物理学Ⅰ

物理学Ⅰ
時間:月、金曜日第1時限
場所:A棟105号室
担当教官:飯田
明由
D棟4階D410
D棟3階D2−302
物理学Ⅰ(2006)
<目次>
力学の歴史
1. 質点の力学
1.1 質点
1.2 ベクトルと変位
1.3 力と慣性
1.4 放物運動
1.5 単振動と単振り子
1.6 仕事と運動エネルギー
1.7 束縛運動
1.8 保存力と位置エネルギー
1.9 万有引力と惑星の運動
1.10 ガリレイ変換と回転座標系
2. 質点系と剛体
2.1 二体問題と
2.2 重心運動とその運動
2.3 運動量と運動量保存
2.4 重心運動と相対運動
2.5 質点系の角運動量
2.6 剛体とそのつり合い
2.7 固定軸のまわりの剛体の運動
2.8 慣性モーメントと剛体の平面運動
2
物理学Ⅰ(2006)
<主な参考書(教科書)>
小出昭一郎著,物理学,裳華房
<参考書>
原 康夫著,物理学基礎,学術図書出版社
戸田 盛和著,物理入門コース 力学,岩波書店
<プリントについて>
*ほぼ毎週配布
*プリントを二つ折りにして綴じて使用して下さい。その時、
左側ページには定義や語句の説明などの重要な事柄、
右側ページには式の展開や証明、例題、問題など
が記載されている。
3
物理学Ⅰ(2006)
4
<レポートについて>
レポートは、A4版のレポート用紙を使用すること。
レポート提出時には、次ページをA4版に拡大コピーして、表紙とすること。その際、
表紙に、レポート課題として解いた問題の番号も記入すること。
物理学Ⅰ(2006)
物理学Ⅰレポート
担当教官:飯田
明由
学籍番号:
氏
名:
提 出 日:20
年
月
日
レポート課題:(課題として解いた問題番号を記入)
5
物理学Ⅰ(2006)
6
<力学の歴史>
ギリシャ時代
「静力学」とよばれる力学分野ができあがり、土木・建築工事などが行な
われることによって、てこ・斜面・浮力など、静止した物体に関する力の釣
り合いについて、定量的な認識が得られた。
16世紀
1530 年頃
生産技術の発達にともない、技術や科学に従事する人々が増加した。
コペルニクス(Copernicus,1473-1543, ポーランドの天文学者)は天体運
動の記述の数学的簡潔さと合理性から地動説を唱えた。
17世紀
1590-1609 年
この時代には、実験や観測手段が発達した。
ガリレイ(Galilei,1564-1642)は、落体の実験を行った。
また、望遠鏡により他の惑星と地球との類似性を直接観測した。
1609-1619 年
1687 年
ケプラー(Kepler,1571-1630)はティコ・ブラーエ(Tycho Brahe,1546-1601,
デンマーク人)の残した20年間の精密な観測データから、惑星運動につ
いて、太陽を焦点とする楕円運動であることなど3つの法則を発見した。
ニュートン(Sir Isaac Newton)は、地球上の物体と天体の運動とを統一する
ことにより、万有引力を発見するとともに、力学の体系を3つの法則に定
式化した。
物理学Ⅰ(2006)
20世紀
1905 年
1925 年
1926 年
7
原子のような微視的粒子については量子力学として発展し、光の速度に
近い速さで運動する物体については相対論として学問が展開された。
アインシュタイン(Einstein,1879-1955)はニュートン力学の絶対空間・絶対
時間の考え(物理法則はあらゆる座標系に対して同じ形式で表される)を
否定し、相対性原理を提唱した。相対性原理を互いに等速直線運動を
する座標系に適用したものが特殊相対性理論、互いに加速度運動する
一般の座標系に拡張したものが一般相対性理論である。
ハイゼンベルグ(Heisenberg, 1901-1976)は、座標、運動量、エネルギー
など観測できる物理量をすべて行列で表し、それらの間に古典的運動
方程式に対応する運動方程式と量子条件(量子化する際に課せられる
条件)を表す方程式を立てることによって、マトリックス力学を提唱した。
シュレティンガー(Schrodinger, 1887-1961)は量子力学の一形式である波
動力学を構築した。古典力学のエネルギー関係式において、運動量と
エネルギーを微分演算式に置き換えて、シュレティンガーの波動方程式
を得た。
物理学Ⅰ(2006)
第1章
8
質点の力学
学習のポイント
z 力学では、ボールの運動など日常的な現象を主に取り扱う。⇒理解しやすい。
z 運動している物体を1点で代表させ、ベクトルを用いて物体の位置を表わす。
z 物体の位置や速度などを時間の関数として、数学的に表わす。
z
z
力学の基本法則である運動の法則は、次章以下でも重要な役割を果すので、確実に理解
すること。
エネルギー保存則や万有引力の法則などについても、単に法則を記憶するのではなく、
日常の種々の経験と結びつけて“体得”し、意味を理解すること。
1.1 質点
<質点>
ボールの落下運動を調べる時、ボールの中心位置のみを考える。
このように、物体の運動(motion)を考える場合、物体の大きさを問題にし
図 1- 1 ボールの
ない、すなわち、
落下運動
・物体の変形や回転を考えないで、並進運動だけに注目
・物体を1つの点で代表させ、質量だけを考慮
定義[1. 1]
物体の大きさを問題にせず、質量をもった点というように抽象化(モデル化)した物体を質点
(mass point)という。
物理学Ⅰ(2006)
9
[例 1.1]
地球(直径約 13000km)のように非常に大きい物体でも、太陽のまわりの公転だけを扱う時には、
地球自身の変形や回転を考えなくてもよいので、地球を質点であるとみなして取り扱うことがで
きる。
[例 1.2]
小さい物体でも、斜面をころがる円板などは質点とみなさずに回転まで考えなければならない。
[例 1.3]
原子(原子核の大きさ約 10-14m)のような小さいものでも、原子を構成する原子核やそれを取り巻
く電子など、すなわち、原子の内部構造を考えるときには原子を質点として扱うことはできない。
物理学Ⅰ(2006) 10
<座標系>
例えば、球体の運動を調べる場合、空間におけて球の位置を時々刻々示せば、運動の完全な
記録が得られる。そこで、物体の位置(position)を記述する方法を考える。
質点(定義 1.1 参照)の位置を表わすためには、図 1-2 に示す座標系(system of coordinates)を
適当に定め、質点の位置 P を
直角座標系では、P(x,y,z)
極座標系では、P(r,θ,φ)
円筒座標系では、P(ρ,φ,z)
というように示す。なお、各座標系については問題に適したものを用いる。
このような3つの変数の組(x,y,z)などを点 P の座標(coordinate)という。
極座標系から直角座標系への変換は、
x = {r cos(90 − φ ) cos θ }, y = {r cos(90 − φ ) sin θ }, z = r sin(90 − φ )
(1. 1)
円筒座標系からの変換は、
x = ρ cos φ , y = ρ sin φ , z = z
(1. 2)
を用いればよい。
<自由度>
どの座標系(直角座標系、極座標系、円筒座標系)でも、一般的に、3つの数値の一組(x,y,z あ
るいは r,θ,φあるいはρ,φ,z)を必要とするので、質点の自由度は3(3次元の運動)
であるという。
一つの平面内で運動が行われる場合、直角座標(x,y)のように、自由度は2(2次元の運動)で
ある。
質点が直線的に運動する場合、直角座標(x)のように x のみで表わすことができ、その自由度は
1(1次元の運動)となる。
物理学Ⅰ(2006) 11
z
z
φ
P(x,y,z)
O
z
y
P(r,θ,φ)
P(ρ,φ, z)
r
O
x
φ
θ
y
z
O
ρ
x
直角座標系
極座標系
円筒座標系
図 1- 2 座標系
z
y
P(x,y)
P(x,y,z)
O
z
y
O
O
P(x)
x
x
x
y
x
自由度 3
自由度 2
図 1- 3 自由度
自由度 1
物理学Ⅰ(2006) 12
<質点の時間変化と軌道>
質点が運動した場合、質点の座標は時間 t の関数として変化する。物理学では、この変化を次
のように表す。
x(t)
x(t)、y(t)、z(t)がわかれば、全ての時間 t において(x,y,z)を求めることができる。それらの点をつ
ないだものが、その質点の軌道(trajectory)である。
平面運動の場合、x=x(t)と y=y(t)から t を消去して x と y の関係 y=F(x)、または、G(x,y)=0 を定め
れことによって、軌道の方程式を得ることができる。
z
軌道
y
x
図 1- 4 軌道
物理学Ⅰ(2006) 13
[例題 1.1]
質点の位置が次式で表わされている場合、軌道の方程式を示せ。
x = a cos ω t
y = b sin ω t
y
b
O
a
(解答)
上式を変形し、
x / a = cos ω t
y / b = sin ω t
図 1- 5 だ円形の軌道
それぞれ2乗して、加えると、
x2 y2
+
= cos 2 ω t + sin 2 ω t
a 2 b2
sin 2 ω t + cos 2 ω t = 1 を用いて t を消去すると、
x2 y2
+
=1
a 2 b2
すなわち、この質点はだ円形の軌道を描いて運動することがわかる。
[問題 1.1]
質点の運動が次式であるならば、その軌道はどうなるか。なお、 a, b, c は定数である。
(1) x = a + bt , y = ct
(2) x = t , y = t
(3) x = t + 1, y = 2 t − 1
1
1
(4) x = t + , y = t 2 + 2
t
t
(5) x = sin 2t , y = 2 sin 2 t − 2
(6) x = sin t + cos t , y = sin t − cos t
(7) x = cos t + 1, y = cos 2t
x
物理学Ⅰ(2006) 14
1.2 ベクトルと変位
<ベクトルの定義>
P1 から P2 へ質点の位置が変化した場合、起点 P1、終点 P2 とする矢印を用いて、質点の変位を
表わす。距離 P1P2 が変位の大きさ、矢印の方向が変位の方向である。
質点の変位は、大きさと方向によって表す事ができ、その合成が平行四辺形の法則(図 1-7 参
