26. 釧路市街地における津波氾濫解析と被害想定についての研究

26.
釧路市街地における津波氾濫解析と被害想定についての研究
Tsunami Inundation Analysis and Damage Estimation for the Urban Area of Kushiro City
内海 誠治(Seiji Uchiumi)
ABSTRACT:The Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake on 11 March 2011 caused severe, widespread tsunami
damage. In this study we performed tsunami inundation analyses in Kushiro City by using iRIC2.0, a free software
application that can easily be obtained and used by anyone. For several facilities that were thought to be important at the
time of disaster, damage was estimated for the wave height of 10.8m. This study addressed tsunamis of “once in a
thousand years” scale. We would like to do similar study on tsunamis of “once in 500 years” scale, and to contribute to
local communities and businesses in planning for facility protection and business continuity.
1. はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震
による大津波により広い地域で被害が発生し,北海
道の太平洋沿岸部にも大津波警報が発令され,釧路
市でも新釧路川の河口部両岸地域港湾施設などで被
害が発生した.このような背景から,今後は釧路市
を含めた津波の被害が予想される地域で,大津波が
襲来しこれまでの被害想定よりもさらに深刻な被害
をもたらすことが考えられる.災害初期においては
飲料水の確保などが優先課題であることから上下水
道などの機能が失われると,人命に関わる事態を招
く.以上のことから,これらの施設の被害を事前に
想定し,対策を考えておくことが重要である.
しかしながら,津波被害の想定には高度な技術や
設備の準備など多くの労力と資金が必要である.そ
こで本研究では誰でも簡単に入手し,津波氾濫解析
を行うことのできるフリーソフトウェア iRIC2.01)を
用いて検討を行うことを試みた.具体的には,まず
2012 年 6 月に北海道 2)が発表した津波浸水予測図と,
iRIC2.0 を用いて計算された津波浸水予測図との比
較を行い,iRIC2.0 を用いた計算の精度を検証した上
で,想定波高を変化させた津波氾濫解析を行い,釧
路市街地における津波の被害想定を試みた.
2. 釧路市街地の概要
釧路市街地は,釧路市の中心に位置し人工的に作
られた直線河川である新釧路川と釧路市の東側に位
置する蛇行河川である釧路川の周辺に広がっている.
また,市街地内での標高差が大きいために,海岸部
近くでも場所によって津波の被害が異なるという地
形特性を有する.釧路市では人口約 18 万人に対して,
北海道 2)が発表した津波浸水予測図では浸水範囲内
において約 12 万人 3)が被災する可能性がある.
3. 釧路市街地における津波氾濫解析と被害想定
3.1 計算精度の検証
北海道 2)では津波浸水予測図が 2012 年 6 月に発表
された(図-1 参照).図-1 によると新釧路川河口部
から沖合 2~3km の地点に津波の第1波が地震発生か
ら 31 分後に到達し,最大水位が 10.8m の津波が押し
寄せるという想定となっていることから,本節では
この最高水位を想定波高として津波氾濫解析を行っ
た.iRIC2.0 を用いて計算を行った最大浸水深予測図
(図-2 参照)を図-2 に示すが、図-1 と図-2 の全体
を俯瞰的に比較すると浸水状況のおおよその傾向を
捉えていることがわかる.このことから,iRIC2.0 に
よる計算結果は北海道想定津波浸水予測図における
浸水範囲や最大浸水深を概ね良好に再現できている
と判断でき,計算精度の検証がなされたといえる.
3.2 釧路市街地における被害想定
東北地方太平洋沖地震においては,大きな地震と津
波により建物の被害の他に上下水道,ガスなどのラ
イフラインに甚大な被害が発生した.釧路市では最
大波高 2.1m の津波が押し寄せ,旭町ポンプ場では冠
水のために停止し,水が逆流したことにより一部の
雨水管から溢水した.また,愛国浄水場では水位の
上昇のため通算で約 4 時間にわたって取水を停止し
た.以上の背景から市街地における水循環ネットワ
ーク(上下水道)の被害想定をしておくことは,非
常に重要である.
そこで本節では,フィッシャーマンズワーフ MOO,
釧路市役所,釧路駅,大楽毛終末処理場,釧路市上
下水道部,古川下水終末処理場,愛国浄水場,の 7
箇所(図-3 参照)を抽出し,各施設における想定波
高別の最大浸水深を表-1 に示した,また,着色部分
図-1 2012 年北海道想定津波浸水予測図
(北海道 2)より)
図-2 iRIC2.0 による計算結果 最大浸水深予測図
は気象庁 4)の資料より建物に被害を与える最大浸水
深である 5.0m を超える場合である.この結果,多く
の施設で想定波高 10m を超えるような津波の発生に
よって,建物に被害が発生しているのがわかる.
次に,北海道想定における新釧路川河口の最大水
位である 10.8m の波高の津波が釧路市街地を襲った
場合の上下水道施設の様子を図-4 の合成写真と浸水
深の時間変化の図(以下,浸水深変化図)を用いて
検証する.合成写真を見ると,例えば大楽毛終末処
理場では建物に大きな被害を与える様子がわかり,
水が引いた後に機能を回復させる方法の検討など各
施設で津波対策が異なることがわかる.浸水深変化
図を見ると,海岸部には津波が早い段階で到達して
いることがわかり,釧路川沿いにある 2 施設を比較
すると,フィッシャーマンズワーフ MOO に津波の
最大浸水深が到達してから,古川下水終末処理場に
津波の最大浸水深が到達するまでの時間差はおおよ
そ 14 分(840s)であることがわかる.
以上のことから,釧路市街地における津波の被害
想定をおこなうことができたが,現在の状況におい
ては大きな規模の津波対策を実施している地方自治
体は多くないのが現状である.しかしながら,iRIC2.0
を用いることで市街地の浸水深の分布や時系列の浸
水深の計算を簡易的に行ない,津波の氾濫解析を用
いた津波対策の検討を行うことが期待できる.
4. まとめ
本研究で得られた成果を下記に記す.
1) 北海道が 2012 年 6 月に発表した津波浸水予測図
と同様の結果を iRIC2.0 を用いて再現でき,計
算の妥当性を示すことができた.
被災時において重要であると考えられる施設に
ついて,各想定波高別の最大浸水深と施設の被
害の程度を整理して示した.
3) 想定波高 10.8m の津波による釧路市街地の各施
設の浸水のイメージを,合成写真を用いて示し
た.
本研究ではミレニアムクラスの津波に重点を置い
て検討を行ったが,今後は 1/500 クラスについての検
討も行い,施設の防御計画や BCP の立案などに役立
てていきたい.
謝辞
iRIC2.0 を用いた計算を行う際に基礎知識・資料提
供といった面でご支援して頂いた独立行政法人土木
研究所寒地土木研究所・寒地河川チームの阿部孝章
研究員他の皆様に謝意を表する.
参考文献
1) iRIC Project ; 河 川 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン ソ フ ト
iRIC:
i-ric.org/ja
2) 北海道 HP;津波浸水予測図等について:
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/ktk/tunamisinnsu
iyosokuzu.htm
3) デーリー東北新聞;M9.0 東日本大震災:
http://cgi.daily-tohoku.co.jp/cgi-bin/web_kikaku/m9
_shinsai/news/2012/10/news_list/ms121004_list.ht
m
4) 気象庁 HP;気象庁|津波について:
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.ht
ml
2)
表-1 釧路市街地主要施設における
波高別の最大浸水深
図-3 釧路市の各施設の位置
大楽毛終末処理場
古川下水終末処理場
フィッシャーマンズワーフMOO
図-4 釧路市街地の主要施設の浸水想定