Ⅰ.医療用ソフトウェアに関する研究会 中間報告書 - 経済産業省

Ⅰ.医療用ソフトウェアに関する研究会
中間報告書
目次
1.はじめに ------------------------------------------------------- 1
2.医療用ソフトウェアの使用及び規制の現状 ------------------------- 4
(1)医療に用いられるソフトウェアの役割 ---------------------------- 4
(2)医療用ソフトウェアに関する規制の状況 -------------------------- 5
3.医療用ソフトウェアの開発促進と産業振興に向けた課題 ------------- 8
(1)医療用ソフトウェアへの期待 ------------------------------------ 8
(2)医療用ソフトウェアに関する課題 -------------------------------- 9
①単体の医療用ソフトウェアに関するルールの整備 ---------------- 9
②使用者側のリスクマネジメント ------------------------------- 10
③組合せ等使用環境により発生するリスクへの対応 --------------- 11
④ネットワークセキュリティ ----------------------------------- 11
4.単体の医療用ソフトウェアに関するルール整備の方向性 ------------ 12
(1)医療用ソフトウェアに関するルールの基本的な考え方 ------------- 12
(2)医療用ソフトウェアの分類 ------------------------------------- 12
①医療用ソフトウェアの取扱いに関する基本的な判断フロー ------- 12
②医療用ソフトウェアの分類マップ ----------------------------- 13
③医療用ソフトウェア分類のためのディシジョンツリー ----------- 14
④今後の検討課題 --------------------------------------------- 19
(3)医療用ソフトウェアの分類に応じた対応の方向性 ----------------- 20
(4)ガイドライン策定の方向性 ------------------------------------- 21
①
ガイドライン検討における視点 ----------------------------- 21
②
ガイドラインで求める要求レベル --------------------------- 21
③
今後の検討課題 ------------------------------------------- 25
5.今後の課題 ---------------------------------------------------- 26
(1)ガイドラインの具体化 ----------------------------------------- 26
(2)使用者側のリスクマネジメント --------------------------------- 27
(3)使用環境を踏まえたリスク分析 --------------------------------- 27
(4)人材育成と知見の共有 ----------------------------------------- 27
参考
医療用ソフトウェアに関する研究会委員名簿 --------------------------- 28
研究会開催概要 ----------------------------------------------------- 29
1.はじめに
今日、医療機関においてソフトウェアはなくてはならないものであり、多く
の医療機器にソフトウェアが様々な形で使用されているほか、医療機器以外に
も患者予約や電子カルテ、検査のオーダーリングシステム等あらゆるところで
ソフトウェアは使用されている。また、ITの進展に伴って、最近では「ビッ
グデータ」と呼ばれるアプローチにより、過去の症例ごとのデータベースを構
築し、患者個人に最適な検査・診断・治療・リハビリを予測・提供する研究開
発なども進められている。このような医療に用いられるソフトウェアについて、
我が国ではこれまでソフトウェア単体では医療機器に該当せず、動作させるた
めのハードウェアと一体とした時点で薬事法の規制対象とされていたが、欧米
をはじめ各国の医療機器の規制体系ではソフトウェア単独でも医療機器として
取り扱われるようになっている。こうした中、平成 24 年 6 月に策定された「医
療イノベーション5か年戦略」では、ITの活用による新たな診断・治療シス
テムの研究開発の推進に加え、国際的な規制の整合性を踏まえ、単体のソフト
ウェアについて薬事法上の取扱いを明確にすることとされている。
このような状況の変化を受け、我が国においても医療用ソフトウェアの開発
が促進される環境を整え、医療用ソフトウェアの健全な発展と医療機器産業の
振興を図るため、
「医療用ソフトウェアに関する研究会」を設置し、欧米等の海
外諸国の動向も踏まえつつ、医療用ソフトウェアの安全性を担保するための方
法として品質マネジメントシステムやリスクマネジメントの在り方など最適な
制度設計の方向性について検討を行った。
<用語の定義について>
本研究会及び本中間報告書においては、
「医療用ソフトウェア」や「単体ソフ
トウェア」などの用語を用いているが、これらが具体的にどのようなソフトウ
ェアを意味するのかについては、現時点で、広く一般の共通認識となっている
ような定義があるわけではない。そこで、本研究会及び本中間報告書において
は「医療機器ソフトウェア」、
「医療用ソフトウェア」、
「単体ソフトウェア」、
「ス
タンドアロンソフトウェア」、「組込みソフトウェア」について以下のように定
1
義して用いることとする。
・医療機器ソフトウェア:
各国において医療機器として規制される医療機器に組み込まれるソフトウェ
ア又はソフトウェア自身が医療機器として扱われるもの。
・医療用ソフトウェア:
医療機器ソフトウェアだけでなく、電子カルテ等の医療機関事務に使用され
るもの、健康管理ソフトウェアのようにヘルスケアに使用されるものなど、広
く健康・医療にかかわる製品に組み込まれるソフトウェア又はソフトウェア自
身が健康・医療にかかわるものを意図して機能するもの。
・単体の医療用ソフトウェアの概念整理:
単体ソフトウェアとは、チップの形でハードウェアに組み込まれ単独の形で
は取り出せないようなソフトウェアを除く、あらゆるソフトウェアについて、
それが単独のソフトウェアの状態となった当該ソフトウェア自体のことを意味
するものと定義する。
医療用の単体ソフトウェアとしては、主に下記の図表 1-1 に示すスタンドア
ロンソフトウェアが該当する。また、医療機器の構成品として、完成品である
医療機器に組み込まれて流通するソフトウェアを「組込みソフトウェア」と定
義し、その他の、ソフトウェア単独で流通し、PC や携帯端末等の汎用ハードウ