照)に従うものをベクトル(vector)という。
変位の他に、速度、加速度、力なども、ベクトルを用いて表示される。
↕
時間、質量など、方向を持たず、符号と大きさだけを持つ量をスカラー(scalar)と呼ぶ。
<ベクトルの合成>
変位 P1 P2 と P2 P3 を合成したベクトルは、変位 P1 P3 であり、次式で示す。
P1 P3 = P1 P2 + P2 P3
(1. 3)
変位は大きさと方向だけに注目し、どこからということは問題にしない。変位 P2 P3 は矢
印 P1Q で表わされているとも考えてよい(図 1-7)。従って、変位の合成は、平行四辺形の
法則に従う。
<位置ベクトル>
質点の位置 P を表わす場合、直交座標系 x,y,z を用いる代わりに、原点 O から点 P へ引いた
矢印(ベクトル)によって、点 P の位置を表すことが可能である。このベクトル OP を点 P の位置ベ
クトルという。
この時、起点 O が特別な意味を持ち、矢印を移動するわけにはいかない。その意味で位置ベク
トルを束縛ベクトルともいう。
位置ベクトル OP1 に変位 P1 P2 を合成したものは、新しい位置を表わすベクトル OP2 になる(図
1-9)。
<ベクトルと数の積>
ベクトルを太字で A というように表記し、その大きさ(正の実数値)を細文字 A で表わす。
“ A の大きさ”を表すときに、| A |とすることもある。従って、 A =| A | である。
数 a をベクトル A に掛けたベクトル a A について、
a>0 の場合、ベクトル A と方向および向きが同じで大きさが a A のベクトルを表わす。
a<0 の場合、大きさが a A でベクトル A と反対向きのベクトルを表わす。
物理学Ⅰ(2006) 15
方向
P2
P2
大きさ
P1
O
P1
図 1- 7 平行四辺形の法則
図 1- 6 ベクトル
z
P2
P(x,y,z)
k
y
i
z
j
x
x
y
図 1- 8 位置ベクトル
O
P1
図 1- 9 位置ベクトルと変位の合成
物理学Ⅰ(2006) 16
z
<単位ベクトルとベクトルの分解>
座標系 O-xyz について、x 軸、y 軸、z 軸の方向を持ち、
長さが1のベクトルを単位ベクトルという。これらを i, j, k
R
A
で表わす。
k
図 1- 7に示す平行四辺形の法則を逆に使用すると、ベ
クトル A は x、y、z 方向を持つ3つのベクトルの和として表
わすことができる。
i
y
j
S
P
x
Q
図 1- 10 ベクトルの分解
図 1- 10において、
A = OS + OR = OP + OQ + OR
z
一方、
B
OP = Ax i , OQ = Ay j , OR = Az k
C
A
y
と表すことができるので、次式が得られる。
A = Axi + Ay j + Az k
(1. 4)
Ax
Bx
Ay
By
Cx
x
Ax、Ay、Az は実数なので、 A が与えられた場合、一
Cy
図 1- 11 ベクトルの合成と成分
意的に決まる値である。
反対に、3つの実数 Ax、Ay、Az が与えられれば、上式でベクトル A がただ一つ決まる。
従って、ベクトルは3つの実数の組みで表わすことができる。
Ax、Ay、Az をベクトル A の x 成分、y 成分、z 成分と呼ぶ。
ベクトル A の大きさ A とその成分 Ax、Ay、Az の間には次の関係が成り立つ。
A=
Ax + Ay + Az
2
2
2
(1. 5)
2つのベクトルの和については、
C = A +B
(1. 6)
とすると、図 1- 11に示す様に各成分間には次の関係がある。
Cx=Ax+Bx
Cy=Ay+By
(1. 7)
Cz=Az+Bz
ベクトル(− B )は B の−1 倍、すなわち、大きさ B=│ B │が等しく、ベクトル B と反対向
きのベクトルである。
ベクトル同士の差 A − B は A + (−B ) であると考えればよく、その成分は、Ax−Bx、Ay−By、
Az−Bz である。
物理学Ⅰ(2006) 17
[例題 1.5]
単位ベクトル i, j, k の x , y , z 方向の成分を示せ。また、単位ベク
z
トルを次式の形に書き表わせ。
r = ( x, y , z )
k
(解答)
i は x 軸に沿う長さ1のベクトルであるから、これを原点 O か
ら点 P までの矢印とすれば、点 P の x 座標は1で、y 座標と z 座
標は共に零である。従って、単位ベクトル i の各方向成分は、
x = 1, y = 0, z = 0
i
y
j
x
図 1- 12 単位ベクトル
であり、
i = (1,0,0 )
となる。同様に、 j は y 軸に沿う長さ1のベクトルなので、その成分は x = 0, y = 1, z = 0
であり、 k の成分は同様にして x = 0, y = 0, z = 1 である。従って、
j = (0,1,0 ), k = (0,0,1)
である。
[問題 1.2]
A = 3i − j − 4k , B = −2i + 4 j − 3k , C = i + 2 j − k とする。次のものを求めよ。
(1) 2A − B + 3C
(3) A + B + C
(2) A + 5B + 2C
(4) A − B + 6C
[問題 1.3]
2 点 P( x1 , y1 , z1 ) , Q( x 2 , y 2 , z 2 ) がある。ベクトル P Q の成分を求めよ。
[問題 1.4]
3つのベクトル r1 = ( x1 , y1 , z1 ), r 2 = ( x 2 , y 2 , z 2 ), r 3 = ( x3 , y 3 , z 3 ) を加えあわせることによ
って、これらのベクトルの和 r1 + r 2 + r 3 の座標を求めよ。
y
[問題 1.5]
原点 O から点 P までの距離を r、直線 OP と x 軸のなす角度を
Φとする。点 P の座標(x,y)を r とΦを用いて表わせ。ただし、
Φは x 軸から反時計回りの方向を正とする。r とΦで表わし
た平面の座標を2次元極座標という。
P(x, y)
r
O
φ
x
[問題 1.6]
図 1- 13 2次元極座標
東に向かって流速 6km/h で流れる川を、船首を真北に向けて
(水に対する相対)速度 8km/h で進む船の速さは岸から見るといくらになるか。また、そ
の進行方向はどうなるか。
物理学Ⅰ(2006) 18
<速度・加速度の定義>
ある質点(定義 1.1 参照)の運動の方向
が時々刻々変化する場合、各瞬間毎の
速度と加速度を考える。
質点が運動している場合、ある時刻 t
に点 P を通過し、それからΔt 後に点 P’
を 通 っ た 場 合 、 質 点 の 変 位
(displacement) PP' をΔ r と表し、これ
を変位ベクトルと呼ぶ。
P’
P
v (t)
v (t+⊿t)
⊿r
P’
P
r (t)
r (t+⊿t)
v (t)
⊿v
v (t+⊿t)
O
図 1- 14 変位ベクトルと速度ベクトル
Δ r /Δt もベクトルであり、その方向は PP' 、大きさは│Δ r /Δt │= PP' /Δt である。
Δt が十分に短い場合、│Δ r │= PP' はΔt の間に質点の動いた距離に等しくなり、それ
をΔt で割ったものはこのときの(平均)速さである。
定義[1. 2] 速度
Δt→0 とした極限を考える時、P’→P であるので、
∆r dr
v = lim
=
∆t = 0 ∆t
dt
となる。このv を速度(velocity)または速度ベクトルという。
(1. 8)
v は速度ベクトルv の大きさ(スカラー量)であり、これを速さとよぶ。
v は点 P を通る瞬間の速さであり、その向きは軌道の接線と同じ方向である。
同様にして、速度ベクトルの時間変化を表わすベクトルとして加速度を定義する。
定義[1. 3] 加速度
∆t = t '− t の間の速度ベクトルの変化は ∆v = v (t ' ) − v (t ) であるから、これを ∆t で割り、
∆t → 0 の極限をとると、
∆v dv d 2r
=
= 2
(1. 9)
a = lim
∆t →0 ∆t
dt
dt
となる。この a を加速度(acceleration)または加速度ベクトルという。
a = a は加速度ベクトル a の大きさ(スカラー量)であり、質点が時刻 t に P 点を通る瞬
間の値である。
物理学Ⅰ(2006) 19
[例題 1.6]
質点の位置が時間の関数として
x(t ) = at
x(t)
x=at
と表わされる時、質点の速度を求めよ。
(解答)
時刻 t + ∆t と t の変位の差 ∆x は、
∆x = x ( t + ∆t ) − x ( t ) = a( t + ∆t ) − at = a∆t
であるから、式(1.8)より速度は、
∆x
v = lim
=a
∆t →0 ∆t
であり、右の図の様に質点は等速運動をすることがわ
かる。
a
1
t
v(t)
a
t
[問題 1.7]
図 1- 15 時間と位置・速度の関係
質点の位置が次の関数で表わされる時、質点の速度を求
めよ。
(1) x (t ) = at 2
(2) x (t ) = at 3
t 3 − 2t + 3
(3) x(t ) =
t +1
3
 1
(4) x(t ) =  t + 
 t
(5) x(t ) = sin 2 t cos 2t
(6) x(t ) = t (log t )
2
[問題 1.8]
加速度の大きさが 1m/s2 の電車が、出発してから時速 50km になるまでの時間とそこまで
に走る距離はいくらか。
[問題 1.9]
速さ V で走っている自動車が、一様な強さのブレーキをかけて止まるまでに l だけ走った。この時、加
2
速度の大きさは V / (2l ) であることを示せ。
物理学Ⅰ(2006) 20
<速度・加速度の各方向成分>
式(1.4)より、変位ベクトル ∆r の各成分をΔx、Δy、Δz と
すると、単位ベクトル i, j, k を用いて、
∆r = ∆xi + ∆yj + ∆zk
z
⊿r
であるから、式(1.8)に上式を代入すると、次式を得る。
∆y
∆z 
∆r
 ∆x
= lim  i +
v = lim
j + k
∆t →0 ∆t
∆t →0 ∆t
∆t
∆t 

