分担研究報告書 - 日本子ども家庭総合研究所

平成16年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
分担研究報告書
病診連携・病病連携・セミオープン化・オープン化を視野に入れた
妊婦健診の標準化
分担研究者
研究協力者
和田裕一 (国立病院機構仙台医療センター産婦人科医長)
上原茂樹 (東北公済病院産婦人科科長)
谷川原真吾(仙台赤十字病院第一産婦人科部長)
研究要旨:産婦人科医師の減少の中で、より安全に妊娠分娩管理を行う
ことを目的として、仙台市では、産科セミオープンシステムを検討して
いる。仙台市では分娩の約7割が病院で分娩がおこなわれており、また
診療所の約7割が分娩を取り扱っておらずセミオープン化に向けての環
境は整っていると考えられた。日本産婦人科医会宮城県支部勤務医連携
委員会と仙台市の病院産科医師数名で構成される妊婦健診標準化準備委
員会(仮称)が中心となり妊婦健診の標準化にむけたシステム作りおよ
び妊婦健診クリニカルパス作成に取り組み検討を重ねその骨子をまとめ
た。
A.研究目的
安全で質の高い妊娠分娩管理をお
こなうために、産科病診・病病連携
化準備委員会
のシステムを構築することと妊婦健
診方式を標準化することを目的とす
開催し妊婦健診の標準システムの原
(仮称〉を開催し妊婦健診の標準シ
ステムの原案を作成した。(仮称〉を
案を作成した。
④平成17年1月20日妊婦健診シス
る。
B.研究方法
テムの原案をもとに仙台市における
産婦人科勤務医による総合検討会に
① 平成15年の仙台市における分娩
て内容につき討議した。
数と分娩施設の調査をおこなった。
⑤平成17年2月17日先の総合検討
②平成16年7月日本産婦人科医会
会の討議をもとに再度妊婦健診標準
化準備委員会を開催し細部について
宮城県支部勤務医連携委員会は仙台
市の産婦人科を有する病院に現在の
検討した。
妊婦健診の実態について調査した。
③平成17年1月14日仙台市の病
C.研究結果
院産科医師数名による妊婦健診標準
①平成15年の宮城県における分娩数
一116一
は20,836件で、仙台市における分娩
数は9,686件であった。仙台市におけ
る分娩のうち診療所での分娩は29%
(12施設)、病院での分娩が71%(16
施設)で、約7割が病院での分娩で
あった。また、分娩を取り扱わない
オフィス診療所は27施設に上りセミ
オーブン化をおこなう基盤は整って
いると考えられた
②日本産婦人科医会宮城県支部勤務
医連携委員会の調査結果
分娩を年間500件以上取り扱っ
ている病院を中心に仙台市の7つの
公的病院における妊婦健診内容につ
いて調べた。全ての施設が妊婦健診
でおこなっている検査は血液型、血
算(CBC)、梅毒検査、B型肝炎ウイ
ルス(liB)S抗原、C型肝炎ウイル
ス(HCV)抗体、HIV検査、子宮頸
部細胞診であった。その他多くの施
設で施行している検査は血糖、風疹
作成に向け検討した。その結果を表
4にその結果を示す。まず、妊娠初
期に妊婦が診療所などの妊婦健診施
設を初診した際には診療ののち分娩
施設に紹介しカルテを作成するとと
もに分娩予約する。初診時妊婦が分
娩施設を受診した場合には、地域性
などを考慮して妊婦健診施設に紹介
する。いずれにしても妊娠10週以前
に超音波診断装置により胎児頭讐長
(CRL〉を測定し分娩予定日を算出
する。結果はコピー記録して妊娠後
期分娩施設で予定日を再確認できる
ようにする。妊娠10∼24週について
は4週毎に健診施設で健診する。妊
娠24週までに血液型、不規則抗体ス
クリーニング、CBC、HB抗原、HCV、
HIV、風疹HI、梅毒検査、クラミジ
ア抗原、血糖、頸部細胞診を全妊婦
に施行する。血糖検査については妊
娠初期と妊娠24∼28週頃の2回、
③妊婦健診標準化準備委員会にお
食後2−4時間の静脈血を採血し、血
糖値を測定する。妊娠20週頃に一度
健診施設から分娩施設に紹介し、超
音波による胎児異常のスクリーニン
グ、子宮頸管長測定、分娩施設の助
産師からの指導、説明、施設見学を
おこなう。頚管長測定は、早産によ
る低出生体重児の出産予防のために
行い、頚管長が短いほど早産の相対
危険度が上昇する.極めて予後の悪
い妊娠24週前後の早産防止のため妊
娠20週で測定し、その4週間後に経
ける検討結果
過観察を行うこととした1〉。
先の結果を基に妊婦健診の検査の
内容、検査時期、受け入れ病院との
連携のあり方などのフローチャート
妊娠24∼34週は2週間ごとの健診
をおこない、34週以降は分娩施設で
管理する.35∼36週頃にB群溶連菌
抗体(HI〉、丁型白血球ウイルス
(HTLV−1)抗体、不規則抗体スクリ
ーニング、クラミジア抗原、膣分泌
物培養などで、一部の施設でおこな
っている検査としては、その他トキ
ソプラズマ抗体、麻疹抗体、水痘抗
体、HbAl c、心電図、肝腎機能、CRR、
出血凝固などの検査が挙げられた.