ェアや汎用のワークステーションなどのIT機器にインストールされて使われ
るものを「スタンドアロンソフトウェア」と定義する。
医療機器に組み込まれた「組込みソフトウェア」であっても、それが単独の
状態で取り出し得る場合には、その取り出した状態にあっては、単体ソフトウ
ェアとなる。
2
図表 1-1
単体ソフトウェアのイメージ
組込み
ソフトウェア
スタンドアロン
ソフトウェア
専用ハード
医療機器に組み込まれ、一体となったもの
ウェア
単体ソフ
インストール等がなされて医療機器と一
トウェア
体となるもの
汎用ハード
ソフトウェアが単独で流通し、汎用ハード
ウェア
ウェアにインストールされて使用される
もの
なお、スタンドアロンソフトウェアは、図表 1-2 の(2)から(5)に示す
ように、汎用のIT機器にインストールされた後、医療機器やセンサー等の附
属品に接続し、接続先の機器等を制御したり、アラートを出したり、それ自体
が何らかの機能を持つものであったりと、様々な形態をとる。
図表 1-2
(1)
(2)
スタンドアロンソフトウェアの枠組み
専用ハードウェア
組込みアプリケーション
汎用ハードウェア
スタンドアロンソフトウェア
汎用ハードウェア
(3)
スタンドアロンソフトウェア
制御
データ通信
制御
データ通信
汎用ハードウェア
(4)
組込みソフトウェア
専用ハードウェア
(医療機器)
センサー等付属品
(医療機器以外)
スタンドアロンソフトウェア
スタンドアロンソフトウェア センサー部
汎用ハードウェア
(5)
スタンドアロンソフトウェア
注1)汎用ハード:例えばスマートフォンや汎用のワークステーションなどのIT機器
3
2.医療用ソフトウェアの使用及び規制の現状
(1)医療に用いられるソフトウェアの役割
医療機器で使われるソフトウェアには、OS やデバイスドライバなどの基本ソ
フトウェア、医療機器の制御や操作等にかかわるソフトウェア、診断や治療に
関する情報を医療関係者に提供するためのソフトウェアがある。その他、医療
機器には含まれないが、診療に関する情報の管理や検索などのためのソフトウ
ェアなどもある。医療技術の高度化や医療ニーズの多様化とともに、医療機器
にはその機能及び性能を高める様々なソフトウェアが使用されるようになり、
ソフトウェアの重要性は高まりつつある(図表 2-1)。
これらのソフトウェアは大別すると、①医療機器の構成品として医療機器本
体に組み込まれるもの、②医療機器に不可欠な部分となるもの、③ソフトウェ
ア単独で流通しPC等の汎用のハードウェアにインストールすることを意図し
たものなどに分類される(図表 2-2)。
図表 2-1
ソフトウェアが活用されている医療機器等
クラスⅢ
(高度管理医療機器)
手術用ロボット
放射線治療シミュレータ ほか
MRI装置
クラスⅡ
(管理医療機器)
CT装置
X線診断装置
超音波画像診断装置
内視鏡システム ほか
クラスⅠ
(一般医療機器)
画像診断用イメージャ
(CRなどのデジタル画像を取り込んでフィルム上で再生)
血球計数装置
血液検査機器 ほか
その他
(非医療機器)
PHR(Personal Health Record)システム
電子カルテ
医事会計システム ほか
4
図表 2-2
医療用ソフトウェアの利用形態
医療機器
完成品である医療
機器に組み込まれ
るソフトウェア
完成品である
医療機器に不
可欠な部分とな
るソフトウェア
汎用ハードウェアにイ
ンストールするソフト
ウェア
PC等の汎用ハードウェア
(2)医療用ソフトウェアに関する規制の状況
日本においては、医療機器の品質、有効性及び安全性の確保のために薬事法
により必要な規制を行っている。薬事法で定める使用目的を意図したものは医
療機器として規制の対象となっている。ただし、現在の薬事法では、単体とし
てのソフトウェアそのものは、医療機器として位置づけられていない。医療機
器に用いられるソフトウェアは、そのソフトウェアをインストールした医療機
器本体と一体として、薬事法に基づいた承認・認証・届出が行われ、その品質、
有効性及び安全性が確保されている。これは、薬事法の定義において、法の対
象となる医療機器を「機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品及び衛生用
品)
」、つまりは有体物(ハードウェア)としていることによる。そのため、単
体ソフトウェアは無体物であることから医療機器には該当せず、薬事法の規制
対象外とされる。
薬事法第二条第 4 項
この法律で「医療機器」とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使
用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが
目的とされている機械器具等であつて、政令で定めるものをいう。
5
一方、海外においては安全性等を考慮して単体ソフトウェアであっても医療
機器として規制することが適当と判断されるものについては、規制の対象とし
ている(図表 2-3)。
図表 2-3
考え方
診断・治
療の目的
を意図し
たもの
単体ソフトウェアの各国規制の比較
分類
医療機器の
構成品であ
るソフトウェ
ア
定義
【医療機器標準搭載ソフトウェア】
医療機器に標準搭載されたソフトウェア。本体の医療
機器と一緒に市場流通する。
【医療機器オプションソフトウェア】
医療機器のオプション製品。本体の医療機器と別に
市場流通するが、本体の構成品であるので必ず特定
の本体にインストールされる。
単独の医療
用アプリ
ケーションソ
フトウェア
【医療用アプリケーションソフトウエア①】
ソフトウェア単独で医療上の有用性があり、診療用途
を意図したソフトウェア。単独製品として流通し、かつ
PC等の汎用ハードウェアにインストールすることを意
図したソフトウェア。
【医療用アプリケーションソフトウェア②】
医療機器で取得した患者の生体情報や画像情報な
どの臨床データのさらなる処理は行わずに診療のた
めに保管、転送、又は表示等することを意図したソフ
トウェア。拡大・縮小・回転などを含む。単独製品とし
て流通し、かつPC等の汎用ハードウェアにインストー
ルすることを意図したソフトウェア。
直接診
断・治療
目的を意
図してい
ないか、
又は診
断・治療
に役に立
つ機能・
性能を備
えていな
い
医療情報シ
ステムソフト
ウェア
【医療情報システムソフトウェア①】
医療機器で取得した患者の生体情報や画像情報な
どの臨床データを取り扱うが、診療のために提供する
ことを意図しない。
【医療情報システムソフトウェア②】
患者の病歴や検査日程など非臨床データを取り扱う
ことを目的としたソフトウェア
製品例
日本
CT等の組み込みソフ
トウェア等
○
※
○ ○ ○ ○ ○
CTのモダリティーコン
ソール用オプションソ
フト等
○
※
○ ○ ○ ○ ○
診断機能を持った医
療用アプリケーション
×
○ ○ ○ ○ ○
生体検査システムソ
フトウェア
×
○ ○ ○ ○ ○
教育用・学習用電子
カルテソフトウェア