dx
dy
dz
= i+
j+ k
dt
dt
dt
従って、
dx
dy
dz
vx = , vy = , vz =
(1. 10)
dt
dt
dt
同様に、加速度 a を各成分に分けると、次式が得られる。
dv y
dv x
dv z
ax =
, ay =
, az =
dt
dt
dt
k
y
i
⊿zk
j
⊿xi
x
⊿yj
図 1- 16 ベクトル ∆r の分解
(1. 11)
速度v の大きさ(速さ)v 、および、加速度 a の大きさ a = a は、三平方の定理より次式で
与えられる。
v = v x 2 +v y 2 +v z 2
a = ax + a y + az
2
2
(1. 12)
(1. 13)
2
<ホドグラフ>
各時刻の速度を表わす矢印の始点を一点に集め
ると、矢印の先端は時間の変化とともに曲線を描
く。これをホドグラフ(速度図)という。
v (t’)
v (t)
P’
P’’
軌道
P
速度の方向は軌道の接線の方向と一致していた
が、同様に、加速度の方向はホドグラフの接線と
一致する。
v (t’’)
v (t)
v (t’)
v (t’’)
しかし、軌道の接線とは直接の関係はない。
ホドグラフ
図 1- 17 軌道とホドグラフ
物理学Ⅰ(2006) 21
[例題 1.7]
z
v
y
aω
ωt
a
P
r
ωt
x
O
y
x
図 1- 18 らせん運動
図 1- 19 等速円運動
次式で表わされるらせん運動の速さ(速度の大きさ)を示せ。
x = a cos ωt
y = a sin ωt
z = ct
(解答)
この場合の速度ベクトルの成分は、式(1.10)より
dx
vx =
= −aω sin ωt
dt
One Point 三角関数の微分
(sin x )' = cos x
dy
vy =
= aω cos ωt
dt
(cos x )' = − sin x
dz
vz = = c
dt
となる。速さ、すなわち、速度ベクトルの大きさは、式(1.12)を用いて
v = v x 2 + v y 2 + v z 2 = a 2 ω 2 (sin 2 ωt + cos 2 ωt ) + c 2 = a 2 ω 2 + c 2
である。
特に c = 0 の場合、xy 平面内の等速円運
動となり、速さはv = aω 、速度の方向は円
の接線の方向と一致する(上図)。
One Point 三角関数の相互関係
sin 2 θ + cos 2 θ = 1
[問題 1.10]
例題 1.7 について
①加速度を求めよ。
②vx=a,vy=b,vz=0(a,b は定数)ならば、その軌道は xy 面内の一本の直線になること
を示せ。
22
1.3 力と慣性
ニュートン(Newton)は、物体の運動を説明できる数学的理論を発見した。
ニュートンの理論によって、身近に起こる物体の運動ばかりでなく、月や惑星な
どの天体の運動も華麗に説明できる。
1687 年にニュートンが執筆した「自然哲学の数学原理」(Philosophiae Naturalis Principia
Mathematica)で提案した3つの法則(慣性の法則、運動の第 2 法則(1.3.2 節参照)、作用・
反作用の法則(2.1 節参照))をニュートンの運動法則(laws of motion)といっている。
1.3.1 ニュートンの運動の第1法則
大昔の人々は、力が作用しなくても物体が運動し続けることを知っていた。
・弓で矢を放ったとき、矢が弦や手から離れて力が作用しなくなっても運動し続ける。
・手で石を投げた場合、手から離れた石は飛び続ける。
昔、ある学者は、この様な現象を観察して、
運動している物体はその運動を持続しようとする性質を持つ
と考え、この性質を慣性(inertia)と名づけた。
ニュートンは、石や矢の他に、全ての物体に慣性があると考え、次の法則を提言した。
法則[1. 1] 運動の第1法則(the first law of motion)
物体に力が働いていない時(または外部からいくつかの力が作用していてもその合力が
零ならば)、静止している物体はいつまでも静止し、運動している物体は等速直線運動を
続ける。これを慣性の法則(low of inertia)ともいう。
速度が変化、すなわち、加速度が生じるのは、
・” 力が物体に作用したため”であると考えられる。
・正確に記述すると、物体に働く力の合力が零にならない場合である。
これからは、単に力といっても合力を意味することが多い。
厳密に述べると、地球上でも宇宙空間でも万有引力の影響を受けないところなどな
い。しかし、いま考えている物体の近くに他の物体が存在しないような状態を、“考
えている物体に力が働かない”という。地球上では、地球を遠ざけるわけにはいか
ないので、実際にはこの様に孤立した物体はない。
ただし、水平で滑らかな床の上に物体を載せることによって、水平な運動に関する
限り地球の影響を取り除くことができる。この場合、その物体にはいくつかの力が
働いているが、平行四辺形の法則(15 ページ)でそれらの力を合成したもの(合力)が
零になっていると考えられる。
さらに、重力や摩擦力の存在のために地表付近では運動している物体に力が全く作
用しない状態は考えにくい。しかし、水平方向だけに限り空気の抵抗や床との摩擦
などを無視できれば、力の作用が無視できる状態を実現できる。
23
[例題 1.8]
地球を回る人工衛星では、地球の重力と回転運動の遠心力が
互いに打ち消し合い、無重力状態が実現している。
宇宙飛行士が人工衛星の中で浮いているとしよう。質量 500g
の物体と 5kg の物体がやはり浮いている。宇宙飛行士が物体を
動かそうとするとき、どちらの物体が動かしやすいか。無重力
で浮いているのであるから、動かしやすさは同じだろうか。
回転運動の
遠心力
重力
(解答)
物体が運動状態を保とうとする性質は慣性(前ページ参照)
であるが、慣性は何で決まるかを述べなければならない。例えば、同じ速さのゴムま
りと硬式野球のボールを素手で受け止める場合を考えよう。
手に受けるショックは当然、硬式野球のボールの方が大きい。手にショックを受ける
理由は、一定の速さで直線運動しているボールを止めようとするからである。つまり、
ボールに慣性があるからである。
ゴムまりと硬式野球のボールでは、質量が異なるから、手で受けるショックが違う。
質量の大きい物体は慣性が大きく、受け止めた時の衝撃も大きい。
人工衛星の中で宙に浮いている静止している物体にも当然慣性がある。慣性は質量に
よるから、5kg の物体の方が 500g の物体より動かしにくい。
[問題 1.11]
天井から糸でおもりを釣り下げ、さらにそのおもりの下に上と同
じ糸をつける(右図)。二通りの方法で、下の糸を手で引き、糸を
切ってみる。まず、糸を引く力を徐々に強くしていくと、おもり
より上の糸が切れる。また、糸を急に強く引くと、下の糸が切れ
る。引きかたによって切れる糸の位置が違う理由を考えよ。
[問題 1.12]
次の運動で慣性の法則が近似的にでも成り立っているものはどれか。
(1)地球が太陽のまわりを公転する。
(2)月が地球の引力に引かれて地球に近づかず、宙に浮いている。
(3)手に持った石を放すと落下する。
(4)氷の上でおもりを押すと、遠くまで滑っていく。
おもり
24
1.3.2 ニュートンの運動の第2法則
矢や石、自転車などが動きだすのは力の作用の結果で
あるが、それらを押すのをやめると運動していた物体
が静止するのも力の作用の結果である。
F
a
図 1- 20 運動の第2法則
動いている自転車を停止させるには、人間による動力
を零にするだけでなく、ブレーキの摩擦力を作用させ
ることが必要なことからも明らかである。
第1法則が成立するような座標系を考えた場合、これに対する物体の運動の変化は外か
ら作用する力によって生じることになる。
この座標系について、運動の第2法則は次の様になる。
法則[1. 2] 運動の第 2 法則(the second law of motion)
物体が力を受ける場合、その力の方向に加速度を生じ、その加速度の大きさは力の大き
さに比例し、物体の質量に逆比例する。
力 F が作用したとき、質量 m の物体(質点)に生じる加速度を a とすると、この法則は、
F = ma
で表わされる。これをニュートンの運動方程式という。
(1. 14)
成分で記述すると、
Fx = ma x ,
Fy = ma y ,
Fz = ma z
(1. 15)
式(1.8)、式(1.9)を用いた場合、
dv
d 2r
F = ma = m
=m 2
dt
dt
(1. 16)
25
図 1- 21
26
1.3.3 力の単位ニュートン
SI 単位系で考えると、加速度(の大きさ)の単位は m/s2、質量の単位は kg であるので、
力の単位は kg・m/s2 となる。
これをニュートンとよび、記号 N で記述する。
力の実用単位である 1 キログラム重は、1kg の物体に働く重力の大きさであり、1kgW あ
るいは 1kgf などと書く。1kgf とニュートン N との関係は、次の通りである。
1kgW=1kg・9.80665m/s2=9.80665N
1N は約 0.1kgW=100gW である。これはみかん1個に働く程度の重力である。
1.3.4 慣性質量と重力質量
法則[1.2]の運動方程式
F = ma
から考えると、同じ大きさの力 F を与えた時、質量 m が大きい方が、生じる加速度 a は
小さくなる。つまり、速度を変えにくいということである。
よって、質量とは慣性の大きさを示す量といえる。この意味で、法則[1.2]で定まる質量
を慣性質量とよぶ。
なお、全ての地上の物体には重さがあり、その重さに比例した量として重力質量が定義
され、重力質量は天秤などによって測定される。
ニュートンは、振り子を観測し、1/1000 程度の範囲内で慣性質量と重力質量が互
いに比例することを確かめた。
Eotvos(エートヴェッシュ)(1848-1919,ハンガリーの物理学者)は、地球の自転に
よって働く物体に働く遠心力を用いた巧妙な実験によって、慣性質量と重力質量
が同等なものであることを 10-8 程度の範囲で確かめた。
Einstein(アインシュタイン)は、加速しているエレベータ内にいる観測者には慣性
力 ma と重力質量が同等なものであることを一般相対論の基礎としている。
27
[問題 1.13]
(1)質量 30kg の物体に 2m/s2 の加速度を生じさせる力の大きさは何 N か。
(2)一直線上を 30m/s の速さで走っている質量 20kg の物体を 6 秒間で停止させるには、
平均どれほどの力を加えたらよいか。
(3)2kg の質量に 12N の力が加わると加速度はいくらか。
(4)質量 1ton の自動車が 5 秒間に 20m/s から 30m/s に一様に加速した。このときに働い
た力の大きさを求めよ。
[問題 1.14]
質量 10kg の物体にひもを結んで滑車にかけて吊り下げ、ひもの他端を 30kgf の力で引っ
張った。物体の加速度を求めよ。
[問題 1.15]
質量 M のエレベータが質量 m の人を乗せて、ロープから張力 T を受けて上昇している。
その加速度は求めよ。
28
1.4 放物運動
一様な重力が働いている空間で放物運動をする質点について調べる。
地球上では鉛直方向下向きに、重力が質量に比例して作用する。
次ページ図に示す様に、鉛直上向きに y 軸を、水平に x 軸をとり、原点Oから初速度ベ
クトル V0 で質点を投げ出した場合を考える。
(初期条件)
時間 t = 0 のとき、すなわち、初期条件は次のようになる。
x = 0, y = 0
v x = V0 cos θ, v y = V0 sin θ
(1. 17)
ここで、V0 は初速度の大きさ、θ は初速度ベクトルと x 軸の間の角度であり、 x 軸の
向きは θ ≤ π / 2 とする。
(質点に働く重力)
質点に働く重力は − y 方向であり、式(1.15)より、次のようになる。
Fx = 0
Fy = − mg
ここで、比例定数 g は重力加速度であり、一般的に次の値が用いられる。
g =9.8m/s2
ただし、厳密には、地球上の場所で g の値は多少異なる。
(運動方程式)
式(1.16)の運動方程式を用いると、次のようになる。
m
d2x
dt 2
= Fx = 0
d2y
= Fy = − mg
dt 2
m を消去すると、
m
d2x
dt 2
d2y
dt 2
=0
(1. 18)
= −g
(つづく)
29
y
H
h
V0
θ
O
R
図 1- 22 放物運動
x
30
式(1.8) v = dr / dt を用いて、式(1.18)を時間 t について積分すれば、次式が得られる。
d 2x
dx
= C1
v x = ∫ 2 dt =
dt
dt
①
d2y
dy
v y = ∫ 2 dt =
= − gt + C 2
dt
dt
ここで、 C1 と C2 は定数である。
不定積分
1 n +1
x n dx =
x + C (C : 定数)
∫
上式に、初期条件である式(1.17)を
n +1
代入すると、次のようになる。
C1 = V0 cosθ , C2 = V0 sin θ
これらを式①に代入する。さらに、積分すると、次式が得られる。
1
②
x = V0t cosθ + K1 , y = V0t sin θ − gt 2 + K 2
2
初期条件である式(1.17)では、 t = 0 の時
x = 0, y = 0
より、式②の K 1 , K 2 はどちらも零であることがわかる。
従って、式①、②から、次式のように運動が定まる。
v x = V0 cosθ , v y = V0 sin θ − gt
x = V0t cosθ , y = V0t sin θ −
1 2
gt
2
(1. 19)
(1. 20)
(軌道の式)
式(1.20)から t を消去すると、軌道の式が得られる。
式(1.20)の第1式から t = x / (V0 cosθ ) となり、それを第2式へ代入すると、
1
y = V0t sin θ − gt 2
2
x
1  x
= V0
sin θ − g 
V0 cosθ
2  V0 cosθ
g
=−
x 2 + x tan θ
2
2V0 cos 2 θ



