技術 情報 牛の一生における管理 ~牛の低カルシウム血症を考える~ その2 広島県立総合技術研究所 畜産技術センター 飼養技術研究部 研究員 末永晋一氏 1 はじめに 前号では,分娩前後の低カルシウム血症の予防対策について説明しました。今月号では,低カルシウム血症予防の ための飼料設計について解説します。 2 飼料中のカリウムが低カルシウム血症をおこす 分娩後の低カルシウム血症対策として,飼料中のカリウム含量を下げる必要があり,主な理由が次の二つです。一 つ目の理由は,カリウムが,体内ではマグネシウムと拮抗関係にあり,カリウムが多い飼料の場合,第一胃内でマグ ネシウムが体内に吸収されるのを阻害するためです。二つ目の理由は,給与飼料中のDCADの値を低くするにはカ リウムが key になるためです。 ①カリウムとマグネシウム 血液中のマグネシウムが不足すると牛は起立できなくなり,興奮やけいれんなどの神経症状を起こし,場合によっ ては死亡することもあります。血中のマグネシウムは血中のカルシウム濃度の調整に非常に重要な働きを担っていま す。そのため,低マグネシウム血症の発症は低カルシウム血症の発生に強く関与します。このことから,カリウムの 影響でマグネシウムが低下すると,カルシウムが十分であっても,低カルシウム血症の様な症状を呈します。 ②DCAD DCADとは,Dietary Cation-Anion Difference の略称で,飼料中の陽イオン(Cation)と陰イオン(Anion)の電位差 を示したものになります。DCADにはいくつか公式がありますが,『DCAD= (Na ++ K + ) - (Cl ー- S2-)』の式が基 本的です。この計算値が高くなると,陽イオンであるカルシウムが吸収されにくくなります。そのため,乾乳期には DCADの値を下げることが勧められています。しかし,このDCADの値を下げることは大変難しく,その主な原 因が飼料中のカリウムです。 カリウムは陽イオンであり,DCADの値を上げる方向に働きます。しかも,我が国のように糞尿を多量に還元し た土地で栽培されたイタリアンライグラスや,スーダングラス,アルファルファ等,多くの飼料中ではカリウム含量 が高い傾向にあります。これを防ぐためには,土地にふん尿(特に尿)の過剰な投下を避けること,塩素を肥料に混ぜ て散布すること,カリウムを吸い上げにくい牧草を選択することなどが大切です。 一方で,飼料中のDCADの値を下げる方法として,陰イオン塩を添加する方法がありますが,一般に陰イオン製 剤は嗜好性が悪く,採食量が落ちる危険性があります。乾物摂取量が低下すると、第四胃変位やケトーシスなど、他 のタイプの代謝障害の発生リスクが高まることになります。 以上の理由から,飼料中のカリウム濃度を下げることが重要になります。 3 低カルシウム血症予防のための飼料設計の考え方 飼料中のカリウムの濃度は,同じ種類の飼料でも,土壌や施肥条件等により大きく変わってきます。現実的には, 給与時にカリウムを毎回測定することは不可能であり,平均して他の飼料に比べて,カリウムの値が低い飼料を使う ようにします。一般的にカリウムが低い飼料と言われているのが,飼料イネやトウモロコシ等です。 岡山県農林水産総合センター畜産研究所の報告(H26)では,乾乳期の主な飼料として、試験区にイネWCS(たちす ずか)を、対照区にはイタリアンライグラスサイレージを給与したところ,イネWCSはイタリアンライグラスサイレー ジに比べ,カリウム含有量やDCAD値が低く、分娩後の血中カルシウム濃度は、高値を維持したとあります。この ように,分娩前からイネWCSを給与することは,低カルシウム血症の予防につながる可能性があります。 