×
× × ×
詳
細
不
明
詳
細
不
明
電子情報システムソ
フトウェア、電子カル
テソフトウェア
×
× × ×
詳
細
不
明
詳
細
不
明
欧
州
米
国
豪
州
加
GHT
F
※ソフトウェアをインストールした医療機器本体として規制している。
出所:
「ソフトウェア研究会」第 1 回研究会(厚生労働省提出資料)資料 7 を一部修正
欧州においては、欧州医療機器指令(MDD: Medical Device Directive)の定
義にソフトウェアが明示され、ソフトウェア単体でも医療機器として扱うこと
が示されている。
米国においても、米国連邦食品・医薬品・化粧品法(The Federal Food, Drug
& Cosmetic Act)の医療機器の定義の中にソフトウェアは明示されていないが、
規制当局である FDA(U.S.Food and Drug Administration)は、使用目的が疾患の
診断や治療などの場合にはソフトウェアであっても医療機器の定義にあてはま
るとしている。米国では、医療機器は FDA ガイダンスに適合していることが求
められ、ソフトウェアも同様にソフトウェアガイダンスへの適合が必要とされ
6
る。現在、単体のソフトウェアについてもガイダンスに基づいた審査が行われ
ている。
このほか、カナダ、豪州等においても、単体のソフトウェアを規制の対象と
しており、医療機器規制の国際的な整合化を進める国際会議である GHTF(Global
Harmonization Task Force)のメンバー国のうち、日本のみが単体ソフトウェア
を規制の対象外としている状況にある。
また、海外におけるソフトウェアの規制にあたっては、医療機器ソフトウェ
アに対する国際規格である IEC62304:Medical device software – Software life
cycle processes (医療機器ソフトウェア-ソフトウェアライフサイクルプロ
セス)が適用されるのが大きな流れになっており、欧州においては整合規格と
して位置づけられており、米国においても同規格が推奨されている。
ITの高度化や携帯端末機器の普及等を背景に、今後、PC、携帯端末等の
汎用ハードウェアと組み合わせて使用できる医療機器としての性能を有する単
体ソフトウェアが幅広く市場に流通することが想定される。平成 24 年 1 月にま
とめられた「薬事法等制度改正についてのとりまとめ1」や平成 24 年 6 月に策定
された「医療イノベーション5か年戦略2」においても、薬事法上における単体
のソフトウェアの取扱いの明確化が掲げられている。これらを受けて、現在、
厚生労働省では、医療機器の特性を踏まえた薬事法改正の検討の中で、単体ソ
フトウェアの取扱いの明確化についての検討が進められているところである。
1
2
厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会、平成 24 年 1 月 24 日
医療イノベーション会議、平成 24 年 6 月 6 日
7
3.医療用ソフトウェアの開発促進と産業振興に向けた課題
(1)医療用ソフトウェアへの期待
今日、医療機関においてソフトウェアはなくてはならないものであり、多く
の医療機器にソフトウェアが様々な形で使用されているほか、医療機器以外に
も患者予約や電子カルテ、検査のオーダーリングシステム等あらゆるところで
ソフトウェアは使用されている。また、ITの進展に伴って世界的に医療現場
でのソフトウェアの活用が進んでおり、最近では「ビッグデータ」と呼ばれる
アプローチにより、医療機関に蓄積される各種の症例データ等を統合・分析す
ることで、患者個人に最適な検査・診断・治療・リハビリを予測・提供するよ
うなシステムの研究開発も積極的に進められている。例えば、経済産業省では
「がん超早期診断・治療機器総合研究開発プロジェクト」や「IT融合システ
ム開発事業」等において、病理診断支援システムや放射線治療計画、アルツハ
イマー診断支援システムなどの研究開発を推進中である。こうしたシステムは
近い将来、実際に臨床現場で広く活用されることが見込まれている。
また、我が国においては、医療を戦略分野と位置づけ、医療機器を単体では
なく医療技術・サービスも含めたパッケージ・システムとして、政府を挙げて
海外展開を推進していく方向性を示している。このような医療機器と医療技
術・サービスの一体的な海外展開を進めていく上で、医療用ソフトウェアは我
が国の高度な医療技術をベースにして、医療サービスそのものを海外で再現で
きる可能性をも秘めており、今後、需要の拡大が見込まれる海外の医療機器市
場の獲得に向け、医療用ソフトウェアが果たす役割に大きな期待が寄せられて
いる。
さらに、スマートフォンやタブレット端末などの普及に伴い、これらの医療
分野への活用も進んでおり、スマートフォンと組合わせた血圧計や眼底カメラ
など海外では医療機器として扱われつつあるとともに、個人が健康・医療に関
わるデータを自ら管理・活用し、健康管理や予防活動を行うことや、企業によ
る健康管理や予防に関連するサービス提供などが進展している。これらの分野
においても、健康・医療に関係するソフトウェアの市場は大きく拡大すると期
8
待され、ソフトウェアが重要な役割を果たすものと考えられる。
(2)医療用ソフトウェアに関する課題
前述のように、医療機器にかかわる研究開発や海外戦略、新たな健康サービ
ス産業の創出が進む中で、ソフトウェアが重要な要素であるにも関わらず、単
体のソフトウェアが薬事法の対象ではなかったこともあり、これまで医療機器
に組み込まれるものを除き、医療用ソフトウェアの取扱いに関するルールは整
備されていなかった。
医療用ソフトウェアは、患者に影響を与えるデータを扱うなど、患者に対す
るリスクを有しているものもあるが、規制やガイドラインなどのルールが整備
されていないため、ソフトウェアを開発・提供する企業にとっては責任の所在
が不明瞭であるとの不安の声がある。このことから、企業による医療用ソフト
ウェア分野への新規参入や開発が必ずしも積極的に行われてこなかったという
実情がある。使用者の立場からみても、医療用ソフトウェアの取扱いに関する
ルールが整備されていないことから、その使用に当たって、安心感が得られに
くい状況にあったと言える。
医療用ソフトウェア産業の健全な発展を図っていくためには、企業が安心し
て当該分野で事業を展開できる環境の整備が前提となる。そのために、国や産
業界をはじめ医療用ソフトウェアの関係者が協力して取り組むべき課題として、
以下の 4 点が挙げられる。
① 単体の医療用ソフトウェアに関するルールの整備
単体のソフトウェアが薬事法の規制対象とはされていないため、医療
機器に使われる単体ソフトウェアだけでなく、その他の医療用ソフトウ
ェアを含め、単体の医療用ソフトウェアの品質や安全性を担保するよう
なルールはこれまで整備されていない。今後、企業が医療にかかわるソ
フトウェアを単体として製造・提供していくにあたっては、一定の品質
や安全性を担保し、そのことを使用者等の第三者に見える形で示してい
