修士論文概要(2013 年 2 月 13 日) SSI-MT79113188 工具運動の 4 次元メッシュモデルを用いた 5 軸加工におけるワーク形状変化の連続プロセス表現 北海道大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 システム創成情報学講座 システム環境情報学研究室 亀山 博隆 1 はじめに 切削加工の分析・評価においては,工具の運動に伴 うワーク形状の時間変化を記述できるモデルが必要に なる.しかし,これまでの 3 次元モデル表現では,ワ ーク形状の連続的な変化に対し,離散的な時間の情報 しか表していない.そこで本研究では,4 次元形状を 境界となる四面体の集合で構成する 4 次元メッシュモ デル[1]を用い,時間的に変化するワーク形状を含めた 切削プロセスを明示的に記述することを目的とする. 上記目的の達成のために,時間進行に伴い位置や姿 勢,形状を変化させる工具掃引領域の履歴表現を提案 し,その表現を実現する 4 次元メッシュモデル(4 次 元累積体)の 2 つの生成アプローチ,および生成結果 の比較を示す.生成した 4 次元メッシュモデルからは 加工領域を抽出し,連続的に表現できているかを確認 することで,従来の 3 次元モデル表現と比べて 4 次元 による切削プロセス表現が優位性を持つことを示す. 2 4次元累積体 各時刻での3次元工具掃引領域 図 1 4 次元累積体 切削加工においては,工具の運動によってワーク (加工物) の形状が変化していく過程を逐次表現する. 加工前の初期ワーク形状と時刻 𝑡𝑖 でのワーク形状を 4 次元メッシュモデル 3 次元の空間的広がりと 1 次元の時間の流れを 4 次 元ユークリッド空間 R4 と考えたとき,3 次元形状の運 動や変形といった動的変化は静的な 4 次元形状として 扱うことができる.川岸[1]は,4 次元形状の境界を四 面体状の胞の集合で表した 4 次元メッシュモデルを提 案している.4 次元メッシュモデルの特徴は,運動や 変形により空間配置と形状を変える対象を,4 次元形 状モデリングの枠組みで統一的に記述できることにあ る.これによって,従来まで時間の表現手法やシミュ レーション手法などに依存していた動的な対象表現・ 操作を,すべて幾何の概念で形状モデル表現・操作と して取り扱うことができる. 3 それぞれ 𝑤, 𝑤𝑖 (∈ 𝑅3 )とおく.また工具の時刻 𝑡𝑖 での 占有空間を 𝑣𝑖 (∈ 𝑅3 ) とおく.このとき,時刻 𝑡𝑖 でのワ ーク形状 𝑤𝑖 は,式(1)のように表すことができる. 𝑤𝑖 = 𝑤𝑖−1 − 𝑣𝑖 = 𝑤 − 𝑣0 − 𝑣1 − 𝑣2 − ⋯ − 𝑣𝑖 = 𝑤 −∪ 𝑣( 𝑡𝑖 ) (1) 式(1)の右辺に現れる ∪ 𝑣( 𝑡𝑖 ) は,時刻 𝑡𝑖 までに切削 工具が存在したすべての点からなる工具掃引形状であ る.初期ワーク形状 𝑤 から集合演算でこの領域を取り 去ることで時刻 𝑡𝑖 でのワーク形状 𝑤𝑖 が得られる. この ように,切削加工では過去からの工具運動履歴が累積 時空間での切削プロセス表現 した形でワーク形状が作られる. 3.1 切削加工における形状創成 1 3.2 4 次元累積体 切削プロセスを 4 次元で表現するために,ワーク や工具掃引領域を時間方向に累積した,連続的な 4 次元形状を定義する.この時間累積された 4 次元形 状を“4 次元累積体(Four - Dimensional Accumulated Volume ) ”と呼ぶ.4 次元累積体は,工具掃引領域 の履歴を, 時間軸を拡張した 4 次元空間での形状 (𝑨) として表現したものであり, 以下のことが成り立つ. 4 次元累積体の時刻 𝑡𝑖 での断面 𝑨|𝑡=𝑡𝑖 は 3 次元 工具掃引領域に等しい. 任意の 4 次元空間の 𝒑(𝑥, 𝑦, 𝑧, 𝑡) ∈ 𝑹𝟒 ,正の数 𝑑 に つ い て , 𝒑(𝑥, 𝑦, 𝑧, 𝑡) ∈ 𝑨 な ら ば , 𝒑(𝑥, 𝑦, 𝑧, 𝑡 + 𝑑) ∈ 𝑨 4 次元累積体の境界を構成する閉超曲面 𝛛𝑨 上 の点 𝒑 において,外向き法線ベクトル 𝒏𝑝 と, 時間軸の正の単位ベ クトル 𝒆𝑡 との 間には 𝒏𝑝 ∙ 𝒆𝑡 ≤ 0 が成り立つ. 