本県では,乾乳前期はイネWCS給与量の目安として,乾物量5~7㎏ / 日,乾乳後期は濃厚飼料や,TMRの給与 量を徐々に増やし,イネWCSの給与量を3㎏ / 日程度まで徐々に減らすことを勧めています。 また,マグネシウム含量を上げるという発想もありますが,報告 (H15) によると,飼料中に塩化マグネシウムを投与 した場合,嗜好性を下げる可能性があるとされており,注意が必要です。 4 最後に 分娩前のオーバーコンディションにも注意が必要です。これまでの研究で,分娩時のボディコンディションスコア ―が 3.5 以上の牛は,3.0 に比べて,分娩後の低カルシウム血症を引き起こす可能性が 30%高くなることが知られてい ます。そのため,もし,乾乳前に太っている牛がいれば,濃厚飼料を減らす等をして,エネルギー価の低い飼料で調 整する必要があります。 低カルシウム血症の発症が多い経営では,まず,牛の適切なボディコンディション管理をしましょう。さらに,低 カルシウム血症予防のための飼料設計として,飼料イネやトウモロコシ等,一般的に飼料中のカリウムの濃度が低い 飼料を使い,飼料中のカリウム含量を下げる努力をすることが大切です。 広島 2015年 (平成 27年)7月 〔№ 256〕 26 家畜改良事業団からのお知らせ より高付加価値な副産物の生産 この 1 年「F1 も ET もスモール市場が高いなぁ。」と感じておられるものと思います。今回は直近の過去 1 年間 の三次家畜市場の価格推移等を紹介します。 ET 産子と F1 産子の価格推移(三次家畜市場) グラフ 1 は H26 年 4 月~ H27 年 5 月の三次家畜市 場における F1 産子と ET 産子(体内受精卵・体外受精 卵産子)の価格の推移です。この 1 年、F1 スモール市 場は高値安定といった状況で推移していますが、ET 産子は♂、♀ともに平均価格が上昇し続けており、昨 年 4 月と比較すると平均で 5 万円以上高くなっていま す。 また F1 産子と ET 産子は以前から 10 ~ 15 万円ほど の価格差がありましたが、最近では 15 ~ 20 万円ま で広がりつつあります。 体外受精卵(IVF)産子と体内受精卵産子の 価格推移(三次家畜市場) グラフ 2 は受精卵産子のなかでも当団の体外受精卵 (IVF)産子と体内受精卵産子の価格推移になっていま す。体内受精卵の♂産子が比較的高く取引されていま すが、♀産子との価格差が以前より大きくなってきて いる傾向が見られます。また IVF ♂産子が体内受精卵 ♂産子と価格差を縮めてきています。また性別を考慮 せず IVF 産子と体内受精卵産子を比較すると実は IVF 産子の方が若干ですが高値です。IVF 産子の♀につい てはグラフに表示していません。これは当団が販売し ている IVF は和牛の♂選別精液(sort90)を利用したも のが主に販売されていますので、圧倒的に♂子牛が生 まれ上場される割合が高く、雌の上場は年間数頭だか らです。 選別精液などで後継牛を十分に確保していただくこ とが最重要ですが、今年度は畜産クラスター事業など で受精卵にも補助が適応される場合もあり、絶好の移 植チャンスです。このチャンスを機会に高付加価値の 副産物である受精卵産子も生産を検討してみてはいか かでしょうか。以前のらくのうだより(平成 25 年 7 月 号)でも紹介しましたように、夏季の受胎対策のひと つとしても受精卵移植をご検討いただければと思いま す。 詳細は岡山種雄牛センター(電話 0868-57-2475) 四宮、または大島までお問い合わせ下さい。 広島 27 2015年 (平成 27年)7月 〔№ 256〕 72 日本政策金融公庫農林水産事業からのお知らせ -その - 広島県の酪農家の皆様へ このコーナーでは日本政策金融公庫から、酪農家の皆様の経営に役立つ情報を提供して参ります TOPIC 農業者が活用できる税制の主な特例措置 ( 平成 27 年度)② 先月号の設備投資の際に活用できる税制の主な特例措置に続き、今月号では規模拡大や贈与・相続の際に活用 できる税制の主な特例措置をまとめましたのでご紹介いたします ( 税制改正等で内容が変わることがあります。 