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日消外会議 20(5)11105∼
1108,1987年
原発性肝癌 との鑑別 が困難 であ った肝臓 の炎症性腫瘤 の 1例
信州大学第 2外 科
梶川 昌 二
中
石坂 克 彦
加
谷 易 功
山
藤 邦 隆
黒
岸喜代文
口 孝 井
安
達
三
飯
田
太
A CASE OF INFLAMMATORY TUMOR OF THE LIVER DttAGNOSED
AS HEPATOCELLULAR CARCINOMA
Shoji KAJIKAWA,Yasunori NAKATANI,Kiyofuni YAMAGISHI,
o ISHIZAKA,Kunitaka KATO,
Wataru ADACHI,Katsuhよ
Takai KURODA and FutoshiIIDA
The Second Department of Surgery,Shinshu University School of MIedicine
索引用語 :肝臓の炎症性腫瘤,肝 肉茅腫
めに
1. は じと
一
は
の
上,時 として肝
の
部
画像診断
肝臓 炎症性腫瘤
悪性腫瘍 との鑑別が困難な場合 が少 な くない。今回,
常を指摘 されている。
現病歴 :昭和59年11月,健 康診断 にて腹部超音波検
査を受け,肝 内 に腫瘤性病変を指摘 された。そのころ
われわれは,肝 細胞癌 の診断にて肝切除術を行 い,病
理組織学的 に肝膿瘍 であ った 1例 を経験 したので,若
よ り微熱,全 身俗怠感 が認め られ るよ うにな り,精 査
を 目的 として入院 した。
入院時現症 :144cm,51kg,栄養状態良好.黄 痘,貧
子 の文献的考察 を加 えて報告す る。
2 . 症 例
血はな く,腹 部 に異常所見 は認 め られない。
入院時検査所見 :血沈 が克進 してお り,CRP(2+)
であ ったが,自 血球増多 は認 め られなか った,HBs抗
患者 :55歳,女 性,主 婦.
主訴 :微熱,全 身倦怠感.
家族歴 :特記すべ き ことなし.
既往歴 :31歳,出 産 の際輸血を受け,以 後肝機能異
体陽性,肝 機能検査 では COTの 軽度上昇が認 め られ
たが,そ のほかに異常所見 はな く,IndoCyanine green
表 1 入 院時検査所見
末 梢血
RBC
Hb
Ht
Plt
WBC
血 液 生化 学 T P
Alb
T Chol
T Bll
ALP
ZTT 5 1U
511×107mm3
16 3g/dl
50.0%
432× 104/mm3
4200
7 4g/di
TTT 0 7U
血清電解質 Na
K
cl
尿
血沈
異
4 2g/dl
168mg/dl
0 3mg/dl
CRP
(2+)
13 1KAU
140mEq/1
46mBュ
1時
常なし
間 57mm
2時間 90mm
HBs―Ag(一 )
HBs―Ab(+)
LDH
168mU/ml
COT
53mU/mi
AFP
2ng/ml
CPT
γ一GTP
33mU/ml
26mg/nll
CEA
0 2ng/ml
│! 昌二
<1986年 9月 3日 受理>別 掃t請求先 :梶サ
州大学医学部第 2外
〒390 松 本市旭 3-1-1 信
科
/1
102mEq/1
110(1106)
原発性肝癌 との鑑別が困難 であ った肝臓 の炎症性腫瘤 の 1例
(IGG)15分 値 は6。1%と 正常範 囲内で あ り,2‐Feto‐
protein(AFP)も 陰性 で あ った (表 1).
腹部超音波検査 :肝 右葉前下区域 (S5)に直径30mm
の低 エ コーの腫瘤 が認 め られた。腫瘤 の辺縁 は不規則
であ り,内 部 には一 部 高 エ コーの部 が認 め られたが,
肝細胞癌 も否定 で きな か った (図 1).
