変形

Chapter 7
変形
Abstract この章には、外力荷重による梁・ラーメン・トラス構造の変形を求める方法について解説
する。梁とラーメン構造には、曲げモーメントによる変形が支配となっているため、この二種類の構
造物には曲げモーメントによる変形のみを考える。方法としては、弾性曲線式、モールの定理、仮想
仕事法などがある。弾性曲線式は、梁のみに適応できる。モールの定理も梁のための方法だが、曲
げモーメントが複雑な場合にも適応できる。仮想仕事法は一般性のある方法で、どんな構造にも使
える。
7.1 弾性曲線式
ρ
dθ
M x (+)
x
M x (+)
M x (+)
M x (+)
θ (+)
y
v(+)
θ ( −)
x
y
(a) ᱱ䛾᭤䛢ኚᙧ
(b) ṇ᪉ྥ䛾ᐃ⩏
Fig. 7.1 梁の曲げ変形
梁の曲げによる変形は図 7.1 に示す。また、図中の座標系に対応して、各パラメータの正方向の定
義は図 7.1(b) に示す。
• y の正方向は、たわみ(鉛直方向の変位)v の正方向とする。
• x 軸との角度は時計回り方向を、たわみ角(回転各)θ の正方向とする。
• 梁を y の正方向に膨らませる方向は、曲げモーメント Mx の正方向とする。
第 6 章で、曲げモーメントによる垂直応力を求めるには、曲げモーメントと曲率 φ の関係式が
あった。
d2v
dθ
(7.1)
Mx = EI φ = −EI 2 = −EI
dx
dx
上式を直すと、
Mx
d2v dθ
=
=−
dx2
dx
EI
(7.2)
となり、さらに積分すると
49
7 変形
50
Mx
dx +C1
EI
θ =−
v=
θ dx = −
Mx
dx)dx +C1 x +C2
EI
(
(7.3)
となる。ここで、C1 と C2 は未定の積分定数であり、境界条件によって決める。
7.1.1 曲げモーメントの式は一つのみの場合
M x = − P( L − x) P
A
B
A
x
L
L
y
PL3
P vB =
3EI
x
PL2
θB =
B
2 EI
y
(a) ᭤䛢䝰䞊䝯䞁䝖ศᕸᅗ
(b) ኚᙧᅗ
Fig. 7.2 片持梁の曲げ変形
例題としては、図 7.2 の片持梁を考える。曲げモーメントの分布は
Mx = −P(L − x)
(7.4)
であり、式 (7.3) の積分式によっては、
θ (x) = −
v(x) =
x2
P
Mx
P(L − x)
dx +C1 =
dx +C1 =
(Lx − ) +C1
EI
EI
EI
2
P x 2 x3
(L − ) +C1 x +C2
θ dx =
EI 2
6
(7.5)
が分かる。ここで、未知数 C1 と C2 という二つがあるため、二つの条件式が必要となる。それは、左
の固定端 (x = 0) におけるたわみおよびたわみ角はゼロということが利用できる。したがって、
θ (0) = C1 = 0 =⇒ C1 = 0
v(0) = C2 =⇒ C2 = 0
(7.6)
であり、式 (7.5) に代入すると、片持梁のたわみ角およびたわみは以下のようになる。
θ (x) =
x2
P x2 x3
P
(Lx − ), v(x) =
(L − )
EI
2
EI 2
6
(7.7)
その変形図は図 7.2(b) と (c) に示す。自由端 (x = L) のたわみ角とたわみは
θB = θ (L) =
PL3
PL2
, vB = v(L) =
2EI
3EI
(7.8)
7.1.2 曲げモーメントの式は多数の場合
曲げモーメントは一つの式で表せない場合には、弾性曲線式による変形計算は少しややこしくなる。
例えば、図 7.3 の単純梁の曲げモーメント分布は以下のようになる。
7.1 弾性曲線式
51
P
B
A
M 1 = Px / 2
y
C
B
3
θ B = 0 v = PL
B
48 EI
M 2 = P( L − x) / 2
L/2
P
A
x
