ゴミ 集積施設 の設計とその効果 独立行政法人水資源機構筑後大堰管理所 ◎ 屋宮輝彰 ○ 関根隆好 1. はじめに 筑 後 川 は源 を 熊 本 県 阿 蘇 郡に 発 し、 多 くの 支 川を 合わ せ 、肥 沃 な筑 後 、佐 賀 両 平 野 を貫 流 し て 有 明 海 に 注 ぐ 九 州 第 一 の 河 川 で あ る 。 筑 後 大 堰 は こ の筑 後 川 の 河 口 か ら 23km 上 流 に あ り、 筑 後 川に 造ら れ た大 規 模 な施 設の な か で は 最 下 流 に位 置す る。 よ っ て 、筑 後 大 堰 では 、ひ と た び洪 水と な る と 、筑 後 川 に流 入す る河 川 ゴミ の多 くが 流れ て く る た め 、堰 の ゲ ー ト操 作や 魚 道 機 能 に 支障 を き た す こ と か ら 、そ の 除 去 作 業 に苦 慮し て い る と こ ろ で あ る。 また 、 筑 後 川 の下流域 や 筑 後 川 に注 ぐ 有 明 海 は水 産 資 源 に恵 ま れ、 筑 後 川 特 産の エ ツ漁 やノ リ養 殖が 盛ん で あ る 。特 に有 明 海 のノ リ養 殖は 全 国 一 の生 産 量 を誇 っ て お り、 ノリ に 河川 ゴミ が混 入す る こ と でノ リの 品質 が落 ち る こ と か ら、 河川 ゴミ の問 題は 漁 業 関 係 者 に おいても 深刻 な問 題となっている 。 以上 の こ と か ら、 ゴミ 集 積 施 設は 堰の 管 理 上の 問 題 以 外に 、ゴ ミを 事前 に取 り 除く こ と で 下 流 漁 業 者へ の負 担を 緩 和す る効 果も 期待 さ れ て い る 。 2 . ゴミ集 積 施 設 の設 置 目 的 ゴミ 集積施設 の設置目的以下 の通 りである 。 ①ゲート へ の負 荷 軽 減 ②閘 門の 通船機能 の維 持 ③閘 門に お け る魚 道 機 能 の維 持 ゴミ 集積施設 ④左 岸 呼 び水 式 魚 道の 機 能の 維持 ⑤河 川 環 境 保 全 3 . ゴミ集 積 施 設 の設 計 写 真 2-1 筑 後 大 堰と ゴ ミ集 積 施 3.1 ゴミ集 積 施 設 の 設 計 条 件 本 施 設は 以 下の 条件 に配 慮し て設 計し た 。 ①流 水を 安全 に流 す設 計 と す る。 水 理 模 型 実 験 に よ る と 、 堰 地 点 に お け る 出 水 時 の 流 速 は 1 , 8 0 0 m 3 / s で v=1.4 ∼ 1 . 7 m / s と な り、 網場 な ど に よ る 全川 での ゴミ の除 去は 困難 で あ る 。 ② 高 水 敷 を 越 え な い 流 量 ( 約 1,6 0 0 m 3 / s) の と き に 流 下 し て く る 河 川 ゴ ミ を 対 象 と す る 。 ③常 時 通 船が あ る た め 、 通船 の支 障と な ら な い 設計 と す る 。ま た、 航路変更 す る場 合は、 最小限度 の変 更とする 。 ④魚 道の 機能 に影 響を 与 えないものとする 。 3.2 施 設 の収 集 方 法 の 決 定 根 拠 河 川 ゴ ミ の 収 集 方 法 と し て 、 1) 高 水 敷 き に ゴ ミ 捕 捉 工 を 設 け 自 然 の 流 れ で 収 集 す る 捕 捉 工 案 、 2) 堰 に 溜 ま っ た ゴ ミ を ゴ ミ 収 集 船 に よ り 収 集 す る ゴ ミ 収 集 船 案 、 3) 堰 上 流 部 に 網 場 を設 けゴ ミを 収集 する 網 場 設 備 案 の 3 種類 に つ い て そ れ ぞ れ 比 較 検 討し た。 