4次元工具形状 4次元ワーク形状 切削 工具 ワーク (加工物) 図 2 時空間での切削プロセス表現 𝑹=𝑾∩𝑨 (3) 4次元工具形状 集合演算 4次元工具形状 3.3 4 次元累積体から得られる加工情報 工具が時空間を運動することで得られる 4 次元工 具形状と,工具が時間進行に伴いワークを切削する ことで得られる 4 次元ワーク形状が図 2 のようにあ るとする.このとき,切削は 4 次元工具形状と 4 次 元ワーク形状が接している時間範囲で起こる.さら に,図 2 下部の工具とワークのモデルは,3 次元に おける工具とワークの位置関係を示しており,4 次 元形状の各時刻における超平面との交差断面により 3 次元形状として抽出される. また,図 3 において,ワークの初期形状を時間軸に 掃引して得られる 4 次元ワーク形状を 𝑾 とし, 工具運 動によって形成される工具運動履歴を表す 4 次元累積 体を 𝑨 とする.このとき,全時刻におけるワーク形状 の履歴を表す 4 次元のワーク形状履歴 𝑫 と除去体積 履歴 𝑹 は,ワーク形状 𝑾 と工具累積体 𝑨 の集合演算 として,それぞれ式(4.3),式(4.4)で得られる. (2) 工具掃引領域履歴 (4次元累積体) 初期ワーク形状 (4次元掃引形状) 図 1 に,工具運動履歴を表す 4 次元累積体のイメ ージを示す.工具が時間進行に伴って運動すること で,3 次元の掃引領域は拡大していく.また,途中 の断面 𝑽|𝑡=𝑡𝑖 を考えると,𝑽|𝑡=𝑡𝑖 は 𝑡 = 𝑡𝑖 以前に工 具の存在した全ての空間の累積となる.対象とする 形状のどの時間においても,その時間より過去の工 具掃引領域の履歴を抽出することができる. 𝑫 =𝑾−𝑨 切削 これらから,任意時刻 𝑡𝑖 における超平面との交差断 2 :加工物(ワーク)形状履歴 図3 :除去体積履歴 4 次元形状からの加工情報の抽出 面 𝑫|𝑡=𝑡𝑖 ,𝑹|𝑡=𝑡𝑖 をそれぞれ抽出することで,ワーク 形状と除去体積が得られる. また,ワーク形状履歴 𝑫 において,境界を構成する 四面体集合 ∂𝑫 の点を 𝑝,𝑝 の法線ベクトルを 𝒏(𝑝), 時間軸の正の単位ベクトルを 𝒆𝑡 とすれば,時間進行に より形状が変化している境界は式(4.5)を満たす. 𝒏(𝑝) ∙ 𝒆𝑡 > 0 (4) 式(4.5)を満たす境界は加工領域の時間履歴を表し ており,時間的連続性のあるワーク形状変化が,時間 軸に傾きを持った幾何として明示的に表現できる. また,この他にも 𝑨 からは,単位時間当たりの除去 体積,切削速度,切り込み量といった切削現象におい て重要な量も抽出可能である. 4 4 次元累積体の生成アプローチ 4.1 時系列ボクセルモデルからの生成方法 工具掃引履歴情報を持つ 4 次元累積体の生成の流れ を図 4 に示し,以下でボクセルを経由した方法(図 4 ((𝐴) → (𝐵) → (𝐸)))で取得するステップを説明する. I. G コードで表された加工情報をもとに,5 軸切削 シミュレーションにより工具運動軌跡を求め,工 具・ワークの 3 次元ボクセル時系列データを取得. II. 取得した時系列データに対し,式(2)に示すボク セル同士の論理和演算を行い,3 次元ボクセルモ デルの時間累積した時系列データを取得. 𝑉𝑛 = 𝐺0 ∪ 𝐺1 ∪ 𝐺2 ∪ ⋯ ∪ 𝐺𝑛 = 𝑉𝑛−1 ∪ 𝐺𝑛 4.2 3 次元メッシュモデルからの生成方法 3 次元メッシュモデルからのアプローチ(図 4(D)→ (E))では,まず小友ら[2]が提示した手法を用い,3 次 元メッシュモデルと 4 次元空間内における移動方向と 移動量を入力として,以下の手順で 4 次元掃引形状を 生成する. 3 次元モデル内部の四面体分割 3 次元モデルの運動による掃引形状の四面体分割 ①,②の四面体を統合して 4 次元メッシュ出力 次に,4 次元掃引形状から点群データを取り出し,4 次元累積体の境界頂点となるように 4 次元空間に点群 を再配置する.これに Ball Pivoting Algorithm[2]を 4 次 元に拡張した 4D-Ball Pivoting を適用することで四面 体を逐次的に生成し,4 次元累積体を得る. 