L/2
y
(a) ᭤䛢䝰䞊䝯䞁䝖ศᕸᅗ
C
x
(b) ኚᙧᅗ
Fig. 7.3 単純梁の曲げ変形
0≤x≤
L
:
2
L
≤x≤L:
2
P
x
2
P
M2 = (L − x)
2
M1 =
(7.9)
弾性曲線式 (7.3) をそれぞれの空間に対して適用すると
θ1 (x) = −
v1 (x) =
θ2 (x) = −
v2 (x) =
M1
dx +C1 = −
EI
θ1 dx +C1 x +C2 =
M2
dx +C3 = −
EI
θ2 dx +C1 x +C2 =
Px
Px2
dx +C1 = −
+C1
2EI
4EI
Px3
Px2
dx +C1 x +C2 = −
+C1 x +C2
−
4EI
12EI
P(L − x)
P
dx +C3 = −
(2Lx − x2 ) +C3
2EI
4EI
P
P
(2Lx − x2 ) +C3 x +C4 = −
(3Lx2 − x3 ) +C3 x +C4(7.10)
−
4EI
12EI
ここで、C1 ,C2 ,C3 ,C4 という四つの未知数があるため、四つの(境界)条件式が必要となる。それは、
両端部 (x = 0, x = L) においてのたわみがゼロ、および B 点 (x = L/2) における変形の連続条件によっ
ては、以下の未知数に関する連立方程式が書ける。
v1 (0) = C2 = 0 =⇒ C2 = 0
PL3
+ LC3 +C4 = 0
6EI
6EI
L
PL3
5PL3 L
PL3
+ C1 +C2 = v2 (L/2) = −
+ C3 +C4 =⇒ =
+ LC1 + 2C2 − LC3 − 2C4 = 0
v1 (L/2) = −
96EI 2
96EI 2
12EI
PL2
3PL2
PL2
+C1 = θ2 (L/2) = −
+C3 =⇒ =
+C1 −C3 = 0
θ1 (L/2) = −
(7.11)
16EI
16EI
8EI
v2 (0) = −
PL3
+ LC3 +C4 = 0 =⇒ −
上記の連立方程式を解くと、未知数は
C1 =
PL2
3PL2
−PL3
, C2 = 0, C3 =
, C4 =
16EI
16EI
48EI
(7.12)
となり、単純梁のたわみ角とたわみ角は
0 ≤ x ≤ L/2 :
L/2 ≤ x ≤ L :
PL2
Px2
+
4EI 16EI
PL2
Px3
+
x
v1 (x) = −
12EI 16EI
P
3PL2
(2Lx − x2 ) +
θ2 (x) = −
4EI
16EI
PL3
P
3PL2
(3Lx2 − x3 ) +
x−
v2 (x) = −
12EI
16EI
48EI
θ1 (x) = −
となる。中央点 (x = L/2) のたわみ角とたわみは
(7.13)
7 変形
52
θB = θ1 (L/2) = θ2 (L/2) = 0, vB = v1 (L/2) = v2 (L/2) =
PL3
48EI
(7.14)
となる。上記の式から、以下の討論はできる。
1. たわみは正であるため、梁の中央点は y の正方向に変形することを意味する(物理的にも一致
する)。
2. 構造物および外力荷重は中央点を境界にしてミラー対称であり、中央点のたわみ角は両側にも同
じとならないとできないため、結局ゼロであることは、対称性からも分かる。
3. たわみ角はたわみの一回微分であるため、たわみ角はゼロとなる場合に、たわみは極限値を取る。
単純梁の中央点におけるたわみ角はゼロであるため、中央点のたわみは最大であることを実証し
ている。
7.2 モールの定理
前節の弾性曲線式による曲げ変形を求めるには、曲げモーメントは一つの式で表せない場合に、計算
はかなり複雑となっている。こういうケースに対して、この節では、たわみ、たわみ角および曲げ
モーメントの関係式は、第 5 章で習った M − Q 関係式との相似性に基づいて開発されたモールの定
