第5章 1 避難所 避難所の整備 天草市では、既存の避難所については、必要に応じて可能な限り、建物の耐震化を進めると ともに、できる限り段差をなくすなどのユニバーサルデザインに沿った整備に努める。また、 停電等の事態に備えた熱源の多元化に努めるものとする。 しかし、要援護者については、新潟県中越地震の際にも「目の不自由な方が避難所の中の自 分のスペースに辿り着くだけで非常な困難を要した」事例や「車の中やビニールハウスの中で 寝泊りすることにより、過度のストレスが生じた」事例、或いは「子どもが夜中に大きな声で 泣くため、他の避難者に迷惑をかけないために避難所の外で過ごした」等の事例が報告されて おり、このような状況を避けるため、避難者の状況に応じた福祉避難所を一般の方々のものと は別に設置する必要がある。 そのため、天草市では、既存の避難所の別室を福祉避難所として活用することや新たに福祉 避難所になり得る施設の整備及び選定に努めるものとする。また、地域において公共施設等で 福祉避難所の整備等ができない場合については、民間の施設と協定を締結し、福祉避難所とす るなどの措置を講じるものとする。 なお、福祉避難所の整備にあたっては、福祉関係者の協力も得つつ、避難場所における介護・ ケアなどの支援活動を充実させるため広域的な派遣体制作りも含めた人員確保や、障害者等の 要援護者の特性に応じた対応を検討することとする。 2 物資の備蓄・受入・保管 災害時の備蓄にあたっては、天草市地域防災計画に基づき、整備するものとする。また、整 備する際には、災害時要援護者に配慮することとし、粉ミルクなどの非常食や乳児・大人用の 紙おむつ、簡易トイレなどの物資の備蓄に努めるものとする。 また、第1章の5「要援護者に必要なものと技術(例)」でも述べているように、要援護者特有 の生活必需品や補装具、日常生活用具等は、多種多様であり、市等が備蓄できないものが多い うえ、供給ルートも限定されているものが多くあるため、要援護者等がふだんから余裕をもっ て用意しておくとともに、市では、関係する業界等と連絡を密にし、障害者団体などと連携を 図って、流通ルートを確認しておくことが必要となる。その際、受入後速やかに要援護者に配 布する必要があるため、受入態勢の整備に努めるものとする。 - 35 - 3 情報伝達体制の確保 避難所において、災害時要援護者に対する物資の供給場所や供給方法などの避難所内部での 情報提供は、拡声器等音声による情報提供と併せて、可能な限り掲示やチラシ等文字による情 報提供も実施し、情報が伝わらないことのないよう十分配慮するものとする。また、必要な場 合は地域支援者等に情報伝達を依頼するものとする。 4 生活支援 避難所生活を送るうえでは、暑さ寒さ対策、カーテンや間仕切り等によるプライバシーの確 保、障害者向けのトイレやポータブルトイレ等の確保、介護ボランティア等の配置に努める。 なお、対象者別に避難所運営における配慮事項を次に記述する。 【要援護者別の避難所運営における配慮事項】 要援護者別 高齢者 配慮事項 ・高齢者は、不便な避難生活で急速に活動力が低下し、寝たきり状態にな りやすいため、健康状態に十分配慮するとともに、可能な限り運動でき るスペースを確保する。 ・認知症高齢者は、急激な環境変化で精神症状や問題行動が出やすく、認 知症も進行しやすいため、生活指導、機能訓練等を行い、精神的な安定 を図る。 ・トイレに近い場所に、避難スペースを設ける。 ・おむつをしている方のために、おむつ交換の場所を別に設ける。 視覚障害者 ・仮設トイレを屋外に設置する場合は、壁伝いに行くことができる場所に 設置する等、移動が容易にできるよう配慮する。 聴覚障害者 ・伝達事項は紙に書いて伝える。 言語障害者 ・手話通訳者、要約筆記者等を確保するよう努める。 肢体不自由者 ・車いすが通れる通路を確保する。 内部障害者 ・医療機関等の協力により巡回診察を行うほか、定期的な治療の継続のた めの移送サービスを実施する。 ・医療器材の消毒や交換等のため、清潔な治療スペースを設ける。 知的障害者 ・環境の変化を理解できずに気持ちが混乱したり、精神的に不安定になる 場合があるため、気持ちを落ち着かせるよう努める。 - 36 - 要援護者別 配慮事項 精神障害者 ・孤立することがないよう、知人や仲間と一緒に生活できるよう配慮する。 乳幼児とその家族 ・乳幼児のためのベビーベッドを用意する。 ・退行現象、夜泣き、不眠、チックなどの症状に留意し、精神的安定が図 れるよう配慮する。 ・乳児に対して、ミルク用の湯、哺乳瓶の清潔、沐浴の手だての確保等に 留意する。 外国人 ・通訳ボランティアを十分確保するよう努める。 ・掲示物については、可能な限り図やイラストを使って、分かりやすい表 示に努める。 5 メンタルヘルスケア 高齢者などの災害時要援護者は、避難所などにおける慣れない避難生活が続くことにより疲 労やストレスが蓄積し、最悪の場合、死に至るケースも考えられる。このため、避難所におい て、精神科医師や心理カウンセラー、精神保健福祉士、保健師等の協力を得て、メンタルヘル スケアを実施することは非常に重要となる。 なお、避難施設等においては、災害時要援護者ごとのストレス反応の特徴等に配慮して対応 する必要がある。 