くようなルールの整備が必要である。
9
具体的には、まずは、自らが製造・販売する医療用ソフトウェアが薬
事法の対象になるのか、また、薬事法の対象にならない場合、品質や安
全性を担保するものとして、どのような対策をとる必要があるのかなど
が明確にされることが重要である。
これにより、医療用ソフトウェアの事業を展開する上で、品質や安全
性の担保に関して必要となる対応を明確に把握でき、高い予見性を持っ
て医療用ソフトウェアのビジネス戦略を立てることが可能となる。また、
使用者側としても、一定のルールに基づいたソフトウェアとして、安心
感を持って使用することが可能になると考えられる。
なお、このようなルール作りにあたっては、医療用のソフトウェアを
含めて医療機器と医療技術・サービスの一体的な海外展開を進めていく
という我が国の戦略の下、欧米等との国際整合性を踏まえることが重要
である。
② 使用者側のリスクマネジメント
高信頼性の製品を供給するというメーカーの努力はもちろんである
が、供給者側が想定していないような使われ方をするなど、使用者側の
使用方法が製品安全に関係するケースもある。既に海外では、IEC
80001-1:Application of risk management for IT-networks
incorporating medical devices -- Part 1: Roles, responsibilities
and activities(医療機器を組み込んだITネットワークへのためのリ
スクマネジメントの適用
第一部:役割・責任・活動)を制定し、使用
者となる医療機関側が主体的にリスクマネジメント活動を行うことを
促し、供給者と使用者双方による安全性向上を狙っている。我が国では
現在のところ、積極的に医療機関側が IEC 80001-1 を導入するケースは
ほとんど見受けられないが、単体の医療用ソフトウェア自体の品質・安
全性担保の取組と併せて、使用者側における対応やリスクマネジメント
の在り方についても、IEC80001-1 等の国際規格も参考に、産業界と連携
して一定の指針等を整備していくことが必要である。
10
③ 組合せ等使用環境により発生するリスクへの対応
汎用ハードウェアへ異なる複数のソフトウェアをインストールした
場合に起こり得る干渉の問題や、非医療機器を含む複数のハードウェア
やソフトウェアを接続した時の相互運用性の問題などがある。特に、複
数の機器やネットワークを介した時に、想定していない機能や事象が発
生する可能性もある。例えば、発信源が不明なエラーが発生して、誤っ
た情報が医師のモニタに表示された場合の責任の所在をどう考えるか
など、使用環境にかかわるリスクについての検討も必要である。
④ ネットワークセキュリティ
ITやネットワークインフラの発展により、様々なものがネットワー
クを介してつながるようになり、ネットワークの脆弱性やサイバー攻撃
などの危険性が認識されてきている。多くのセキュリティ対策は、基本
ソフトウェア及びこれに近いミドルウェアや OTS3、SOUP4に対して根本的
に実施する必要があるが、ソフトウェアにおいてもITやネットワーク
との関連性が大きいことから、医療用ソフトウェアについても、その機
能やリスクに応じて十分なセキュリティ対策がとられることが必要で
ある。また、ネットワークを介してつながれた医療システムから得られ
るデータについては、ビッグデータとしての2次利用の観点からデータ
の信頼性などの品質を担保することも重要である。
以上のように、医療用ソフトウェアを取り巻く課題は多岐にわたるが、本研
究会では、このうち、産業振興との関連が深い、医療用ソフトウェアの開発等
にかかわるソフトウェアの品質及び患者安全を確保する方法として品質マネジ
メントシステムとリスクマネジメントについて検討を行った。
3
4
OTS:Off-The-Shelf Software:市販品のソフトウェア
SOUP:Software Of Unknown Pedigree:開発過程が不明なソフトウェア
11
4.単体の医療用ソフトウェアに関するルール整備の方向性
(1)医療用ソフトウェアに関するルールの基本的な考え方
今後、薬事法において、単体ソフトウェアの取扱いを明確化することとされ
ているが、ここでいう単体ソフトウェアは、スタンドアロンソフトウェアと、
組込みソフトウェアのうち単独で取り出し得るソフトウェアがそのように取り
出された状態にあるものが該当すると考えられる。
一方、医療用のスタンドアロンソフトウェアについては、単体で流通し、汎
用機器で使用されることから、単体のソフトウェアとしての薬事法の規制を含
め、一定のルールのもとで、品質や安全性担保のための対応が求められるべき
である。
このため、医療用のスタンドアロンソフトウェアについて、その機能や患者
(ここでの患者は、診療や健康管理などのケアの対象者を含めた意味で用いる。)
へのリスク、目的に応じて、

薬事法規制に基づき安全性等を担保するもの

薬事法の対象にはならないものの、一定の患者リスクが存在するため、
ガイドライン等に基づいて産業界の自主的な規制が必要なもの

患者リスクが存在しないか、又は無視し得るレベルのため、特段の対応
が必要ないもの
の3分類の取扱いに整理していくことが適当であると考えられる。
(2) 医療用ソフトウェアの分類
①医療用ソフトウェアの取扱いに関する基本的な判断フロー
医療用のスタンドアロンソフトウェアの3分類の取扱いについて、基本的な
判断のフローを整理すると図表 4-1 のとおりとなる。
12
図表 4-1
基本的な判断のフロー
スタンドアロン
ソフトウェア
医療機器に
該当するか否か
医療機器
該当
医療機器
非該当
ガイドラインに
基づく自主規制
が必要か否か
C・規制無し
B.ガイドライン
に基づく自主規制
A.薬事法の適用
②医療用ソフトウェアの分類マップ
医療用ソフトウェアに対する取扱いの判断については、図表 4-2 に示す評価
指標に基づき対象とするソフトウェアを分類することが適当であると考えられ
る。前述の医療用ソフトウェアに関するルールの基本的考え方に従えば、分類
に応じて、A.薬事法を適用させるもの、B.ガイドラインに基づく自主規制を適
用するもの、C.薬事法や自主規制もなく特段の対応が必要ないもの、となり、
図表 4-3 に示すような医療用ソフトウェアの分類マップの形に整理することが
できる。
図表 4-2
医療用ソフトウェアの分類に用いた指標と指標値
縦軸:
指標:患者安全リスク
指標値:無し又は無視し得るレベル<小<大
横軸:
指標:薬事法の規制の有無(図表 4-5 ディシジョンツリー参照)
13
図表 4-3
医療用ソフトウェアの分類マップ
Class Ⅳ
→ 大
存在しない
Class Ⅲ
患者安全リスク無し
小 ←
患者安全リスク
A.薬事法の適用
Class Ⅱ
Class Ⅰ
B.ガイドラインに基づく自主規
制
※ 「患者」は、診療
や健康管理など
のケアの対象者
を含めた意味で
用いている。
C.規制無し
存在しない
薬事法で規制されないもの
薬事法で規制されるもの