そ の 結 果 、 次 項 で 述 べ る 自 然 の 特 性 と コ ス ト 面 な ど か ら 総 合 的 に 判 断 し て 1 )、 3 ) 案 の 合 作 案と な る 「船 着き 場 を利 用し た集 積 設 備」 案に 決 定し た。 3.3 施 設 の設 置 場 所 の 決 定 根 拠 写 真 3-1 に 示 し た と お り 、 堰 に 流 れ て く る ゴ ミ ② は、 ①上 流で 大き く湾 曲 した 流路 と、 ②卓 越し た ① 北東 の風 に よ り③ 左 岸 側 に集 まる 傾向 が あ る。 よ っ て 、 本 施 設 を 写 真 3-1 の ③ の 位 置 の 船 着 き 場 を拡 幅 改 良し て設 置す る こ と と し た。 ③ 3.4 網 場 設 備 の張 出 し幅 の決 定 根 拠 本 施 設 の ゴミ 収 集 方 法 は 、左 岸 側 に流 下 し て く る河 川ゴ ミを 貯 水 池に 張 り出 した 網 場 設 備 に よ り 捕捉 し、 ゴミ 集積設備 へ 送り 込む も の であ る。 写 真 3-1 河 川ゴ ミの 特 徴 検討 の 結果 、既 設 船 通 し ブイ 固 定 杭 が有 効 に流 用 で き る こ と と、 他 の案 よ り安 価 と な る ことから 張り 出し 幅 27m の案 に決 定し た。 3.5 収 集 面 積 の決 定 根 拠 河川 ゴ ミの 収 集 面 積は 、 過去 に 河川 ゴミ が 左 岸 側 の閘 門 前 面 に溜 ま っ た と き の 最 大の 実 績 1 , 5 3 0 m2 を 参 考 に 、集 積 設 備 部 で 1 , 1 0 0 m 2 。集 積 設 備 網 場 設 備 部 と 合 わ せ て 1 , 9 0 0 m2 の 規 模 としている 。 深 さ に つ い て は 、 本施設内 で 船 舶 に よ る ゴ ミ 収 集 が可 能 な 底 版 高 T.P.2.15m( 吃 水 深 1 m を 確 保 ) と し た 。 3.6 ゴミ集 積 施 設 の 概 要 本 施 設 の 概 要 を 表 3-1 に 示 す 。 表 3- 1 項目 設置場所 設備 ゴ ミ集 積 設 備 目的 構造 ゴミ 集 積 施 設 概 要 諸元 堰 左 岸 上 流の 船着 き場 を拡 幅 改 良 ゴミ集積設 ( ゴ ミを 集 積 す る ) ・ゴ ミを 貯め る。 護岸構造 ( コンクリートブロック 積 み擁 壁) D=35m,W=35m,H=1.84m 網場設備 ( ゴ ミの 補 足 効 果 を 高 める ) 網場設備 目的 構造 集積面積 集積方法 ゴミ の回 収 方 法 ・ゴ ミの 捕捉効果 を高 める 。 ・ゴ ミ陸 揚げ 時の 作 業 性の 向 上 ゴ ミ フ ェ ン ス A( 貯 水 池 側 張 出 部 ) D=56m,,H=1.25m フ ロ ー ト 径 φ 300 ゴ ミ フ ェ ン ス B1( ゴ ミ 集 積 設 備 内 ) D=92m,,H=0.6m フ ロ ー ト 径 φ 200 ゴ ミ フ ェ ン ス B2( ゴ ミ 集 積 設 備 内 ) D=43m,,H=0.5m フ ロ ー ト 径 φ 300 1,900m2 自然に左岸側によってくる ゴミを網場設 備で 捕捉 し、 集積設備 へ集 積 する 。 ゴミ集積施設で 捕捉したゴ ミをゴミフェ ン ス で 囲 み 、バ ッ ク ホ ウ で 高 水 敷 き に 陸 揚 げ す る 。高 水 敷 き で 分 別 乾 燥 後 、ダ ン プ ト ラ ッ クへ 積み 込み 処 理 場へ 搬 送す る。 写 真 3-2 写 真 3-3 ゴ ミ集積施設完成写真 ゴ ミ陸 揚げ 状 況 表 4- 1 4. 