2
(1. 21)
が得られ、軌道は放物線であることがわかる。
(つづく)
31
32
(最高点の高さ)
質点が最高点に達したとき、v y = 0 であるから、式(1.19)の第2式の左辺に零を代入
して、そのときの t を求めると、
V 
(投げてから最高点に達するまでの時間)=  0  sin θ
g
が得られる。
これを式(1.20)の第2式の t に代入すれば、最高点の高さ h が次式のように得られる。
2
2

 V0

V0
1  V0
h = V0  sin θ  sin θ − g  sin θ  =
sin 2 θ
2
2
g
g
g




(射程)
射程に関しては、軌道の式(1.21)で y = 0 になる x を求めればよい。
式(1.21)を変形し、 y = 0 とすると、
0 = −x2 +
2V0 2
x sin θ cosθ
g


2V 2
x  x − 0 sin θ cosθ  = 0
g


2V0 2
V0 2
∴ x = 0, x =
sin θ cosθ =
sin 2θ
g
g
なお、第2式については2倍角の公式 sin 2θ = 2 sin θ cosθ を用いた。
これは、図 1-22 のORの長さ(射程)である。
sin 2θ が最大値 1 となるのは 2θ = π / 2 の時であるから、θ = π / 4 (= 45°) の迎え角で投
げた時に物体は最も遠くまで届くことがわかる。
y
V0
O
θ
x
図 1- 23 同じ初速で投げた物体の軌道
以上のように、運動方程式という微分方程式を積分すると積分定数が現れるが、初期条
件として、運動開始の時刻(通常、 t = 0 )における位置と速度が与えられる場合、これら
の積分定数が決まり、それ以後の速度も位置も時間 t の関数として表すことができる。
33
[問題 1.16]
迎え角 30ºで打ったテニスボールが、8m 先の壁にちょうど直角にあった。初速はいくつ
か。
[問題 1.17]
速度に比例した空気抵抗(単位質量あたりの比例定数を k とする)を受ける場合、原点か
ら初速度V 0 で鉛直に投げられた質点(質量 m )のt 秒後における速度v 、位置 y および終速
度を求めよ。
[問題 1.18]
水平面と角度θをなす平面に対し角度αで物体を初速度v 0 で投げるとき、角度αをどの
ように選べば物体は斜面上を最も遠くまで到達するか。右図のように座標系をとり、重
力の加速度をそれらの方向に分解し、運動方程式を立てて問題に答えよ。
x
y
v0
α
θ
34
1.5 単振動と単振り子
1.5.1 単振動とフックの法則
壁にばねが固定されており、ばねの反対側の端に物体
が取り付けられて、水平な机の上においてある。ばね
を押し縮めれば伸びようとし、引き伸ばせば縮もうと
して、物体は一直線上を往復する(右図)。物体と床の
間には、摩擦がないものとする。
x
O
図 1- 24 単振動する質点
ばねの力が作用しなくなる時の物体の位置を原点とし、ばねが伸びる方向を x 軸の正と
する。
法則[1. 3] フックの法則
ばねは、伸びまたは縮みに比例した復元力 f を質点に及ぼす。この力は距離 x に比例する。
f = − kx
(1. 22)
(k は比例定数, k>0) これをフックの法則(Hooke’s law)とよぶ。
<運動方程式>
運動方程式は、運動の第2法則 F = ma ([法則 1.2])に式(1.22)を代入すると、
d2x
m 2 = − kx
(1. 23)
dt
両辺を質量 m で割り、 k / m = ω 2 とおけば、
k
d2x
= −ω 2 x , ω =
(1. 24)
2
m
dt
次ページで説明するように、上式を満たす一般的な解は次式で与えられる。
x = C sin(ω t + φ )
(1. 25)
ここで、C とφはある定数である。上式のように、時間 t の正弦関数で表わされる運動を
単振動(simple oscillation)という。
そのとき、
C :振幅(amplitude)
ω :角振動数
ν = ω / 2π :振動数
T = 1 / ν :振動の周期(period)
ω t + φ :位相(phase)
φ :初期位相または位相定数
振動数は単位時間に往復する回数であ
り、この単位は s-1 で、ヘルツ(Hz)とよ
ぶ。
x
x=Csin(wt+φ)
C
ωt
φ
0
図 1- 25 単振動
35
[例題 1.9]
式(1.25)が式(1.24)の解であることを確認せよ。
(解答)
種々の方法で、この解を求めることができるが、指数関数を用いて確認する。
式(1.24)の解が x = e pt であると仮定すると、
dx
= pe pt ,
dt
d2x
2
= p 2 e pt
dt
である。上式を式(1.24)に代入すると、
p 2 e pt = −ω 2 e pt
p 2 = −ω 2
∴ p = ± − ω 2 = ±iω (i: 虚数 )
One Point
( e )' = e
x
指数関数の微分
x
One Point
虚数
i = − 1 (i = −1) となる i を虚数単位と
2
いう。
One Point
オイラーの公式
e = cos x + i sin x
よって、式(1.24)の解は、
x = e iω t = cos ω t + i sin ω t
ix
x = e -iω t = cos ω t − i sin ω t
また、式(1.24)の形から
x = f1 (t ), x = f 2 (t )
という解があれば、 A1 , A2 を適当な定数とすると、
x = A1 f1 (t ) + A2 f 2 (t )
も式(1.24)の解である。
よって、次式も式(1.24)の解である。
x = A1 (cos ω t + i sin ω t ) + A2 (cos ω t − i sin ω t )
e −ix = cos x − i sin x
One Point
定数係数の線形
微分方程式
f1(t)と f2(t)が同次方程式
f’’+P(t) f’+ Q(t) f=0
の解である場合、
f3=A1 f1(t)+A2 f2(t)
も解である。A1 と A2 は任意定数
x = ( A1 + A2 ) cos ω t + ( A1 − A2 )i sin ω t
解としてだけならば、 A1 , A2 はどんな複素数でもよいが、 x が実数でなければならない
という条件を考えると、
A1 + A2 が実数
A1 − A2 が純虚数
でなければならない。従って、
*
A1 = A2
One Point
共役複素数
複素数 α = a + bi に対して
α * = a − bi
を α の共役複素数という。
(*は共役複素数のしるし)が要請される。
従って、 A, B を適当な実数として、次式が式(1.24)の実数一般解である。
x = A cos ω t + B sin ω t
(1. 26)
上式と
x = C sin(ω t + φ )
(1. 27)
は同一であり、これらが式(1.24)の一般解である。ただし、 C と φ は適当な実数の定数
であり、以下の関係が成り立つ。
C=
A 2 + B 2 , tan φ = A / B
36
37
[例題 1.10]
ある質点が単振動をしている。初期条件として t = 0 で
x=a
dx / dt = 0
が与えられた時、この質点の位置 x を求めよ。
(解答)
式(1.26)に t = 0 で x = a の初期条件を用いると、
A=a
式(1.26)を時間 t で微分すると、
dx
= − Aω sin ωt + Bω cos ωt
dt
上式に、初期条件 t = 0 で dx / dt = 0 を用いると、
B=0
従って、質点は次式のように運動する。
x = a cos ωt
[問題 1.19]
フックの法則に従うばねの一端が天井に固定され、他端に質量 m の物体をつけた系が
ある。ばねの長さが自然長になるように物体を支えた状態から物体を静かに離した時、
物体はどのような運動をするか。物体の運動は鉛直方向に限られるとし、重力加速度
を g とせよ。
(ヒント)
ばねが自然長のとき、物体の位置を零とし、鉛直上方を y 軸に選ぶと、物体に働く力
は、
ばねの復元力−ky と重力−mg になる。運動方程式をたてて、Y=y+mg/k とおいて、
運動方程式を書き直して、解を求める。最後に y に戻す。
38
1.5.2 単振り子
糸(長さが一定)の先端を天井に固定して、もう片方の
端に質点を吊るし、鉛直面内で振動させることを考え
る。これを単振り子(simple pendulum)という。
O
θ
l
<運動方程式>
質点の位置を表わす場合、最下点から円弧に沿って測
った長さ s を用いれば、 s( t ) だけで単振り子の運動を全
P
f
て把握することができる。
従って、これは一次元運動である。
f’
この場合、
ds
は速度 (正負で運動の向きを示す)
dt
d 2s
は加速度の接線成分 a t (同上)
dt 2
である。
s
F
mg
C
θ
図 1- 26 単振り子
質点に作用する力は、重力と糸の張力( PO の方向)である。
重力 F = − mg が質点に働き、この重力を円周の接線方向の成分 f と糸の方向の成分 f ' に
分けると、接線方向成分 f = − mg sin θ だけが円周上の質点の速度を変化させる。よって、
円周に沿う力と運動を考えればよい。
従って、単振り子の運動方程式は、運動の第2法則 F = ma ([法則 1.2])より、
d 2s
= − mg sin θ
dt 2
が得られる。この方程式の一般解は
 g

θ = θ 0 sin t + φ 
 l

m
である(次ページ参照)。
単振り子の周期は、次式のようになる。
l
T = 2π
g
振幅が小さい場合、上式から、
単振り子の周期は振幅 θ 0 には無関係である
ことがわかる。これを等時性(isochronism)という。
(1. 28)
(1. 29)
39
F
[式(1.28)の解]
上式を解く場合、一般的には、楕円関数という特別な
関数を必要とする。
θ
ここでは θ が小さい限定した場合について考えると、
dr
Ft
sin θ = θ
と仮定できるので、式(1.28)は s = lθ より
m
d 2 ( lθ )
dt 2
d 2θ
dt
2
= − mgθ
g
=− θ
l
(1. 30)
g
s
l
(1. 31)
または、
d 2s
dt 2
となる。
=−
g / l = ω 2 とすると、これらは式(1.24)と全く同じ形であるか。その結果をそのまま使う
ことができる。
すなわち、
 g

t + φ
 l

θ = θ 0 sin
(1. 32)
が一般解であり、単振り子の周期は、
l
T = 2π
g
となる。
[問題 1.20]
周期がちょうど1秒になるような単振り子の糸の長さはいくつか。
40
1.6 仕事と運動エネルギー
1.6.1 仕事
定義[1. 4] 仕事
力を物体に作用させて、力の方向に物体を動かした場合、その力は物体に対して仕事を
したという。仕事の量は、次のように表される。
(仕事)=(物体に加えた力)×(力の方向に動いた距離)
まず、仕事量を算出する前に、ベクトルのスカラー積について説明する。
One Point スカラー積
2つのベクトル a, b の間の角度を θ とするとき、
a ⋅ b = ab cosθ
(1. 33)
をスカラー積(または内積)とよび、 a ⋅ b と記す。
互いに直交する単位ベクトル i, j, k について、 cos 0 = 1 より、
i ⋅i = j ⋅ j = k⋅k =1
(1. 34)
cos(π / 2) = 0 より、
i ⋅ j = j⋅k = k⋅i = 0
(1. 35)
a, b を成分を用いて、
a = i ax + j a y + k az
b = i bx + j b y + k bz
と表し、式(1.34), 式(1.35)を用いると(次ページ問題[1.21])、
a ⋅ b = a x bx + a y b y + a z bz
a ⋅ a = ax + a y + az
2
2
(1. 36)
(1. 37)
2
z
k
a
θ
図 1- 27 内積
i
b
y
j
x
図 1- 28 単位ベクトル
41
[問題 1. 21]
式(1.36), (1.37)を導け。
[問題 1. 22]
次の場合、質量 m kg の荷物を運ぶ人のする仕事を計算せよ。なお、荷物と床の間には
摩擦がないものとする。
(i) 鉛直上方に 1m 荷物を持ち上げる。
(ii) 水平に 1m 荷物を運ぶ。
(iii) 水平に荷物を 1m 運んだ後に、鉛直上方に 1m 持ち上げる。
42
<線積分>
一般に、曲線運動において力と運動方向のなす角 θ が変
わる場合、運動を微小部分に分けて、各部分で力のし
た仕事を加え合わせる(右図)。
∆s1 , ∆s 2 ,⋅ ⋅ ⋅, ∆s n :各部分の長さ
F1 , F2 ,⋅ ⋅ ⋅, Fn :各部分で作用する力の大きさ
F2
F1 θ1
F3
θ2
⊿s2
⊿s1
A
θ i :動方向から測った力 Fi が線分 ∆si となす角
Fn
θ3
⊿s3
F
⊿sn
θn
B
θ
ds
B
全体の仕事 W は、
W = F1 cosθ 1 ∆s1 + F2 cosθ 2 ∆s 2
(1. 38)
+ ⋅ ⋅ ⋅ + Fn cosθ n ∆s n
A
図 1- 29 各位置で力のした
仕事
ベクトル表示
上式において各線分の長さ ∆si を無限に小さくした極限を考え、それを ds と書くと、
B
W = ∫ F cos θds
(1. 39)
A
これを線積分という。
A と B は出発点と終点を意味し、AB 間で曲線に沿って式(1.38)の和をとったものがこの
線積分である。
dr を変位ベクトルとすると、その長さは移動距離 ds であり、この変位の間に力 F の行っ
た仕事 dW は、
dW = F cos θds = F ⋅ dr
(1. 40)
式(1.33)
従って、式(1.39)は次となる。
B
W = ∫ F cos θds =
A
∫
B
A
F ⋅ dr
(1. 41)
各成分で表示
変位 dr について、その x, y, z 成分を dx, dy, dz とし、力 F の成分を Fx , Fy , Fz とすれば、式
(1.36)によりスカラー積は、
dW = F ⋅ dr = Fx dx + Fy dy + Fz dz
従って、式(1.41)は次式となる。
B
W = ∫ F cos θds =
A
∫
B
A
B
F ⋅ dr = ∫ ( Fx dx + Fy dy + Fz dz )
A
(1. 42)
質点の運動の経路上の線分を ds として、上式を変形すると、
B
dx
dy
dz 
W = ∫  Fx
(1. 43)
+ Fy
+ Fz ds
A
ds
ds 
 ds
とすると、経路に沿う線積分という意味がわかる。
上式は経路上の各点で dx / ds, dy / ds, dz / ds を求め、これにそれぞれ Fx , Fy , Fz を掛けたものを
経路に沿って積分したものである。
43
[問題 1. 23]
下図(a)∼(d)のように、物体が A から B まで(AB=1.5m)移動する間、一定の力 5N が作用
している。このときの力が物体にした仕事はそれぞれいくらか。正・負の符号をつけて
答えよ。
A
F
(a)
B
A
F
30°
(b)
F
B
F
A
B
(c)
60°
A
B
(d)
44
1.6.2
仕事と運動エネルギー
式(1.41) W = ∫
B
A
B
F cosθds = ∫ Ft ds に、
dv t
dt
ds = v t dt
Ft = m
A
(式(1.16)参照)
(式(1.8)参照)
を代入することによって、次式が得られる。なお、式(1.16)および式(1.8)はベクトル表
記してあるが、ここでは、図 1-29 に示すように、運動の接線方向の力を Ft 、運動の接
線方向の速度を vt として考えており、
∫
B
A
Ft ds
B
= m ∫ vt
A
dvt
dt
dt
= m∫
=
1
1
2
2
mv B − mv A
2
2
B
A
d
dvt
( )
[ ]
 vt 2  dvt
m B d 2
m


