やまびこスケートの森 - 日本栄養士会

Healthist Topic
管理栄養士が案内する
「食育」の現場
アスリートに必要な
栄養マネージメントとは
やまびこ
スケートの森
管理栄養士
藤森陽子さん
vol.14
文◉編集部 text by Healthist 写真◉細田 忠 photographs by Tadashi Hosoda
長野県岡谷市の鳥居平やまびこ公園に隣接する総合スポーツ施設「やまびこスケート
の森」トレーニングセンターの管理栄養士・藤森陽子さん。スポーツと栄養に関わる
仕事に長年従事し、日本栄養士会と日本体育協会が共同認定する“公認スポーツ栄養
士”でもある藤森さんに、スポーツ栄養マネージメントの話を中心に伺いました。
管理栄養士になって 16 年目を迎えた藤森陽子さん
の資格を所持し、日本体育協会と日本栄養士会が共同
は、学生時代から運動と栄養関連の仕事を一緒にやり
認定する公認スポーツ栄養士でもある。公認スポーツ
たいと考えていたが、当時はまだ運動と栄養は別物と
栄養士は、平成 20 年度から養成事業がスタートした
考えられていたため、相談をした学校の先生からは変
もので、スポーツを行う人を栄養面から専門的なサ
わった生徒だと思われていた。だが、藤森さんの熱い
ポートするため、現場のニーズに的確に応える専門性
思いは変わらず、短大卒業後は東京でフィットネス関
の高い管理栄養士を育成することを目的としている。
連の企業に就職し、公共施設の体育館や運動施設など
現在、全国で 65 名、長野県では 2 名の公認スポーツ
でレシピの提案や栄養相談などを担当。その後、出身
栄養士が活躍しており、そのうちの一人が平成 23 年
地である長野県に戻り、地元のフィットネスクラブで
度に認定を受けた藤森さんなのだ。
の仕事を経て、10 年前から“やまびこスケートの森”
「公認スポーツ栄養士の認定を受けるまでは、自己流
のトレーニングセンターに勤務している。同施設で最
でやっていることが多かったため、本当にこれでいい
初に担当した仕事は、当時展開していたダイエット合
のだろうかという不安がいろいろとありました。それ
宿で、参加者の運動や食事メニュープログラム作成な
が公的機関から認定を受けたことで、これまでやって
どを行っていた。
きたことを確認する場ができ、ときには間違っていた
藤森さんは、管理栄養士の資格だけではなく、安全
部分に気づかされることもあります。また、対外的に
で効果的な運動を実施するための運動プログラム作成
および実践指導計画の調整などを行う健康運動指導士
健康運動指導士としてトレーニングの指導も行っている。
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トレーニングセンターで
は、希望者には体組成測
定を行って一人一人にあ
ったトレーニングプログ
ラムの提供や栄養相談を
実施している。
アスリートの食事や栄養指導として、実際に料理
を作りながら自分に必要なものを学んでもらって
いる。
(写真提供:やまびこスケートの森)
やまびこスケートの森ではさまざまな分野のスペ
シャリストが協力して、アスリートの総合的トレ
ーニングプログラムを組んでいる。
はしっかりとトレーニングを受けた認定者として、信
といってすぐにパワーがアップする、疲労が回復する
頼感を頂いています」
ことはない。試合前に食べるべきもの、試合当日に食
“やまびこスケートの森”のトレーニングセンターは、
べるべきものは栄養素としてはあるが、日頃の食事が
健康増進施設であるとともにスキーやスケート選手を
適切にできていなかったら意味がないのである。いつ
はじめとする幅広いアスリートのトータルサポートを
も糖質が不足しているのに、試合当日だけ多く摂取し
行っていて、そのため施設には、上級トレーニング指
たとしても実際に選手に必要な量とは異なってくる。
導士をはじめとする各専門スタッフがいて、選手の
「私たちスポーツ栄養士の仕事は、短期間で効果が
フィジカルメニューを作成したり、ケガをした選手が
はっきりと見えるものではないのです。
例えば、
トレー
再び前線で活躍するためのサポートなどを行っている。
ナーが選手の痛いところをケアしてあげれば楽になっ
アスリートをトータルサポートしており、スポーツ栄
たり、ドクターが治療をすればケガが回復したりしま
養士の藤森さんはトレーナーと一緒に各選手の身体や
すが、私たちの仕事は何を食べたら力がつく、試合に
食事面のサポートを担当している。
勝てるというものではないのです。つまり、日頃のコ
自己管理能力を高めることが重要
その中でもとくに重要となってくるのが、スポーツ
ンディションのチェックだったり、自己管理能力を高
めるものだったりします」