なお、海外における医療用ソフトウェアに対する規制の範囲は必ずしも図表
4-3 と一致するわけではない。
③医療用ソフトウェア分類のためのディシジョンツリー
医療用ソフトウェアの分類に当たっては、図表 4-1 で示した基本的な判断の
フローと図表 4-2 で示した指標を基に、具体的な判断指標から構成される「デ
ィシジョンツリー」を作成し、当該ディシジョンツリーにしたがって分類して
いくことが適当である。
ディシジョンツリーは、2 つの大きな判断フローで構成し、初めのフローは、
薬事法の対象とするか否か、次のフローは、リスクや機能等により判断を行う
ものとする。
なお、薬事法対象内と薬事法対象外において、また、薬事法対象外について
はガイドラインを適用するところとそれ以外のところにおいて、判断が難しい
ものに関してはそれぞれ個別判断領域を設け、個別判断領域に位置づけられた
ものについては、個別に判断を行い、最終的にその分類を判断するものとした。
14
図表 4-4 にディシジョンツリーによる医療用ソフトウェアの分類、図表 4-5
にディシジョンツリー案を示す。
図表 4-4
分類
ディシジョンツリーによる医療用ソフトウェアの分類
医療用ソフトウェアの位置付け
分類別の対応
A
薬事法に基づく医療機器
B
薬事法に基づく医療機器規制の対象外(1) ガイドラインに基づく自主規制
C
薬事法に基づく医療機器規制の対象外(2) 何も規制を設けない
D
個別判断領域(1)
個別判断(1)
E
個別判断領域(2)
個別判断(2)
薬事法の適用
15
図表 4-5
ディシジョンツリー(案)
スタート
YES
指標4
患者への直接利益/リスクが無い①
(例:研究、教育)
NO
YES
指標4
指標1
リスク、機能
等による判断
NO
患者への直接利益/リスクが無い②
(例:会計、統計)
スタンドアロンソフトウェア
NO
YES
YES
医療機器へ組み込まれているか
指標5
ストレージ、アーカイバル、通信、単純検索、
又は無損失圧縮に限定される
ハードウェアと一体で
現行の医療機器の範疇で
評価する必要がある
扱う必要があるか
か否か
YES
指標6
医療情報を高度に加工または
高度な判断ロジックがある
薬事法の対象
とするのかの
判断
NO
YES
指標6
YES
指標2
NO
指標3
能動的モニタリングシステム,アラーム等で
(ITネットワークで使用する)通知等の補助がある
NO
現行の医療機器
として扱う
疾病の診断・
治療・予防を目的とし
て使用することを意図
しているか否か
YES
指標6
NO
YES
NO
医療従事者(医師等)の判断が入らず
に利用されることがある
NO
個別判断を
要する場合
A .薬事法の適用
B.ガイドラインに基づく自主規制
C.規制なし
D.個別判断(1)
E.個別判断(2)
注)フロー中の指標内容は例示であり、決定したものではない。
16
以下、現時点で想定している判断指標が意図する目的と内容を示す。なお、
個別の具体的な内容や判断分岐は今後の検討事項である。
ⅰ)指標1
【目的】
対象とする医療用ソフトウェアが、スタンドアロンソフトウェアか否かを判
断する。
【内容】
薬事法上の医療機器に組み込むことを意図したソフトウェアか否か
・・・意図していれば「現行の医療機器」と同様に扱う
・・・意図していなければ「スタンドアロンソフトウェア」のフローに
進む
ⅱ)指標 2
【目的】
対象とする医療用ソフトウェアが、単体で薬事法の対象とするか否かを判断
する。
【内容】
ハードウェアと一体で評価する必要があるか否か
・・・ハードウェアと一体で評価する必要がある場合は「現行の医療機
器」と同様に扱う
・・・ハードウェアと一体で評価する必要がない場合は次のフローに進
む
ⅲ)指標 3
【目的】
対象とする医療用ソフトウェアが、単体で薬事法の対象とするか否かを判断
する。
【内容】
疾病の診断・治療・予防を目的として使用することを意図するか否か
・・・意図していれば「A.薬事法の適用」に分類
・・・意図していなければ「リスク、機能等による判断」フローに進む
・・・判断が難しいものは「D.個別判断(1)」に分類
17
ⅳ)指標 4
【目的】
対象とする医療用ソフトウェアが、ガイドラインに基づく自主規制が求めら
れるものであるか、そうではないかを判断する。
【内容】
明らかに人へのリスクがない、若しくは許容されるレベルであるか否か
(例:教育用や医事会計、統計などを目的としたもの)
・・・該当すれば「C.規制なし」に分類
・・・該当しなければ「リスク、機能等の判断を行うため」次のフロー
に進む
ⅴ)指標 5
【目的】
対象とする医療用ソフトウェアの機能やリスクが、一定の品質やリスクマネ
ジメントの下で扱うべきレベルか否かを判断する。
【内容】
ストレージ、アーカイバル、通信、単純検索、又は無損失圧縮に限定される。
・・・限定されるものであれば、規制なしとするかの判断も含めて「E.
個別判断(2)」に分類
・・・限定されないものであれば「リスク、機能等の判断を行うため」
次のフローに進む
ⅵ)指標 6
【目的】
対象とする医療用ソフトウェアが、新たに判断や解釈を確認する必要がある
要素を含んでいるか否かを判断する。
【内容】
医療情報を高度に加工または高度な判断ロジックがある
・・・該当すれば「D.個別判断(1)」に分類
・・・該当しなければ次のフローに進む
能動的モニタリングシステム、アラーム等で(ITネットワークで使用する)
通知等の補助がある。
・・・該当すれば「D.個別判断(1)」に分類
・・・該当しなければ次のフローに進む医療従事者(医師等)の判断が入
らずに利用されることがある。
・・・該当すれば「D.個別判断(1)」に分類
18
・・・該当しなければ「B.ガイドラインに基づく自主規制」に分類
④今後の検討課題
ⅰ)個別判断領域の位置付け、定義の明確化
判断が難しいものは、個別判断領域に分類したが、本領域に分類された医療
用ソフトウェアの取扱いを具体的にどのように判断していくかの検討が必要で
ある。
【検討が必要と考えられる項目】
 個別判断領域の位置付け、定義の明確化
 個別判断領域の運用方法
:個別判断領域を判断する仕組み、運営
:個別判断領域で判断を行った製品の管理やガイドラインへの反映
ⅱ)使用環境を踏まえたリスク分析
現在は、単体のソフトウェアの評価にとどまっている。しかしながら、ソフ
トウェアの特性として、組合せが容易なことやネットワークインフラなどを介
して使用されることなどがあり、様々な使用環境が考えられる。そのため、製
造者のみならず、使用者や使用環境も含めた使用基準の策定やリスク分析を行
い、その結果を踏まえたガイドライン化を検討することも必要である。
【検討が必要と考えられる項目】
 組合せ時のリスクの判断方法
(案)組合せの時は構成単位の中で厳しいもので判断することが基本
 組合せによって新たに発生するリスクの判断方法
 使用者側での安全対応に対する対応の条件
ⅲ)除外規定の検討
使用目的によっては、ディシジョンツリーによる判断ではなく、そのカテゴ
リーについて別途、個別判断を行うような除外規定の検討も将来的には視野に
