FMBEMによる広域音響伝搬解析 ―高周波数域のためのFMBEMの適用性― * ☆樋口和孝,関根秀久,安田洋介(神奈川大・工),大嶋拓也(新潟大・工) S はじめに 2 Time [s] 筆者らは,大規模定常音場解析手法である高速 多重極 BEM(FMBEM)[1, 2] の適用を前提とし, 屋外広域音響伝搬解析に向けた検討を行っている. 既 報 [3] で は , 低 周 波 数 域 の た め の FMBEM (LF-FMBEM)[2] を前提に,解析対象の範囲・ 形状・分布が解析精度・効率に及ぼす影響につい て検討し,影響が微小なことを示した. 本報では, 高周波数域のための FMBEM(HF-FMBEM)[1] を 前提とし,既報[3] 同様の検討を含む広域解析へ の適用性向上のための様々な検討を行う. 1000 解析手法 M 3D 6m 6m 2D Fig.1 (a) 2D S M 100 解析ケース(6 m) Memory [GB] 1 (b) 3D 10 100 (a) 2D S M (b) 3D 10 2.1 FMBEM 1 1 6 10 18 6 10 18 6 10 18 6 10 18 object size [m] object size [m] object size [m] object size [m] FMBEM は BEM の効率化手法である. Fig. 2 1 反復あたりの Fig. 3 必要メモリ:(a) 2D,(b) 3D 解析対象を内包する階層セル構造(立方体)を 計算時間:(a) 2D,(b) 3D 導入し,セル間での影響評価を通して効率化を p L 図る.計算時間・メモリは未知数 N に対し L O(NlogN) にまで低減されるが,解析対象のサイ cell F ズ・形状により,階層セル構造のサイズや階層化 cell F Case 2 レベル,各セルと境界要素との関係が変化する. これらが計算精度・効率に影響を及ぼす. 2.2 HF-FMBEM level 2 HF-FMBEM では,多重極・局所展開の代わりに cell S level 3 p 平面波展開を用いる.3 次元定常音場基本解の展 L M 開は次式で表される. cell N cell S L M level 2 jk q ˆ level 1 G (r p , rq ) = Case 1 ∫ E pL (k )TLM (k ) EMq (k )dk (1) cell N root 16π 2 ここで, Fig. 4 階層セル構造及び多重極・局所展開点 3 2 3 2 2 l =0 E Mq (k ) = exp( jk ⋅ rMq ) , (2) r = (r, θ , ϕ),k:波数ベクトル,k = |k|,kˆ = k/k, hl(1) :第 1 種球 Hankel 関数,P(l) :Legendre 多項 式,Nc:無限級数和打ち切り次数, ∫ dkˆ :単位球 面積分,M, L:多重極・局所展開点. 3 適用性の把握 3.1 検討方法 詳細は既報[3] での検討方法と同様. 解析対象 立方体形状を基に,解析ケースを次の 3 軸により構成した:(i) 分布(2D,3D),(ii) 形 状(S:Split,M:Multiple),(iii) サイズ(6,10, 18).サイズ 6 m の場合の解析ケースを Fig. 1 に * 1e-1 (3) 2000 1000 1e-2 1e-3 Relative error in amplitude 1e-4 1e-5 1e-6 1e-7 1e-8 l=2 1e-9 1e-10 l=3 100 Nc Nc TLM (k ) = ∑ j l (2l + 1)hl(1) (krLM ) Pl (kˆ ⋅ rˆLM ) , 3 Nc 10 D =k Nc D =k 1 2 100 200 2 10 kD 10 100 200 kD Fig. 5 l = 2, 3 の場合の kD,Nc,精度の関係 示す.全面振動境界の外部問題である. A basic investigation for prediction of outdoor sound propagation in large area using FMBEM: applicability of FMBEM for high-frequency problems. by HIGUCHI, Kazutaka, SEKINE, Hidehisa, YASUDA, Yosuke (Kanagawa Univ.), and OSHIMA, Takuya (Niigata Univ.) 計算方法 HF-FMBEM(間接 Table 1 n,rc,dc/rc の関係 rc 型)を用いる.解析対象を囲 dc 512 4 096 13 824 32 768 64 000 110 592 175 616 262 144 n む階層セル構造のサイズ(ル 1.375 0.608 0.375 0.262 0.196 0.152 0.121 0.097 rc ートセルサイズ)は前項 (iii) d c/r c 0.045 0.103 0.167 0.238 0.320 0.412 0.519 0.643 Fig. 6 解析モ デル(部分) のサイズとする.