ナノ材料リスク評価書の作成(要約版)

NEDO プロジェクト「ナノ材料特性評価手法の研究開発」
ナノ材料リスク評価書の作成(要約版)
はじめに
本プロジェクトでは、試験試料の分散調製方法、 気中や液中での粒子の形状や大きさに
関する測定技術、動物試験を中心とした有害性試験手法、気中における暴露評価手法を確
立し、それらの 手順をマニュアルとしてまとめ 公表するとともに、カーボンナノチュー
ブ(CNT)、ナノスケール二酸化チタン、フラーレン(C60)という 3 種類の代表的なナノ
材料について「リスク評価書」を公表しました。有害性試験や気中計測などを単独で実施
するのではなく、多くの要素技術をリスク評価を目的として改良あるいは新規開発し、特
に、 試験試料の形態やサイズの測定(キャラクタリゼーション)に力を入れたことが大き
な特色になっています。
有害性試験の考え方
一次粒子がナノスケールであっても通常より大きな凝集体を形成します。しかし、本プ
ロジェクトでの有害性試験では、二次粒子でもナノスケールであるように分散調製した試
料を使用しました。これは、ナノスケールであるからこそ発現するかもしれない新たなリ
スクを検出するためです。また、暴露経路としては吸入を対象とし、評価エンドポイント
は、肺での炎症と発がんを重点的に考察しました。暴露後の観察期間において、炎症の持
続的な亢進がないことをもって「有害影響なし」と定義しました。炎症は、病理組織学的
観察を中心に、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症細胞やバイオマーカーも参考にしまし
た。また、発がんについては、前がん病変が観察されないこと、気管内投与後長期間の観
察を行いがんが見られないこと、遺伝毒性試験で陰性であることを確認するとともに、許
容暴露濃度を時限のものとすることなど、慎重に対応しています。
作業環境での許容暴露濃度
有害性評価の結果、3 種類のナノ材料について、作業環境における許容暴露濃度を、時限
付き(PL)の値として導出しました(表1)。CNT については、多層 CNT と単層 CNT を
区別せずに、より低い値であった単層 CNT についての値を CNT 全体の許容暴露濃度とし
ました。許容暴露濃度 (PL: period limited)とは、科学的知見が早いスピードで蓄積されて
いくことを見越して、今後 10 年程度のうちに見直すことを前提とすることで、15 年程度の
亜慢性の暴露期間を想定した許容暴露濃度です。これは、生態系の管理などにすでに適用
されている、順応的管理という考え方に基づいています。
表1
作業環境における許容暴露濃度(PL)の値
ナノ材料
許容暴露濃度
(PL:時限)
備考
カーボンナノチューブ
(CNT)
0.03 mg/m3
比表面積約1000 m2/gの単層CNT
について得られた値
フラーレン
(C60)
0.39 mg/m3
幾何平均96 nm (幾何標準偏差
2.0)のC60粒子について
二酸化チタン
(TiO2)
0.6 mg/m3
TiO2ナノ材料の中でも重量当たり
の有害性が比較的強いと考えられ
るEvonik Degussa社製P25の結果
暴露評価のアプローチ
ナノ材料への暴露評価については、現場調査と模擬排出試験のデータを組み合わせて考
察しました。データは、プロジェクトにおいて集めたデータだけでなく、文献情報の試験
結果も利用しました。実際に利用されている材料については現場調査が有効ですが、利用
に至っていない材料も含め、多種多様なナノ材料の評価を行うためには模擬排出試験が必
要になります。また、現場調査では、特に炭素系ナノ粒子の場合、バックグラウンドの影
響を排除することが非常に難しくなります。
リスク評価の実践
リスク評価は「ハザード比」を用いて実施しました。ハザード比とは、作業者の推定暴
露濃度を許容暴露濃度で割った値です。例えば CNT については、既存文献と本プロジェク
トでの実測データを用いてハザード比を計算したところ、おおよそ 0.1~10 でした。ただ
し、作業者の推定暴露濃度は、暴露管理対策無しの場合の値であり、通常は部屋の管理や
個人用保護具が使用されている場合が多いため、実際の暴露濃度よりも大きな値となるこ
とに注意が必要です。表 2 は CNT についての粒径区分ごとのハザード比を推計した例です。
許容暴露濃度は、粒径の違いによる肺胞沈着率の違いを考慮したものになっています。
表 2 粒径区分別のリスク評価(CNT)
材料
工程
製造工
場
合成、
Lee et al. 秤量、
2010
袋詰め、
分散
総粉じん、
吸入性粉じん
MWCNT
CVD
MWCNT
CVD
鷹屋ら
2010
製造工
場:袋
詰め
(手作
業)
粒径区分
0.01<Dm<0.1
31-286
[µg/m3]
作業者の推定
暴露濃度 A
0.00058
-0.0054
許容暴露
濃度 B
ハザード比
A/B
31
0.000019
-0.00017
0.1<Dm, Da<1
2.7-25
90
0.030-0.28
1<Da<4
13-118
71
0.18-1.7
合計
63 [µg/m3]
(元素状炭素
濃度)
0.21-1.9
0.01<Dm<0.1
0.0012
31
0.000039
0.1<Dm, Da<1
1<Da<4
5.5
90
0.061
26
71
0.37
合計
Dm:移動度径
Da:空気力学径
0.43
粒径による沈着
率の違いを考慮