コンデンサ入力型整流回路

©2012/10/03 Sifoen
整流・平滑回路の設計
1.
設計回路
図 1.1 に今回、取り上げる商用入力の回路図と記号を示す。
D1∼D4
V1
入力 AC 電源
Rs
商用ライン配線抵抗
C1
平滑容量 C(μF)
P-Load
図 1.1 設計回路
2.
整流ダイオード
定電力負荷
Po
消費電力 P(W)
Vm
C1 ピーク電圧(V)
F_AC
入力周波数(Hz)
解析解の検討
・等価抵抗 Req
定電力負荷であるので瞬時々で等価抵抗は変化していくが、C1 のピーク電
圧 Vm 時の抵抗を Req と定義する。(図 2.1)
この等価抵抗を参考に過度解用の等価回路は図 2.2 のようになる
Req と C からなる並列インピーダンス Zp は 2.1 式のようになる。
Re q
Zp
Re q
1
j C
1
j C
1
図 2.1Req 等価回路
Re q
j C Re q
…2.1 式
Rs からなる直列インピーダンス Zs は 2.2 式になる。
Zs
Rs
…2.2 式
両式から電源 V1 から流れる電流 Iin は V1=Vp ・Sin(ωt)とすれば 2.3 式の
図 2.2 解析用等価回路
ようになる。
Iin
Vp Sin( t)
Zs Zp
…2.3 式
従って、この電流が 0 以上の期間中、容量 C は電源 V1 から充電されることになる。又、2.3 式の一般解
Iin(t)は 2.4 式を基本に表される。ただし、
: 2 f : 位相差 R 0: Re q‖Rs Ip : Iin(t)の定常解のピーク値
Iin(t)
Ip Sin( t
) I0 e
t
C R0
である。
…2.4 式
又、2.4 式を Iin(t)=0 として t について解けば充電終了のタイミング t2 を算出できる。
一方、任意の時刻 t における C の電圧 V(t)を求めると、E0 を積分定数として 2.5 式となる。
V (t) Vm Sin( t
) E 0e
t
C R0
…2.5 式
しかし、三角関数と指数関数の交点の一般解はなく、2.4 式、2.5 式の解析解は求めるにはかなり高度な
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数学テクニックが必要になる。
又、近似式で近似解を求めることも考えられるが、指数関数の 1 次近似式と、正弦波の 2 次近似式を使お
うにも指数関数の近似は 0 付近のみ有効であり、正弦波も位相差を考えると 0 近辺のみ、あるいはπ/2 近
辺のみに有効であり、任意の角度については有効な低次の近似式を得ることはできていない。
加えて、容量 C の充電が終わった後は負荷による放電があり、計算式が 2.5 式とは異なる。この異なった計
算式による放電完了時に再度、電源(正弦波)に接続しなければならないので、近似式といえども容易では
ない。
ここでは後述するように、Spice の原理に従って Excel の繰り返し計算を使う手法について説明する。
3.
Rs がない場合の計算式
Rs が存在する場合の計算はかなり困難であるが、Rs が存在しない場合は入力電圧 V1 のピーク電圧 Vp
まで容量 C が充電され、位相π/2 で充電が完了すると仮定できるので、放電の様子を計算する事ができる。
先ず、Rs ありの図 2.1 の回路で必要電力 P を取り出す Req を計算する。
回路電流I
I
Vp
であり、この電流Iによって抵抗Reqの発生する電力Pは
Rs Re q
P
I 2 Re q
Vp 2 Re q
(Rs Re q)2
Vp 2
として、次の様になる。
P
この式を Req について解けば R0
Re q
1
(R0
2
2Rs
R0
R0
4Rs )
…3.1 式
R0
でなければならない事が分かる。Rs
.
