セキュリティー 掛橋 明/株式会社バガボンド パブリッシング事業部

第
ビジネス
2部
第
5章
ビジネス支 援 サービス
セキュリティー
業界再編と制度の整備、拡充
ネットビジネスの本格化と意識の向上により
市場は大きく拡大、業界は激動したこの1年
ニーズの拡大で活性化する業界の動向
エンドユーザーに始まった意識変革
この1年でセキュリティーベンダーの
BS7799などの基準に基づいた明確なセ
セキュリティービジネスを行う上で無視
M&Aがいくつか行われた。類似のサービ
キュリティーポリシーを構築・運用して
できないのが、エンドユーザーのセキュリ
ス・製品を提供するベンダーを吸収し、
いることが企業に求められるようになるに
ティー意識だ。2001年、NimdaやCode
シェアの拡大を狙う形態、一方でシマン
つれ、BS7799の導入コンサルティングや
Redなどウイルスの蔓延により、エンドユ
テックとアクセントテクノロジーズに見ら
トレーニングなどの新たなセキュリティー
ーザーのセキュリティー意識は確実に上が
れるように、従来の得意分野に新たな分
ビジネスが生まれてきた。アズジェントな
ったと思われる。また、ユーザー数が非
野を加えて総合的なセキュリティーベン
どが早期の成功例だ。ポリシー構築サー
常に多いInternet ExplorerとOutlook
ダーを目指す形態と、2通りの経営統合
ビスは今後一層ニーズの高まる分野だろ
Expressの危険性が広く認識されること
が進んだが、このような動きにより、業
う。
で、ブラウザーやメーラーなど専門製品
界地図はこの1年で大きく変わった。業
また、大手商社がセキュリティー情報
種ごとにカテゴライズすることも難しくな
サービスに続々と参入し始めている。伊
ってきている。セキュリティー業界自体
藤忠が100%出資しているアイ・ディフェ
が大きくなってきたことの証と言えるかも
ンス・ジャパンや三井物産系のGTIなど
しれない。
である。商社らしく「売れそうな商品を
インターネット関連の規格や法制度が
持ってきて売る」というスタイルであり、
以外の市場にも、セキュリティービジネ
スを展開できる余地が生まれている。
レベル底上げのための施策が緊急課題
2001年には大手PKIベンダーが相次い
整備されてきたことも業界に大きな影響
この1年で拡大したセキュリティー業界の
でウェブ改ざんなどの事件を起こした。個
を与えている。この1年で電子署名法、
ビジネスとしての採算性を裏付けている
人情報の一部漏洩まで発生したセキュリ
プロバイダ責任法や不正アクセス禁止法
とも言えるだろう。「セキュリティーで飯
ティーベンダーもある。大手企業のネッ
等が施行されたり、英国の情報セキュリ
が食えるのか?」という時代を生きてき
トサービスでもウェブ改ざんはもとより個
ティーマネジメント規格BS7799がJIS化
た業界人にとっては嬉しい兆候ではない
人情報の漏洩など日常茶飯事だ。企業内
される動きもある。また、電子入札サー
だろうか。
の意思決定者およびサーバー管理者の多
一方、ブランド志向の日本のマーケッ
くが、いかにセキュリティーに無頓着であ
電子署名法や電子入札などと関わって
トの特殊性により、アンチウイルスソフト、
ったかを示していると言える。企業の意
くるのが「PKI(公開鍵暗号)」である。
脆弱性スキャンツール、ファイアウォール
識変革とそれを促進する施策が必要な時
今後インターネット上での取引がさらに
など主要な製品分野では、新規に立ち上
期にきていると考えられる。
頻繁になるのに比例して重要性が増す技
がる国内ブランドが非常に苦戦を強いら
術だ。PKI関連ビジネスは現在好調とは
れているという現象も起きている。
ビスも実用化が進み始めている。
また、セキュリティー専門誌『SCAN』
でも何度か問題性を指摘しているが、現
さらに、日本のセキュリティー業界独
在の行政のサイバーテロ施策は重要イン
業が認証サービス事業へ参入しており、
自の特殊性として、中小企業向けの製品
フラを守るためのものであり、個人や中
市場の将来性が期待されていることを裏
群が極端に少ないという点が挙げられる。
小企業を守るための施策は含まれていな
付けている。
言えないが、綜合警備保障など複数の企
特にスキャナーツールやIDS(侵入検知
い。しかし、実際に行政支援が必要なの
また、ひとことで「PKI」と言っても
システム)などは非常に高額な製品もし
は、個人や中小企業だ。個人や中小企業
PKIツールを提供する企業、PKIシステ
くは非商用のオープンソースのツールとな
の切り捨ては、踏み台にされる可能性の
ムソリューションを提供する企業、PKI
ってしまう。今後、この市場をターゲッ
ある無数のクライアントやサーバーをネッ
システムを運用する企業など、さまざま
トとする動きはより活性化すると思われ
ト上に放置することになり、重要インフ
な形の事業があり、それぞれのビジネスモ
る。すでに住友金属システムソリューシ
ラの防御にも影響してくる。ナショナル
デルはまったく異なる。今後の成長分野
ョ ン ズ の 新 ブ ラ ン ド 「 SMI Digital
セキュリティーの体系的な理解と体制作
として考えられる「PKI」であるが、業
Securty」が主として中小企業向けのセ
界が落ち着くまでは、まだ時間がかかり
キュリティー製品を扱い始めており、今
そうだ。
後の展開が期待される。
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インターネット白 書 2 0 0 2
りが、現在切実に求められている。
(掛橋 明 株式会社バガボンド パブリッシング事業
部)