=
vt dt = vt 2
dt
∫
 2  dt
A
dt
2
2


B
A
(1. 44)
左辺の積分は「 Ft ds という量を点 A から点 B までに関して合計する」ということを意味
している。
これを力が点Aから点Bまでの間にこの質点に対して行った仕事という。
mv 2 / 2 を質点のもつ運動エネルギーとよぶ。
法則[1.4]
∫
B
A
仕事と運動エネルギー
Ft ds =
1
1
2
2
mv B − mv A
2
2
(1. 45)
に関しては、
力(質点の働く全ての力の合力)の行なった仕事はその間における運動エネルギー
の増加量に等しい
ということを意味している。
45
[問題 1. 24]
質量 2kg の金属球が 5m/s の速さで一直線上を等速直線運動している。このとき、金属球
のもつ運動エネルギーはいくらであるか。
[問題 1. 25]
質量 2kg の物体に、鉛直上向きの速度 9.8m/s を与えて投げ上げた。3 秒後までの間の
各 1 秒毎の重力のした仕事を求めよ。
[問題 1. 26]
質量 m の物体に角速度ωで半径 r の円運動をさせるには、向心力 mrω2 を常に加え
なければならない。
r 方向とθ方向の単位ベクトルを、それぞれ er 、eθとするとき、向心力 F、物体の
変位 dL、向心力 F のする仕事を求めよ。
er・eθ=0 を用いて、常に向心力を加えているにも関わらず、物体の速さ rωは変
わらず、運動エネルギーmr2ω2 も一定であることを説明せよ。
[問題 1. 27]
質量 m の物体が、水平面上を直線的(x 軸上)に摩擦力を受けて次第に減速しながら
運動している。摩擦力(摩擦係数×垂直抗力)による仕事の大きさとはじめの運動エネ
ルギーを等しくおくことにより、この物体が進む距離 X を求めよ。
ただし、初速を v0、すべり摩擦係数をμ’とせよ。
46
1.7
束縛運動
次ページに示すように、斜面(傾斜φ)に沿って滑り落ちる物体を考える。
この物体には、重力 mg と斜面からの抗力が作用している。
(重力)
図に示すように、重力 mg は次の二つの力に分けられる。
①斜面に垂直な力 mg cos φ
②斜面に平行で下向きの力 mg sin φ
(抗力)
抗力に関しても次の二つの力に分けられる。
①垂直抗力(斜面に垂直な力) f n
②摩擦力 f t
(垂直抗力)
垂直抗力 f n は、物体が斜面にめりこむのを防ぎ、斜面の形を保とうとするために生じる
力である。
ここでは、垂直抗力 f n は重力の垂直方向成分 mg cos φ を打ち消すだけの大きさとなり、
f n = mg cos φ
である。
(摩擦力)
摩擦力は、物体の運動を妨げる作用をする。
摩擦力の方向:速度と反対方向に働く。
大きさ:経験的に、物体と斜面が押し合っている力 mg cos φ にほぼ比例す
ることが知られている。
f t = µmg cos φ
µ は(運動)摩擦係数と呼ばれる比例定数であり、物体の質量によ
らず、斜面と物体がふれあう面の性質だけで決まる定数
重力の分力 mg sin φ より摩擦力が大きい時、物体はそのまま静止する。この時の摩擦力
を静止摩擦力という。
斜面の傾き φ を大きくしていった場合、斜面に平行で下向きの力 mg sin φ とともに静止摩
擦力も大きくなっていく。
傾き φ がある値 φ m になった場合、物体はついに斜面に沿って滑り出す。
静止摩擦力には限界があり、これを最大静止摩擦力(maximum static frictional force)と
いう。
47
垂直抗力 fn
y
s=0
摩擦力 ft
A
mgsinφ
sB
B
mgcosφ
φ
0
図 1- 30
φ
mg
斜面上の物体に働く力
x
48
<運動方程式>
式(1.16)より、斜面に沿って滑り落ちた距離を s とすると、
d 2s
m 2 = mg sin φ − µmg cos φ
dt
(1. 46)
2
d s
= g (sin φ − µ cos φ )
dt 2
であるので、積分し t = 0 でv = 0, s = 0 として
ds
v=
= g (sin φ − µ cos φ) t
(1. 47)
dt
1
s = g (sin φ − µ cos φ ) t 2
(1. 48)
2
<運動エネルギー>
式(1.47)を用いて、運動エネルギー mv 2 / 2 (1.6.2 節 参照)を求めると、
1
1
2
mv 2 = mg 2 (sin φ − µ cos φ) t 2
(1. 49)
2
2
式(1.48)を用いると、上式は、
1
1
2
mv 2 = mg 2 (sin φ − µ cos φ) t 2 = mg (sin φ − µ cos φ)s
(1. 50)
2
2
前ページの図において位置 A と位置 B における運動エネルギーの差を求めると、次式と
なる。
1
1
2
2
(1. 51)
mv B − mv A = mg (sin φ − µ cos φ)(s B − s A )
2
2
<仕事>
物体に働く力が複数あり、いくつかの力の合力
F = F1 + F2 + F3 + ...
の場合、仕事もそれぞれの力がする仕事の和になる。
変位に垂直な力は速さの増減に関係しない。従って、この力は仕事をしない。
よって、仕事をするには重力の分力 mg sin φ と摩擦力だけである。
摩擦力と変位の方向は、逆向き (cosθ = −1) なので、
∫
B
A
F ⋅ dr = ∫ mg sin φ ds − ∫ µmg cos φ ds = mg (sin φ − µ cos φ )(s B − s A )
B
B
A
A
(1. 52)
となり、式(1.51)の右辺と一致する。
摩擦力がなく、 µ = 0 の場合、
mg (s B − s A )sin φ = mg ( y B − y A )
(1. 53)
という重力の仕事がそのまま運動エネルギーの増加になる。
摩擦力があるとそれが負の仕事をするので、合力の仕事は小さくなり、運動エネルギー
の増加も少なくなる。
49
[問題 1. 28]
自動車の初心者にとってオートマチックでない車の坂道発進はいやなものである。坂
道発進でブレーキを離してからアクセルを踏むまでに 0.5 秒かかる時、車は何メートル
後戻りするだろうか。坂道の傾きが 10°の場合について計算せよ。また、角度Φをラジ
アンであらわすと、Φが小さい時の近似式 sinΦ∼Φが成り立つことを用い、摩擦はな
いものとする。
[問題 1. 29]
高さ零の点から角度θの斜面に沿って初速度 v0 で運動する物体がある。斜面は滑らか
で摩擦がない場合、斜面に平行上向きに x 軸をとって運動方程式を作り、時刻 t におけ
る速度 v と位置 x を求めよ。
また、この物体が到達できる高さを求めよ。さらに、それが初速度 v0 で鉛直上方に投
げ上げた物体が到達する高さと比較せよ。
[問題 1. 30]
水平面上を運動する質量 m の物体の初速度を v0、物体との平面のすべり摩擦係数をμ’
とする時、物体の運動方向に x 軸をとって運動方程式を作り、それを解くことによって
物体の速度が零になるまでに要する時間 T、その間に物体が移動する距離 X を求めよ。
特に、距離 X は初速度 v0 の平方に比例することを示せ。
50
1.8 保存力と位置エネルギー
1.8.1 保存力とポテンシャル
y
B
式(1.42)より、質点が点 A から点 B まで動いた場合に力
Fが行う仕事は、次式で表される。
WAB =
B
∫ ( F dx + F dy + F dz )
x
A
y
(1. 54)
z
C
dr
dy
A
[例 1.11]
O
重力
Fx = 0, Fy = − mg , Fz = 0
(1. 55)
図 1- 31
x
dx
力Fが行う仕事
が質点に働く時、A 点から B 点に質点を移動させる時
にする仕事は、次式となる。
B
B
W AB = ∫ ( Fx dx + Fy dy + Fz dz ) = ∫ Fy dy
A
A
= −mg ∫ dy = − mg [ y ] = − mg ( y B − y A )
B
B
A
A
(1. 56)
両端の y 座標だけで仕事の量は決定され、途中の経路にはよらない。点Aから点Bに
たどり着くまでの経路に上がったり下がったりしても、dy に正負を考えているので
結果は同じである。
(例 おわり)
この様に、仕事の途中の道すじによらず、両端の位置だけの関数として、
W AB = ∫
B
A
F ⋅ dr = U ( x A , y A , z A ) − U ( x B , y B , z B )
(1. 57)
のように、仕事 WAB が始点と終点の位置だけで決まり途中の経路によらない時、この力 F
を保存力(potential energy)とよぶ。
上式の U(x,y,z)を保存力 F のポテンシャル(potential)という。
ポテンシャル U(x,y,z)と保存力 F の関係は、次のように表される。
∂U
∂U
∂U
Fx = −
, Fy = −
, Fz = −
∂x
∂y
∂z
ベクトルを用いて、上式は以下のようにも表わすこともできる。
∂U
∂U
∂U
F =−
i−
j−
k
∂x
∂y
∂z
F = −gradU
F = −∇U
(1. 58)
(1. 59)
51
One Point gradient
grad は勾配(gradient)の略号で、gradU は”グラディエント U ”と読む。
∇ という記号はナブラと読む。
grad = ∇ =
∂
∂
∂
i+
j+ k
∂x ∂y
∂z
One Point 偏微分
U(x,y,z)という関数を、
y と z は定数のように考えて x だけについて微分する
これを x に関して”偏微分する”とよび、 ∂ U / ∂ x と記す。
[問題 1. 31]
次の関数 U ( x, y ) を x に関して偏微分 ∂ U / ∂ x せよ。
(1) U = xy
(2) U = 2 x 2 y
(3) U = x + y
x
y
(4) U = 5 x 3 + 3xy (5) U =
(6) U =
y
x
52
<仕事の原理>
重力が一様に働いている場合、その空間では
・物を直接真上に持ち上げても、
・力を節約するために斜面に沿って滑らせても、
・てこを使っても
必要な仕事の量が同じである。
このことを仕事の原理という。
[例 1.12]
例 1.11 のように重力が働く時、その仕事はポテンシャル
U = mgy
(1. 60)
から得られる(式(1.57))。
式(1.58)を用いて、上式のU から保存力を求めると、
∂U
∂U
∂U
−
= 0, −
= − mg , −
=0
∂ x
∂ y
∂ z
(1. 61)
となり、上式と式(1.55)を比べてみると、式(1.58)が成り立っていることがわかる。
(例
おわり)
下図に示すように、U が一定の値を持つ点を結ぶ面を等ポテンシャル面(equipotential
surface)、あるいは、等位置エネルギー面と呼ぶ。
y
P
mg
P1
mg
P2
y=0
mg
x
P0
mg
図 1- 32
等ポテンシャル面
53
[問題 1. 32]
B
力 F が保存力であれば、積分 ∫ F ⋅ dr が始点Aと終点
y
A
Bの位置だけによって決まり、点AとBを結ぶ経路に
よらない。右図のように点A(x,y)から点B(x+h,y+h)ま
での積分でⅠの経路とⅡの経路による値が同じにな
る条件から、力が保存力であるためには、
∂Fx ∂Fy
=
∂y
∂x
が成立することを示せ。
Q(x,y+k)
B(x+h,y+k)
P(x+h,y)
A(x,y)
x
O
<ヒント>
仕事は(物体に加えた力)×(力の方向に動いた距離)であるので、力を F、力の方向に動いた微小
距離を dr とすると、始点 A から終点 B までの仕事は定積分の記号を用いると、
∫
B
A
F ⋅ dr となる。
いま、始点 A から終点 B までの経路として二種類の経路を考える。経路 I の仕事は、点 A から点 P
までの仕事と点 P から点 B までの仕事を足し合せたものである。前者の場合(点 A→点 P)、力は Fx、
距離は h であり,後者の場合(点 P→点 B)、力は Fy、距離は k であるので、経路 I の仕事を WI とする
と、
B
WI = ∫ F ⋅ dr = Fx ( x, y )h + Fy ( x + h, y )k
A
同様に、経路 II による積分を W II とすると、 W II =
∫
B
A
F ⋅ dr = Fy ( x, y )k + Fx ( x, y + k )h
力が保存力であるためには、 WI = W II でなければならないので、上の二式を等しいとおくこと
により証明できる。すなわち,次式が成立しなければならない。
Fx ( x, y )h + Fy ( x + h, y )k = Fy ( x, y )k + Fx ( x, y + k )h
(Fx ( x, y + k ) − Fx ( x, y ) )h = (Fy ( x + h, y ) − Fy ( x, y ) )k
(1)
上式を偏微分で表すことを考える。偏微分は二つ以上の独立変数(ここでは、x, y)を持つ関数(Fx,
Fy)について、一つの独立変数の方向に微分を行うものである。この偏微分の考えを式(1)に適用す
ると、式(1)の左辺の括弧の中は x と y の関数であるが、x 方向の力 Fx ( x, y ) において,x を一定に
保ち y を k だけずらしたときの関数の変化を表わしている。この変化は偏微分を使って,
Fx ( x, y + k ) − Fx ( x, y ) =
∂Fy ( x, y )
∂Fx ( x, y )
k である。同様に、Fy ( x + h, y ) − Fy ( x, y ) =
hで
∂y
∂x
あるので、これらを式(1)に代入することによって証明できる。
[問題 1. 33]
次に示す、平面内で働く力はそれぞれ保存力か、もしも保存力ならばそのポテンシャ
ルを求めよ。ただし、x=y=0 のときポテンシャルは0であるとする。
1
(i) Fx = −ax 2 y, Fy = − ax 3
(ii) Fx = − ax 2 y, Fy = − ay 2
3
1
(iii) Fx = −axy, Fy = − ax 2 − y 2
2
54
1.8.2
位置エネルギー
式(1.58)で述べたように、保存力は、空間の位置の関数であるポテンシャル U(x,y,z)(こ
の U はベクトルではなくスカラー)から導かれるが、一般に Fx , Fy , Fz も空間の位置の関
数である。
このように、空間の場所ごとに決まった力 F ( x, y, z ) が与えられているとき、この空間を
力の場とよぶ。我々の住んでいる地球上は重力の”場”である。
一般には、Fx(x,y,z), Fy(x,y,z), Fz(x,y,z)という3つの関数が必要である。保存力では、これ
がたった1個の関数 U(x,y,z)から求められる点に特色がある。
いま、保存力 FC の働く場の中で運動している質点を考える。質点を m とし、この質点に
働く FC 以外の力(の合力)を F’とする。質点が点Aから点Bまで動いた時の仕事と運動エ
B
ネルギーの関係は、式(1.45) ∫ Ft ds = (1 / 2)mv B − (1 / 2)mv A より、次式で与えられる。
2
2
A
B
B
1
1
2
2
mv B − mv A = ∫ Fc ⋅ dr + ∫ F ' ⋅ dr
A
A
2
2
(1. 62)
保存力 FC については、式(1.57) W AB = ∫ F ⋅ dr = U ( x A , y A , z A ) − U ( x B , y B , z B ) が成り立つか
B
A
ら、式(1.62)の右辺第1項はポテンシャル U を用いて、
B
∫F
A
c
⋅ dr = U (r A ) − U (rB )
(1. 63)
である。ここで、右辺で U(x,y,z)を U (r ) と略記した。上式を式(1.62)に代入すると、
B
1
 1