これらの結果を表2、表3に示す。
一117一
(GBS)チェックを目的とした膣分
泌物検査を全妊婦に施行する。GBS
感染は早発型新生児GBS感染を惹起
するので、垂直感染予防のため妊娠
後期に分娩施設で膣分泌物検査をお
こなう。36週以降は1週ごとの健診
をおこない、37週から胎児心拍モニ
タリングを適宜施行する。これらの
検査内容案に基づいてさらに現在詳
細に検討している。
また、病病、病診間で共通の診療
規約の骨子を作成した(表5)。さら
に妊婦が診察時持参する共通妊婦健
診カードの作成を検討している。こ
れは、主な経過、検査結果を書き込
み、夜間・休日などの救急時は分娩
施設で対応することとし、その際即
座に状況が確認できるようにするこ
とを目的とする。
D.考察
近年、医療の質の向上や安全性
の確立が求められ、分娩に関しても
安全性と快適性の両者が求められて
いる。しかし、マスメディアでも報
道されているように全国的な産婦人
科医の減少はここ数年顕著で、とく
に医師の高齢化、若手医師の入局者
の減少、女性医師の増加が診療シス
テムに影響し厳しい勤務状況を余儀
なくされている。なかでも病院勤務
医の数は年々富に減少傾向を示して
おり、医療の複雑化と相侯ってその
労働条件は過酷な状態となっている。
このような状況下に、地域での連携
のもとで安全に妊娠分娩管理をおこ
なうための解決策のひとつとして産
科オープン化システムの導入や、妊
婦健診をオフィス開業産婦人科医や
外来診療のみを行う病院産婦人科医
が担当し、分娩をいくつかのセンタ
ー病院で実施するといういわゆるセ
ミオープン化システムの導入が模索
されている。
オープン化・セミオープン化を推
進するといっても分娩を取り扱う施
設の状況は地域によって異なる。そ
の中で仙台市では開業産婦人科の約7
割が分娩を取り扱わず、また仙台市
におけるの分娩の約7割が病院で行
われており、オープン化・セミオー
プン化をおこなう条件は整っている
と考えられた。
今回仙台市で現在多数の分娩を
取り扱っている4つの病院を中心と
してまずセミオープンシステムが検
討された。これは、病院勤務医の負
担軽減のため、妊婦健診を診療所で
おこない妊娠後期に分娩施設に紹介
するシステムでいわゆる里帰り出産
をより緻密な連携のもとに行おうと
するものである。妊婦健診標準化準
備委員会では、分娩を行う施設と妊
婦健診を行う施設の連携を無理なく
スムースにおこなうために妊婦健診
時におこなわれる検査の統一化が検
討された。従来妊婦健診時の諸検査
については全国的な統一はなく、施
設によって異なっている。今回は仙
台市の分娩を行っている病院の妊婦
健診時の検査項目を調査し、理論的
な裏づけのもとに検査項目の統一を
準備しているところである.
