男性プロラクチノーマの画像所見 - 断層映像研究会

1
0-(10)
断層映像研究会雑誌第 33巻第 1 号
男性プロラクチノーマの画像所見
原著
稲田悠紀1)、松木充1)、金本高明1)、立神史稔1)、可児弘行J)、
谷掛雅人1)、楢林
勇J)、黒岩敏彦 2 )
1 ) 大阪医科大学
2)
同
放射線医学教室
脳神経外科学教室
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YukiInada 1), MitsuruMatsuki 1), TakaakiKanarnoto 1) , FuminariTatsugami1),
2)
HiroyukiKan 1i )
, MasatoTanikake J), Isa
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要旨
男性プロラクチノーマは乳汁分泌や性腺機能低下症といった症状に乏しく、発見時には腫虜径が大きく、浸
潤性に発育し、診断に難渋することが多い 。 本稿では、われわれが経験した男性プロラクチノーマ 7例につい
て、画像所見を中心に述べ、 MR所見、単純X線所見における診断のポイントを検討する 。
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はじ めに
男性プロラクチノーマは乳汁分泌や性腺機能低下
対象
対象は 1989年 1 月から 2003年8 月までに当院で経験
症といった症状が乏しいため、早期発見は困難で、発
した男性プロラクチノーマ 7例 (21-74歳)で、全例で血
見時には腫蕩径が大きく、浸潤性に増大し、頭痛、視
清プロラクチン値 (基準 値: 3.6-12.8ng/m l)は 565-
野 ・ 視力障害といった腫蕩の局所症状が主体となるこ
>2 0
0
0 ng/ml と高値を示した 。 4例 ( 表 1 、症例 1 、 3 、
とが多い 。 また、画像診断においては、その 浸潤性の
4 、 5) は経鼻的手術が施行され、病理組織学的に診断
発育形態から診断に難渋することがしばしばある j) 。
された 。 3例は血清プロラクチン値高値と頭部画像所
さらに治療はドーパミン作動薬内服が第 一 選択とされ
見により診断された 。 主訴は視神経障害2例、複視、眼
2心 、過度の検査、治療を回避するためにも的確な 診
険下垂、意識消失、めまい、頭痛が各 1 例で、あ っ た 。
断が重要で、われわれ放射線科医の担う役割は大き
い 。 今回、我々は男性プロラクチノーマの 7例を経験
方法
したので、 MR所見を中心に述べ、さらに CT所見、単
.1 5T GE社製 MR装置を使用して、 T1 強調横断像
(TR4
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0ITE8- 12) 、矢状断像、 T2強調横断
純X線所見を含めて画像診断のポイン トを検討する 。
別刷請求先: 'T
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大阪府高槻市大学町 2-7
大阪医科大 学
放射線医学教室稲田悠紀
TEL:TEL0
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2006 J手 3 月 3 1E1
表1 .
症例
1 .1( 1
)
画像所見
年齢
信号強度
大きさ
(
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)
1T /T2
視交叉
圧排
海綿静脈洞
ぴまん性
浸潤
骨 浸潤
鞍上部
癌状突出
4
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2
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2
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3
等 / '等
+
左
+
2
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等 / '等
+
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等/等
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+
