247 解 説 J. Jpn. Soc. Colour Mater., 86〔7〕,247 – 251(2013) 添加剤による耐スリキズ性の向上技術 若 原 章 博*,† *ビックケミー・ジャパン㈱添加剤技術部 東京都新宿区市谷本村町 3-29(〒 162-0845) † Corresponding Author, E-mail: [email protected] (2012 年 10 月 9 日受付; 2013 年 4 月 15 日受理) 要 旨 塗装における耐スリキズ性の向上では,UV ハードコートに代表されるような硬くする手法,再フローによる自己修復技術などがよ く知られている。いずれも樹脂組成の技術である。ここではそれらと異なり,各種表面調整剤による耐スリキズ性の向上技術を紹介す る。とりわけナノ粒子ディスパージョンの添加は,樹脂マトリクスと固体粒子の相互作用という点でユニークな技術であり,従来にな い特性が得られる。 キーワード:耐スリキズ性,ナノ粒子ディスパージョン,シリカ,シリコン系添加剤,ワックス り,その特性が区分される(図-1 参照)。すなわち融点の低い 1.おもな耐スリキズ性向上のアプローチ ものは,スリップ性を与え,融点の高いものはすべり防止効果 用途により耐スリキズ性の技術も異なるが,おもな考え方を を有する。おもに床用,木製家具・ドア用,缶,印刷インキ用 以下に記す。 に用いられることが多い。融点(150 ℃以上)が高めのポリプ 1)樹脂組成によるもので,膜を硬くし傷をつきにくくするも ロピレンワックスは,床用塗装でスリキズ防止,すべり防止と ともに靴底のヒールマークが床につくのを防止するために用い の。あるいは弾性をもたすもの。復元を図るもの。 2)粒子技術を組み合わせたもので,シリカ粒子を表面に配向さ られる。融点の低いものは足元が滑るので好ましくない。木製 せて表面を硬くするもの 1)。あるいは表面に配向したワック ドア・家具では,鍵や爪・指輪などによる傷がつくのを防止す ス粒子により傷をつきにくくするもの 2)。 るため,融点(100 ℃以下)の低い低密度ポリエチレンやカル 3)ポリシロキサン系表面調整剤などで,スリップ性を上げて傷 をつきにくくするもの 2)。 ナバワックスが用いられる。耐摩耗性を重視した場合では,そ れらの中間の融点のアマイドワックス,高密度ポリエチレンワ 4)膜に均一に分布したナノ粒子により,マトリクスとの相互作 ックスが用いられる。 用で傷の復元を図るもの 2,3)。あるいは架橋点を増やし傷が つきにくくするもの 2)。 に触ってみると理解しやすい。ワックスの硬さと滑りやすさの ここでは添加剤の範疇である,2)∼ 4)の技術について紹介 違いがよくわかる。常乾塗料(ないし 80 ℃程度の強制乾燥)や UV 架橋系では,この粒子が膜表面にそのまま配向し,上記特 する。樹脂組成による方法については触れない。 性を与える。 2.添加剤による耐スリキズ向上 2.1 実際その特性の違いは,ワックス粒子を指で押しつぶすよう スリキズ性試験結果を図-2 に示す。ここでは,ワックス系添 ワックス粒子によるスリキズ防止 加剤を添加してないものと,ポリエチレン(HDPE ;高密度ポ 塗膜表面に配向したワックスによる耐スリキズ技術について リエチレン)系とバイオ系添加剤とを比較している。クロック 述べる。ワックス粒子は傷をつける物質を滑らせること,ある メーター(研磨紙を往復させるスリキズ試験の一方法)で,試 いはワックス粒子が傷負荷の圧力により溶融・変形すること で,膜に耐スリキズ性や耐摩耗性をもたらす。 ワックスの一般的性質を紹介しよう。ワックスは融点によ 〔氏名〕 わかはら あきひろ 〔現職〕 ビックケミー・ジャパン㈱添加剤技術部 部長 〔趣味〕 アルトサックス演奏,絵画・芝居鑑賞,温 泉旅行 〔経歴〕 1982 年名古屋大学工学研究科修士課程修了。 同年関西ペイント㈱入社。その後,河合塾 学園を経て,1994 年ビックケミー・ジャパ ン㈱入社。現在にいたる。 図-1 −5− ワックス系添加剤による表面保護 © 2013 Journal of the Japan Society of Colour Material
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