農水省HP(リンク)で詳細を御確認ください)。 区 分 税制の特例措置 ( 活用のメリット) 対 象 者 特 例 措 置 の 内 容 U R L 農地取得 青色申告(複式簿 農 業 経営基 盤 強 支援措置の内容は前頁参照 記等で記帳)を 化準備金制度 農用地を取得した場合も圧縮記帳できることがポイント 行う認定農業者 ①登録免許税の 《農用地利用集積計画を活用した担い手による農地の取得》 特例 ( 軽減税率) 所 有 権 移 転 の 登 録 免 許 税:税 率 20/1000(29 年 3 月末 ま で ②不動産取得税の 意欲ある農業者 15/1000) ⇒ 8/1000 特例 ( 軽減税率、 不動産取得税:課税標準の3分の1を控除 課税標準の控除) 農地贈与・相続 農業を営む者(贈与者)が、その農業の用に供している農地の 贈 与 税 に係 る納 農業後継者 全部を後継者(推定相続人の 1 人)に贈与した場合、後継者に 税猶予制度 (推定相続人の 1人) 課税される贈与税の納税を猶予し、贈与者又は後継者のいずれ か一方が死亡したときに納税が免除される。 相 続 税 に係 る納 相続人 税猶予制度 相続等により、被相続人の農業の用に供されていた農地又は農 業経営基盤強化促進法等に基づく事業による貸付け(以下「特 定貸付け」という)が行われていた農地(市街化区域外に限る) を取得した相続人が、これらの農地を引き続き農業の用に供し ていく又は特定貸付けを行う場合、これらの農地等の価格のう ち農業投資価格を超える部分に対応する相続税については、納 税猶予期限まで納税を猶予し、当該期限が到来したときに納税 が免除される。 青色申告の特例 ( 経費参入、所得控 農業者 除、特別償却等) ①原則として専従者給与の全額を必要経費に算入、②所得金額 から最高 65 万円を控除、③貸倒引当金の繰入れ、④特定設備 等の特別償却・税額控除、④棚卸資産評価での低価法の選択 その他 農事組合法人の従 確定給与ではなく、従事分量配当又は利用分量配当を構成員に 事分量配当等の特 農 業 協 同 組 合、 支払う農事組合法人については、①法人税について 19%(8 百万 例 ( 軽 減 税 率、 配 農事組合法人等 円以下の所得は 15%)の軽減税率を適用、②従事分量配当金 当金の損金算入) 又は利用分量配当金を所得の計算上で損金に算入できる。 農業に対する事業 税・事業 所 税の特 例( 非 課 税、 課 税 標準からの控除) ①事業税:原則として、個人及び農事組合法人である農業生産法人は非課税 ②事業所税:原則として、直接生産の用に供する一定の施設については非課 税のため、課税標準から差し引いて税額を算出 資産割 = 従事者割 = 事業所床面積 従事者給与総額※ - 左のうち非課税分 × 600 円 / ㎡ × ※の 0.25/100 (参考)上記 URL の出典 農林水産省/農業者への税制支援 (一覧表 ) http://www.maff.go.jp/j/aid/zeisei/nou/index.html ※詳細については、農林水産省のホームページをご参照ください。 ⇒ http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/hito_nouchi.html ㈱日本政策金融公庫 広島支店 農林水産事業 所在地:〒 730-0031 広島市中区紙屋町 1-2-22 広島トランヴェールビルディング 6 階 TEL:082-249-9152 FAX:082-249-9102 ○相談窓口も以下の場所で開催しております。 