「保健だより」第29号 - JICA

JICA保健医療タスクニュースレター
「保健だより」第29号
アジア大洋州
開発サミット
(9月3日~4日)
への出席報告
第三回保健人材
グローバル・フォ
ーラムについて
結核国際研修5
0周年記念式典
・シンポジウム
ポスト保健MDGs
についての議論
チュニス保健・
財務相合同閣僚
級会議(2012年
7月4日、5日)
2012年10月9日発行
アジア大洋州開発サミット(9月3日~4日)への出席報告
アジアでは、MDGの保健分野での目標で目覚ましい成果を上げていますが、他方
で人口に占める貧困層の割合は依然として高く、また、保健医療サービスに関しても
国家間や国内で格差が生じています。限られたリソースの中で、よりよい成果を上げ
るために如何に各国政府、ドナー機関、民間ベースの基金やNGO等が連携していく
か、このようなテーマで、地域間のネットワークの強化と官民連携の促進を目的に、イ
ンドネシア政府、ビル・ゲイツ財団、ASEAN財団の主催で、ジャカルタにて9月3日から
5日にわたり「アジア大洋州開発サミット」が開催されました。
第三回保健人材グローバル・フォーラムについて
保健人材の量的・質的拡充が注目を集める中、2006年のWHOのWorld Health
Reportでは保健人材不足が重要な課題として取り上げられ、世界全体でこの課題へ
の取り組みを推進していくためGlobal Health Work Alliance (GHWA)が設立されました。
2008年にはウガンダにおいて第一回保健人材グローバル・フォーラムが開催され、
「カンパラ宣言」及びAgenda for Global Action(AGA)が採択されています。
第二回保健人材フォーラムはタイにて開催。「カンパラ宣言」及び「AGA」の成果・進
捗や新たなチャレンジについて議論されました。この様子は保健だよりの号外(2011
会議には、ブセィオノ インドネシア国副大統領、スリン・ピッスワンASEAN事務局長、 年2月4日)で報告されています。
マーガレット・チャンWHO事務局長、ボンクビット ラオス国保健大臣等、ドナー、アジ (http://www.jica.go.jp/activities/issues/health/pdf/panf_hoken_gogai.pdf)
ア大洋州地域の保健省関係者、民間団体等約200名が出席し、2日間に亘って官民
連携の役割、感染症対策や母子保健におけるパートナーシップの拡大等、6つの
そして第三回保健人材育成フォーラムは、来年、2013年の秋にブラジルのペルナン
テーマに関してパネルディスカッションが行われました。また最終日の3日目にはワー ブコ州に所在するレシフェで開催される予定です。ペルナンブコ州はブラジルの北東
クショップの形式で技術会合が開催されました。
地域の中心地であり、この地域の経済社会状況はラテンアメリカの他の国の状況と
類似しているとのこと。第一回フォーラムはアフリカで開催、第二回がアジア、そして
会議で議題となったUHC(Universal Health Care)について、小寺JICA理事から日本 第三回はラテンアメリカを代表してブラジルで開催されることになります。レシフェはブ
における国民皆保険制度の変遷について紹介するとともに、UHCの達成には強い政 ラジリアから飛行機で飛ぶこと2時間、コロニアルな街並みが美しい地方都市です。
治的なコミットメントが推進要因となること、保険財源確保に関し、アジア地域では農 2,500名を収容可能な会議場を有しています。
民や自営業者からどのように徴収するかがカギとなる点について発言が行われまし
た。また、パネルディスカッションにおいても、UHCで官民連携の余地は大いにある点、 この第三回フォーラム開催に向けての準備会合が9月13~14日にレシフェにて開催
保健サービスの提供能力、サービスの質の管理、サービスの効率性、保険料の徴収 され、JICAからも参加。同準備会合においては開催地になるペルナンブコ州知事との
システム等について民間の知恵を活用できる点の指摘がされました。
面会の他、プログラム、運営体制、ロジスティクスなどについての意見交換が行われ
ました。
また、3日目の母子保健に関するワークショップにおいては人間開発部小林次長か
ら、地域住民の母子保健サービスへのアクセスを高めていくには一次保健医療施設
次回フォーラムにおいては、UHCの達成に向けて保健人材をどのように推進してい
での看護師・助産師の技術的能力強化のみならず、コミュニティーという環境の中で くか、というテーマの下にplenary sessionで課題の議論を行い、その後で議論を深め
果たす保健人材の役割をどうとらえていくべきか、という視点から多角的な改善をし