5 集合演算 (B) 3次元時間累積 時系列ボクセルモデル 4D-Marching Cubes 四面体分割 (C) 3次元メッシュ モデル + 運動軌跡 4D-Ball Pivoting (E) 4次元累積体 (D) 4次元掃引形状 (工具運動を時間軸 (工具掃引領域の 履歴を表す 方向に掃引した 4次元メッシュモデル) 4次元メッシュモデル) (5) 式(2)において,𝑉𝑛 は 𝑛 番目の工具運動が終了 した段階での工具累積体の占める領域を表し,𝐺𝑛 は第 𝑛 番目の工具掃引形状が占める領域を表す. III. 時間累積した時系列データを 4D-MarchingCubes 法[1]によって 4 次元メッシュモデルに変換. ① ② ③ (A) 3次元時系列 ボクセルモデル 4 次元累積体の生成例 5.1 切削シミュレーションによるボクセル取得 4 次元累積体を作成するために,5 軸切削シミュレ ーションを行い,工具運動軌跡を導出した.ボクセル 時系列データ生成は,工具・ワークの運動をすべてワ ーク座標基準として行った.図 5 は,シミュレーショ ンを行った際の x - y 平面上での工具相対運動のパスで, 丸数字の順序で工具が移動する.四角で囲まれた基準 点を(40, 40 )とする領域はワーク存在領域を表し,プロ ット点はボクセルファイル生成地点を表す.工具の姿 勢変換は図 5 中の①および②の移動中に行った.ここ では工具(ボールエンドミル)中心の初期座標は(x,y, 3 図 4 4 次元累積体の生成アプローチ y y z 工具傾斜角: x 軸方向に-30° z 軸方向に30° x ワーク存在領域 ③ yz ④ ワーク基準点 ② x ① x 工具傾斜角: x 軸方向に30° z 軸方向に-30° 図 5 5 軸切削シミュレーションによる工具経路生成 z) = (20,20,25),工具半径 3 [mm],工具長 15 [mm], ワーク初期座標は(x,y, z) = (40,40,20)とした.また, ボクセル 1 個のサイズは 0.5×0.5×0.5 [mm],空間分割 数は各 2563 個,刻み時間は 1.0 [s],生成したボクセル の時系列データ数は各 64 ステップとした. 5.2 4 次元累積体の生成と加工領域導出 5.1 で取得した時系列データに対し,式(2)に示した 演算を繰り返し行うことで時間累積した時系列データ を生成し,4 次元メッシュモデルへの変換を行った. (OS:Windows7 64bit,CPU:Intel Core i5 3.33GHz,主 記憶:8.0GB) 次に,生成した 4 次元メッシュモデルか ら,断面形状の抽出(図 6)や加工領域の導出(図 7) を行った.断面抽出結果からは,指定面における 3 次 元形状の時間変化や指定時刻での 3 次元形状の状態が わかり,時間経過とともに工具掃引領域が拡大されて いることを確認した.また,任意面や任意時間におけ る加工領域を表示させることで,切削プロセスが時空 間に連続的に表現できることを確認した. 5.3 3 次元メッシュモデルから工具掃引形状生成 5.1 の 5 軸切削シミュレーション時と同じサイズの 工具(頂点数 682,三角形数 1360)とワーク(頂点数 12,002,三角形数 24,000)の 3 次元メッシュモデルに 対し,図 5 と同様の工具運動を与え,3(2)で述べた方 法を用いて工具 4 次元掃引形状を作成した.図 8(a) は 生成した 4 次元メッシュモデルの断面抽出結果である. ボクセルから生成した図 8(b) のモデルと比べて,滑ら かな形状となった.また,表 1 のように,3 次元メッ シュモデルから生成した 4 次元メッシュモデルの方が データ量は小さく,短時間で生成可能であった. 4 次元掃引形状からの 4 次元累積体生成に関しては, 3 次元 Ball Pivoting Algorithm を行うとメッシュの欠落 が発生する問題が生じることが分かっている.この問 題を解消した上での 4 次元への拡張が必要である. 