加藤和夫(東京都) - 東北大学

カトとうカユずむ
氏名・(本籍)
加藤和夫(東京都)
学位の種類
理学博士
学位記番号
理博第620号
学{立授与年月日
昭和54年3月27日
学位授与の要件
学位規則第5条第i項該当
研究科専攻
東北大学大学院理学研究科
(博士課程)化学第2専攻
論文籍査委員
(数数
イナ』
瀬嘉平教授
井利夫教授
目
二=口
ム冊
笛1章
主査
商向
不飽和七員環を含む二,三の多環状化合物
の合成に関する研究
)受受
学位論文題目
文
瀬戸秀一
浅尾豊信
次
緒論
策2章
1一ホルミルシクロヘプタトリエン類の合成と反応
第3章
フロ[3,4-4]トロポンの反応性の検討とフラン環を含むヘテロフルバレン類の一
段階合成反応
第4章
ヘプタレンー3,8一ジオンの合成の試み
一フロトロポン類とテトラブロモァセトンとの有荷電環状付加反応一
第5章
2,4一ジメチルヘプタレンー3,8一ジオンの合成と物性
第6章
結び
文
献
謝
辞
一215一
論文内容要旨
第1章
ビシクロ[5.5、0]ドデカン骨格9を有する化合物は天然物化学或いは非ベンゼン系芳香族化学
0)研究分野に於て重要な地位を占めている。天然産のコルヒチンiではB,(3環が9の骨格を有す
るが,iはその特異な生理活性で広く知られている。又,ヘプタレン2は12π電子σ)不安定な化合
物であるが,2の2電子還元で得られるジアニオン3はHilckel則に合致したi4π電子構造を
有し100℃でも安定な化学種となる。2の酸化生成物であるヘプタレンジカチオン4或いはヘブタ
レンジオン5は同様に,Hモ1cke1則に合致する10π電子轍造との関連で,その物性に興味が持
たれる。
シクロヘプタトリエン6よ1)出発しビシクロ[5.5.O]ドデカン骨格を合成する一般法を確、Zする
ことかできれば1∼5の興味深い化合物群が一挙に得られると考え,1っ0)炭素を足がか1)とする
経路a,又隣接ユ置換七員環化合物8を経る経路b,cを想定し,これらの合成法を吟味し,更に
得られた化合物の物性に検討を加えた。
第2章
6にVilsn掩icr反応を試みたところ七員環の位置異性体或いはベンゼン誘導体への転位生成
物を全く含まず1一ホルミルシクロヘプタトリエン10を得ることができた。10より11,16その他0)
1位誘導体(12,i7)へ好収率に変換することができる。又,11{崖至換体12に対するVi1Smeier反
応ではし6位二置換体13が得られ,3位置換体14からは1.4位二置換f本15を得ることができるが,
7位置換体16から隣接二置換誘導体19を得ることはできなかった。
10とアセトフェノン誘導体との縮合反応では,好収率に二置換ブロペノン誘導体20が得られる。
20或いは23に対しフェノールのトロヒ。ル化反応を模範とした環形成反応を期待したが,コルヒチ
ン様三環性化合物22,25は得られなかった。1一アセチル誘導体17とベンツアルデヒド誘導体との
縮合反応により,20或いは23の側鎖カルボニル甚の位置異性体26を合成し,更に分子内1・・ピル化
反応に検討を加えようとしたが,26を収率よく得るには至らなかった。
1一アセチル誘導体17および10との塩基性条件下での縮合反応でプ・ペノン誘導体21が得られた。
27よ1〕分子内環化反応を検討する目的で27をトリチル塩で酸化したところ,二価0)陽イオン種は
得られず,一価の陽イオン種28を得た。更に29より31を経てビニルシクロプロピル基を導入し,そ
0)(冶pe転位により9の誘導体を得る目的で29のナトリウム塩を熱分解したところ,脱窒素を伴な
わないでジヒドロジァザァズレン30が一挙に得られた。
一一216一
第3章
隣接二置換七員環化合物8から9への誘導を目的とし,まずフロ[3,4-d]トロポン32の反
応性に検討を加えた。硫黄イリドとの反応では好収率に4.5一ホモフロトロポン33力鴇られた。33
は硫酸中ではそのH-nmrからヘテロニ環性ホモ10π陽イオン種38として存在していることが
分かる。33からはアルコール39を得たが,39より母体陽イオン種40を確認するには至らなかった。
32にPd-Cを触媒として当モルの水素を反応させると4,5一ジヒドロ体34,i,3一ジヒドロ体
35が35:3σ)比で得られる。従って水素添加反応に対しては,七員環部はフラン環部より6倍活