妊娠初期の検査の中でCBC、HB
一118一
抗体、梅毒検査は妊婦共通検査とし
て現在全妊婦に無料で実施されてい
る。HIV感染症はわが国においては
妊娠中の適切な管理で母子感染はほ
とんど予防可能であり妊娠中のスク
リーニングにより母子感染はほぼ防
止できる.日本産婦人科学会でも検
査の実施を推奨しており、厚労省研
究班の報告2)では平成15年度妊婦
HIV検査実施率は全国平均で80.8%
となっており、今回のパスでも必須
の検査とした。HCVの母子感染に対
して今のところ確実な予防対策はな
く今後の間題であるが、妊娠時に陽
性が判明した場合妊婦の治療や医療
スタッフヘの感染防止のため必須の
検査とした。クラミジア抗原検査は
流早産予防、産道での母子感染予防
のために有効であるか否かの結論は
出ていない。しかし、若年者の性感
染症が増加していることや、新生児
への感染をきたす可能性があること
からやはり必須の検査とした.子宮
頸部細胞診は妊娠の経過には直接関
与しないが、子宮頚癌の若年化に伴
い妊婦での要精検率が1.12%で一般市
民健診での要精検率0.84%を有意に上
回っており3)、若年者のスクリーニ
ングの意味から現在も全県下で実施
している検査であり必須の検査とし
た.血糖検査は日本産婦人科学会周
産期委員会報告4〉で、妊娠糖尿病の
スクリーニング法としてこれまでの
「妊娠中の尿糖、巨大児出産の既往、
時間の静脈血を採血し、血糖値を測
定することが推奨されているのでこ
れに従った。胎児奇形のスクリーニ
ングの時期は極力早い時期で、なお
かつ診断感度を考慮し、胎児の各部
分が明瞭に描出される妊娠16週から
20週が適当と考えられる。文献的に
もこの時期の検討による報告が多い
5)。
さらに今後病病・病診連携を行う
上で問題となるのは、夜間・休日の
救急診療体制である。そこで、この
ようなケースは分娩を予約した病院
で診察をおこなうことを明確にした。
その際、妊婦の状態が一目で把握で
きるように共通の妊婦カードを作成
し、受診時には必ず持参する方式を
定めた。
産科セミオープンシステムを進め
るにあたっては、医療サイドに求め
られるいくつかの問題の解決ととも
に市民に現在の産科診療の状況を理
解してもらうことが重要であり、そ
のためセミナーの開催などによる広
報活動も必要であり、また医師間の
診療レベルの標準化を目的とした勉
強会の開催や助産師・看護師を含む
医療スタッフの施設間の交流を深め
る対策が必要である。
参考文献
1) Taipale Pl Hiilesmaa V :
Sonographic measurement ofuterine
cervix at18−22weeks『gestation and
肥満等の糖尿病素因を疑わせる徴
the risk of preterm delivery。Obstet
候」のみでは不十分であり、妊娠初
期と妊娠24週前後の2回、食後2−4
Gynecol92(6):902−7,1998
一119一
2) 厚労省「田V感染妊娠の早期診断
と治療及び母子感染予防に関する基
E.結論
礎的・臨床的研究」班平成15年度田V
産科医の減少する中でより質の高
い医療を提供し、病病・病診連携を
よりスムースにおこなうために、仙
台市ではセミオープンシステムの導
入を模索しておりその基礎となる妊
婦健診砂システム化について検討し
母子感染全国調査報告書1−27,
2003
3) YorikoAbe,Kiyoshi Itq Chikako
Okanlura et。/\1:
Cervical cytologic exan凝nation dl血9
た。
physicalch㏄㎞pofpregnantwomen:
Cerviαdcan㏄rscr㏄r直nginwomen
F.健康危険清報
under the age ofthilty.TohokuJ Exp
祉
M¢d,221−228,2004
4) 日本産科婦人科学会周産期委員
会報告.日産婦誌47巻6号,609−610,
G.研究発表
1995
なし
5) Gran(麺ean Hl La』rroque Dl Levi
S:The ゆerfbrmance of routine
H.知的財産権の出願・登録状況(予
ultrasonographic screening of
定含)
pregnancies in the Euro角tus Study.
