7 月 10 日 愛知県中島郡祖父江町島本新田 虫送り 午後 3 時頃から島本

7 月 10 日 愛知県中島郡祖父江町島本新田 虫送り
午後 3 時頃から島本新田の高木正一さん宅で藁馬を送る。島本新田は名古屋から津島へ出て、津島から尾西線で
森上駅に出た方が便利である。
島本字内 13 戸の家が毎年 2 戸づゝ交替で順番を定めて虫送りをする。「虫祭り」ともいう。
たとえ雨でも 7 月 10 日に定っている。もとは島本を「柿ノ木」といった柿ノ木島と書いたものがある。
当日は当番の家に 13 戸のものが集って実盛様を造る。島内のものでもこの 13 戸以外の家は関係しない。最後に
実盛様を焼捨てる明神宮も 13 戸のものが祀っている。
3:30p.m、高木家の門先で太鼓を打って、13 戸のものに集って貰う合図をする。高木家では門先の庭に蓆を敷い
て製作場に充てる。
実盛様の馬の耳は枇杷の葉、馬の尾と立髪は稲苗の青枯を用いる。睾丸は茄子、その他は小麦の藁(麦稈)。結え
る部分は稲藁で縄を綯って括る。実盛(シャネモリ)さんと馬とは別々に作る。13 人で造るのであるが、当番の高
木さんはその間に会計報告をやったり、あとの宴会の用意の方に気を配ったり仲々忙しい。
出来上がると庭の片隅に提灯を立てる。高張の提灯である。実盛さんは笠をかむり、太刀(青竹)を腰にさし、
手綱をとって馬上の人となる。この馬を長い太竹の棒にさす。今年は一寸大きすぎたという。馬諸共高さ 1.3m位。
提灯と並べて立てる。13 軒の家の人は出来ると 1 度皆家に帰る。
その間に屑藁など片付けて掃除をし、再び庭に蓆を敷く。蓆の上に長板の机を並べて、アルミの皿を並べ、待つ
うちに 13 戸の人達は子供を連れてやって来る。13 戸は夫々これから始まる夜宴の酒の肴を持ち寄るのである。重箱
もあれば大盛鉢を風呂敷で包んで来るものもある。牛旁、胡瓜のあえもの、にしめ、揚げもの、スパゲティーも入
っている。
高張提灯に火が入り、実盛さんの澄した顔がのぞいている。下で賑やかな野宴がいつ果てるとも知れず、夕闇の
せまって来た庭の*の花が白々と映える。7:00p.m頃所望して野廻りに出て貰う。先導は 13 本の松明、村外れの
畦道へ入る所で火を点ける。鐘と太鼓が入り、高木さんが実盛さんを担いで行く。松明は下向けにして道傍の田の
畦の草を焼いて行くのである。鐘は相当大きい。担ひ棒で 2 人で舁いで行く。夜空に松明の煙が流れ、実盛さんは
その中をけむたそうに行く。
村中の田の畦を 1 巡したあと、実盛さんは神明宮へ送り込み、そこで道傍で前以って集めてある藁屑と共に実盛
さんは焼いてしまう。
実盛さんは出現しないが、松明をかざして、鐘を打ちつゝ田の周囲を巡る行事は、この辺一帯にあるらしい。実
盛さんの野宴中にも隣村から虫送りの鐘の音は聞えて来た。