6 ワーク y 工具 t z ワーク (a) yt x ワーク (c) (b) 図 6 ボクセルからの生成モデルの断面抽出結果 加工領域 y zx 加工領域 y t z yzx 加工領域の時間変化 (a) (c) (b) yt xt z x y t x 加工領域の時間変化 加工領域の時間変化 加工領域の時間変化 (d) [1] 川岸 他,サイバーフィールドのための4次元メッシュモデ リングシステムの開発,北海道大学 大学院情報科学研究科 平成 21 年度システム情報科学専攻修士論文集,2010. [2] 小友活,3 次元メッシュモデルとその運動による 4 次元メッ シュモデル生成に関する研究,北海道大学 工学部 卒業論 文集(2011) [3] Bernardini, F., The Ball-Pivoting Algorithm for Surface Reconstruction, IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics, 5(4), pp.349-359 (1999). 4 y x ワーク y x ワーク t t 工具 工具 ボクセルから生成 3次元メッシュから生成 図 8 生成方法の違いによる抽出結果の比較(𝑧=16 断面) 表 1 4 次元掃引形状の各データの比較 生成方法 時系列ボクセルモデル (各64個,256×256×256) 3次元メッシュモデル (t =0~64) 3. 4. 学会発表リスト 亀山博隆,小野里雅彦,田中文基, 4次元メッシュモデル を用いた切削プロセス記述に関する研究, 2011 年度精密工 学会北海道支部学術講演会講演論文集,pp. 7-8, 2011.9.3. 亀山博隆,小野里雅彦,田中文基, 4次元メッシュモデル を用いた5軸切削プロセス記述に関する研究, (社)日本機 械学会生産システム部門研究発表講演会 2012 講演論文集, No. 12-7, pp. 31-32, 2012.3.13. (f) (e) 図 7 ボクセルからの生成モデルの加工領域導出結果 参考文献 2. 工具 工具 結論 本研究では,切削プロセスを明示的に記述するため に,過去の掃引履歴情報である 4 次元累積体を 4 次元 メッシュモデルで表すことを提案した.また,5 軸切 削シミュレーションでの工具運動軌跡の導出により, ボクセルから 4 次元累積体を取得するシステムを実装 した.生成した 4 次元メッシュモデルの断面抽出や加 工領域の導出結果からは,任意時刻までの工具掃引領 域が表現できることや,切削プロセスが時空間に対し 連続的に表現できることを示した.また,3 次元メッ シュモデルから工具の 4 次元掃引形状を作成し,デー タ量や表現精度の観点で 3 次元メッシュモデルからの 4 次元形状生成の優位性を確認した.今後の展望とし て,4 次元形状からの除去体積の算出,4 次元掃引形状 からの 4 次元累積体の生成を検討する必要がある. 1. yzx 5. モデル 頂点数 四面体数 生成時間 データ量 工具 約31万 約186万 7.5[sec] 33MB ワーク 約397万 約2097万 37.2[sec] 380MB 工具 約26万 約122万 0.7[sec] 23MB ワーク 約73万 約343万 2.2[sec] 64MB 亀山博隆,小友活,小野里雅彦,田中文基, 工具運動の4 次元メッシュモデルを用いた5軸加工におけるワーク形状 変化の連続プロセス表現,2012 年度精密工学会秋季大会学 術 講 演 会 講 演 論 文 集 (CD-ROM) , H13, pp. 565-566, 2012.9.14. Hirotaka KAMEYAMA, Ikuru OTOMO, Masahiko ONOSATO, Fumiki TANAKA, Representing Continuous Process of Workpiece Transformation in Five-Axis Machining Using Spatio-Temporal Model, Proc. of Asian Conference on Design and Digital Engineering 2012 (ACDDE 2012), Niseko, Japan, 2012.12.06. 亀山博隆,小野里雅彦,田中文基, 工具運動の4次元メッ シュモデルを用いた5軸加工におけるワーク形状変化の連 続プロセス表現(第2報)-工具運動履歴表現のための4次 元累積体生成-,2013 年度精密工学会春季大会学術講演会 講演論文集(CD-ROM), 2013.3.13(予定)
© Copyright 2024 ExpyDoc