2402 小・中・高等学校 デジタル教材を活用した理科教育研究講座 研修

2402
小・中・高等学校
デジタル教材を活用した理科教育研究講座
所属
研修資料
兵庫県立明石高等学校
氏名
1
東田
純一
デジタル教材活用にあたって
(1) デジタル教材を使用するにあたって
従来、授業を行うに当たって文字(テキスト)は黒板。静止画はスライドプロジェクタ。音声
は CD プレーヤ。そして動画は VTR 等の機器を使ってきた。しかし、授業で使用するさまざま
な教材を生徒に提示する場合これらの機器を授業時間内ですべてを使いこなすということは不可
能である。しかし、それらをデジタル化することによって現在ではパソコン操作ひとつで多種多
様の教材を提示することが可能になった。また、原体験が少なくしかも抽象的思考が苦手とする
生徒たちにとっては動画、シミュレーション等は極めてわかりやすい教材になっている。このよ
うにデジタル教材は利便性および生徒の学習効果という面においても非常に優れたものであると
考えている。しかし、すべて何でもかんでもデジタル教材にたよるつもりは毛頭ない。理科にお
いては実験・観察というのは必須であり、板書の授業のいい所もたくさんある。そこで、従来の
授業のいい所を残しながらデジタル教材を活用していきたいと考えている。
(2) 学校、生徒の実態
本校は明石の総合選抜地域にある創立82年の伝統校である。自由な雰囲気の中で生徒一人ひ
とりが自分の個性を発揮しそれを伸ばそうとしている。総合選抜地域にある学校のため学力の差
が大きく1年次より類型に分け生徒の学力、興味・関心に応じた授業を行っている。今回授業を
行ったのは2年生の人文科学類型の化学選択者である。人文科学類型とは数学、理科にもウエイ
トを置いた文型クラスである。従って、化学の授業の週4時間あり、そのうち1時間は復習とし
て問題演習を行っている。
(3) 学校の IT 環境
普通教室には LAN の端末はあるが、プロジェクタ、スクリーンなどの周辺機器および暗幕設
備はない。特別教室はスクリーンおよび暗幕は常設されているが、プロジェクタはない。当然の
ことながらインターネット接続の環境下でもない。今回報告する授業実践は化学実験室で JST か
ら貸与を受けているプロジェクタ、スマートボードを用いて行った。
2
授業実践
(1)学習指導要領における位置
校種
高等学校
教科・科目
理科・化学Ⅰ
学年
2学年
内容
単元:酸と塩基の反応
・中和とは。塩とは。
・中和における酸と塩基の量的関係。
・中和滴定曲線、指示薬の選び方。
授業時間
3時間目(総時間数3時間)
-1-
(2)学習のねらい
・演習問題を通して、中和における酸と塩基の量的関係を復習する。
・中和滴定曲線の違いから、中和点のpH が異なることを知る。また、それは酸や塩基の組合せ
によるものであることを復習する。
・酸や塩基の組合せによって指示薬の使い分け方を復習する。
(3)デジタル教材の活用ねらい
通常滴定曲線を描く場合は、ビュレットで標準液を滴下しそのときの滴下量とpH を測定しながら
グラフにプロットしていく。このとき、このとき同時に三つの操作しなければならない。かなり実験
に精通しているものでないと試料中に加えられた指示薬の色の変化まで気が回らない。しかし、この
デジタルコンテンツを使うと滴定曲線のシミュレートしながらそのときの指示薬の変化を同一画面で
確認できる。また、再確認しようとすれば「リプレー」も可能である。何度も「リプレー」を行うこ
とにより、指示薬の色の変化と中和点および滴定曲線との関係を生徒が納得のいくまで再確認するの
が今回のねらいである。
(4)前時の学習指導案
時間
導 入
学習活動
教師の支援
使用する教材
・今日の目標を確認
・プリントを配布する。
プリント
・「中和」とは何か復習する。
・演習問題の要点を番書
する
展
開
・酸中の水素イオンの物質量と塩基
・cmol/l の a 価の酸が v
中の水酸化物イオンの物質量が等
ml ある時その中に含まれ