解析ケース d /r d /r によらず要素サイズ(16 mm 程度),未知数 N(50 0.07 0.18 0.51 1 0.03 0.07 0.18 0.51 1 0.03 1 000 100 000 程度)はほぼ一定とした.解析周波数は 3 150 100 10 Hz とした. 10 1 3.2 結果と考察 計算精度 十分高精度であった. 1 0.1 1e+3 1e+4 1e+5 1e+6 1e+7 1e+3 1e+7 1e+4 1e+5 1e+6 N 計算効率 反復計算 1 回あたりの計算時間を Fig. N 2 に,必要メモリを Fig. 3 に示す.N がほぼ同程 Fig. 7 1 反復あたりの計算時間と必要メモリ 1E+0 度にもかかわらず,ルートセルサイズの増加に伴 1E-3 い計算コストが増加している.これは,高精度を Case1 Case2 保つための平面波展開の項数 Nc が,計算を行うセ 1E-6 α = 0.0 α = 0.1 ルのサイズ D 等に依存して増加すること[4, 5] に 1E-9 α = 0.2 α = 0.3 起因する.一般に,1 セルあたりの演算は Eq. (2) 1E-12 2 180 の単位球面積分点数(∝ Nc )に比例することから, Case2 Case1 0 ここでの計算時間の上昇は,解析対象のサイズが -180 増加することによりレベル l = 2(計算を行う最上 2 10 100 1000 2000 2 10 100 1000 2000 kD kD 位レベル)のセルのサイズ Dl = 2 が増大し,それに Fig. 8 経験式に基づいた kD と精度の関係 伴い Nc (l = 2) が増大することが原因と考えられる. c c c Error in phase(deg) Relative error in amplitude Time [s] Memory [GB] c 4 階層化最上位レベルの影響 前節の検討結果を踏まえ,ここでは計算に使用 する最上位レベルを l = 2 から 3 に下げる(即ちセ ルサイズを 1/2 とする)ことで計算の効率化が図 れないか検討する. 4.1 検討方法 解析ケースを Fig. 4 に示す.展開点を M2, L2 (l = 2) とした場合と,M3, L3 (l = 3) とした場合におい て, Eq. (1) を厳密解と比較し,kD,Nc と計算精 度の関係を調べる. 4.2 結果と考察 ケース 2 の場合の結果を Fig. 5 に示す.l = 3 の 場合は,高精度となる Nc が l = 2 のときの約 2 倍 となっている.これは,高精度となる Nc が kD だ けでなく krLM にも依存する [5] ためだと考えら れる.このことから,高精度を保ちつつ最上位レ ベルを下げることは全体としてより非効率になる と結論づけられる. 5 階層セル構造内の要素密度の影響 第 3 節の検討から,ルートセルサイズが計算効 率に大きな影響を及ぼすことが確認された.ここ では,Fig. 1 のケース 3D-M-10 に対して,ルート セルサイズを固定した上で境界要素の密度を変化 させ,計算効率への影響を調べる. 5.1 検討方法 Fig. 6 に示すように,配置する小立方体のサイ ズを dc = 0.625 [m] に固定し,ルートセル内の個 数 n を変化させた.立方体間距離 rc,密度の指標 dc/rc を Table 1 に示す. 5.2 結果と考察 結果を Fig. 7 に示す.通常の BEM では O(N2), 一般的な FMBEM の計算では O(NlogN) の計算効 1 率となるが,本結果はおよそ O( N 2 ) となっている. 6 大規模解析のための展開項数の設定 高精度となる Nc については従来 kD ≤ 1000 の範 囲で経験式が提案されている[6].ここでは解析領 域を拡張するため,kD > 1000 の範囲において高精 度となる Nc の経験式を設定する. 6.1 検討方法 解析ケースを Fig. 4 に示す.ここでは M2, L2 を 展開点とする(l = 2).下記経験式[5, 6] 内のα(0 ≤ α ≤ 1)を変化させて影響を調べる. N c = ⎣k (αD + (1 − α )rLM ) + (rLM / D) ln(kD + π )⎦ + 1 (4) 6.2 結果と考察 結果を Fig. 8 に示す.kD > 1000 の範囲において も,解析ケースによらずα = 0.1 のときに最も高精 度である. 謝辞 本研究は科研費(研究基盤 (B), No. 23360255) の助成を受けて行われた. 参考文献 [1] T. Sakuma, Y. Yasuda, Acta Acustica-Acustica, 88, 513-525, 2002. [2] Y. Yasuda, et al., J. Comput. Acoust., 18, 363-395, 2010. [3] 樋口他,音講論(春),1113-1114, 2012. 3. [4] R. Coifman, et al., IEEE Antennas Propag. Magaz., 35, 7-12, 1993. [5] Y. Yasuda, T. Sakuma, Acta Acustica-Acustica, 89, 28-38, 2003. [6] 伊藤他,音講論(秋),787-788, 2002. 9.
© Copyright 2025 ExpyDoc