るための個別セッションが行われる予定です。
ていく必要性などについて発言しました。
ブラジル側からは、グローバル・フォーラムに期待するものとして、各国の異なる環
この会合は、2011年10月のポリオデーに、ビ
境の中で様々な課題を議論していくことが重要である点、特に基本的な保健サービス
ル・ゲイツ財団とJICAの共催により、東京でア
の中で保健医療従事者に求められる能力や役割は何か、保健医療従事者のコストを
ジア大洋州地域の保健関係者を招へいし、第
現場でのニーズや報酬としての側面も考慮しながらどのようにバランスを取っていくか
一回目の地域会合を行いましたが、今回、そ
等に関心がある旨説明がありました。
の流れを汲んでビル・ゲイツ財団が企画され
たものです。今後も、MDG達成やポストMDGを
人間開発部では今後継続的に第三回フォーラム開催に協力し、意見発信をしていく
見据え、このような地域会合への参画を通し
予定です。
て、ドナーのみならず、民間の基金や民間セク
ター等ともより良い連携方法・可能性について
(保健第二G 小林次長)
探っていきたいと考えます。
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(保健第二G 小林次長)
結核国際研修50周年記念式典・シンポジウム
結核国際研修50周年を記念し、公益財団法人結核予防会総裁秋篠宮妃殿下ご臨席
のもと、結核予防会とJICAの共催で結核国際研修50周年記念式典及びシンポジウム
が2012年7月26日にJICA研究所で開催されました。
結核国際研修はJICA(当時OTCA)の研修事業として、1963年(昭和38年)に結核予
防会結核研究所で開始され、1967年からはWHO西太平洋地域事務所(WPRO)との共
催となっています。現在まで世界97ヵ国から延べ2,000名以上が研修を修了しました。
記念式典では、結核予防会顧問島尾氏が「国際結核対策研修コース 50年の歩みと
展望」と題する記念講演を行いました。研修の50年間の歩みを当時の時代背景を交え、
結核をめぐる世界の動きと日本の果たしてきた役割及び今後の展望について明快に
述べられ、研修開始時から関わってきた経験に基づく大変示唆に富む内容の講演でし
た。
シンポジウムは「TB Free World(結核のない世界)実現を目指し、保健システム強化
に貢献できる人材育成」と題し、保健システムと協調して結核対策が強化されるために
必要な人材育成についての提言を中心に、結核対策や保健政策の最前線でご活躍中
のWHO西太平洋地域事務局大菅氏、結核研究所山田氏、公益財団法人日本国際交
流センター武見氏、 JICA磯野国際協力専門員、ウガンダ保健省Frank Mugabe
Rwabinumi国家結核・ハンセン病対策課課長代行、インドネシア保健省Tjandra Yoga
Aditama疾病対策・環境保健局長からの発表が行われました。
ウガンダ保健省Rwabinumi氏(2008年結核対策コース受講)とインドネシア保健省
Tjandra氏(1987年結核対策コース、1989年上級者コース受講)からは、研修の成果及
びその成果をどのように実際の結核対策やその他の疾病対策等に活かしてきたかな
ど、研修卒業生の視点からの発表がありました。Tjandra氏からは研修で学んだ事項
(結核、公衆衛生、政策分析、国際ネットワーク、日本文化等々)を結核研究所の位置
する清瀬市にちなみ”Kiyose’s Knowledge”と総称していたことが印象深かったです。
結核研究所山田氏の発表によると、結核国際研修では、結核対策の最新の知識・技
術の習得だけでなく、研修生が帰国後に自国の問題発見・分析・解決を自ら行うこと
ができる人材の育成を目指しており、疫学・統計、社会的要因を含めた問題分析、改
善策策定、評価方法、オペレーショナルリサーチといった対策実施に有用な方法を含
めた研修を行っているとのことでした。
実際に研修の目的が実現されていることの例として、結核研究所石川所長からモザ
ンビークのManguele保健大臣(1988年研修受講生)の紹介がありました。Manguele大
臣は「結核対策コースで学んだことは、州レベルの活動の質を上げるのに役立った。
また総合的に対策を考える点で、マラリア、ハンセン病、その他の感染症や非感染症
分野にも役立った。他のプログラムとの有機的統
合という考え方も大きな学びだった。その実績で
中央政府に呼ばれるようになった。」と語っていた
とのことです。
本記念式典・シンポジウムは、保健システム強
化に貢献する人材の育成を行ってきた結核国際
研修の50年の歴史を振り返るとともに、今後の結
核対策ならびに保健システム強化へ向けた取り
組みを改めて考える機会となりました。
シンポジウムの様子
(保健第二課 林・山田)