運用実績 4.1 運 用 回 数 河川 ゴ ミ の処 理 が 生じ た 出 水の 回 数 は、 本施設 の 完 成 後 平 成 14 年 7 月 1 日 か ら 平 成 16 年 5 月 31 日 ま で に 17 回 で あ り 、そ の う ち 流 量 1 , 6 0 0 m3 / s 以上 の高 水 敷 き ま で浸 か っ た 出水 は1 回で あ っ た。 よ っ て 、 本 施 設 の 運 用 回 数 は 16 回 で あ る 。 4.2 ゴミ集 積 施 設 の 河 川 ゴミ捕 捉 率 本施設 は左岸側 へ流 下 し、 閘門前面 に溜 まる 河 川ゴ ミを 事前 に捕 捉す る こ と を目 的と し て い る 。 よ っ て、 本 施 設の 効果 を 検証 す る た め 、閘 門 前 面 H14. 7. 1 H14. 9.16 H15. 4.25 H15. 5.15 H15. 6.24 H15. 6.28 H15. 7. 8 H15. 7.19 H15. 8. 7 H15. 8.11 H15. 8.28 H15. 9.10 H15.11. 5 H16. 2.29 H16. 5.13 H16. 5.16 計 に流 下す るゴ ミに つ い て 、そ の捕捉率 を右 記 計 算 8,851 式 に よ り 算 定 し た 。 そ の 結 果 を 表 4-1 に 示 す 。 ま た 、 捕 捉 率 が 高 か っ た H15.8.11 の 出 水 に お け る 河川 ゴミ 捕 捉 率 河川ゴミ面積(m 2) 捕捉対象 ゴミ集積施設 800 490 780 400 790 590 130 120 250 20 370 260 450 260 60 40 150 150 1,540 1,510 60 40 834 555 40 40 2,115 2,115 428 227 54 19 出水 捕捉率 (%) 6,836 61% 51% 75% 92% 8% 70% 58% 67% 100% 98% 67% 67% 100% 100% 53% 35% 77% ゴミ集積施設内ゴ ミ 捕 捉 率= 閘 門 前ゴミ+ ゴミ集 積 施 設 内 ゴミ 河 川 ゴ ミ 状 況 を 表 4-2、 写 真 4-1 , 2 に 示 す 。 表 4- 2 H15.8.11 出 水 河川 ゴミ 状 況 閘門前面に流下する河川ゴ ミを 事前 に捕 捉 筑後川 写 真 4-1 出水日 :H 1 5 . 8 . 1 1 ピーク流 量 :8 6 7 m3 / s 風 向 :常 時 8 m / s 前 後 の北 風 に吹 かれていた。 河 川 ゴミ滞 留 面 積 ①堰 全 体 :1 , 6 5 0 m 2 ② ゴミ集 積 施 設 :1 , 5 1 0 m 2 ③ 捕 捉 対 象 面 積 :1 , 5 4 0 m2 捕 捉 率 (② ÷ ③):9 8 % 写 真 4-2 河川ゴミ捕捉状況 出水後の閘門通船状況 5. 結論 本 施 設 の設 置 効 果を ま と め る と 、以 下の 通り で あ る 。 ① 閘 門 前 面 の ゴ ミ の 70%を 事 前 に 捕 捉 す る こ と で 、 閘 門 の 通 船 、 魚 道 機 能 及 び 左 岸 呼 び 水 式 魚 道 の機 能を 早期 に 復旧 で き た。 ② 船舶 に よ る収 集 作 業へ 行 か な く て も で き る こ と か ら、 河川 ゴミ の陸 揚げ 作 業が 効 率 的 に行 えるようになった 。 ③ 本 施 設で 気 象 や 流 量 の 条 件 に よ っ て は、 閘 門 前 に 流 下 す る 河 川 ゴ ミ を ほ ぼ 100%捕 捉 す る こ と も可 能と な っ た 。 