2
2
(1. 64)
 mv B + U (r B ) −  mv A + U (r A ) = ∫A F ' ⋅ dr
2
 2

運動エ
ネルギ
位置エ
ネルギ
(運動エネルギー)+(位置エネルギー):力学的エネルギー
上式は、次の関係を表している。
考えている保存力以外の力が行う仕事は、運動エネルギーと位置のエネルギーの和の増
加量に等しい
[法則 1.5] 力学的エネルギーの保存則
特に、保存力以外に力が働かない場合や、働いていても垂直抗力や糸の張力のように常
に質点の運動方向に垂直で仕事をしない場合、式(1.64)の右辺が零になるから、
1
1
2
2
mv B + U (r B ) = mv A + U (r A )
(1. 65)
2
2
従って、
運動のあいだは常に全力学的エネルギーが不変に保たれる
ことがわかる。これを力学的エネルギーの保存則という。
55
[例題 1.13]
糸の長さがℓ の単振り子で、糸が鉛直と 60゜の角をなす位置Aでおもり(質量 m)を静
かに離す。おもりが最下点を通る時の速さ v0 を求めよ。
(解答)
位置Aでは、
l
1
2
mv A = 0, U (r A ) = mg
2
2
また、位置Bでは、
1
2
mv 0 , U (r 0 ) = 0
2
であるので、エネルギー保存則より、
l 1
2
0 + mg = mv 0 + 0
2 2
v 0 = gl
O
l
60°
A
l/2
v0
B
[問題 1. 34]
一点Oで支えられた振り子(右図)を考える。おもりの質
量を m とし、棒の質量を無視できるものとする。鉛直
O
θ
l
下方と棒のなす角度をθで表す。おもりの位置エネルギ
ーをθの関数として求め、それを図示せよ。ただし、支
点Oの下方Pを位置エネルギーの基準点とする。
m
P
[問題 1. 35]
原点からの距離 r に比例し、原点に向かう力( F = −kr )を受けて平面上を運動する質量
m の質点が原点で運動エネルギーmv02/2 をもっているとする。質点は原点からどこま
で遠ざかることができるか。エネルギー保存則を用いて求めよ。
[問題 1. 36]
原点からの距離 r の関数として、ポテンシャル U が
1
1
U = kr 2 − kα 2 r 4
2
8
で与えられるとき、質点が有限の領域で運動するためには、質点の位置および全エネ
ルギーにどのような制限が必要か述べよ。
56
1.9 万有引力と惑星の運動
1.9.1 万有引力
イタリアの物理学者・天文学者であるガリレイ
(1564-1642)は、ピサの斜塔の上から重い球と軽い球を
同時に落とすと2つの球はほぼ同時に地面に衝突する
ことを実際に示して、全ての物体の重力による加速度
は一定であることを証明したという伝説がある。
1.3.2 節で述べた[法則 1.2]運動の第2法則
F = ma
図 1- 33
ピサの斜塔
より、
(重力による加速度)=(重力)/(質量)=一定
という関係が導かれるので、
重力は質量に比例
する。
この重力は地球が地表面付近にある物体に及ぼす引力である。
作用反作用の法則
2つの質点が互いにおよぼし合う力はそれらを結
ぶ線上にあって、大きさが等しく向きが反対である
によると、地表付近にある物体も地球に同じ大きさの
引力を及ぼしているはずであり、この力は地球の質量
に比例していると考えるのが自然である。
m’
r
m
図 1- 34
Fr
-Fr
万有引力の法則
ニュートンは、この考え方を一般化して、
全ての2物体はその質量の積に比例する引力で引き合っている
と考え、この力を万有引力(universal gravitation)とよんだ。
[法則 1.6] 万有引力の法則
万有引力の大きさは両物体の質量の積に比例し、その間の距離の2乗に逆比例する
すなわち、
mm'
(1. 66)
Fr = −G 2
r
(1. 67)
比例定数 G = 6.67259 × 10 −11 m 3 /kg ⋅ s 2
これを万有引力の法則とよぶ。
57
[例 1.17 地表での引力]
地球上の質量 m の質点と地球との間に働く力は、地球の全質量 M が地球の中心に集中
したときの万有引力に等しい。ゆえに、地球の半径を R とすると、前ページ式(1.66)よ
り地表では引力の大きさは、
mM
Fr = −G 2
R
となり、地球の中心方向に、
GM
Fr = −mg , g = 2
R
の大きさの重力が働く。ここで、g は
g = 9.8m/s 2
の値をもち、地球重力定数といわれる。
[問題 1.37]
地球の半径は 6378km、質量は 5.975×1024kg である。地表における重力加速度は 9.80m/s2
になることを確かめよ。ただし、万有引力定数は G =6.672×10-11Nm2/kg2 であるとし、地
表の物体が受ける力は地球の全質量が中心に集中しているものとして計算せよ。
[問題 1.38]
地球上の物体が月から受ける引力および太陽から受ける引力を計算し、両者の大きさを
比較せよ。ただし、月と太陽までの距離をそれぞれ 3.844×105km,1.495×108km とし、両
者の質量をそれぞれ 7.35×1022kg,1.987×1030kg とする。
58
1.9.2
惑星の運動方程式
y
惑星の運動に関する法則、すなわち、ケプラーの法則を考える
r
前に、準備として、本節では惑星の運動方程式を説明する。
Fr
座標原点を太陽の中心にとり、万有引力を受けて運動
している1つの惑星を考える。
ここでは、考えやすいように、図 1-2 で説明した極座
標(r, θ)を用いる。
m
x
M
図 1- 35
惑星の運動
1.3.2 節で述べた運動の第2法則 F = ma に関して、動径方向成分(r 方向)とそれに垂直な
方向成分(接線方向θ)とに分ける。
Fr = ma r
(1. 68)
Fθ = maθ = 0
上式に、1.9.1 節の万有引力の大きさ、
Fr = GMm / r 2
(1. 69)
を代入して整理すると、(次式および式(1.71)の導出は、次ページ<補足>を参照)
m d  2 dθ 
0=
(1. 70)
r