なし
Am J Obstet Gynecol l81(2):446−
454,1999
一120一
表1.仙台市における分娩取り扱いの状況
宮城県における年間分娩数(平成15年)20,836件
仙台市における年間分娩数(平成15年)9,686件
診療所での分娩 29%(11施設)
病院での分娩 71%(16施設)
一121一
妊婦健診時の諸検査の実態(1)
表2.
妊婦検診検査
A病院
前
前
ノ
D病院
C病院
B病院
立
ノ
血
前
ノ
立
前
’
前其
ノ其
G病院
F病院
E病院
立
立
前
ノ
立
前
血1型
スク1一ニン’
CBC 前
CBC
CBC ノ
O
TPHA
○
HB s A
HCV
O
HIV
HTしV−1
O
○
STS RPR
O
○
O
○
○
○
○
O
○
O
○
O
O
O
○
○
診
クーミジ 、
、 一 マ
z Hl
z NT
7皿I G
泌 立
血
HbAl c
ECG
CRP
血
一122一一
○
○
O
O
O
○
○
O
O
O
O
O
○
○
○
ノ
出
表3.妊婦健診時の諸検査の実態(2)
*全ての施設で行われている検査
血液型、CBC,梅毒検査、HB s抗原、HCV抗体,
子宮頸部細胞診
HIV検査,
*多くの施設で行われている検査
血糖、風疹抗体、不規則抗体スクリーニング、クラミジア抗原、膣
分物
*一部の施設で行われている検査
トキソプラズマ抗体、麻疹抗体、水痘抗体、HbAlc、肝腎機能検査、
CRR 出血凝固検査
一123一
表4.妊婦健診クリニカルパスのフローチャート(案)
妊婦初期初診
∼10週
分娩施設の場合
分娩予約の上、健診施設へ紹介
検診施設の場合
分娩施設に紹介、カルテ作成のうえ分娩予約
胎児頭磐長計測による分娩予定目決定
(記録を保存し分娩施設への紹介状に添付)
10∼24週
4週毎に妊婦健診
検査
全員:血液型、抗体スクリーニング、CBC,HB s抗原、
HCV抗体、HIV検査,梅毒検査、風疹抗体(Hl),
クラミジア抗原、子宮頸部細胞診
希望者:HTL》一1抗体,トキソプラズマ抗体、麻疹抗体、水痘抗体、
HbAlc,心電図など
20週
健診施設から分娩施設へ紹介→
分娩予約確認
胎児奇形スクリーニング
助産師による指導
24∼34週
2週毎に妊婦健診
24∼28週ヒ頁
34週以降
CBC、血糖
健診施設から分娩施設へ紹介 →
34∼35週
GBSを目的とした
膣分泌物培養検査(全
員)
36週以降
37週以降
1週毎の健診
NST
↓
分娩
一124一
表5.仙台市における産科セミオープン化システムに関する規約(案)
1.理念: 病病・病診連携により質の高い妊娠分娩管理を円滑におこなうことを目的
とする.
2.組織: 妊婦健診をおこなう施設A(産婦人科診療所・病院)の産科医療スタッフ
お
よび分娩をおこなう施設B(分娩センター病院産婦人科)の産科医療スタ
ッフが診療を連携する.
3.診療形態:
妊婦が施設Aを初診した際には、原則として、なるべく早い時期に妊婦が
希望する分娩施設Bに紹介し、施設Bでの分娩を予約する.妊婦が施設B
を初診した際には、施設Bでの分娩を予約したのち原則として、妊婦が希
望する施設Aに紹介する.フローチャートに従って妊娠33週前後まで施
設Aで妊婦健診・検査をおこなう。
妊娠34週頃から妊婦健診は施設Bで分娩までおこなう.
4.時間外の対応:
夜間・休日などの診療時問外に受診する必要が生じた場合は妊婦が既に予
約している分娩施設Bで対応する。
5.連携の円滑化:
共通の妊婦カードを作成し、妊婦の状態が絶えず把握できるようにする。
このカードは妊婦が保持し受診時に持参し、施設Bの医師の診療の補助と
なるようにする.
…125一