第13回 SAMPE 先端材料技術国際会議・展示会 参加報告 磯 江 暁 榎 本 清 志 吉 田 幹 夫 (一財)素形材センター はじめに 11 月に行われた第 13 回 SAMPE 先端材料技術国際 販売、教育に携わる者までが広く結集、国際協力と 会議・展示会に参加しました。これは SAMPE Japan 技術交流、情報交換を行っています。SAMPE Japan (先端材料技術協会)が 2 年に 1 回開催しているもの はこの日本支部になります。 です。 13 回目となった今年は「製造現場と学術、大量生 SAMPE というのは、Society for the Advancement 産指向と高性能指向複合材料の架け橋へ向けて」(A of Material and Process Engineering の 略 称 で、 米 Giant Bridge from Practice and High Volume to 国を中心に世界各国に支部を持つ国際団体であり、 Science and High Performance)というテーマの下、 宇宙・航空を始め、先端材料技術の発展を目指して、 初めて展示会とシンポジウムが場所を東京と名古屋 1944 年に発足し、研究開発から、製造加工、試験検査、 に分けて開催されました。 展示会 まず、11 月 6、7、8 日に東京ビッグサイト(東京 必要レベルまで達すれば、将来、実機に導入されて 国際展示場)で先端材料技術展示会が行われました。 行くものと思われます。 ホールでは約 50 の企業、団体が展示を行っていま 展示ブースでは、㈱カドコーポレーションの ATP した。 (Automated Tape Placement)機器開発サポート、 会場では、エアバスジャパンから講演がありました。 津田駒 ㈱ の自社開発 2 次元 ATP 装置、タジマ工業 複合材のエアバス機適用の紹介では、エアバスの方 ㈱のロボットアーム部品のプリフォーム、極東貿 針として「知的な機体構造」があげられているとの 易のインガソル社製熱硬化プリプレグ用積層装置・ ことであり、後ほど詳しく述べる Structural Health ADC(Automated Dynamics Corp.)社製熱可塑テー Monitoring(構造健全性診断技術)は技術レベルが プ積層機の説明が目を引くものでした。 写真 1 会場の立て看板:先端材料技術協会ホームページより 写真 2 Hightex 社のロボットアーム:パンフレットより (プリフォーム作成にタジマ工業社製マシン使用) Vol.54(2013)No.12 特集 第13回SAMPE.indd 1 SOKEIZAI 81 2013/12/11 17:52:28 シンポジウム 続いて、11 月 11、12 日には名古屋のウインクあい 1 次構造部材への適用可能性については語られません ち(愛知県産業労働センター)で先端材料技術国際 でした。また、Murray R. Scott 氏はオーストラリア 会議が行われました。キーノートスピーチが 7 つと、 の ACS(Advanced Composite Structures Australia) 16 のセッションに分かれて 110 ほどの発表が行われ の活動を紹介されました。EADS、DLR とは Rapid ました。発表と同時に、ミニ展示(テーブルトップ) Assembly technology(TCW: Thermoset Composite も 2 部屋に分かれて行われていました。 Welding)と Structural Health Monitoring の 2 つを 共同で研究しているということで、興味を惹かれる 内容でした。三菱航空機からは MRJ の開発について の発表があり、開発状況が紹介されました。 このシンポジウムの中で、素形材センターが実施 した Structural Health Monitoring 開発プロジェク トを 1 セッションとして発表を行いました。発表は、 素形材センター吉田が本プロジェクトの概要を説明 し、その後 4 企業から詳細な技術開発成果の報告を するという形式です。 