しいときの中和が完結することを
る水素イオンの物質量は
確認する。
いくらかを考える場を設
・中和滴定の問題演習をする。
置する。
・気体と液体の中和反応の量的関係
・中和はどのような条件
を扱う(二酸化炭素と水酸化バリウ
のとき完結するかを考え
ム水溶液)問題演習を行う。
る場を設定する。
まとめ
・酸と塩基が液体どうしの組み合わ
プリント
プリント
プリント
せ以外の場合でも中和の条件は
(酸中の水素イオンの物質量)=(塩
基中の水酸化物イオンの物質量)
(5)本時の学習指導案
時間
導 入
学習活動
教師の支援
使用する教材
・今日の目標を確認
・プリントを配布する。
プリント
・「中和滴定と指示薬」の演習問題
・演習問題の要点を番書
を解く。
する
-2-
・中和における酸と塩基の量的関係
・中和における酸と塩基
プリント
を中和の量的関係を復習し、中和に
の量的関係を確認するた
Webコンテンツ「化学実験
要した標準液の体積を滴定曲線か
めに Web コンテンツを見
webコレクション」
ら求めなければならないことを知
る場を設定する。
(ID0080110830)
る。
・滴定曲線から中和に要
パワーポイント
・中和滴定曲線の違いから、中和点
した標準液の体積を求め
展
のpH が異なることを知る。また、 る場を設定する。
それは酸や塩基の組合せによるこ
開
とを知る。
・酸や塩基の組合せによって指示薬
・酸や塩基の組合せによ
Webコンテンツ「化学実験
の使い分け方をしなければならな
って指示薬の使い分け方
webコレクション」
いことを知る。
しなければならないこと
(ID0080110880)
確認するために Web コン
(ID0080110890)
テンツを見る場を設定す
(ID0080110900)
る。
(ID0080110910)
・例題を解くことを通して本時の内
容を確認する。
・中和滴定曲線の違いから、中和点
まとめ
のpH が異なり、それは酸や塩基
の組合せによる。
・酸や塩基の組合せによって指示薬
の使い分け方をする。
(5)授業のようす
本時の目標を確認した後、少し時間をとって問題演習をやらせた。その後、Web コンテンツ「化学
実験 web コレクション」(ID0080110830)を用いて、中和における酸と塩基の量的関係の復習を行っ
た。
cv
c' v'
a=
b
1000
1000
今回の演習問題では、上記の公式に代入するに際して中和に要した標準液の体積c’を滴定曲線のグ
ラフから読み取らなければならないことを生徒は知った。
それでは滴定曲線がない場合は指示薬を用いて中和の終点を知る。こ
のとき使用される指示薬は中和に使われる酸や塩基の組合せによって
決まるということを確認するために Web コンテンツ「化学実験 web
コレクション」(ID0080110880) (ID0080110890)
(ID0080110900) (ID0080110910)を使用した。このコンテンツは滴
定曲線をシミュレートしていくと同時に指示薬の色の変化を確認する
ことができるのである(図1)。リプレーを繰り返し行うことによって
図1
滴定曲線と見比べることにより指示薬がどのような色の変化をしたときに中和が完了したかを確認さ
-3-
せることができた。また、このコンテンツの中には不適当な指示薬を用いた実験も採用されているた
め、生徒には指示薬の選択が重要であるということを再確認できたと思う。
(6)授業評価
①教員による評価
今回、復習を兼ねた演習の授業であえてデジタルコンテンツを使ってみた。通常の授業では可
能な限り実験を行うというスタンツをとっている。しかし、復習となると再度同一実験を行うこ
とができない。そこで登場するのがデジタルコンテンツである。生徒は一度生徒実験等で体験し
ているため理解が早い。また、デジタルコンテンツは一つの映像を教師と生徒で共有するため説
明がしやすい。実験器具等もクローズアップされているので変化が見やすい。何と言ってもデジ
タルコンテンツの良いところは実験を途中で止めることができるたり、何度も同じところを再生