入れておくことが必要と考えられる。
例えば、FDA では、2011 年 2 月に医療機器データの電子的転送、保存、表示、
フォーマット変換を使用目的とするコンピュータ若しくはソフトウェアを MDDS
(Medical Device Data Systems)という新たなカテゴリーに位置付けるという
規制の判断を示した。しかし、この中で、電子カルテなどに代表される医療情
報システム(EHRs: Electronic Health Records や PHRs:Personal Health Records)
については、医療機器に該当する可能性はあるが、MDDS の規制からは明確に除
19
外するとの見解を示している5。
このように、ソフトウェアの種類や特性によっては、別のカテゴリーを設け、
個別に取扱いを定める、という考え方もある。どのような条件に該当するもの
であれば、こうした除外規定の検討の俎上に載せることができるのかなど、考
え方を整理しておくことも必要である。
(3)医療用ソフトウェアの分類に応じた対応の方向性
ディシジョンツリーによる判断の結果、現行の医療機器の範疇で扱われる医
療用ソフトウェア及び薬事法で定める使用目的を意図するものは、薬事法の対
象となり、薬事法規制の枠組みでその品質、有効性及び安全性の確保が図られ
る。また、患者へのリスクがあるなどの理由でガイドラインに基づく自主規制
の枠組みに分類された医療用ソフトウェアは、ガイドラインに基づく自主規制
の枠組みでその品質や安全性を確保していくことが必要となる。
薬事法では、医療機器に不具合が生じた場合に人体に与えるリスクを3段階
に分け、その段階に応じた規制を行っている。単体のソフトウェアについても、
薬事法の対象になるかどうかに関わらず、医療・ヘルスケアにかかわる領域に
あるものには、常に信頼性や安全性が要求されるため、その機能と使用目的か
ら患者に与えるリスクに応じた対策が必要となる。特に、医療用ソフトウェア
には、基本的な品質マネジメントのみならず、使用段階において想定される不
都合やトラブルを洗い出し、それが発生した場合に患者に対してどのようなリ
スクが発生するのか、またそれをどのように防止するのか、といったリスクマ
ネジメントを行うことが重要である。
そこで、自主規制のためのガイドラインには、ソフトウェアの品質マネジメ
ントのみならずリスクマネジメントの視点を取り入れるべきである。ただし、
医療用ソフトウェアはその機能と使用目的により、患者に対するリスクが異な
り、それに応じて要求される品質マネジメントとリスクマネジメントのレベル
も異なる。そのため、ガイドラインでは、まずディシジョンツリーにより医療
用ソフトウェアの機能・リスクに応じた分類を行い、それぞれの分類に要求さ
れる品質マネジメント及びリスクマネジメントの方向性を決めるのが適当であ
る。
また、ソフトウェアやITの技術進歩は早く、技術革新により動作環境が高
機能となった場合や、ソフトウェアの機能を見直したり追加したりして高機能
な製品となった場合には、リスクが変化するとともに使用目的も変わることが
5
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2011-02-15/pdf/2011-3321.pdf
20
ある。それにより、薬事法に該当するものになるかどうかの判断も変化するこ
とから、ガイドラインにおいて検討する品質マネジメント及びリスクマネジメ
ントの要求は、薬事法で要求される内容・レベルとの連続性が保たれる仕組み
とすべきである。
(4)ガイドライン策定の方向性
① ガイドライン検討における視点
ガイドラインの検討にあたっては、ⅰ)今後薬事法で要求される内容・レベ
ルを見据えて、連続性を保てる仕組みとすること、ⅱ)医療用ソフトウェアを
含め医療機器と医療技術・サービスの一体的な海外展開に繋げる上で、国際整
合性を踏まえること、ⅲ)取組が第三者に可視化でき、理解が得られる仕組み
にすることが必要である。
こうした考えに基づき、海外の医療機器ソフトウェア規制で用いられている
IEC62304 をベースにした品質マネジメント及びリスクマネジメントの考え方を
整理した。
②ガイドラインで求める要求レベル
IEC62304 は医療機器ソフトウェアのライフサイクルプロセス規格である。本
規格は、医療機器ソフトウェアの安全設計及び維持に必要な活動とライフサイ
クルプロセスの枠組みを示す規格である。
図表 4-6
序文
1
1.1
1.2
1.3
1.4
2
3
4
4.1
4.2
4.3
5
5.1
5.2
5.3
5.4
5.5
5.6
5.7
5.8
6
6.1
6.2
6.3
IEC62304 の構成
7
ソフトウェアリスクマネジメントプロセス
7.1
危険状態を引き起こすソフトウェアの分析
7.2
リスクコントロール手段
7.3
リスクコントロール手段の検証
7.4
ソフトウェア変更のリスクマネジメント
8
ソフトウェア構成管理プロセス
8.1
構成識別
8.2
変更管理
8.3
構成状態の記録
9
ソフトウェア問題解決プロセス
9.1
問題報告の作成
9.2
問題の調査
9.3
関係者への通知
9.4
変更管理プロセスの使用
9.5
記録の保持
9.6
問題の傾向分析
9.7
ソフトウェア問題解決の検証
9.8
試験文書の内容
附属書 A(参考)この規格の要求事項の根拠
附属書 B(参考)この規格の適用についての指針
附属書 C(参考)他の規格との関係
附属書 D(参考)実装
参考文献
目的及び適用範囲
目的
適用範囲
他の規格との関係
適合性
引用規格
用語及び定義
一般要求事項
品質マネジメントシステム
リスクマネジメント
ソフトウェア安全クラス分類
ソフトウェア開発プロセス
ソフトウェア開発計画
ソフトウェア要求事項分析
ソフトウェアアーキテクチャの設計
ソフトウェア詳細設計
ソフトウェアユニットの実装及び検証
ソフトウェア結合及び結合試験
ソフトウェアシステム試験
ソフトウェアリリース
ソフトウェア保守プロセス
ソフトウェア保守計画の確立
問題及び修正の分析
修正の実装
21
本規格では、一般要求事項に、品質マネジメントシステムとリスクマネジメ
ント、ソフトウェア安全クラス分類を実施することを要求している(図表 4-7)。
図表 4-7 IEC62304(JIS T 2304)における一般要求事項(一部抜粋)
4 一般要求事項
4.1 品質マネジメントシステム
医療機器ソフトウェアの製造業者は,顧客要求事項及び該当する規制要求事項
に適合する医療機器ソフトウェアを提供する能力があることを実証する。
4.2 リスクマネジメント
製造業者は、JIS T 14971 に規定したリスクマネジメントプロセスを適用する。
4.3 ソフトウェア安全クラス分類
「4.3 ソフトウェア安全クラスの分類」では、ソフトウェアに起因するハザー
ドが人に及ぼす影響のリスクの分類の考え方が示されており、リスクを 3 段階
の安全性クラス(図表 4-8)に分類することを要求している。
図表 4-8
IEC62304(JIS T 2304)の安全性クラス
分類
内容
A