ポスト保健MDGsについての議論の紹介
MDGs(ミレニアム開発目標)の目標達成期限まで、残すところ3年3カ月となりまし
た。各国、各機関とも目標達成を実現すべく一層の努力を促される一方、2015年以
降のグローバルな開発目標として、ポストMDGsについての議論が活発化していま
す。
保健分野のMDGs(4、5、6)は、他分野のMDGsと比べ進捗が遅れているとされて
おり、特に子供の死亡率(MDG4)や母親の健康(MDG5)については、ほとんどの地
域で「達成の見込みなし」と判断されています。これまでの各国、各ドナーの取り組
みやその効果を検証する動きとともに、2015年以降のポスト保健MDGsをどうするか、
様々意見が交わされています。
一つの主流な意見は、現行の保健MDGsを大きく変えるべきではないという意見で
す。現行MDGsにより、各国、各ドナーの国際保健の課題に対する取り組み姿勢が
より鮮明になったと一定の評価があります。また、MDGs4、5などについては達成見
込みの薄い地域が多く、2015年以降も各国は変わらずこれに取り組んでいくべきだ
とする意見が多く出されています。感染症(MDG6)についても、目標達成する、しな
いに関わらず、その重要性は2015年以降も不変であるとの考え方から、目標の据え
置きを支持する意見が聞かれます。
二つは、現行MDGs+アルファとして、他の目標もしくは指標を加えるべきだとの意
見です。現行MDGsは、特に低所得国の問題にターゲットを絞ったことから、先進国
や中進国で主要な死亡原因となる、生活習慣病を中心とした非感染症(NCDs:nonCommunicable Diseases)などが置き去りにされたとの批判があります。また、家族
計画や乳幼児、妊産婦の栄養などは指標としても取り扱われなかったことから、こ
れらへの取り組みがおろそかになったとの批判もあります。ポストMDGsには、これら
課題についての目標なり指標なりを加えるべきだとの意見があがっています。
三つ目に、「UHCの実現を念頭に保健人材、保健財政など保健システム強化への
取り組みを改善し、基礎的サービスをスケールアップすることなどが重要」と認識さ
れるようになっており、ポストMDGsにもこの考えを反映すべきという意見があります。
上記3つの意見すべてを満たす形で、目標や指標を再設定することはなかなか骨
の折れる作業になると思われますが、既にそれについての議論も始まっています。
例えば、「人々の健康状態の改善」など一つの大きな目標を設定し、それを測る指
標を感染症やNCDsの減少など複合的なものにする」という案。また、 「妊産婦死亡
率や乳幼児死亡率をアウトカムの指標とし、 UHCなどを一段階下のプロセス指標と
して設定し、階層的な指標のデザインを描く」という案など。これらの案については、
まだまだ議論も尽くされていませんが、2015年に向けて徐々に意見が収斂されてい
くことになると思われます。また、6月に行
われた国連持続可能な開発会議(リオ
+20)で持続可能な開発目標(SDGs:
Sustainable Development Goals)の設定が
打ち出されましたが、これには、保健に関
連する目標が多く含まれる予定であり、今
後注視することが必要です。
(保健第一課 大野)
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チュニス保健・財務相合同閣僚級会議(2012年7月4日、5日)
本会議は、アフリカにおけるUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)達成に向けて、
国内保健資金(公的資金、民間資金)及び外部援助資金の効果的な財政管理や、資
金に見合った質の高い保健サービスの確保(Value for Money)を進めるためには、各
国保健大臣と財務大臣の協力が重要であるとの認識から、アフリカ開発銀行(AfDB)
主催のもと、開催されました。JICAは、共催者であるHHA(Harmonization for Health
in Africa)加盟機関として招待され、人間開発部、ケニア事務所及びセネガル事務所
から4名が参加しました。
会議にはアフリカ54カ国から40名以上の保健、財務大臣及び同省関係者を始め、
国連機関、開発金融機関及びドナー並びに民間セクター及び財団、学術界関係者を
含めて400名以上が参加、AfDB総裁、WHO事務局長のほか、関係する国際機関の
事務方トップがスピーチを行う、まさにアフリカにおける保健医療開発の方向性を議
論するに相応しいものとなりました。
以下、議論されたアジェンダのうち、JICAが今後特に注目すべきと思われることを
記載します。
第一は保健・人口政策の重要性です。アフリカでは2005年から2010年にかけて乳
