弓状子宮は不育症の原因になりうるか?

日生殖医会誌 53巻4号
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流産後の胎盤絨毛におけるゲノムインプリンティングの異常と男性不妊因子との関
連性について
○佐藤 晶子1,大津 英子1,有馬 隆博2,宇津宮隆史1
セント ルカ産婦人科1,東北大学大学院医学系研究科2
【目的】近年,生殖補助医療(ART)によって授かった子供でBeckwith−Weidemann症候群やAngelman症候群などのイ
ンプリント病の発症が増加していると報告されている.インプリント遺伝子の発現調節に働くDNAメチル化は,配偶子形
成過程で獲得されるため,ARTの配偶子操作についてその安全性が危惧されている.一方で,不妊患者自身の配偶子異常
も存在する.本研究では,不妊治療により妊娠し,その初期の流産時に得られた胎盤絨毛のインプリント遺伝子のDNAメ
チル化の解析を行い,培養液,不妊因子等との関係をみた.さらに,ARTに用いられた精子との関連性について解析する
ことを目的とした.なお,本研究は倫理委員会の承認を得ておこなった.【方法】不妊治療(排卵誘発を含む)後の流産検
体78検体と,自然妊娠の流産(コントロール)検体38検体のDNAを用いてインプリント遺伝子のDNAメチル化につい
て解析した.精子型;H19,GTL2,卵子型;SNRPN,ZAC,LIT1,PEG1,PEG3,XISTについてBisulphite−PCR法を
用いて定量化した.【結果】1)不妊治療後の流産検体のうち21.7%(17/78)はメチル化の異常を認めた.2)IVF/ICSI群
と非IVF/ICSI群に有意差はみられなかった.3)使用した培養液,不妊因子との関係も見られなかった.4)流産検体のメ
チル化の異常をみとめた17例のうち7例は精子の低メチル化と関連性を示し,乏精子症で多い傾向がみられた.【考察】不
妊治療後の流産検体でのインプリント異常は,精子DNA由来であることが確認された.今後さらに増加するであろうART
不妊治療の安全性や危険性に関して,インプリントの異常の再評価が必要であると考えられた.
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弓状子宮は不育症の原因になりうるか?
○稲川 智子,阿部 崇,峯 克也,桑原 慶充,里見 操緒,富山 僚子,明楽 重夫,竹下 俊行
日本医科大学産婦人科学教室
【はじめに】ミューラー管の発生異常に起因する子宮形態異常が不育症の原因となることは古くから知られている.中隔子
宮では流産率が高いとされているが,他の奇形に関してはエビデンスが少ない.最も程度の軽い弓状子宮に関しては,不育
症との関連はないとする報告が多い.今回われわれは,不育症外来に登録されたクライエントのうち,子宮卵管造影で弓状
子宮と診断された症例の不育症への関与について検討を加えた.【対象と方法】2000年1月から2008年4月までに当科不育
症外来(2回以上の反復する流産歴を有する)を受診しスクリーニング検査を行った症例のうち,子宮卵管造影で子宮内腔
の所見が正確に把握出来た261例を対象とした.中隔子宮と弓状子宮との鑑別は,牧野らのX/M比を用いた基準によった.
不育症原因究明のためのスクリーニングは,日産婦生殖内分泌委員会(2004)の推奨する項目にしたがって検査を行った.
1結果】1)261例中,子宮奇形は44例(169%)であった.内訳は弓状子宮28例,中隔子宮10例,単角子宮4例,双角子
宮2例であった.2)子宮卵管造影所見を正常群,弓状子宮群,その他の子宮奇形群に分けると,既往流産回数はそれぞれ285±
α91回,2.93±0.86回,3.13±1.09回であり,各群間に有意差はなかった.3)子宮卵管造影以外の異常所見検出頻度は,弓
状子宮群89.3%(25/28)に対してその他の子宮奇形群563%(9/16)であり,弓状子宮群では複数の原因が関与している
率が有意に高かった(P=0.012),4)弓状子宮以外には甲状腺機能異常を伴うことが多かった.【結論】弓状子宮は不育症症
例に多く見られたが,単独で不育症の原因になることは少なく,他の異常所見を伴って不育症の病態形成に寄与していると
推察された.
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二卵性一絨毛膜双胎における血液キメラの遺伝子解析
〇三浦 清徳1,肥後 貴史2,三浦 生子’,増崎 英明1
長崎大学医学部産婦人科1,同心会古賀総合病院産婦人科2
<症例>29才の初産婦で,クロミッドおよびHCGを用いた不妊治療により妊娠が成立した.妊娠初期に双胎妊娠であるこ
とを確認され,超音波検査による膜性診断は一絨毛膜二羊膜と診断された.しかし,双胎間の性別が異なっていたため,二
卵性一絨毛膜双胎を疑われた、分娩後,やはり両児の性は異なっており,一児は女児で他児は男児であり,胎盤の病理検査
で一絨毛膜二羊膜であったことから,当科へ卵性診断を目的に紹介された.両親の説明と同意を得て,両親の血液5ml,双
胎児それぞれの膀帯血5m1,膀帯,および口腔粘膜の擦過細胞を採取してDNAを抽出した.倫理委員会の承認のもと12種
類のABI多型マーカーを用いてDNA多型解析を行い,5種類のマーカー(D19S420,D19S414,D20S171,D20S196およ
びD20S889)において両親の遺伝子型がヘテロ接合かつ異なっていたためこれらをinfomativeマーカーとした.D19S420
を用いた母親の遺伝子型は100bpと108bp,父親のそれは108bpと110bpであった.口腔粘膜細胞および謄帯から抽出され
たDNAにおける一児の遺伝子型はいずれも100bpと108bp,他方の児のそれはいずれも108bpと110bpであり,双胎児は
両親からそれぞれ異なる遺伝子型を受け継いでいた.D19S414およびD29196を用いた遺伝子型解析でも同様の結果が確認
され,本例は二卵性一絨毛膜双胎と診断された.一方,D19S420における一児の膀帯血および他児の末梢血からいずれも3
種類のアレル(100bp,108bpおよび110bp)が検出され,膀帯血を介して血液細胞に限局したキメラが存在していた.<
考察>遺伝子型解析で不妊治療に伴う二卵性一絨毛膜双胎と診断された.二卵性一絨毛膜双胎におけるキメラの発生機序と
して双胎問の血管吻合を介した他児の幹細胞の生着が考えられた.双胎におけるキメラの診断には,口腔粘膜細胞や膀帯な
どの細胞と造血幹細胞に由来する血液細胞を用いた卵性診断が重要であると考えられた.