負傷又は健康障害の可能性はない
B
重症の可能性はない
C
死亡又は重症の可能性がある
その上で、分類された安全性クラスのレベルに応じて、IEC62304 では、対象
とするソフトウェアに対して実施すべき要求事項を定めている(図表 4-9)。
図表 4-9
安全性クラスと要求される実施項目との関係(一部抜粋)6
プロセス
項番号
5.1 ソフトウェ 5.1.1
ア開発計画 5.1.2
6
アクティビティ
安全性クラス
ソフトウェア開発計画
A
○
B
○
C
○
ソフトウェア開発計画の継続更新
○
○
○
5.1.3
ソフトウェア開発計画におけるシステム設計及びシステム開発の引用
○
○
○
5.1.4
ソフトウェア開発規格,方法及びツールの計画
5.1.5
ソフトウェア結合及び結合試験計画
5.1.6
ソフトウェア検証計画
5.1.7
5.1.8
5.1.9
○
○
○
○
○
○
ソフトウェアリスクマネジメント計画
○
○
○
文書化計画
○
○
○
ソフトウェア構成管理計画
○
○
○
5.1.10 管理が必要な支援アイテム
○
○
5.1.11 検証前のソフトウェア構成アイテムのコントロール
○
○
参考資料に、全ての安全性クラスと要求される実施項目との関係の一覧を掲載している。
22
薬事法の規制対象となり得る医療用ソフトウェアについては、WTO/TBT 協定を
踏まえ、国際整合性の観点から IEC62304 をベースとした制度設計により、その
製品が対応する IEC62304 の安全性クラスの要求事項に応じて、品質マネジメン
トシステムは QMS 省令、リスクマネジメントは ISO14971 相当の対応について検
討していくことが想定される。
ガイドラインでは、薬事法で要求される内容・レベルを見据えて、連続性を
保てる仕組みにすることから、薬事法の非対象となる医療用ソフトウェアにつ
いては、IEC62304 の安全性クラス A の要求事項を参考項目とし、品質マネジメ
ントシステム及びリスクマネジメントの実施を推奨することが適当であると考
えられる(図表 4-10)。
品質マネジメントシステム及びリスクマネジメントの要求レベルを以下に示
す。
【品質マネジメントシステム】
品質マネジメントシステムにおける基本的要求事項は、「QMS が行われてい
ること」となる。要求レベルは次の通りである。
推奨:ISO9001 相当の第三者認証を取得することを推奨
相当:以下に示す規格に相当する又は、それ以上の規格レベルに準ず
ること
・ISO13485:医療機器−品質マネジメントシステム−規制目的
のための要求事項
・QMS 省令:薬事法で定められている要求事項
【リスクマネジメント】
リスクマネジメントでは、ISO14971 を参考とする。要求レベルは次の通り
である。
推奨:ISO14971 相当のプロセスに応じて実施することを推奨
なお、薬事法規制対象外で、さらに、ガイドライン対象外の製品については、
安全リスクがない又は無視し得るレベルであることから、IEC62304 の適用や品
質マネジメントシステム及び、リスクマネジメントを求める必要はない。
23
図表 4-10
ガイドラインで求める規格への対応
スタンドアロンソフトウェア
ディシジョンツリー
(概要)
NO
リスク、機能等
による判断
YES
診断・治療・予防を目的
として使用することを意
図するか
個別判断を
要する
個別判断を
要する
患者安全リスク無し
小 ←
個別判断を要する
患者安全リスク
→ 大
Class Ⅳ
存在しない
Class Ⅲ
A.薬事法の適用
製品ごとの規格
組織としての規格
62304
クラス分類
62304
対応項目
13485
14971 (リスク
(QMS省令) マネージメント)
クラスC
クラスC
○
○
―
クラスB
クラスB
○
○
―
クラスA
クラスA
○
○
―
9001 (品質
マネージメント)
個別判断領域(1):個別判断
Class Ⅱ
Class Ⅰ
B.ガイドラインに基づく自主規制個別判断
製品ごとの規格
組織としての規格
62304
クラス分類
62304
対応項目
13485
14971 (リスク
(QMS省令) マネージメント)
―
クラスA相
当(推奨)
―
推奨
推奨
―
同上
○
推奨
―
領域(1)
個別判断
領域(2)
存在しない
個別判断領域(2):個別判断
C.規制無し
薬事法で規制されないもの
9001 (品質
マネージメント)
薬事法で規制されるもの
24
製品ごとの規格
組織としての規格
62304
クラス分類
62304
対応項目
13485
14971 (リスク
(QMS省令) マネージメント)
―
―
―
―
9001 (品質
マネージメント)
―
どちらか
で良い
③今後の検討課題
ⅰ)ガイドラインの具体化
現時点では、ガイドライン化に向けた基本的考え方の提示にとどまっている。
そのため、さらなる精査と深堀を行ったのち、例えば、薬事法の規制状況等を
踏まえ経済産業省が厚生労働省と連携して取り組んでいる医療機器開発ガイド
ライン策定事業の場を活かして、早期にガイドラインを具体化する必要がある。
ⅱ)ガイドラインの運用
本ガイドラインの管理及び運用主体を決める必要がある。ソフトウェアの場
合、特に技術革新が早いため、常にガイドラインと最新技術との整合性確認が
可能な体制を築くことが望ましい。
ⅲ)ガイドラインの普及方策
ガイドラインを広く周知するための普及方策についても今後検討していくこ
とが必要である。
例えば、ソフトウェアを提供する側のみならず、使用者側にもこの取組を理
解してもらうための働きかけが必要であり、周知が必要な対象者の発掘と、対
象者別の具体的な周知方法や活用方法の検討が必要である。
また、ガイドラインの活用促進を図るため、ガイドラインに沿った開発を行
ったものについては、何らかの付加価値が加わる仕組みの検討が必要である。
例えば、適合製品に対する認証制度の導入、工業会認証、工業会推奨マーク、
自己認証など、様々な位置付けが考えられるが、運営主体をどこにおくかも含
めた検討を要する。
25
5.今後の課題
本研究会では、医療用ソフトウェアの開発が促進される環境を整え、産業が
健全に発展して行くに当たり、単体のソフトウェアに関する一定のルールが必
要であるとの視点から、そのルールについての基本的な考え方と、当該ルール
に基づく分類と対応の方向性を中間報告として整理した。また、分類の具体的
な判断基準として、ディシジョンツリー案を提示するとともに、分類に応じた
具体的な対応策として、薬事法対象外のソフトウェアのうち、自主的な規制の
対象とすることが適当であると考えられるものに対するガイドライン案の大枠
を提示した。
今後、厚生労働省による薬事法改正による単体ソフトウェアの取り扱いの明
確化の検討とも連携しつつ、ガイドライン案の詳細化、運用方法の具体化を図
るとともに、本研究会で指摘されたその他の課題についても、検討を深めてい
くことが必要である。改めて、以下に今後の課題を整理する。
(1)ガイドライン等の具体化
ディシジョンツリー案を示したが、詳細な判断内容や個別判断領域に入った