図 1 腹 部超音波検査.肝 右葉前下区域 (S5)に径30
mmの 低 エコーの腫瘤を認める。
日
消外会誌 20巻
5号
血 管 造影 :肝 動脈 造影 で は 腫 瘍 濃 染 像 は 認 め られ
ず,門脈造影で も異常所見 は認 め られ なか った (図 2)。
Computed tomography(CT)検 査 !単 純 CT像 (図
3)で は境 界明瞭 な低濃度域 を認 め,動脈造影 時 に行 っ
た動 注 CT像
(図 4)で は腫瘤 内部 まで濃染 され,肝
細胞癌 が強 く示唆 された。
以上 の検査結果 よ り肝細 胞癌 と診 断 し,昭 和 60年 1
月17日手術 を施行 した。
手術所 見 :肝 表面 は平滑 で,ほ ぼ正常肝 と思われた。
術 中超音波検査 を行 った ところ,S5の 腫瘤 以外 に肝右
葉前上 区域 (S8)に 小 さな低 エ コーの腫瘤 が 認 め られ
たため,肝 右葉前 区域切除 を施行 した。切除重量 は270
gで あ った。
摘 出標本害Jtt i S5の
腫 瘤 は不 正形 ,被 膜 は 明 らかで
な く,内 部 が一 部空洞化 した28×25mmの 腫瘤 で あ っ
た (図 5).
図 3 単 純 CT肝
る.
図 2 肝 動脈造影.腫 瘤濃染像 は認 め られない
右葉に境界明瞭な低濃度域を認め
図 4 動 注 C T . 単 純 C T で 認め られ る低濃度域 は内
部まで濃染 した。
111(1107)
1987年5月
図 5 切 除標本害J面.不 整形 の充実性腫瘤 で,内 部 は
一部空洞化 していた.被 膜 は明 らかでない。
症所見 が軽微 な場合 もあ り,画 像診断 上 ,肝 癌 との鑑
別 が 困難 な症例 も存在す る。肝膿場 の診 断 には超音波
検査法 が有用 とされ てお り,病 変 の局在 や内部 の質的
1レ
).嚢胞 状 の エ コーが描 出 され
診 断を可能 に して きた
る場合 にはその診断 は容易 で あ る。し か し超音波 断層
ー
像 で充実性 の エ コ を塁す る場合,肝 腫瘍 との鑑別 が
ー
必要 にな る。本症 例 も超音波断層像 は充実性 エ コ で
あ り,肝 腫瘍 と誤 った。CTで は肝膿瘍 は類 円形 の境 界
明瞭 な低濃度域 として認 め られ,造 影 CTに て膿瘍壁
。つ
が リング状 に濃 染す る ことが特徴 とされ る 。 しか し
肉芽形成 の時期 には動脈造 影 で著 明 な新生血管 を認 め
る場 合 もあ り',本 症例 も腫瘤 内部 まで動 注 CTで 濃
染 され,充 実性腫瘍,特 に肝細胞癌 との鑑別 が困難 で
あ った と思われ る。
葛西 らいは肝膿場 の 治癒過程 で 肉芽 性変化 が 強 くな
る場 合 を指摘 して い る.こ の よ うな症例 では超音波 断
ー
層像 で充実性 エ コ とな り,血 管造影 で も著 明な新生
血 管 を認 め るため,生発性肝癌 や転移性肝癌 と誤診 し,
718).こ
れ らの
肝切除 が行われ た症例 も報告 され てい る
図 6 病 理組織所見 (HE染 色)×66.多 数 の組織球,
多形核 白血球 お よび線維化,毛 細血 管増生が認め ら
れ 肉芽腫性肝膿瘍 の像 である。
報告例 を検討す る と,発 熱 な どの炎症所見を有す る場
合 が多 い。 この よ うに,多 少 とも肝炎症性病 変 が疑 わ
ー
れ る場 合 には,詳 細 な病 歴 の 検 討 を行 い,腫 瘍 マ
カー,血 液生化学的検査 成績,針 生検 な どを参考 とし
り
て総合的 に診断す ることが重要 で あ る。近年,針 原 ,
lい
川端 らが,経 過観察 に よ り消失 した肝 肉芽腫性病 変
を報告 してお り,肝 膿瘍 の器質化 に よる もの と推測 し
てい る。本症例 も これ と同様 の病態 と考 え られ る。 ま
た 最近 注 目され てい る疾 患 として肝 の InnammatOry
pseudotuFnOrがあ り,こ れ は 肉芽腫 を形 成 し,炎 症所
11)121。
今後 発熱 な ど
見 を示す ことが特徴 とされて い る
の炎症所見 を示す肝腫瘤 の診断 に際 しては, この よ う
な肝 肉芽腫性病変 の存在 も念頭 にお くべ きで あ る。
4
.