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出血
単純X線
トルコ 鞍拡大
+
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+
両側
像 (TR 4
000/TE85- 105) 、冠状断像、ガドリニウム
CT所見
+
症例提示
造影 (0.2mmol/kg) T1 強調横断像、 矢状断像、冠状
断像を撮影した 。 全例に 頭部単純X線、 単純CT を施
症例 1 (表1 、症例6):74歳、男性。 主 訴:意識消失、血
行した 。
清プロラクチン値565n g/ml。
MRI に て、斜台から両 側 錐体にかけてびまん性に
検討項目
浸 潤する腫癒を認め、Tl強調画像 ( 図 1 a) で灰白 質
MRI での検討‘項目は 以下 の通りである 。 (l)腫蕩の
と 等 信号、 T2 強調画像で不均 一 な 等信号 を 呈 した 。
大きさと信号強度、 (2) 腫傷内出血の有無、 (3) 視交叉
造影Tl強調画像 ( 図 1 b ) にて腫癒は不均 一 に濃染
圧 排 の有無、 (4) 海綿静脈洞浸潤 ( 内 頚動脈外側 縁を
され、両側海綿静脈洞に 浸潤していた 。 さらに鞍上 部
超える進展) の有無 、 (5) 斜台、蝶形骨、錐体へのひ、ま
への特徴的な癒状突出 (図 1 b) を認め 、 頭部単純X線
ん性骨浸i聞 の有無 、 (6) 鞍上部への癒状突出の有無 。
で特徴 的なトルコ鞍 の 拡大があり、 浸潤性下垂体JYA腫
また、単純 X 線でのトルコ鞍拡大の有無、頭部 CT に
と 診 断した 。 その後ドーパミン作動薬Cc abe r go l in e)
おける腫癒の濃度についても評価を行 っ た 。
の内服を開始し、現在経過観察 中である 。
結果(表 1 )
MRIでの検討項目に対して、(l)全例が在2cm を超
え 、 T1 、 T2強調画像 で灰白質と 等信号で、あ っ た 。 (2)
症例 2( 表 1 、症例 7):40歳、男性。 主 訴:左視野障 害 、
lfIL i青 プロラクチン イ直 >2000n g/ml。
MRI にて、斜台から両側錐体、蝶形骨、右中頭 蓋
腫場内出 血は 3例 (43% ) に認め、うち 1 例は 手術にて
筒 、 上咽頭に 浸潤する腫癒を 認 め、Tl強調画像で等
確認された ( 表 1 、症例 4 ) 0 ( 2 ) 視交叉圧排は 6 例
信号、 T2強調画像で不均 一 な 等信号 を 呈 し 、 造影T1
(86% ) で認めた 。 (3) 海綿静脈洞 への 浸 潤は 全例 で、
強調画像 ( 図 2a-c ) にでほぼ均 ー な濃染を認めた 。 )腫
認め、うち 3例で両側への 浸 潤が指摘された 。 (4)斜
癌は両側 海綿静脈洞に 浸潤し、視交 叉を上方に 圧排
台 、蝶形骨、錐体へのび、 まん性骨 浸潤は 2例 (29% ) で
していた 。 MR所見のみでは、 浸潤性下 垂体腺腫、 上
認めた 。 (5) 鞍上部への癒状突出を 5例 (71 %) で認め
咽頭癌の骨 浸 潤、骨腫療が鑑別に 挙 が っ た 。 頭部単
た 。 頭部単 純X線 では、 全例に 下垂体腺腫に特徴的
純CT では腫癒は脳 実 質より 高 吸収を 呈 し、斜台から
な トルコ鞍 の拡大を認めた 。 頭部単純 CT では 4例で
両側室ilt 体、蝶形骨にかけて骨破壊を認めた 。 頭部単
脳 実 質と等吸収、 2例 で 高 吸収、 I 例で低 l吸収を 呈 し
純X 線 ( 図 2d ) にて特徴的な ト ルコ鞍の拡大と鞍背の
た。
破壊を認め、 浸潤性下垂体JJ泉腫と 診 断した 。 ドーパ ミ
ン作動薬 ( bromocriptine) 内服開始7 ヶ 月後の MRIで
12
1(- 2
)
断層映像研究会総誌第 33巻第 1 号
a1 b
図 1. 症例 6
a
:T1 強調横断像:灰白質と等信号を呈した腫癌が 、斜台から両側錐体に かけてびまん 性 に浸潤する 。
。
b: 造影T1 強調冠状断像:腫癌は不均一に 濃染され、 両側海綿静脈洞 に浸潤し、鞍上部への癌状突出
(矢印)を伴う 。
は腫療は縮小し (図 2e) 、 血清プロラクチン値は、 79.2
が報告されている 5) 。 内服治療で効果がない場合や
n g/ml に低下した 。
突然の視野障害を起こした場合は手術 (経鼻的手術、
開頭術) 適用とされる 6- 10) 。 プロラクチノーマの CT所
考察
見は、腫楊の濃度は低から高濃度と様々で非特異的
下垂体腺腫は、下垂体より発生する良性腫蕩で頭