製品等の判断や運用など、今後、具体化を図ることが必要である。
医療用ソフトウェアを取り巻く環境は日々変化しており、技術革新によりソ
フトウェアがより高機能な製品となった場合には、リスクが変化するとともに
使用目的も変わることがある。それにより、薬事法の対象になるかどうかも変
化する。そのためガイドラインは、スタンドアロンソフトウェアの定義や除外
規定の検討、品質マネジメント及びリスクマネジメントなどの要求内容・レベ
ル、販売や市販後管理にかかるルールの明確化など、薬事法に基づく医療機器
規制との整合性・連続性のある仕組みとすることが重要である。あわせて、グ
ローバルなビジネス環境を整備していくという観点から、IEC62304 の動向やそ
れに応じた欧米諸国における医療機器規制の動向など国際整合性を踏まえるこ
とや、こうしたガイドラインの取組が第三者に可視化でき、理解が得られる仕
組みにしていくことが必要である。
こうした観点から、医療用ソフトウェアに関する最適な制度の構築に向けて、
薬事法の規制状況等を踏まえ、経済産業省が厚生労働省と連携して取り組んで
いる医療機器開発ガイドライン策定事業の場を活用し、今後も引き続き関係省
庁の連携の下で、医療用ソフトウェアに関するガイドラインのさらなる具体化
を行うべきである。また、運用主体を決定した上で、ガイドラインの普及に向
けた取組と開発者だけでなく使用者に対する働きかけを行うことや企業のガイ
ドライン利用を促進させるためのインセンティブやガイドラインの付加価値の
26
検討も必要である。具体的には、適合製品に対する第三者認証制度の導入、工
業会認証や工業会推奨マーク、自己認証などが有効な手法として考えられるが、
これらは産業界が主体となって取り組む必要がある。
(2)使用者側のリスクマネジメント
医療機関や医療関係者、また、将来的には個人ユーザに対して、使用者側の
使用方法が製品安全に関係する、ということを認知してもらうことが望ましい。
また、使用者や使用環境も含めた使用基準やリスク分析を産業界と連携して行
い、その結果を踏まえたガイドライン化の検討も必要である。
(3)使用環境等を踏まえたリスク分析
ソフトウェアの販売・流通、ソフトウェアどうしの組合せ、ネットワークに
よる接続、仮想環境上で存在するアプリケーションなどについては、発生する
リスクの同定と分析方法、加えて責任範囲の明確化が必要である。
その他、非医療機器も含んだ複数機器がつながれた場合、どこまでを医療機
器の範囲として扱うかの検討もある。組み合わせられる他のソフトウェアの不
具合情報をどう評価するべきなのかについての検討も必要となってくる。
(4)人材育成と知見の共有
特にリスクマネジメントシステムの対応については、これまで薬事法への対
応の経験がない事業者への対策が重要であると考えられる。こうした課題への
対応策としては、
「ケーススタディを用いたトレーニング機会の提供」や「ソフ
トウェア開発・検証にかかわる評価基準、指針、ガイドライン等の明示」が考
えられる。また、ケース事例に基づいた技術文書の作成やリスク分析について
の教育プログラムを提供し、企業や産業界がトレーニングを受ける機会を提供
するなど、専門の人材の育成を図るとともに、知見を広く共有していくことも
必要になってくる。
27
医療用ソフトウェアに関する研究会委員名簿
<座長>
妙中 義之
国立循環器病研究センター研究所副所長
前内閣官房医療イノベーション推進室次長
<委員>
佐久間 一郎
東京大学大学院工学系研究科教授
杉浦 秀明
(独)情報処理推進機構(IPA)
ソフトウェア・エンジニアリング・センター副所長
土居 篤博
(一社)日本画像医療システム工業会(JIRA)
産業戦略室専任部長
中野 壮陛
(財)医療機器センター
医療機器産業研究所
主任研究員
橋詰 明英
(一社)保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)
安全性・品質企画委員会委員長
服部 徹
(一社)電子情報技術産業協会(JEITA)
ソフトウェア事業委員会幹事
平井 正明
(一社)電子情報技術産業協会(JEITA)
医療用ソフトウェア専門委員会委員長
古川 浩
日本医療機器産業連合会(医機連)法制委員会副委員長
本間 一弘
(独)産業技術総合研究所(産総研)
ヒューマンライフテクノロジー研究部門副研究部門長
<関係省庁>
関野 秀人
厚生労働省
医政局
経済課
浅沼 一成
厚生労働省
医薬食品局
医療機器政策室長
審査管理課
医療機器審査管理室長
吉田 恭子
総務省
情報流通行政局
情報流通高度化推進室長
江口 純一
経済産業省
商務情報政策局
情報処理振興課長
覚道 崇文
経済産業省
商務情報政策局
ヘルスケア産業課
医療・福祉機器産業室長
<オブザーバー>
原澤 栄志
日本医療機器産業連合会(医機連)産業政策会議長
平岡 薫
コンティニュア・ヘルス・アライアンス理事
(敬称略)
28
研究会開催概要
【第 1 回研究会】
日時:平成 24 年 10 月 23 日(火) 10:00~12:00
場所:経済産業省 本館 17 階 第 3 特別会議室
1. 研究会の設置について
2. JIRA における画像医療システム産業の展開に向けての報告
3. 3 団体(JAHIS、JEITA、JIRA)における医療用ソフトウェア等の取扱い
について検討結果報告
4. 医療用ソフトウェアに関する現状及び課題認識
【第 2 回研究会】
日時:平成 24 年 12 月 12 日(水) 16:00~18:00
場所:経済産業省 本館 17 階 第 3 特別会議室
1. 3 団体(JAHIS、JEITA、JIRA)における医療用ソフトウェア等の取扱い
についての検討状況
2. 他産業におけるソフトウェアの安全基準の比較に関する調査報告
3. 海外規制対応に関する企業ヒアリングの中間報告
4. 医療機器認証におけるソフトウェアの取扱い
【第 3 回研究会】
日時:平成 25 年 2 月 8 日(金) 10:00~12:00
場所:経済産業省 本館 17 階 第 3 特別会議室
1. 3 団体(JAHIS、JEITA、JIRA)における医療用ソフトウェア等の取扱い
についての検討状況
2. 医療用ソフトウェアのアンケート調査中間報告
3. 海外規制対応に関する企業ヒアリング結果報告
4. 医療用ソフトウェアに関する研究会中間報告書骨子案について
【第 4 回研究会】
日時:平成 25 年 3 月 8 日(金) 16:00~18:00
場所:経済産業省 別館 5 階 共用 513 号室
1. 医療用ソフトウェアに関する研究会中間報告書(案)について
2. その他
29
30
平成 24 年度
医療機器等の開発・実用化促進のためのガイドライン策定事業
(医療用ソフトウェアの実態調査事業)
報告書
平成 25 年 3 月
経済産業省商務情報政策局
ヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室
〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1
TEL:03-3501-1562