理について説明する。
d2v
d
=
2
dx
dx
d
d 2 Mx
=
2
dx
dx
dv
dx
dMx
dx
=
Mx
dθ
=−
dx
EI
=
dQx
= −wx
dx
(7.15)
ここで、曲げモーメントの正方向は第 5 章に用いたものと反対なので、符号が違う。上の式によって
は、以下の相似関係は明らかである。
変位
v
力
⇐⇒ M¯x
θ
⇐⇒ Q¯x
Mx /(EI) ⇐⇒ w¯x
(7.16)
ここで、区別のため、力おける諸量に (¯·) をつけた。以上の相似性によって、変位を求める原問題を、
力を求める共役問題に変換できる。この場合、原問題の曲げモーメント分布 Mx と曲げ剛性 EI の比
を、共役問題の分布荷重 w¯x に変換する必要があり、さらに、原問題の解析モデルも変位および力の
境界条件の対応関係によって、共役問題の解析モデルに変換しないとできない。これで、力を求める
問題は、ここまでやってきたし、解法自体も変位問題より簡単である。
7.2.1 片持梁
図 7.2 の例題を考える。原問題と共役問題の解析モデルは対応関係によって以下のように変換する。
変位の境界条件
力の境界条件
原問題
共役問題
v(0) = 0
θ (0) = 0
=⇒
=⇒
M¯x (0) = 0
Q¯x (0) = 0
Mx (L) = 0
Qx (L) = 0
=⇒
=⇒
v(L)
¯ =0
θ¯(L) = 0
Mx = −P(L − x)
=⇒
wx
¯ = − P(L−x)
EI
外力荷重
(7.17)
7.2 モールの定理
53
Qx ( L) = 0
M x ( L) = 0
θ (0) = 0
v(0) = 0
A
B
x
Qx (0) = 0
M x (0) = 0
θ ( L) = 0
v ( L) = 0
x
A
L
L
y
y
M x = − P( L − x)
wx = − P ( L − x) / EI
A
B
x
A
L
y
x
B
L
y
(a) ཎၥ㢟
(b) ඹᙺၥ㢟
Fig. 7.4 片持梁の変位を求めるための原問題と共役問題
したがって、共役問題の解析モデルは図 7.4(b) のようになる。
wx = − P ( L − x) / EI
A
L
y
Mx
B Q
x
P = − PL2 /(2 EI )
L/3
2L / 3
Nx
x
A
Mx
B Q
x
Nx
x
y
(a) ඹᙺၥ㢟
(b) ィ⟬䝰䝕䝹
Fig. 7.5 片持梁自由端の変形
原問題において自由端 B 点のたわみ vB = v(L) とたわみ角 θB = θ (L) を求める問題は、図 7.5 に示
すような共役問題において固定端 B 点の曲げモーメント M¯x (L) とせん断力 Q¯x (L) となる。ここで、
曲げモーメントの正方向は、梁を y の正方向に膨らませるように定義されていることを注意してくだ
さい。したがって、
PL2
¯
¯
¯
¯
Y
=
Q
+
P
=
0
=⇒
θ
=
Q
(L)
=
−
P
=
x
B
x
∑
2EI
PL2 2L PL3
2L
2L
∑ MB 点まわり = −M¯x − P¯ 3 = 0 =⇒ vB = M¯x (L) = −P¯ 3 = 2EI 3 = 3EI
(7.18)
当然だが、これは、弾性曲線式による結果と一致している。
7.2.2 単純梁
図 7.3 の例題を考える。原問題と共役問題の解析モデルは対応関係によって以下のように変換する。
7 変形
54
M x (0) = 0
v(0) = 0
v (0) = 0
M x (0) = 0
M x ( L) = 0
v( L) = 0
C
A
C
A
x
L
y
v ( L) = 0
M x ( L) = 0
x
L
y
P
B
A
M 1 = Px / 2
B
A
x
M 2 = P( L − x) / 2
L/2
y
C
L/2
C
x
w = PL /(4 EI )
L/2
L/2