r dt  dt 
上式を r について解くと、
l
r=
(1. 71)
1 + e cos(θ + α )
惑星の軌道を与える式を得る。
ここで、l = h 2 /(GM ), e = h 2C /(GM ), h = r 2 dθ / dt , C とαは比例定数である。l , e, h に
ついては、次節以降で詳しく説明する。
59
<補足>
惑星の軌道を表わす式の導出
座標原点を太陽の中心にとり、万有引力を受けて運動している1つの惑星を考える。[法則 1.2]運動の
第2法則 F = ma に関して、動径方向成分(r 方向)とそれに垂直な方向成分(θ方向)とに分ける。
Fr = mar , Fθ = maθ = 0
(1. 72)
上式に、万有引力の大きさ(1.9.1 節参照)、
Fr = GMm / r 2
(1. 73)
と極座標系で表示した加速度
d 2θ
dr dθ
d 2r
 dθ 
+r 2
ar = 2 − r 
 , aθ = 2
dt
dt dt
dt
 dt 
2
(1. 74)
を代入して整理すると、
2
 d 2 r
Mm
 dθ  
=
=
=
−
F
ma
m
r
 

 2
r
r
r2
 dt
 dt  
 dr dθ
d 2θ  m  d dθ
d 2θ
0 = Fθ = maθ = m 2
+ r2 2
+ r 2  =  r 2
dt  r  dt dt
dt
 dt dt
−G
0=
m d  2 dθ 

r
r dt  dt 
(1. 75)



(1. 76)
式(1.75)より、
d 2r
GM
 dθ 
One Point 積の微分
− r
 =− 2
2
dt
r
 dt 
( fg )' = f ' g + fg '
r 2 dθ / dt = h と仮定し、 dθ / dt = h / r 2 を上式に代入すると、
d2
h2
GM
r
−
=− 2
(1. 77)
2
3
dt
r
r
ここで、r を t で微分するとき、r はθ(t)の関数として t に依存していると考え、
d / dt = (dθ / dt ) ⋅ (d / dθ ) = (h / r 2 )(d / dθ ) を用いると、上式は、
GM
h2
h d  h d  h2 h2 d  1 d  h2
d d
(1. 78)
r − 3 = − 2
r − 3 = 2
r− 3 = 2
 2
 2
dt dt
r
r dθ  r d θ  r
r
r dθ  r dθ  r
となるが、さらに r = 1 / u とおくと、
1 dr
1  du
d 1
du
2 du d  1 
2
(1. 79)
= u2
=−
 =u
  = u − 2 
2
dθ  u 
dθ du  u 
dθ
r dθ
 u  dθ
2
従って、式(1.78)は
GM
d 2u
d  du 
3 2
2
+u = 2
−
 − u h = −u GM ,
2
dθ  dθ 
h
dθ
2
と簡単になる。 u − GM / h = w とおけば、
d 2w
= −w
dθ 2
u 2h2
(1. 80)
(1. 81)
となる。上式は 1.5.1 節の式(1.24)と同様なかたちをしているので、その解(式(1.25)参照)から、
w = C cos(θ + α ) が得られる。C とαは積分定数である。
w から u をへて r に戻せば、r とθの関係として、
1
1
1
l
,
=
=
r= =
2
GM
1 + e cos(θ + α )
u


GM
h
w+ 2

w + 1
h
h 2  GM

が得られる。これが惑星の軌道を与える式である。

h2
h 2C 
 l =

, e=
GM
GM 

(1. 82)
60
1.9.3 ケプラーの第1法則
1.9.2 節 で 惑 星 の 運 動 方 程 式 を 説 明 し た が 、 式
(1.71)
遠接点B
l
r=
1 + e cos(θ + α )

h
h C
 l =

, e=
GM
GM 

において、e は OM / AM であり(詳細は次ページ<補足>
を参照)、離心率と呼ばれる。
2
2
この e の値によって、上式の軌道は、以下に示すよう
に3種類に分類できる。(詳細は次ページ<補足>を参照)
e < 1 :楕円(長円)
e = 1 :放物線
e > 1 :双曲線
y
P
N
l r
θ
F
x
M
焦点O
図 1- 36
近接点A
楕円
焦点O
離心率 e = OM / AM
半直弦 l :焦点Oを通る垂線
惑星の運動では、 r はつねに有限でなければならないので、
e < 1 :楕円(長円)
の場合しか考えられない。
従って、
[法則 1.7] ケプラーの第1法則
惑星は太陽を焦点とする楕円軌道を描いて運動している。
61
One Point 離心率と楕円
楕円の方程式(標準形)は
x2 y2
+
=1
(1. 83)
a2 b2
で与えられ、この方程式が表す点 P から2定点 F,Oまでの距離の和は一定である。
F,Oを焦点、 e = k / a = a 2 − b 2 / a を離心率といい、 e < 1 である。
y
P(x,y)
遠接点B
N
x
F M
(-k,0)
図
O
(k,0)
近接点A
楕円
y
y
D
N
F
(-k,0)
M
l /ε
R
Q
l r P r /ε
θ
x
O
(k,0)
P
(a)
r
r
Q
Dl
R
l
O
D l /ε
R
r /ε Q
l P
r
θ
O
(b)
図
離心率
(a)e<1,
(b)e=1,
x
O’
(c)
(c)e>1,
62
1.9.4
ケプラーの第2法則
<面積速度>
微小時間 dt のあいだに質点が位置PからP’へ動いた場合を考
える(右図)。
PからOP’へ下した垂線をPHとする。
dθは微小角なので、 PH ≒ PP' = rdθ となり、
1
1
∆OPP' ≅ ∆OPH = OP ⋅ PH = r 2 dθ
(1. 84)
2
2
これは、微小時間 dt に動径(原点Oと質点を結ぶ成分)が描く
面積である。これを dt で割ったものを面積速度と呼ぶ。
mv P’
P
H
dθ
r
O
図 1- 37
面積速度
定義[1.5]
(面積速度) =
1 2 dθ
r
2
dt
(1. 85)
<ケプラーの第2法則>
1.9.2 節の式(1.70)において、 r 2 dθ / dt を r で微分したものが零ということは、
r 2 dθ / dt = 一定
(1. 86)
である。
また、万有引力のように、
質点に働く力が常に一定の点と質点を結ぶ直線(動径)の方向に働く時
この力を中心力(central force)とよぶ。
取り扱っている現象が中心力のとき、Fθ = 0 なので、常に定義[1.5]の式が成立するので、
1 dθ
面積速度 r 2
は一定である。
2
dt
よって、
[法則 1.8] ケプラーの第2法則
ケプラーは観測値をもとに次のことを見出した。
惑星の運動に関して太陽のまわりの面積速度は時間にかかわらず一定である
63
Coffee Break ケプラー Johannes Kepler(1571-1630)
ドイツの天文学者。ウェルテンベルク公領ワイルの居酒屋の長男として
うまれ、終生、病弱であった。4歳で天然痘のため視力を弱め、17歳
のとき父が戦死して以来、家族を扶養した。病身、貧困に加えて当時の
宗教戦争といった社会不安にさいなまれながら、惑星運動を探求し、い
わゆる“ケプラーの法則”を発見した。
64
1.9.5 ケプラーの第3法則
ケプラーの第3法則は、1609 年に観測結果を整理して見出されたものである。しかし、
それがニュートンの万有引力の法則と運動の方程式から理論的にも導き出されることが
わかっている。
[法則 1.9] ケプラーの第3法則
惑星の公転周期の2乗は軌道の長半径の3乗に比例する
y
遠接点B
<証明>
楕円の面積を求め、それを面速度で割ることによっ
て、惑星の公転周期を導出し、ケプラーの第3法則
を証明する。
楕円の面積は
(楕円の面積)=π×(長半径)×(短半径)
l
AB
(長半径) =
=
2
1 − e2
l2
l 2e2
l 2 1 − e2
l
−
=
=
(短半径) =
2 2
2 2
2 2
1− e
1− e
1− e
1 − e2
(
) (
)
(
(
)
P
N
l r
θ
F
x
M
焦点O
図 1- 38
近接点A
楕円
)
であるので、次のようになる(長半径、短半径については、次ページ<補足>参照)。
l
l
π l2
(楕円の面積) = π ×
(1. 87)
×
=
3/ 2
1 − e2
1 − e2
1 − e2
(
)
これを面速度 h/2 で割れば、楕円を一周するのに要する時間、つまり、周期が求められる。
2π l 2
(周期) = T =
(1. 88)
3/ 2
h(1 − e 2 )
さらに、これを2乗し、 l = h 2 / GM (∴ h 2 = lGM ) を用いると、次式が成立する。
T =
4π 2l 4
2
(
h 1− e
2
)
2 3
= 4π 2l 4
1
1
GMl 1 − e 2
(
)
3
4π 2  l 
4π 2
3
=
=
× (長半径 )

