2.エネルギー準位離散系の統計的扱い 2-1. 統計力学の基本仮定 量子力学によれば、振動数 ν の振動子のエネルギーは、 1 1 hν , 1 + hν 2 2 1 ⋅ ⋅ ⋅ n + hν 2 という値しか取らない。このように個々の粒子のエネルギーが、エネルギー量子ε0=hνの整数倍(振 動子系の 0 点エネルギーh ν /2 は無視する。)である系について考える。 問題2−1) N 個の粒子からなる系のエネルギ−が、Mε0 であるとする。エネルギ−Mε0 を N 個 の粒子に分配する方法の数を求めよ。 答え: W N (M ) = ( M + N − 1)! M !×(N − 1)! エネルギ−Mε0を N 個の粒子に(n1ε 0 , n2ε 0 ,⋅ ⋅ ⋅, nN ε 0 ) と分配する時、個々の分配状態を微視状態とい う。微視的状態を (n1 , n2 ,⋅ ⋅ ⋅, n N ) で定義することが多い。 時間的母集団:ある微視状態の出現確率を、1 つの粒子がその状態に存在する時間割合で定義 する統計集団 位相的母集団:ある微視状態の出現確率を、多数の粒子の中でその状態にある粒子数割合で定 義する統計集団 仮定1:時間的母集団と位相的母集団は同等である。 仮定2:全ての微視的状態は等しい確率で出現する。=等重率の原理 ミクロカノニカル集団(microcanonical ensemble):エネルギーが一定である力学集団。 ミクロカノニカル分布(microcanonical distribution):エネルギーが一定である系の微 視的状態の分布 1 2-2. カノニカル分布 カノニカル集団(canonical ensemble):ミクロカノニカル集団に属する N 粒子系から N1 個(N >>N1)だけ抜き出して作られた部分系。 カノニカル分布(canonical distribution):ミクロカノニカル集団に属する N 粒子系から N1 個(N >>N1)だけ抜き出して作られた部分系の微視的状態の分布。 問題2−2)N 個の粒子系がエネルギ−Mε0 をもつ時、 一つの粒子がエネルギ−xε0をもつ確率 p1( x ) を求めよ。 答え:エネルギ−Mε0を全体に分配する方法の数は、WN (M ) 。特定の粒子がエネルギ−xε0 をもつ 場合の数は、 WN −1 (M − x ) 。従って、求めるべき確率は p1 ( x ) = WN −1 (M − x ) W N (M ) x N m 問題2−3)M>>x である時、近似的に p1 (x ) ≈ ;m=M/N となることを示せ。 M + N 1+ m WN −1 (M − x ) (M + N − x − 2)! M ! ( N − 1)! = WN ( M ) (M − x )! ( N − 2 )! ( M + N − 1)! 答え: (M + N − x − 2)! M ! = (N − 1) M (M − 1) ⋅ ⋅ ⋅ (M − x + 1) = ( N − 1) ( M + N − 1)! ( M − x )! ( M + N − 1)( M + N − 2) ⋅ ⋅ ⋅ (M + N − x − 1) p1( x ) = N M N M N p1 ( x ) ≈ = M + N M + N M + N 1 + M N x 1 1 問題2−4) = e −ε 0 θ 或いは、θ = ε 0 ln 1 + 1 +1 m m x N m = M + N 1 + m N m N xε 答え: p1 (x ) ≈ exp − 0 = M + N 1+ m M +N θ 2 (1-5) xε と定義すると、 p1( x ) はexp − 0 θ 例することを示せ。 x x に比 問題2−5)N 個の粒子系がエネルギ−E=Mε0 をもつ時、N1 個の粒子がエネルギ−E1=M1ε0 をも つ確率 p N 1 (E1 ) を求めよ。 答え:エネルギ−E=Mε0を N 個の粒子に分配する微視的状態の数は、W N (M ) = ( M + N − 1)! で与 M !×(N − 1)! えられる。一方、エネルギ−E1=M1ε0を N1 個の粒子に分配し、エネルギ―(E―E1)= (M―M1)ε0 を N1 個の粒子に分配する微視的状態の数は、WN 1( M 1 )W N − N 1 (M − M 1 ) 与えられる。従って、求める確 率は、 p N1 (M 1 ) = WN1 (M 1 ) × WN − N1 ( M − M 1 ) WN (M ) (1-8) ところで、 W N − N1 (M − M 1 ) WN ( M ) = ( N − 1) ⋅ ⋅ ⋅ ( N − N1 )M (M − 1) ⋅ ⋅ ⋅ (M − M 1 + 1) ≈ N N M M ( N + M − 1) ⋅ ⋅ ⋅ ( N + M − N1 − M 1 ) ( N + M )N + M 1 1 1 1 = (M (1 + M N) M1 N) N1 +M1 だから W N1 ( M 1 ) m M1 −M ε θ p N1 (M 1 ) = ∝ W N1 (M 1 )e 1 0 N1 (1 + m ) 1 + m (2-5) カノニカル集団(canonical ensemble):ミクロカノニカル集団に属する N 粒子系から N1 個 (N >>N1)だけ抜き出して作られた部分系。熱容量の大きい物体と熱平衡を保つ任意の力学系の 統計分布を表す集団。 3 2-3 分配関数 カノニカル集団(canonical ensemble):熱容量の大きい物体と熱平衡を保つ任意の力学系 の統計分布を表す集団。 N 個の粒子系(熱浴)がエネルギ−E=Mε0 をもつ時、N1 個の粒子(カノニカル集団)がエネル ギ−E1=M1ε 0 をもつ確率 p N 1 (E1 ) は、次式で与えられる。 W N1 ( M 1 ) m M1 −M ε θ p N1 (M 1 ) = ∝ W N1 (M 1 )e 1 0 N1 (1 + m ) 1 + m この式は、次のことを示している。W N1 ( M 1 ) は、N1 個の粒子(カノニカル集団)がエネルギ−E1=M1ε0 をもつ場合の数なので、エネルギ−E1 で定義した状態が出現する確率は、その状態数×e − E1 θ に比 例する。 大きな熱浴に接している系(N1 個の粒子)のエネルギーが、E1、E2、…El…であるとする(同 じエネルギーをもっている状態はその数だけ繰りかえされているとする。従って、上記の例では、 このエネルギー状態の個数はW N1 ( M 1 ) ) 。系が Elである確率はe − El θ に比例すると考えれば、上記 した、 「エネルギ−E1 で定義した状態が出現する確率が、その状態数×e − E1 θ に比例する」ことも合 理的に導かれる。つまり、系が El である確率は p (E l ) = e − El θ ∑e − Ek θ k =1 で与えられる。 問題2−6)この時の系の平均エネルギー E を与える式を求めよ。 答え:平均値は、 E = ∑ E l p (El ) = ∑ El e − El θ l =1 l =1 ∑e − Ek θ である。 k =1 問題2−7)この時の系の平均エネルギー E が、E = θ 2 ∂ ln Z (θ ) で与えられることを示せ。ただ ∂θ し、 Z (θ ) = ∑ e − El θ とする。 l =1 答え: ∑ El e − El θ = ∑ l =1 E = ∑ E l e − El l =1 l =1 θ ∑ e − Ek k =1 ∂ e −El ∂ (− 1 θ ) θ θ = ∑ El e − El l =1 =θ2 θ ∂ ∑ e − El ∂(θ ) l =1 z (θ ) = θ =θ2 ∂ Z (θ ) ∂ (θ ) だから θ2 ∂ ∂ Z (θ ) = θ 2 ln Z (θ ) z (θ ) ∂(θ ) ∂(θ ) 4
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