と め
ま
肝細胞癌 と誤診 し,肝 切除 を施行 した肝膿瘍 の 1例
病理組織所見 :多 数 の組織球,多 形核 白血 球 お よび
性肝膿場 の像
線維化,毛 細 血 管増生 が認 め られ,陳 1日
を報告 した 。肝膿場 の器質過程 で 肉芽性変化 が強 い場
合 には,画 像診断 上 ,肝 腫瘍 と誤診す る こ とがあ り注
で あ り,周 囲組織 の 問脈域 に も炎症性細胞浸潤 が認 め
られた.ア メーバ な どは認 め られず,原 因 は明 らかで
意 を要す る。
本論文 の要 旨は昭和60年8月 ,第 21回中部外科学会総会
な い (図 6).
術後経過 :経 過 良好 で あ り,以 後発熱 な どは認め ら
で報告 した.
れず,肝 内 に も異常所 見 は認 め られな か った 。
3 . 考 察
肝膿瘍 の診断 は高熱, 白 血球増 多 な ど炎症所見 が著
明 な場合 には困難 ではな い. し か し本症例 の よ うに炎
文 献
1)Lawson TL: Hepatic absce弱 :Uitrasound as
an aid to diagnosis Dig Dis 22 : 33--37, 1977
2 ) 井 田正博, 角 谷真澄, 高 山 茂 ほか : 肝 膿瘍 の
C T , 超 音波 による診断. 臨 放線 2 5 : 5 4 3 - 5 4 8 ,
112(1108)
原
発性肝癌 との鑑別が困難であった肝臓 の炎症性腫瘤 の 1例
1980
例
3)打 日日出夫 :肝 ・
胆・
陣.確 定診断への画像的接近
と診断手技の治療的応用.東 京,医 学書院,1984,
日 消外会議 20巻 5号
。日 消病会議 82:2647-2650,1985
原 康 ,伊藤 徹 ,高見 実 ほか :炎 症性肝占居
病変の検討. 日超音波医会第46回研究発表会講
p160-176
論
集 :65-66,1985
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CTに よる消化器病
10))│1端
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診新。東京,文 光堂,1982,p107-111
肉
芽腫性疾患の 2例 。 日超音波医会第47回研究発
5)Reuter SR, Redman HC i Gastrointestinal
表
会議論集 :59-60,1985
Angiography. Philadelphia, Saunders, 1977,
11)Someren A: ``Innalmatott pseudotuEnor"of
9)針
性
p281-289
the liver with occlusive phlebitis Report of a
6)葛 西洋一,玉置 明 ,河西紀夫 :化 膿性肝膿瘍 の病
catt in a child and review of the literature.Am
態 と治療。 日医新報 2639110-16,1974
J Clin Patho1 69:176-181,1978
7)渡 辺栄二,水谷純一,日代征紀 :肝 膿瘍 の超音波診
12)関
原 正 ,小 柳 信 洋,戸 田 智 博 ほ か :肝 の
新一 とくに鑑別診新および超音波穿刺術について
Inaalnmatott pseudoturnorの
1例 .外 科 治 療
一.臨 外 37:1127-1131,1982
54:117-120,1986
8)神 谷順一,二村雄二,早川直和 ほか :肝 肉芽腫の 1