カーボンナノチューブの分散と分離精製

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総 説
J. Jpn. Soc. Colour Mater., 86〔7〕,252 – 259(2013)
カーボンナノチューブの分散と分離精製
藤 ヶ 谷 剛 彦 *,†
* 九州大学大学院工学研究院応用化学部門 福岡県福岡市西区元岡 744 番地(〒 819-0395)
† Corresponding Author, E-mail: [email protected]
(2013 年 1 月 7 日受付; 2013 年 3 月 1 日受理)
要 旨
機能性インクとして高い電気伝導率を有するカーボンナノチューブ(Carbon Nanotubes : CNT)が注目されている。CNT は強く凝集
構造を形成しやすくインク調整が難しい。また,さまざまな長さや性質をもつ CNT の混合物であるため,たとえばエレクトロニクス
用インクとしてはデバイス特性のバラつきを抑える意味で分離や精製が必要である。本報告では,分散や分離・精製のコンセプトを示
しつつ,どのような場面で使用が検討されているかについて紹介する。
キーワード:カーボンナノチューブ,分散,分離,可溶化剤,物理吸着
を「カイラリティ」と呼んでいる。カイラリティの違いにより,
1.カーボンナノチューブの分散
1.1
電気物性,光学物性が少しずつ異なるためにベクトル表示(n,
カーボンナノチューブとは
m)を用いて区別している。図-2 のように SWNT の展開図にお
カーボンナノチューブ(Carbon Nanotubes :以下 CNT)はグ
いて原点(基準点)とどの点を重ねるように丸めるかにより一
ラフェンシートを円筒状に丸めた構造をしている。円筒が一本
義的に SWNT のタイプを決める方法である。図-2 のように a ベ
のみからなる CNT を単層カーボンナノチューブ(Single-walled
クトルと b ベクトルを定義し,原点と重なる点を a,b の合成ベ
Carbon Nanotubes ;以下 SWNT),直径の異なる 2 本の SWNT が
クトルで表現する。原点と重ねる点が a 方向に n,b 方向に m 進
同軸で重なった CNT を 2 層カーボンナノチューブ(Double-
んだ点だったとき,その SWNT を(n,m)SWNT と二つの数字
walled Carbon Nanotube ;以下 DWNT),多層に重なった CNT を
列を用いて表記する。この(n,m)をカイラル指数と呼ぶ。
多層カーボンナノチューブ(MWNT)と呼び分けている(図-
(n,m)は SWNT の物性を判断する場合に便利で,たとえば n-
1)。SWNT は直径 0.5 ∼数 nm とかなり細いが,MWNT だと 100
m が 3 の倍数のとき SWNT は金属性を示し,それ以外は半導体
nm に及ぶものがある。CNT の合成後の長さは数十 nm から長い
性を示すことがわかっている。また,幾何学的な特徴から(n,
ものでは数 mm に及ぶものがあり,合成法によりさまざまな長
n)となる SWNT をアームチェア型,(n,0)と表記される
さ分布をもつ混合物として得られる。
SWNT をジグザグ型,それ以外の SWNT をらせん型(キラル
SWNT にはさまざまな巻き方のタイプが存在し,この巻き方
型)と呼び分けている。
1.2
カーボンナノチューブの諸物性
CNT は直径数ナノメートルでありながら,長さが数マイクロ
メートルに及ぶ高アスペクト比(∼数千)をもち,sp2 カーボン
の強固な化学結合のみから構成されるユニークな構造により金
属材料も凌駕する非常に優れた機械的強度や,電気伝導度,熱
図-1 CNT の構造(左)SWNT,
(中央)DWNT,
(右)MWNT
〔氏名〕 ふじがや つよひこ
〔現職〕 九州大学大学院工学研究院応用化学部門
〔趣味〕 植物栽培
〔経歴〕 2005 年 3 月東京大学大学院博士課程修了
(博士(工学))。2005 年 4 月∼ 2006 年 7 月米
国ノースウェスタン大学博士研究員。2006
年 8 月∼ 2007 年 6 月九州大学学術研究員。
2007 年 7 月∼ 2011 年 3 月九州大学高等研究
院 特任准教授。2011 年 4 月∼ 九州大学大学
院工学研究科 准教授(現職)。
図-2 SWNT におけるカイラリティの定義
© 2013 Journal of the Japan Society of Colour Material
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