写真 3 ウインクあいち正面玄関 写真 6 発表を行う素形材センター吉田 写真 4 シンポジウム受付 素形材センターの発表は、素形材の説明、素形材セ ンターの紹介、Structural Health Monitoring 開発プ ロジェクトの概要、プロジェクト参加企業・大学など の組織紹介、Structural Health Monitoring プロジェク トとして開発した 4 テーマの特徴と比較、エアバス社 との協同研究紹介、材料試験(Material Qualification Test)概要、Structural Health Monitoring 適用のガイ ドブック制作参画等について説明を行いました。本プ ロジェクトは経済産業省「次世代構造部材創製・加工 写真 5 ミニ展示&コーヒーブレイク 技術開発」として素形材センターが受託したものです。 東京大学武田教授がプロジェクトリーダーとなって、 キーノートスピーチでは、ボーイング社 John J. 企業、東京大学、JAXA が協力して進めており、航空 Tracy 氏によって 787 以降の複合材や機体の方向性に 機の複合材構造を対象とし、光ファイバーをセンサー ついて説明が行われ、NASA がスポンサーの SUGAR としていることが特徴です。航空機構造に適用が増大 プロジェクトで検討された SUGAR Volt(ジェットエ している複合材の健全性(剥離などの損傷、歪、衝撃) ンジンと電気モーターのハイブリッド機)や SUGAR を光ファイバーセンサーによって検知し、航空機の安 Freeze(天然ガスが燃料)の紹介がありました。熱可 全性を向上させるとともに、メンテナンスを容易化さ 塑複合材適用についての質問では、クリップなど小物 せる目的で技術開発を行っています。 部品の 2 次構造部材への適用となるとの回答で、大物 82 SOKEIZAI 特集 第13回SAMPE.indd 2 Vol.54(2013)No.12 2013/12/11 17:52:30 特集 素形材月間 4 企業からの報告概要は以下の通りです。 三菱重工業は、光ファイバーセンサーを用い、ブ リルアン散乱光(光ファイバー内で発生する反射 光。歪によって波長が変化する。)を利用した分布 歪と温度を分離して測定するシステムを開発し、 飛行試験を行った成果、課題を紹介しました。 川崎重工業は FBG(Fiber Bragg Grating)光ファ イバーを用いて衝撃を検知し、その位置を同定す 写真 7 T型パイプに編み上げられた織物 るシステムを開発し、複合材胴体パネルを試作し て検証を行った成果、課題を紹介しました。 Fraunhofer の FlexPLAS Releasing Film という、 三菱電機は FBG 光ファイバーを用いて複合材部 複合材を成形型から外し易くする離型剤の代わり 品の成形、加工、組立、運用、修理に及ぶライフ になり、しかも何度も再使用出来るフィルムの紹 サイクルでの歪計測システムを、胴体後部圧力隔 介がありました。離型剤が製品や成形型に残らな 壁供試体や修理供試体を製造して実験・検証した いので、清掃が非常に楽になる、複合材部品成形 成果、課題を紹介しました。 の生産効率を高めるものとして、注目すべき開発 富士重工業はラム波(構造を伝播する超音波の一 だと思いす。 種)の原理を利用し、PZT(ピエゾ電圧素子)から 発振されたラム波を FBG 光ファイバーセンサー でとらえ、その伝播経路にある複合材の損傷を検 知するシステムを開発し、実機形態を模擬した供 試体を用いた試験の成果、課題を報告しました。 発表毎に質疑応答が行われました。本セッション 終了後に、キーノートをスピーチしたオーストラリ ア ACS の Murray L. Scott 氏が本プロジェクトに興 味を示され、意見交換を行いました。 図 2 剥離剤と剥離フィルムの違い:Fraunhofer パンフ レットより その他、聴講した発表の中で印象的だったものを 以下に列記します。 三菱レイヨンより、熱可塑プリプレグシート材で ㈱ UCHIDA がT型パイプをブレーディングする Compression Molding を行う場合に、繊維に対し 方法を紹介していました。ガイドリングを二つ使 て一定角度・一定ピッチで切れ目を加え、これを い、T型パイプのマンドレルを回転させることに コントロールすることによって機械的強度と成形 よって作ることが出来るようなっていました。ま 型への追従性を両立させることの研究成果の発表 だ、機械的な特性の確認など行われていないよう があり、興味をひかれました。 