性であると結論される。ローズベンガルを用いた光増感酸素化反応ではうクトール誘導体37が得ら
れた。更に炭酸ナトリウム存在下,メタノール中で臭素を作用させるとフラン環部のみに反応を誘
起し環状アセタール36が得られた。
以上の様に32はフラン環部および七貝環部に選択的に或いは同時に反応を誘起することが可能で
ある。36を含水酢酸を用いて加水分解をおこなうと4,5一ジホルミルトロポン42は得られず,その
環状水和物41が得られた。41に硫酸又はDCCを作用させたが42を得ることはできなかった。41と
アセトン或いはアセトンジカルボン酸ジエチル(DAD)を酸性又は塩基性条件下に反応させたか
ヘプタレンジォン誘導体43は得られなかった。36に対しDADをDBU存在下に反応きせると,ア
セタール蔀分は反応に関与せず,2一ヒドロキシァズレン誘導体必が得られた。同様の反応は無置
換トロポンに対しても適用でき,2一ヒド・キシアズレン誘導体が一挙に得られ,ト・ポンからの
新規アズレン類の一一段階合成反応として位置づけられる。
更に42を得る目的でフラン誘導体とテトラブロモアセトンとの有荷電環状付加反応生成物を合成し
たカ∫,前王駆1本47を得るるこは至らなカ・つた。
32のカルボニル基へ0)反応性の検討としてジベンゾー6一・オキソフルベンおよび8一オキソヘブ
タフルベンとの反応で,フラン環を含むヘテ・フルバレン類49,50を一一挙に得た。同様にフ・[2,
3-bコトロポンとの反応で5L52を得た。49,50は室温で安定な結晶であるが,51,52はやや不
安定である。種々のスペクトルの考察から49∼52は一般に相当するベンゾ誘導体と類似の電子構
造を有しその極性構造の寄与は小さくポリオレフィンの性質をもつものと結論した。尚51は相当す
るベンゾ誘導体に比べ深色移動,濃色効果を呈しこれをピンチボンド付近の水素聞の立体反発によ
る分子の平面性の差によるものと解釈した。
第4章
32とテトラブ・モァセトンとを工ニァカルボニルニ鉄錯体存在下に反応させたが,明確な生成物
は得られなかった。併しジヒドロ体34からは同条件下,低収率ながら付加体が得られ,更にテトラ
ヒドロ体53からは付加体55がやや収率の向上を伴なって得られた。尚53は3,4一ビスプロモメチル
フランとのDADとをDBU存在下に縮合させて得た54から誘導した。55の無置換七員環カルボ二
一217一
..1
一
ルのα位のみを選択的に具素化して56とし,56に塩化リチウムを作用させ57へと誘導した。57は臭
素,塩素を含む。少くとも三種類のハロゲン誘導体の混合物であるがフルオロスルホン酸と処理し
たところ脱水的エーテル開裂反応で2,4一ジハロヘプタレンー3,8一ジオン58に導くことができた。
併し58は三種類の化合物の混合物であり分離精製には成功せず・目っ中性溶媒には極めて難溶であ
1〕]H-llmr等による充分な検討を行なえなかった。
第5'章
32と2,4一ジブロモペンタンー3一オンとを銅・ヨウ化カリウム存在下に反応きせると・環状付
加体59が得られる。32のジカルボエトキシ誘導体からも同様の反応で付加体61が得られた。含水溶
媒中では七員環開裂体60が得られた。59はフルオロスルホン酸による脱水的エーテル開裂反応をう
け,2,4一ジメチルヘプタレンー3,8一ジオン62が安定な黄色結晶として得られた。
62にはヘプタレニウムジカチオン4と等電子構造の極限構造式62'の寄与が考えられることから,
酸性溶媒中での挙動を電子スペクトル,]H-nmrおよび13C-nmrによって検討した。
そ0)結果トリフルオロ酢酸中では一価の陽イオン種63として,また硫酸或いはフルオロスルホン酸
中では二価の陽イオン種,ジヒドロキシヘプタレニウムジカチオン64として存在していること、を明
らかにした。62,64に対するSpiesecke-Schnelder式の適用では1H-nmrはよい一致
を示すが,13C-nmrはよい一致を示さなかった。トロポンについても13C-nmrの結果はよい一
致を示さなかった。
環状共役カルボニル化合物に対するSpleSecke-Schnelder式の直接の適用は困難であ
ると考えられる。
第6章
本研究でのまとめをおこない,本領域における発展的課題に関し考察を加えた。
一218一
*t
C
2(121T) 3.._(l 1T) (lOlr)
'''*
=
l
5
5i
)
7
*.
CO
?