三次相談窓口(8 月は 5 日と 19 日) 場所:三次農業協同組合本店 庄原相談窓口(8 月は 6 日と 20 日) 場所:庄原農業協同組合本店 福山相談窓口(8 月は 14 日) 場所:日本政策金融公庫福山支店 ※予約制で開催しております。ご来店の際は事前にご連絡をお願いいたします。 広島 2015年 (平成 27年)7月 〔№ 256〕 28 酪政連の窓 6 月 24 日 広酪本所会議室 通常総会 日本酪政連へ「乳脂肪率緩和等を要請」 広島県酪農政治連盟(委員長 藤岡辰彦)は、4 会員全員の出席のもと、議長に藤岡辰 彦氏を選任し、議事録署名人には和田慎吾氏、井上正芳氏を指名した。上程した議案は 「平成 26 年度活動報告並びに収支決算」、「平成 27 年度計画案並びに収支予算案」、「平 成 27 年度会費並びに生産者負担金の額の決定及びその徴収方法」、「日本酪農政治連盟 に対する要請」など 4 つの議案で全てを可決した。 平成 26 年度は、広酪組合員からの酪農対策推進費(2 銭 / 生乳 1 ㎏)と酪農振興資金(4 銭 / 生乳 1 ㎏)の拠出負担を受け前期繰越金を含め 3,722 千円の収入に対して、日本酪農 政治連盟への賦課金、TPP 反対集会等の 組織活動を行い、支出合計は 1,910 千円、その収支差額 1,811 千 円を次年度に繰越した。 平成 27 年度は、7 月 31 日、東京の自民党本部で開催される「全 国酪農民大会への参加」と、「量販店に及ぶ牛乳販売価格調査」と その是正行動を行うこととし、4,793 千円の予算計画を承認した。 また、日本酪農政治連盟には①生乳の乳脂肪率取引基準の現行 3.5% 以上を 3.2% への緩和、②持続 ■平成 26 年度貸借対照表 (単位:千円) 資産の部 負債・資本の部 可能な適正乳価の追及とその乳価 科目 金額 科目 金額 獲得のための側面的支援、③酪農 普通貯金 1,656 未払金 99 経営所得安定のためのセーフティ 未収金 254 前期繰越金 693 ネットの政策実現を求める要望書 当期余剰金 1,118 提出を決定した。 資産合計 1,910 負債・正味財産の部 1,910 広島県酪農協会の窓 第 61 回通常総会 6 月 24 日 広酪本所会議室 酪農ヘルパー事業を支える基金管理 期末基本基金残高は 89,797 千円 (一社)広島県酪農協会(会長 岩竹重城)は 4 会員全員が出席して役 員会、通常総会を開催した。議長には岩竹重城氏が選任され、議事録 署名人には和田慎吾氏、井上正芳氏が指名された。 平成 26 年度では、酪農ヘルパー事業円滑化対策事業に基づき、円滑 化基金から 8,125 千円を取崩し、広酪の行う酪農ヘルパー事業に対する 補助金として同額を交付した。平成 27 年 3 月末の基本基金残高は、県 補助金分が 35,934 千円(40.02%)、団体拠出金は 53,862 千円(59.98%) 、 合計 89,797 千円となった。また、酪農経営安定対策補完事業(酪農ヘルパー傷病互助制度を含む)22,684 千円(う ち互助基金から 550 万円の半額)を国へ補助金申請の進達を行い、広酪メンバーズクラブの酪農経営発表大会へ の支援や酪農共済の共済推進を行った。 平成 27 年度も酪農ヘルパー事業の円滑な運営支援に必要な基金管理にあたることの他、酪農共済事業、構成 団体との連携をもってその活動を支援するこ ととし、15,315 千円の予算計画を承認した。 ■総会付議事項 1)平成 26 年度活動報告並びに収支決算 2)平成 27 年度事業計画案並びに収支予算案 3)平成 27 年度会費の分賦並びに徴収方法 広島 29 2015年 (平成 27年)7月 〔№ 256〕
© Copyright 2024 ExpyDoc