2011 年に藤森さんは、地元の中学生スピードスケー
選手のコンディショニング管理。
トチームのサポートを担当し、全国優勝に導いている。
「よく試合の前に何を食べればいいですか、何を食べ
スケートの場合、競技によっては体重を増やすことが
れば勝てますか、と試合時だけに特化した質問をされ
できないので、脂肪を落として筋肉を増やすことが重
ることが多いのですが、トータルで考えていくことが
要になってくるという。試合の 2 ~ 3 カ月前からサ
重要なので日常生活における管理ができていなければ
ポートを開始し、選手個人個人のコンディションの変
意味がありません。例えば、糖質であるご飯に特化し
化を考えながらプログラムを組むことで結果を出すこ
て言えば、1 回の食事で普通の人がお茶碗 1 杯だったら、
とに成功した。
スポーツ選手はその 2 ~ 3 倍必要になってきます。ご
また、プロ選手としては日本ミニマム級王者の三田
飯が筋肉にグリコーゲンとして蓄えられるので、それ
村拓也選手や東洋太平洋女子ライトフライ級王者の柴
が慢性的に足りないと疲労の回復も難しくなり、疲労
田直子選手などが所属する東京・足立区にあるワール
の回復ができていないと質の高いトレーニングをする
ドスポーツボクシングジムのサポートを約 7 年前から
ことは無理になります」
担当している。試合前の強化合宿として、“やまびこ
このように、毎日の食生活からバランス良く考えて
スケートの森”トレーニングセンターを利用してから
いかなければ意味がないため、食事面を改善したから
付き合いがスタートしたというが、特定保健指導によ
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ボクシング世界チャンピオンのサポートが目標という藤森さん。
減量が厳しいボクサーの
食事や栄養面を考えて藤
森さんが作成したメニュ
ーを、寮ではトレーナー
が調理して提供する
(右)
。
ジムの寮で食事を摂って
いる東洋太平洋女子ライ
トフライ級王者の柴田直
子選手
(上)
。
(写真提供:
ワールドスポーツボクシ
ングジム)
る減量を担当してきた経験はあるものの、ボクシング
た食事メニューをトレーナーが調理して提供している
の減量は特殊で苦労が多い。
という。会長やトレーナーとは電話やメールで連携を
「一般の人は筋肉を減らさない方がいいので、筋肉を
取っており、選手の中には栄養の勉強をして食事メ
維持していかに脂肪を落とすかが重要になります。し
ニューを相談してくるケースもある。
かしボクサーは、もともと脂肪が少ないため減量が大
最後に、今後の目標について伺った。
変なのです。そこで関係してくるのが糖質で、炭水化
「スポーツ栄養士というとアスリート専門と思われる
物を日頃きちんと摂取していない選手は、体水分量が
人が多いようですが、一般の人のスポーツと栄養の
少なくなってしまいます。その少ない選手が、減量の
トータルマネージメントも行っていることも知っても
最後の手段として水抜きをするから辛くなるのです」
らえるようにアピールしていきたいと思います。そし
スポーツ競技によって異なるサポート
この問題を解決するために藤森さんは、各選手の食
事面を全面的に見直して対処している。
「食事内容から目標のエネルギーに届いている選手も
いますが、中身を見てみると脂質が多くて糖質が摂取
できていないケースが多いです。そのため慢性的に体
水分量が少なくなり減量が厳しくなるため、体水分量
を上げるためにご飯をしっかり摂って脂質を控えるよ
て将来の夢としては、仕事で携わっているワールドス
ポーツボクシングジムさんから世界チャンピオンが誕
生してくれれば嬉しいですね」
やまびこスケートの森
http://www.yamabiko.co.jp/
1994 年 6 月に、長野県岡谷市の標高約 1000m の高台に広がる
緑豊かな自然環境下にオープンした「やまびこスケートの森」
。
国際公認の屋外 400 mスケートリンクにはトレーニングセンターを
併設し、国際公認のアイスアリーナ、宿泊施設などもある総合
スポーツ施設。長野県岡谷市字内山 4769-14 ☎ 0266-24-5210
うにしています。そうすることで、徐々に体組成は変
化していくのです」
このように継続的にサポートをしていくのがスポー
ツ栄養士の仕事で、結果を出すためには戦略が重要と
なってくる。食事や栄養を点で考えるのではなく、線
としてつなげることが大切で、栄養のトータルマネー
ジメントを担っている。そのため、東京にあるワール
ドスポーツボクシングジムの寮では、藤森さんが考え
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「ヘルシスト」214号掲載 ((株)ヤクルト本社広報室発行)