よって 、所 定の 効果 が 得られたことから 、本施設 は 設計能力 を満 足し 、今 後 も十 分 効 果 が期 待で き る も の で あ る 。 6 . 今 後 の課 題 ① 分 別 作 業 を 高 水 敷き で 行 っ て い る が 、 高 水 敷き を 越 え る出 水 が来 る と 、 仮 置き し て い た 河川 ゴ ミ を 全 て下 流 へ 流 して しまう 。 そ の た め、 気 象 に 注 意し な が ら の 迅速 な 作 業 が要 求される 。 ② ゴ ミ処 理 量 の 年変動 が 大 きいため 、 適 正 な 数 量 設 定 が 難し く 、処 理 費 の 増 分に よ っ て は そ の 年 の 管 理 費を 圧 迫 するこ と が懸 念 さ れ る 。よ っ て 、 今 後、 経 年 的 に 河川 ゴ ミ の 処理 状況 を み て、 年 間 処 理 量 の把 握に 努め て い く必 要が あ る。 ③ 日 最 大 流 入 量 が 1 , 0 0 0 m3 / s を 越 え る よ う な 出 水 の 場 合 は 、 大量 の河 川ゴ ミが 堰に 流 下し て く る。流量 が増 加し 、 写 真 6-1 出水後 の河 川 ゴミ ゲ ー ト を 全開 に す ると 堰 前 面に 滞 留し て い たゴ ミ は 下流 へ 流 れ る こ と に な る 。ゴ ミ 集 積 施 設 で 除去 し て い る の は こ の 一 部で し か な い た め 、今 後 誤 解の な い よ う な 広報 に 努 め て い く 必要 が あ る。 ④ 今後 の 河 川ゴ ミ の 対策 は 流 域 全 体 で取 り 組 み、 ゴ ミ 流 出 量 の 軽減 を 図る 必 要 が あ る 。 今後 も ノ ー ポ イ 運 動や ク リ ー ン ア ッ プ 作 戦 な ど の 河 川 美 化 活 動へ 積極的 に 参 加し 、 各 機関 と連 携を 組み な が ら ゴミ 流 出 量の 軽減 に努 め て い く。 7 . おわりに ゴ ミ集 積 施 設を 運用 し て か ら一 年が 経過 し、 設 計 2000 か っ た。 また 、小 学 校 の 施 設 見 学 依 頼 の時 には 「 是 1500 非 河 川 ゴ ミ の 説 明 を お 願 い す る 。」と の 要 望 が あ る な ど評 判も 上々 で あ る。 し か し 、筑 後 大 堰 で 処 理 す る 塵 芥 量 は 年 々 増 加 し 、 処理量 (m 3) 通り の条 件の 下で は十 分 な効 果を 発揮 す る こ と が わ 数を 要し て い る の が現 状 で あ る。 今後 は、 本 施 設 を 965 1000 500 249 499 440 616 266 274 0 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 本 施 設で 効 率 的に ゴミ を 回収 し て も、 その 絶 対 量 が 多いことから 全て のゴ ミ を回 収す る の に か な り の 日 1650 年度 図 7- 1 筑後大堰 のゴ ミ 処理実績 ( 平 成 16 年 5 月 31 日 現 在) 効率 よく 運用 す る だ け で な く 、堰 全 体 の塵 芥を 素早 く 回収撤去 で き る よ う な 回 収 方 法の 確 立を 図り 、併 せて 流 域 全 体の ゴミ 量の 縮減 を目 指し た 広 報 活 動 を更 に進 め て い き た い。
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