y
(a) ཎၥ㢟
(b) ඹᙺၥ㢟
Fig. 7.6 単純梁の変位を求めるための原問題と共役問題
変位の境界条件
力の境界条件
外力荷重
0 ≤ x ≤ L/2
L/2 ≤ x ≤ L
原問題
共役問題
v(0) = 0
v(L) = 0
=⇒
=⇒
M¯x (0) = 0
M¯x (L) = 0
Mx (0) = 0
Mx (L) = 0
=⇒
=⇒
v(0)
¯ =0
v(L)
¯ =0
M1 = Px
2
M2 = P(L−x)
2
=⇒
=⇒
w¯1 = Px
2
w¯2 = P(L−x)
2EI
(7.19)
したがって、共役問題の解析モデルは図 7.6(b) のようになる。
A
VA
y
B
C
w = PL /(4 EI ) VC
L/2
L/2
(a) ཯ຊ
x
B
A
VA
Mx
Qx
wL / 4
L/3 L/6
Nx
x
y
(b) ィ⟬䝰䝕䝹
Fig. 7.7 単純梁中央点の変形
原問題において中央点 B 点のたわみ vB = v(L/2) とたわみ角 θB = θ (L/2) を求める問題は、図 7.7
に示すような共役問題において中央点 B 点の曲げモーメント M¯x (L/2) とせん断力 Q¯x (L/2) となる。
ここで、曲げモーメントの正方向は、梁を y の正方向に膨らませるように定義されていることを注意
してください。
反力の計算はここで省略するが、対称性を利用すれば
1 L 1 PL L
PL2
V¯A = V¯C = w¯ =
=
2 2 2 4EI 2 16EI
(7.20)
となる。原問題の中央点のたわみとたわみ角は
wL
¯
PL2
PL2
=
−
=0
4
16EI 16EI
¯ L
PL2 L
PL2 L
PL3
L 1 LL
L wL
∑ MB 点まわり = −M¯x + V¯A 2 − 2 w¯ 2 3 = 0 =⇒ vB = M¯x (L) = V¯A 2 − 4 6 = 16EI 2 − 16EI 6 = (7.21)
48EI
1 L
∑ Y = −V¯A + Q¯x + 2 w¯ 2 = 0 =⇒ θB = Q¯x (L/2) = V¯A −
7.3 2012 年 6 月 6 日宿題
55
当然だが、これは、弾性曲線式による結果にも一致している。
7.2.3 張出梁とゲルバー梁
ཎၥ㢟
M x (0) = 0
v(0) = 0
A
ඹᙺၥ㢟
v(a) = 0
B
a
y
v (0) = 0
M x (0) = 0 M x (a ) = 0
Qx ( L) = 0
M x ( L) = 0
C x
A
v ( L) = 0
C
B
a
θ ( L) = 0
x
y
L
(a) ᙇฟᱱ
v(0) = 0
M x (0) = 0 M x (a ) = 0
A
θ ( L) = 0
v( L) = 0
C
B
a
M x (0) = 0
v (0) = 0
A
x
v (a) = 0
B
a
y
y
Qx ( L) = 0
M x ( L) = 0
C x
L
(b) 䝀䝹䝞䞊ᱱ
Fig. 7.8 張出梁とゲルバー梁
張出梁とゲルバー梁は、お互いにとって共役問題の解析モデルとなる。ここでは、具体的な計算
問題を考えないが、張出梁およびゲルバー梁の共役問題における解析モデルは図 7.8 に示す。
7.3 2012 年 6 月 6 日宿題
a
P
a
A
y
B
L/2
L
(a) ᙇฟᱱ
C
x
a
z ୰❧㍈
y
(b) ᩿㠃ᑍἲ
Fig. 7.9 2012 年 6 月 6 日宿題:張出梁の変形と断面設計
図 7.9(a) に示す張出梁に対して、以下の問を答えてください。
1. 弾性曲線式を使って、C 点のたわみ角およびたわみを求めてください。
2. モールの定理によって、C 点のたわみ角およびたわみを求めてください。
3. C 点の最大変位を vmax とした場合、図 7.9(b) に示す断面に対して、必要最低限の幅 a を求めてく
ださい。