であるJ1) 。 われわれが経験した症例もさまざまで、あっ
蓋 内腫揚の約 1 割を占 め、性差はやや女性に多い(1.3
たが、比較的大きい腫蕩に高吸収を呈する傾向があ
倍)と報告される 。 形態により microa d e n oma (径
った 。 MR所見は、信号強度は他の下垂体腺腫と同
a(径 lOmm 以 上)に大
様に、Tl強調画像で低から等信号、 T2 強調画像で等
別 され、またホルモン産生の有無によ って機 能性、非
から高信号と非特異的である 1 2. )4 ) 。 下垂体腺腫は腫
機能性に分けられ、機能性ではプロラクチン、成長ホ
蕩径が大きい場合、腫場内に嚢胞形成、出血、壊死
ルモン、 ACTH 、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホル
を認めることが多く 15) 、プロラクチノーマでは 12.4%で
lOmm 以 下) 、
daorcm
enom
モン産生腫蕩がある 。 プロラクチノーマは機能性下垂
出血あるいは壊死がみられ、非機能性下垂体腺腫の
体腺腫の約半数を占め、男性、女性ともに発生する 。
頻度と同等であり、他の機能性下垂体腺腫 (成長ホル
女性の場合はプロラクチンの過剰分泌により無月経
モン産生腺 )J重、 ACTH 産生腺腫)と比べて頻度が高
(90%) 、乳汁分泌 (70% ) とい っ た症状が早期に出現
いという報告がある 16) 。 これは、症状が乏しい非機能
し、 microa d e n o m a の段階で、発見されることが多い
性下垂体腺腫は腫場径が大きくな っ て発見されること
が、男性の場合は高プロラクチン血症による症状が乏
と関連していると考えられる 。 さらに腫蕩径の大きい
しいため、発見時には腫蕩径が大きく、腫癒による局
下垂体腺腫は、腫蕩浸潤が高頻度にみられ、鞍上部
所症状(頭痛、視野 ・ 視力障害 、動眼神 経麻庫、外 n艮
への進展、海綿静脈洞への浸潤、斜台、錐体、蝶形
筋麻海 ) が発見契機となることが多い 。 治療は、今日
骨への骨浸i問がみられる 。 男性プロラクチノーマでは
では ドー パミン作動薬であるブ ロモ ク リ プチンの内服
腫湯径が大きく、腫揚浸潤が顕著なことがあり、髄膜
が第 一 選択で、腫蕩の縮小、 血清プロラクチン値の低
腫、骨腫媛、上咽頭腫傷の骨浸潤との鑑別が困難な
下がみられる 。 また近年、ブロモクリプチン内服治療
症例が報告されている 4.7.12.1 7 ) 。 下 一垂体腺腫が鞍上部
抵抗例 や薬 物不 耐例 に 血 中半減期が約 65時間と長い
に進展していく場合、鞍隔膜による棒状の突出が特徴
ドー パミン作動薬 (ca b e l golin e) が用いられ、有効性
的と考えられ、鞍結節音1$ の髄膜腫との鑑 別点と考え
13
- 1( 3)
2006年 3 月 3 1 1'1
1f
図 2. 症例7
a , b:
造影T1 強調横断像:ほぼ均一に濃染した腫建は、斜台から
両側海綿静脈洞、錐体、蝶形骨、右中頭蓋寓、上咽頭にか
けてびまん性に浸潤する 。
c: 造影T1 強調矢状断像:腫癌は視交叉を上方に圧排する 。
d: 頭部単純X線側面像:トルコ鞍の拡大と鞍背の破壊を認める 。
e: 造影T1強調矢状断像 ( 内服開始7 ヶ月後) :腫蕩は著明に縮小
する 。
14-1( 4)
られる 。 他の下 垂体腺腫との鑑 別は困難で、あるが、
男性で浸潤性に発育する傍鞍部腫蕩を見た場合 は、
プロラクチノーマを鑑別に挙げ、血清プロラクチン値
測 定を行うべきと考えられる 。 自験例でもその ような
症例に遭遇したが、 M RI による鞍 上部への癌状の突
出、頭部単純X線による下垂体腺腫に特徴的なトルコ
鞍の拡大所見が指摘され 、的確に 診 断することがで
きた 。
近年、多くの施設でMR検査が迅速になされるため、
頭痛、視野、視力障害といった局所症 状が出現した
場合 、 MRIが最 初になされる場 合がある 。 そのような
場合、骨へのび まん性 浸潤を伴った男性プ ロラクチ
ノーマでは骨腫蕩、上咽頭腫傷の骨浸潤を疑い、過
度の検査 、 治療を行う危険性がある 。 よ っ て 、 われわ
れ放射線科医はこのような症例に遭遇した場合、臨床
医 に単純X線検査、血清 プ ロ ラクチン値の測定をすす
め、迅速かつ的確な 診 断に努めなければならない 。
本論文の主旨 は第 33 回断 層 映像研究会 (2004年、
大阪)にて発表 した 。
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