9
O
t
' - '-
* ,
6
p.,,.,#・ ,,, ,, e・11',"'D,・lh ,1 8 1
... J
I ・ ,rS., ・Q・・,
O" sp
cl to
lo ¥O16
: on
'
ttaou
:!o ' """'
d cu2
4 y !¥ l I s _
an
"nj
¥OY O
e 17 e
R2
l "9u'
Ov{ O ' ¥ JBF4 it ¥
20 o
1
r
29
1
d '
"
O aFf
srp o 2
O 26
/ : ,!,:= 'J27 X
T
. 30
'
'd
22
u. . jfBr
l
31
r
P'
p
[
o'
lr v TY2 1 _
23 o
.'
q
'
tl
PYRt _ _uo
18
Rl
NtrF
! )P;j5
cl' x
28
2 '
- 219 -
l
l
S)
_ :f l r : :s ca
l ; efol
Sl
r '
*, *
ti20
( u eA
-- ! f f oe/o 'i 0Q
X
op
/
(
e
9
pio
l+6
'ell .1
¥
ar)erJ 'l
rCi r ' Q c i eta
**
8
3g
""
d'
)
eC(;3 s pO 32
L 0 9
' pt
pl
¥
l
I P il /
O i e,/" C ; //
{X e
s5
3
36
36
.
s
'
r
c _ o ; fiiC(;::;
u
¥¥
T1
t01
o:: ' ! 'eQ: ::_YT.o '
.J nj8
6S
2
1 c
c
e
:; t!/h j ' : Tl"t i' Ply f l't
F
ull(
oV C: vut' ' : P o C:c::
;toac61 u3s Oci'ctl
O I eu
/ es5e
=1CCT ';,F, : K'
'
pl62 j }
e
e2 fx : ¥ 1 i' ls'3
O;
il
ti
:' ' @
(x!
}1 1
' : : ;:Yr oj:L
}
j
So
Fo
O(
u
3i2
'r
* ::
9c
5
/
52
o
t 'o
i
62
E
'
55 &
,
r: j :
e e ;: i
6 #1jo
o
"
' L I j 57
oC p rl ll e![ _o ' 5
S8
lp
-220-
"
'
論文審査の結果の要旨
本、論文は・二個の七員環の縮環したビシクロ[5.5.0]ドデカン骨格の一般合成法の開発を通じて
新しい芳香族化合物であるヘブタレンジオン誘導体を合成し,その物性を検討したものである。
第一章緒論では本研究の目的および意義を解説し,かっこの分野での従来の研究を総括し,更に
得られた研究結果およびその学問的意義をのべている。
第二章ではシクロヘプタトリエンに対するVUsmeier反応で1一ホルミル体およびビトロピ
ルの得られることを見出し,その生成機構を考察した。ついでこの反応を他のシク・ヘプタトリエ
ン誘導体にも適応し,反応の適応限界を検討しっっ各種のホルミル体を得た。特にアセトフェノン
類との反応でB環の開裂したコルヒチン類似体を得,フェノールの分子内トロピル化類似の酸化的
閉環を試みた。また二個の七員環陽イ'オンを含むポリメチン体を得,その構造を論じている。
第三箪ではフロ[3,4-d]トロポンの反応性を検討した。イオウイリドとの反応や接触水素化
は主に七員環部に,また光酸素化やメタノール中での臭素化はフラン環部に起こることを見出した。
またトロポンとアセトンジカルボン酸ジエチルとの反応でアズレン誘導体が一挙に得られる新反応
を見出している。フロ」[3・4-d]およびフロ[2,3-b]トロポンと五員環および七員環オキ
ソフルベンとの反応で四種のヘテロフルバレンを得・各種スペクトルの考察から極性構造の寄与の
小さい,ポリオレフィンであると結論した。
第四章では,ジヒドロおよびテトラヒドロフロ13,4-d]トロポンとテトラブロモアセトンを
鉄錯体の存在下[4+3コ環化反応でビシク・ドデカン体を得,これから2,4一ジハ・ヘプタレン
ー3,8一ジオンを得ている。
第五章ではフロトロポンと2,4一ジブロモペンタンー3一オンとを銅,ヨウ化カリウム存在ド
[4+3]環化反応きせ,麗に強酸処理で2,4一ジメチルヘプタレンー3,8一ジオンを得た。その
物性を中性および酸性中での電子スペクトル,PMR,CMRによって検討した。トリフルオロ酢酸
中では一一価の陽イオン種として・フルオロスルホン酸や濃硫酸中では二価の陽イオンであるジヒド
ロキシヘプタレニウムジカチオンとして存在すると結論した。またこれらの化学種の構造に関する
議論をSpiesecke-Schneider式の取扱いによって展開し,更に今後の問題点と展望をの
べている。
以上の成果は非ベンゼン系芳香族化合物の化学の分野に貢献するところ大であり,提出者か自立
して研究活動を行なうに必要な高度の研究能力と,学識を有することを示している。よって加藤和
夫提出の論文は理学博士の学位論文として合格と認める。
一221一