でしたが、複雑形状への展開が期待できるのでは ないか、と考えます。 Structural Health Monitoring の一般セッション も一つあり、3 つ発表が行われました。光ファイバー を用いたジャイロ、光ファイバーを用いたレジン 硬化プロセス検知、熱による CFRP の検査の 3 発 表です。ホットプレス時のレジン硬化プロセスの 検知は、光ファイバー端部からの反射光が樹脂の 効果状況によって異なることを利用したものであ り、こういう使い方もあったのか、と光ファイバー のセンサーとしての活用の広さを感じました。 その他、500 ∼ 800℃の加熱蒸気を使用したカーボ ンファイバーのリサイクル方法の研究や Induction Heating を使って Welding を行う手法の研究は今後 の進展が気になるものでした。 変わったところでは学生ブリッジコンテストが行 われました。これは学生に複合材料の設計・成形を 図 1 ガイドリングによるコントロール:Proceeding より 肌で体験させ、その能力を高めるという主旨で行わ Vol.54(2013)No.12 特集 第13回SAMPE.indd 3 SOKEIZAI 83 2013/12/11 17:52:31 れているそうです。長さは 400 mm 程度で断面は一 実際に見るのは初めてでした。測定したその場で損 辺 50 mm の正方形の中に収めたブリッジに三点曲げ 傷の画像が映像化されることは、確実に検査効率を 試験を行って 4 kN の荷重に耐える必要があり、荷重 向上させるものと感じました。また、同じような超 に耐えたものの中から最も軽いものが優勝となりま 音波検査装置で、非接触で計測できる空中超音波探 す。試験は会場に持ち込んだ試験機で行われ、金沢 傷システム G-Scan Aero(ジーネス社)も展示、デ 工大鵜沢教授の軽妙な司会もあって大いに盛り上が モを行っていました。Matrixeye は手動で任意の場 りました。ちなみに、7 チームが出場し、東京大学 所をスキャン可能ですが、G-Scan Aero は機械で操 工学系影山・村山研究室が優勝しました。学生の意 作しなければ正しく測定できないそうです。 欲を高め、複合材の設計、成形を経験させるという 初日 11 日夜にはバンケットがキャッスルプラザホ 大変良い企画だと感じました。 テルに場所を移して行われ、海外からの参加者も多 数参加され、旧交を温めたり、情報交換を行ったり と盛況でした。我々 Structural Health Monitoring 開発プロジェクトの面々が 10 月にドイツの CFKValley を訪問した際に対応頂いた方との再会もあり ました。すばらしい料理の他に名古屋おもてなし武 将隊の余興がサプライズで用意されており、特に殺 陣のシーンと最後の勝鬨の声を上げる時は海外から の参加者にも好評で大いに盛り上がっていました。 写真 8 学生ブリッジコンテストの審査風景 ミニ展示で目を引いたのは、787 メンテナンスで エアラインに採用された東芝の 3 次元超音波検査装 置 Matrixeye です。人工欠陥のある複合材パネルを 実際にスキャンして映像化するデモを行っていまし た。以前、素形材センターの研究会で全日空 ㈱ を訪 問した時に Matrixeye の説明は聞いていましたが、 写真 9 おもてなし武将隊とエイエイオー おわりに 複合材には材料、加工法、検査方法、強度解析な な研究開発を続けて行くことが大切だと考えます。 ど色々な研究・開発要素があり、今回もさまざまな そして、実用化を達成した Fraunhofer の FlexPLAS 発表がありました。シミュレーションやリサイクル Releasing Film のように、我々の Structural Health の研究も種々行われており、万遍無く研究が行われ Monitoring システムを実機に適用し、その成果の発 ていると感じました。今後も、今年のテーマである 表を早く行いたいと強く思いました。 大量生産指向と高性能指向複合材料を目指して地道 84 SOKEIZAI 特集 第13回SAMPE.indd 4 Vol.54(2013)No.12 2013/12/11 17:52:32
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