児死亡率が平均7-8%減少する一方で、合計特殊出生率は約5%と高い率を維持し
ており、更にHIV感染も2009年は2001年比で約25%減少且つエイズ治療者も2010年
には500万人を突破するなど、「出生に比べ、死亡者が減る社会」に変化しつつありま
す。この結果、アフリカの人口は2010年の10億人から2050年には23億人、そのうち大
部分を15-64歳の生産人口が占めるという一大労働力基地になることが予想されま
す。しかしながら、アフリカではこれほどの人口を維持する食糧供給、雇用市場は確
保されていないため、このままでは人口の増加を国家の発展に結びつけることは困
難だといわれています。ですので、経済分野では民間セクターを含む雇用の創出、保
健分野では人口・家族計画(望まない妊娠の減少、間隔を空けた出産など)政策の拡
大を支援し、経済政策と保健・人口政策のバランスを取ることで、過去アジアで経験し
たような人口増加に伴う経済成長を目指すことが確認されました。
次に、革新的保健財政メカニズムです。アフリカのいくつかの国では新たな試みに
取り組んでおり、実績を上げている例もあります。成果ベースの資金支出(ResultBased Funding)が全国展開されているルワンダ、ブルンジ及びシエラレオネでは産前
産後ケア、家族計画、予防接種等で所定の成果が達成されています。特にルワンダ
では医療保険の国家的拡大(2003年の加入率は7%→2011年の加入率は93%)も
あって、保健施設に対する業績見合いの資金(Performance-Based Fund)、医療保
険からの支払(Provider Payment)等で財務基盤が充実し、保健人材の確保(2005年
は約7,000人→2008年は約13,000人)や技能者による出産介助の拡大(2005年は
39%→2010年は69%)といった結果が報告されました。
最後に、保健分野における民間セクターの役割です。高い経済成長を維持し、経済
成長を担う人的資本整備に貢献する観点からも安定した保健支出は重要であり、
その主たる財源を担う民間セクターの役割は大きいと思われます(一部の国では国
家保健支出に対する民間支出は50%以上を占めます)。アフリカでは100社以上の医
薬品企業の存在が認められるものの、アフリカ医薬品市場は世界市場の0.6%(38億
ドル/年)であり、人口や疾病負担を考慮しても潜在ニーズは非常に高いです。特に
単価の高いARVは消費量の80%を輸入に頼っており、アフリカの企業で製造可能な
ジェネリックに切り替えるだけでも相当な市場拡大及び雇用創出が期待されます。
また、ITを活用した保健マネジメントの変革、e-Healthと呼ばれる革新的な保健
サービスの提供体制の整備も進んでおり、米インテルはアフリカで100万人の保健医
療従事者を目標にITを活用した能力強化を実施しており、2012年の投資額が約7億
ドルを予定しています。IT、e-Healthを推進することにより、既存の保健人材負担が
軽減されるだけでなく、新たな保健医療ビジネスを興すことによって雇用市場を創出
することが期待されます。
本会合への参加を通じて、アフリカ各国の保健、財務大臣レベルにてUHC達成の
ため、特に保健財政の面からのコミットメントを確認したことは、JICAが対アフリカ保
健医療協力の方針検討を進める上でも非常に意義のあるものでした。現在、JICAは
TICADⅤに向けて保健医療協力の方針を検討しており、そこでは、すべての人が必
要な時に必要な内容の基礎的保健サービス(子どもの健康、妊産婦の健康、感染症
対策等)を受けられるようにする(すなわち、UHCを達成する)ために、その利用普及
を妨げている様々な種類(物理的、社会慣習的、経済的)の障壁を取り除くことで
人々の健康を改善することを目標として挙げています。本会合で確認されたUHC達
成に向けたアフリカ各国の関心及び意欲を、具体的な形で支援できるよう保健第一
グループはアフリカ部始め関連する部署の協力も得ながら進めるべきと感じます。
会議の詳細はHHAウェブサイト(http://www.hha-online.org/hso/conference)から入
手可能です。
【スピーチセッション】
【マーガレット・チャンWHO事務局長】
(保健第一課 菊地)
四半期ごとの発刊なら何とかなるだろうと思っていましたが、毎回いつの間にか締
切りが来ていて慌てます。初夏に出した前号から3か月があっという間に過ぎ、そ
ろそろ秋の訪れを感じ始めました。保健だよりのサイクルは、忙しく業務をこなす中
で、季節の変わり目を定期的にお知らしてくれるという役目もあるんですね。
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