区分 ストレス反応の特徴 妊産婦 妊婦:妊娠中の異常や胎児の発育につい 過度に心配しないように、周囲から声か ての不安を感じやすくなる。流産や早産 けを行う。早めに母子の健康チェックの をしやすくなる。 ための受診を勧める。腹圧のかかる仕事 産婦:産後の回復が遅れ、出血が続く。 など重労働は控えるように配慮する。物 授乳困難により育児についての不安が生 資の入手困難からくる育児不安を取り除 じる。神経過敏になりやすい。 くよう配慮する。 情緒的に不安定になる。赤ちゃん返り等 初めに母親や家族の不安をやわらげるこ の退行現象がみられる。夜泣きが激しく とに努める。抱きしめたり、頬ずりした なるなど暗闇等への恐怖がみられる。 りスキンシップをとる。会話をしたり、 乳幼児 対 応 一緒に遊ぶ時間を作る。遊ぶことができ る環境や遊具を確保する。 - 37 - 区分 ストレス反応の特徴 対 応 子ども ストレス反応の表現方法はさまざまな形 保護者自身の安定を図ることが必要であ をとる。現状を理解しようとさまざまな る。接触を多くして、自分の気持ちを表 質問をして困らせる。言葉で表現できな 現できるように配慮する。また、安心感 い場合は、手がかかる行動で示す。不安 を持てるように配慮する。遊びや手伝い がすぐに外に現れず、後になって問題が など活動できる機会や静かな落ち着ける 生じることがある。 環境を確保する。肉親の死を経験した子 どもに対しては、死の受容を少しずつ進 めていく。 高齢者 月日・季節・場所等の見当がつかない。 さまざまな不安に対して情報を提供し、 生き残ったことについて、強い罪悪感が 安心させる。環境の急変による混乱に対 生じる。誰か一緒にいないと孤独感を感 して、適切に対応する。生活にはりあい じる。絶望的になり、周囲の人からの援 を取り戻せるように援助する。小さな変 助を拒む。 化も見逃さずに健康状態を観察する。プ ライバシーの保護に気をつける。本人の 気持ちを尊重する。 障害者 生活環境の変化と社会の混乱により健常 コミュニケーションを図り障害のある人 者の何倍ものストレスを受ける。情報の の必要としていることや心境を理解す 入手や伝達が難しいため、支援物資を受 る。まず、何よりも正確な情報を提供す け取れないなど援助が十分に受けられな る。実際的な援助活動を通して生活環境 い。介助者と離れることにより移動、食 を改善していくことにより不安の軽減を 事、排泄等日常生活に支障をきたす。戸 図る。 外に危険箇所が増え、外出や通院が困難 (精神障害) になる。補装具や日常生活用具等の紛失、 「神経」とか「精神」という言葉は使用 破損等によって日常生活に支障をきた しない。話しはじっくり聴く。他人の目 す。 を気にしないで服薬できる場所を工夫す る。睡眠が十分とれるように配慮する。 現実離れした訴えも受け止める。 6 精神障害者・難病患者・人工透析患者への支援 精神障害者とは、統合失調症、そううつ病、うつ病、てんかん及びアルコール依存症等のさ - 38 - まざまな精神疾患により、日常生活や社会生活のしづらさを抱えている人をいう。適切な治療・ 服薬と周囲の配慮があれば症状をコントロールすることができ、多くの精神障害者は自分で判 断し、行動することができる。しかし、ストレスに弱く、疲れやすかったり、対人関係やコミ ュニケーションが苦手な人が多く、災害発生時には、精神的動揺が激しくなる場合もあるため、 気持ちを落ち着かせるようにすることが重要となる。 難病患者については、外見からは、難病患者であることが分からないこともある。しかし、 自力歩行や素早い避難行動が困難であったり、また医薬品を携帯したり、人工呼吸器の使用な どの医療的援助が必要な場合もあるため、難病患者の支援に何が必要であるかを迅速に把握し、 その状況に応じた対応をすることが必要である。 透析患者は、週に2∼3回、1回4∼5時間程度の人工透析を受けることによって生命を維 持している。緊急期における外傷患者の措置が一段落する頃を見計らい、慢性腎不全による透 析患者の治療の手配・搬送手続きなどを行う。 医療施設が罹災する一方で、入院を必要とする患者が通常以上に増加する可能性もあるため、 病状増悪や再発の防止に努める。また、人工透析が可能な医療機関が限られることから、入院 については緊急性の高い患者から処置したり、福祉避難所への移送などの適切な対応が必要と なる。 7 社会福祉施設等の災害時要援護者の受け入れ態勢の整備 天草市は、要援護者と健常者を一般の避難所及び福祉避難所に収容することが著しく不都合 であると判断した場合、要援護者の社会福祉施設等への移送を検討することとする。そのため、 市はあらかじめ社会福祉施設等の管理者と「収容する際の用件」、「費用負担」等を定めた協定 を締結するよう努める。 ただし、施設の設備、スタッフの状況によって、施設ごとに受け入れ余力に差があると考え られるため、平常時から施設の管理者等と災害発生時の緊急受け入れについて、協議を重ねて おくことが必要となる。 - 39 -
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