して確認できたりするところである。
②生徒の評価
アンケート結果をもとに三つの観点で分析をしてみたい。ア.授業に役立ったか。イ.内容は
理解できたか。ウ.デジタル教材を使った授業をどう思うか。それぞれの結果を図2から図4のグ
ラフにまとめた。
ア.授業に役立ったか(図2)
図2のグラフを見てわかるように、「ふだ
学習への役立ち
ん見ることのできない映像がたくさんあって
100%
学習に役立った」(Q6)という問いに対して、
そう思わない
あまりそう思わない
どちらでもない
少しそう思う
そう思う
80%
9割近くの生徒がデジタル教材は授業に役に
60%
立つと思っている。また、「デジタル教材」
40%
を使うと、授業の内容にとても興味がもて
20%
た。」(Q1)という問いに関しても6割近くが興
0%
Q1
味を持てたと答えている。しかし、「自分の
Q2
Q6
学習していることもっと調べてみたいと思っ
た」(Q2)の問に対しては残念なことに9割の
図2
生徒が“どちらでもない”“あまりそう思わない” と答えている。デジタルコンテンツでは学習
意欲を駆り立てるものが希薄なのか。それても今回は生徒自信が納得のいくまでコンテンツを扱
わなかったためなのか。一度生徒主体でコンテンツを扱わせる授業を行う必要性を感じた。
イ)学習内容の理解(図3)
学習内容の理解に関しては Q3(「デジタ
学習内容の理解
ル教材」使うと、授業の内容をよく理解す
ることができた。)と Q7(映像や3Dで表
現してあったので内容がよくわかった)の
結果からわかるように8割から9割の生徒
100%
80%
そう思わない
あまりそう思わない
どちらでもない
少しそう思う
そう思う
60%
40%
が肯定的に答えており、学習内容の理解に
20%
対してデジタル教材が有効であるというこ
0%
Q3
-4-
Q4
Q7
とが伺える。しかし、Q4(「デジタル教材」使うと、たくさんの内容を学ぶことができた。)の結果から半数
の生徒がたくさんの内容を学ぶこと
図3
ができなかった。やや否定的に答えている。これも、生徒自信がデジタルコンテンツを納得のいくまで扱うこ
とができなかったからではなかろうか。
(ウ)デジタル教材を使った授業評価(図4)
。
デジタル教材を使った授業評価
前述の Q3、Q7 でわかるようにデジタル教材
を用いると授業内容が理解しやすいという結
果が得られた。それを反映して「次の時間も
100%
そう思わない
あまりそう思わない
どちらでもない
少しそう思う
そう思う
80%
60%
「デジタル教材」を使った授業をして欲しい」
40%
という問い(Q5)に対して肯定的に答えた生
20%
徒は7割にも上る。ここにもデジタル教材の
0%
Q5
有効性の一端が伺える。
Q8
Q9
Q10 Q11
「デジタル教材を多用すると情報量が多く
なる生徒は消化不良を起こす」という昨年
図4
の反省を踏まえて今回は1時間に一つのコンテンツに絞った。その結果アンケートでも画像・動画
の量は適量だったと答えた生徒が6割ほど占めた(Q10)。
また、今回は10名の少人数クラスで授業実践を行った。従ってスマートボードの近くでデジタ
ルコンテンツを見ていることになる。その結果、アンケートでも7割の生徒が「デジタル教材に使
われている文字、図、映像は見やすかった。」と答えている(Q11)。一方、40名のクラスで授業を
行ったアンケート結果を見ると明らかに実験室の後ろに座っている生徒は「デジタル教材に使われ
ている文字、図、映像は見にくい」と答えている(約3割)
。このことからわかるようにスマートボ
ードのスクリーンの大きさでは実験室の後ろからでは見にくい。もっと大きなスクリーンが必要で
あるということがわかる。
(7)デジタル教材の評価
デジタル教材には動画、3D、アニメーション等が多く用いられている。そのため生徒に対する
動機付け、モデル提示、抽象的な概念を理解させる補助教材としてふさわしいものであると考える。
