動作や構造が理解できた」では,評価5
が高くなったが,評価5と評価4の合計値は54%で
あったため,今後はさらに高めたいと考えている.
意見・感想では,次のような記述があった.
<実機モデルについて>
設計する製品について理解できたとの記述があっ
たが,展示の関係上透明ケースで覆われていたため,
細部まで見えない,動かせないため少し見づらい,
さらには,見に行くのが手間との記述があった.
<機構モデルについて>
設計する装置の動きや機構がわかりやすかった,
参考になったとの記述が多かったが,色付けしたら
さらに良いという改善点についての記述もあった.
5.結 言
本報告では,機械設計演習で利用可能な機構モデ
ルを製作したことについて示し,自己評価・授業評
価アンケートの結果から,比較的良好な評価を得た
ことおよび今後の改善点について確認できた.
なお,機構モデルは,平成 24 年度機械システム工
学科5年生の村椿信君および木島拓也君の協力によ
って製作されたので,ここに感謝の意を表する.
参考文献
1) 旭川工業高等専門学校シラバス 2014【機械シス
テム工学科】,(2014).
2) Dimension ユーザーズマニュアル,Stratasys 社,
(2008).
3) MODELA PROII MDX-540 ユーザーズマニュア
ル,Roland DG 社,(2006).
100%
90%
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図3 手巻ウインチの機構モデル(1/4 スケール)
図4
設計演習での自己取り組み
実機や機構モデルの観察で動作や構造
が理解できた
評価5
機構モデル(授業時展示)を観察した
評価4
実機モデル(実習工場展示)を観察した
評価3
課題の3Dアセンブリに取り組んだ
評価2
課題の3Dモデリングに取り組んだ
評価1
課題の設計計算に取り組んだ
10.8
自己評価・授業評価アンケートの結果