2 
GM  1 − e 
GM
3
(1. 89)
(証明
終)
65
<補足> 楕円の長半径と短半径の導出
1.9.2 節の式(1.71)

l
h2
h 2C 

 l =
,
, e=
r=
1 + e cos(θ + α )
GM
GM 

において、 e > 0, α = 0 と選んでも一般性をそこなわない。これは r が最小になる位置か
らθを測ることに相当する(前ページ図)。すなわち、
l
r=
1 + e cos θ
であるから、
l
OA =
1+ e
l
OB =
1− e
よって、
l (1 − e ) + l (1 + e )
2l
AB = OA + OB =
=
(1 + e)(1 − e) 1 − e 2
(1. 90)
(1. 91)
となり、この楕円の長半径( = MA = MB )は、
AB
l
(1. 92)
(長半径) =
=
2
1 − e2
次に、短半径を求める。まず、
l
l
l
l (1 − e )
le
−
=
−
MO = MA − OA =
=
2
1 + e (1 − e )(1 + e ) (1 − e )(1 + e ) 1 − e 2
1− e
(
)
前ページ図で、質点Pが位置Nに達した場合、
r cos θ = − MO
である。式(1.90)を変形し、式(1.93)、式(1.94)を用いると、
le 2
le
=
r
−
l = r (1 + e cos θ ) = r − e
1 − e2
1 − e2
le 2
l − le 2 + le 2
l
r =l+
=
=
2
2
1− e
1− e
1 − e2
従って、
l
r = ON =
1 − e2
(
)
(1. 94)
(1. 95)
一方、
2
2
2
MN = ON − MO
から MN 、つまり、次式が得られる。
(短半径) =
l2
−
l 2e2
(1 − e ) (1 − e )
2 2
2 2
=
(1. 96)
(
l 2 1 − e2
(1 − e )
2 2
)=
l
1 − e2
(1. 97)
(1. 93)
66
1.10
ガリレイ変換と回転座標系
1.10.1 慣性系
力学において物体の様々な運動を調べる場合、質点の位置を表わすための座標系を決め
なくてはならない。
1.3 節[法則 1.1]運動の第1法則
物体に力が働いていない時、静止している物体はいつまでも静止し、運動している物体
は等速度運動を続ける
は任意の座標系で成立するものではない。
この第1法則は、
力の作用を受けていない物体が静止の状態を続けるか、等速直線運動を行う座標系が
存在する
ということを述べている。
定義[1.6]
このように慣性の法則(第1法則)が成り立つ座標系を慣性系(inertial system)という。
よって、1.3.2 節の運動の第2法則 F = ma は慣性系でのみ成り立つ。
地上の運動を扱う多くの場合、地球に固定した座標系を慣性系とみなしてよ
いが、この座標系は厳密にいうと慣性系ではない。
これは地球が回っているためで、しかも恒星系に対しても回っているためで
ある。
また、原点Oが運動していることも問題としなければならないが、
太陽系の重心に原点をおき、恒星系に対して回転しない座標系は
慣性系である
という経験的事実がある。
67
Coffee Break ガリレイ
Galileo Galilei(1564-1642)
イタリアの物理学者、天文学者。近代科学の創始者の一人。没落しつつ
あったフィレンツェの小貴族出身の父と母の間に、7人兄弟の長男として
ピサに生まれる。
ガリレイの科学に対する姿勢は、実用的学問、技術的課題を実験的手法
で解明しようとするものであった。ピサ大学の数学講師であった時期に、
斜面を用いた落体の実験を行い、“運動のついて”(1590)を書いた。なお、
ピサの斜塔の実験は伝説らしい。
てこや滑車などの単一機械により複合機械を設計することを追求した
講義ノート“レ・メカニケ”(1593)では、てこの一端に力を加えることによって他端が物体を動かすとい
ったてこの機能の全体を把握し、モーメントの概念を導入した。この考えを発展させ、地球上における慣
性法則を明らかにした“加速度運動について”(1604)を著述することになる。
1609 年に自ら望遠鏡を作り、天体観測の結果、地動説を唱えるが、ローマの異端審問所に告発(1615)、
裁判の後に幽閉される(1633)。1638 年両眼を失明、1642 年病没。
68
1.10.2
ガリレイ変換
次ページ図のように、ある一つの慣性系 O − xyz (以下、K系と呼ぶ)に対して、これと軸
が平行なもう一つの座標系 O'−x ' y ' z ' (K’系と呼ぶ)を考え、 O' がK系からみて、
x0 = a + ut , y 0 = b + vt , z 0 = c + wt
のような等速度運動をしている場合について説明する。
この場合、 x 方向について考えてみると、K系からみて、
x = x'+ a + ut
(1. 98)
であるから、速度は、
dx dx'
=
+u
(1. 99)
dt
dt
加速度は、
d 2 x d 2 x'
(1. 100)
= 2
dt 2
dt
力 F は座標系によって変わらず、成分 Fx , Fy , Fz は座標軸の方向だけできまると考えら
れるので、
Fx ' = Fx
である。
同様に、y,z 成分について、K系で
Fx = m
d2x
d2y
d 2z
,
Fy = m
,
Fz = m
dt 2
dt 2
dt 2
が成り立っているのなら、K’系でも
Fx ' = m
d 2 x'
dt 2
,
Fy ' = m
d 2 y'
dt 2
,
Fz ' = m
d 2 z'
dt 2
(1. 101)
(1. 102)
が成り立つ。
[法則 1.10] ガリレイの相対性原理
K系でもK’系でも運動の第2法則が成り立っているので、
慣性系に対して等速度運動している座標系はやはり慣性系である
ということがわかる。
これをガリレイの相対性原理という。
K系とK’系に関して、上記のような変換式(1.98)∼(1.99)をガリレイ変換という。
式(1.101)と式(1.102)のように、運動方程式が同じ形であることをガリレイ変換で運動方
程式は不変であるという。
69
z
z’
y
O
O’
x
x’
図 1- 39
K系とK’系
y’
70
1.10.3 非慣性系と見かけの力
[例 1.18]
プラットフォームにいる観測者、および、電車内
の観測者の立場から、キャスター付きのトランク
が電車の床に進行方向に平行に置いてある場合を
考える。電車が発車すると、トランクは電車の進
行方向と反対方向に床の上を移動していく。
図 1- 40
トランクの動き
(プラットホームにいる観測者)
プラットホームからこのトランクを見ていると電車は動きはじめても、トランクはプ
ラットホームに対して(電車の後ろの壁に衝突するまでは)動かないように見える。プ
ラットホーム上の観測者は、この現象を
このトランクには力が働かないので、電車が発車してもプラットホームに対して静止の
状態を続ける
と理解する。すなわち、トランクの運動方程式は、 ma = 0 である。
(電車内の観測者)
一方、電車内の観測者からみると、電車の乗客に対してはトランクは逆向きの加速度
a' = − a0 で動く。ここで、 a0 は電車の加速度である。人間は自分を中心に考えると便
利なので、電車の床や壁を基準とする座標系(電車に固定した座標系)でも、ニュート
ンの運動の法則が成り立つと考えたくなる。従って、電車の中の人は
トランクには後ろ向きの見かけの力が作用するので、トランクは後ろ向きに動きはじめる
と感じる。その時の運動方程式は、
ma ' = ( 見かけの力 )
であるが、 a' = − a0 なので見かけの力は次式となる。
( 見かけの力 ) = − ma 0
このように、加速度運動をしている電車の中で運動の法則を成り立たせようとすると、
見かけの力を導入しなければならない。力学では、ある物体に作用する力の源は他の物
体であると考え、力の原因となる物体が存在しない場合の力を見かけの力とよぶ。見か
けの力を導入しなくてもニュートンの運動の法則が成り立つ座標系が慣性系である
(1.10.1 節の定義[1.6])。
上図で、プラットホームから見た座標系をK系、電車内から見た座標系をK’系とすると、
K’系は a0 (電車の加速度)で加速していることになる。K系からみたときの加速度は、
d2x
=
d 2 x'
+ a0
(1. 103)
dt 2
dt 2
である。K系は慣性系( m ⋅ d 2 x / dt 2 = Fx など)であるので、上式を変形することによって、
K’系からみた運動方程式が次式のように得られる。
d 2 x'
= Fx − ma 0
(1. 104)
dt 2
右辺第2項は、座標系( O'−x ' y ' z' )の加速度運動に起因する見かけの力である。
m
71
[問題 1.41]
一定の速さで動くエレベータの中で鉛直上方に投げ上げた物体が元の位置まで戻
る時間を測定したところ T0 であった。次に、加速度 a で降下するエレベータの中で同
じ実験をしたところ、元の位置に戻る時間が T となった。T0 , T および重力加速度 g か
らエレベータの加速度 a を求めよ。ただし、エレベータに対する物体の初速度は同じ
であるとする。
本当の力を F、見かけの力を F’(=−m d2x0/dt2, d2x0/dt2:エレベータの加速度)とし
て考えよ。
[問題 1.42]
質量 m のおもりをつるしたバネがエレベータの中になる。t=0 にエレベータが加速
度 a で降下をはじめると、おもりはどのような運動をするか。バネ定数を k とし、バ
ネの自然長からののびを x とせよ。
なお、エレベータが降下する前は a=0 で、おもりは静止しているから、バネのの
びは x0=mg/k である。
[問題 1.43]
静止した系で鉛直上方に x 軸をとった場合、振幅 a、角振動数ωで上下に振動(x=
acos(ωt+φ))する台の上に置いた物体が台から離れないための条件を求めよ。なお、
台から受ける抗力を R とする。
72
1.10.4 回転座標系と遠心力
半径 r 、速さ v で、角速度 ω = v / r の等速
円運動をしている質量 m の質点を考え
る(右図)。
ω
見かけの力
(遠心力)mrω2
m
[例題 1.7]より、
d2x
a x = 2 = − aω 2 cos ωt
dt
d2y
a y = 2 = − aω 2 sin ωt ,
dt
d 2z
az = 2 = 0
dt
特に c = 0 の等速円運動では、
a x = − aω 2 cosωt = −ω 2 x
P
r
向心力mrω2
図 1- 41
等速円運動をしている質点
a y = − aω 2 sin ωt = −ω 2 y
One Point 三角関数の微分
(sin x )' = cos x
(cos x )' = − sin x
z = 0, az = 0 と図 1-19 より、加速ベクトル a の方向は位置ベクトル r と向きが反対で、そ
の大きさは 1.2 節の式(1.5)より、
a n = a x + a y = ω 4 x 2 + ω 4 y 2 = ω 2 x 2 + y 2 = rω 2
2
2
すなわち、加速度は円の中心に向かい、大きさは半径 r の ω 2 倍( ω は角速度)に等しい。
従って、中心に向かう加速度成分 a n は、
an = rω 2 = v 2 / r
であるので、中心に向かう力(向心力)は、
ma n = mv 2 / r = mrω 2
メリーゴーランドのように、慣性系(地表)に対して回転運動している物体に固定された
座標系(回転座標系)は、非慣性系である。回転座標系でニュートンの法則を成り立たせ
ようとすると、外向きの見かけの力 mrω2 である遠心力を導入しなければならない。
73
[例 1.19] 遠心力
角速度 ω で回転しているメリーゴーランドの中心の柱に長さ r のひもで結ばれて床とい
っしょに角速度 ω で等速円運動をしている質量 m の物体Pをメリーゴーランドの上に静
止している人が観察すると、
自分に対してこの物体が静止しているのは向心力(ひもの張力)とつり合う大きさ
mrω 2 で外向きの力が働いているためだ
と感じる。
ω
遠心力
[例 1.20] 重力
地球は地軸のまわりに自転しているので、地球といっしょ
に回転している我々にとっては、静止している物体には遠
心力が働いていると感じられる。
万有引力
重力
図 1- 42
物体の重さ、すなわち、物体に働く重力は、厳密には地球
の万有引力と地球の自転による遠心力の合力である(右図)。
O
重力
74
1.10.5 コリオリの力
慣性系に対して一定の角速度 ω で回転している座標系(回
転座標系)から見た時、この系に静止している物体には見か
けの力である遠心力が働く。
B’
O
回転座標系に対して物体が運動している場合、遠心力の他
に、別の見かけの力(これをコリオリ Coriolis の力とよぶ)が
働く。
右図の回転台の上に静止している人AがボールBを中心O
をめがけて投げると、ボールはOではなく、右にそれてB’
の方へ運動する。
この現象を地面の上に立っている観測者は、
A’
B
A
図 1- 43
コリオリの力
y
η
ξ
人間Aは BO に対して垂直方向に運動しているので、ボ
ールの速度は2つの速度を合成した BB' の方向に運動
する
と考える。
ωt
O
x
z,ζ
図 1- 44
回転座標系
一方、、回転台上に静止している人間Aは、
ボールには BO に対して垂直方向を向いた見かけの力であるコリオリの力が働くのでボ
ールは右方向にそれる
と考える。
75
Coffee Break コリオリの力
貿易風や、高気圧・低気圧付近の気流などは、コリオリの力の影響が顕著に見られる例である。
地球の赤道付近は一般に太陽からの熱を他の地帯より余分に受けている。暖かい空気は上昇し、その後へ
温帯からの風が吹き込み、北半球では南へ(赤道に向かって)吹く風は、コリオリの力の影響で西へそれる。
これが南西に向かってほとんど定常的に吹いている貿易風とよばれる風である。
高気圧から吹き出す風や、低気圧に吹き込む風の向きが等圧線に垂直でなく、北半球では下図のように常
に右方向にそれ、南半球では左方向にそれるのもコリオリの力による。
図
北半球での風の向き