従って、「デジタル教材は授業に役立つ」という多くの生徒の指示を得たのである。しかしながら、
スクリーンが小さい。教室が明るい。等の教室設備が整っていないとデジタル教材の良さが十二分
に発揮されてないと感じた。
(8)授業改善点
昨年も今年もデジタル教材を教師主導の一斉授業形式で行った。教師側とすれば教師のペースで
授業を進めることができるという利点がある。しかしながら生徒側に立てば「もう少し自分のペー
スでコンテンツを見たい。しかしそれができない。」「自分で関連のあることがらを見ようとして
もそればできない。」という不満点が残るような気がする。それが「自分で学習していることをも
っと調べたい」という意欲が湧かないというアンケート結果(Q2)に結びついたのではなかろうか。
生徒主体にデジタル教材を使わせる授業形態も必要であると感じた。
3
デジタル教材活用の展望と課題
-5-
上でも述べたが、デジタル教材は動画、3D、アニメーション等が多く用いられている。そのため
生徒の動機付け、モデル提示そして抽象的な概念を理解させるのにふさわしい教材であると考える。
従って、生徒が理解しがたい分野。たとえば微視的なもの。巨視的なもの。抽象的なものを扱う単元
などはデジタル教材化をもっと図るべきだと考える。まだまだコンテンツの数が少ない。
しかしながら問題点、課題もいくつかあると思う。
・デジタル教材の多用、乱用は禁物:デジタル教材に含まれる情報量が多いため多用すると生徒は
消化不良を起こしてしまう。また、授業にメリハリがなくなりただ単にコンテンツを見て終わりに
なってしまう。また、板書も行いにくくなる。授業者は授業のどのタイミングでどのデジタル教材
を使うのかということを十分考える必要がある。
・デジタル教材に依存しすぎは禁物:なんでもかんでもデジタル教材に頼るのはよくないと思う。
理科で言えば、可能な限り実験・観察を行わせる必要がある。実物に勝るものはないと考える。し
かし、危険な実験、学校では行うことが困難な実験こそデジタル教材にふさわしいコンテンツであ
る。
・黒板との併用:黒板を用いる授業では、板書しながら説明を行うため生徒と間を計りながら授業
を行うのは容易である。また、生徒にとっても授業を聞きながらメモを取ることができるので頭を
活性化することができるため知識等の定着も可能である。しかしながらデジタル教材はどちらかと
いうと一方的に流れてしまう傾向があるため、生徒はメモを取ることができずに終わってしまいが
ちである。これでは知識の定着も疑わしくなる。そこで、デジタル教材と黒板を用いた授業の併用
を考える必要がある。
・施設設備の充実:普通教室にはパソコンがない。プロジェクタがない。スクリーンがない。とい
うのが現状である。デジタル教材を使うに当たっては情報教室から以上の3点を調達し授業開始前
の10分間でセッティングし、終了後の10分間で片付けなければならない。まして授業が連続で
入っておれば至難の業である。また、普通教室は暗幕がないので明るすぎて映像が見にくいという
難点もある。また、黒板との併用を考えたときスクリーンをどこにおくのか。また、すべての生徒
が見やすくするためには40人もの生徒が入っている狭い普通教室のどこにスクリーン、プロジェ
クタを置くのが最適か。問題はいくつもある。これらの問題を解決していくためにも施設・設備の
充実も考えて行かなければならない。
・他教科での利用促進:デジタル教材は理科だけでなく、地歴・公民、国語、数学等の他教科での
利用促進を考えるべきである。そのためにも他教科のデジタルコンテンツの更なる開発が望まれる。
4
その他
授業でデジタル教材を使おうとすれば、多数あるコンテンツの中から自分の授業内容にあうものを
探し、あればすべてに目を通し、どの部分をどのように使うかを考えなければならない。実はデジタ
ル教材を用いた授業を行う場合、この過程が一番大変で時間を要する部分である。せめて検索が早け
ればいいのであるが、なかなか思うようにヒットしてくれない。そこで、検索機能の充実を要望した
い。
-6-