.には上限値がある
........のである。ちなみに Vp=141.4V、
4
3.1 式から Rs
P=100W、Rs=10Ωとすれば、Req は R0=200 だから、次の様に計算できる。
Re q
Vm
1
(200
2
141.4
20
4 10)
200 200
179.44
179.44 10
179.44
133.93V P
100W
・容量 C1 の放電の計算式
ここでの計算は Rs=0 であるので、Vm=Vp となるから、以後 Vp で計算を進める。
任意の時刻 t における、C1 の電圧 V を求める。
1
C(Vp 2
2
V 2)
P t (Vp 2
V 2)
2
P t V 2
C
Vp 2
2
P t であるのでテーラー展開の 1 次近
C
似を採れば、3.2 式を得る
V
Vp
1
P
CVp 2
2P t
CVp 2
1
P t
CVp 2
1
t
…3.2 式
1
C Re q
この近似式は√が 0.6 程度までは 3%程度の精度がある。(厳密解 0.775/近似解 0.8 誤差 3.2%)
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つまり、リップル電圧 20%P-P までは 3%精度で近似できる。
・入力波形の近似
時刻 t=0 からの波形の様子を図 3.1 に示す。波形の様子か
1
近辺で近似すれば良い。
2f
ら最低電圧は Cos 波形を t
Cos 波形の近似式は Y
1 2
X で表されるが、
2
Cos( X ) 1
図 3.1 入力電圧の近似
ここでの X は角周波数なので時間で表記しなければならな
1
) で置き換えた 3.3 式となる。
2f
い。すると近似式は X を (t
V
Vp
1
( (t
2
1
1 2
))
2f
計算を簡単にする為に T
V
Vp
1
2
1
2
1
2
1
2
(t
1 2
)
2f
…3.3 式
1
と置き換えると、3.2 式は次の様になる。
2f
t
T2
…3.3b 式
3.3b 式を時刻 T について整理すると
1
2
2
T2
2
T
V
T 2
Vp
1
V
Vp
1
2
2
2
T
V
)
Vp
(1
…3.4 式
V
Vp
1
ここでは±の値の内、早く交差する時間が必要なので−の値を採る。
(3.4 式の√内は略、0 に近くなるので 1 次近似式は使えないことに注意)
3.4 式の T の値を 3.2 式に代入して
VL
Vp
3.5 式を
VL
Vp
1
) 1
2f
(T
1
(
V
について整理すると、C1 の最低電圧 VL が決まる。
Vp
1
2f
2
VL
) Vp
1
VL
について解けば 3.6 式となり、充電開始直前の最低電圧 VL を計算する事ができる。
Vp
2
1
1 (
2
2
2f
1
)2
C Re q
2
1
2fC Re q
f
1
1
(
)2
C Re q
C Re q
又、3.5 式をαについて解くと、リップル含有率
VL
Vp
VL
Vp
…3.5 式
VL
(1
Vp
2
2
VL
Vp
1
2
1
2
(
1
2f
) (1
2
(
…3.6 式
1
fC Re q
VL
を満たす必要な最小限の容量 C を得る。
Vp
1
2f
) (
2
VL
Vp
))
1
2
1
2f
整流・平滑回路 3/5
2
) 1
VL
Vp
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P
P 1
C ≧ 2 を代入すると 3.7 式になる。
2
CVp
Vp
この結果に、
VL
P Vp
C≧ 2
Vp
1
2
1
2f
VL
1
Vp
2
…3.7 式
ただし、リップル含有率は 20%程度以内でないと近似精度がないので注意が必要。
3.7 式の一つの条件例として 100Vrms、VL/Vp=0.8(リップル含有率 20%) 、ω=2π50(Hz)=314 と仮定すると、
設計指針として電力当りの容量を得ることができる。
C
P
1
141.4 2
1
1
0.707 314 100
1 0. 8
0 .8
0.707
314
1
20000
0.0114
0 .2
2.8(
F
)
W
…3.8 式
ただし、以上の計算は商用ラインの配線抵抗 Rs を"0"と仮定しているので現実と差を生じることがある。目
安としての計算式であることを忘れないこと。
4.
シミュレーションによる解法
Spice の計算手法に従って、時間を細分化して線形化方程式を
解くことで次ステップの新しい計算結果を得ることができる。
等価回路の組み方は他の、例えば CAE 懇話会の解析塾等の
講座で紹介している。(http://www.cae21.org/index.html)
図 2.2 の解析等価回路を Spice 用に変換した 1 次近似回路を
充電、放電モード毎に示す。
図 4.1、4.2 の回路を解けば次ステップ(n+1)の新しい容量 C の
図 4.1 充電中の Spice 等価回路
充電電圧 V(n+1)を求める事ができる。具体的には次のようにな
る。又、V(n)の初期値として、3.6 式が使える。
・充電中(図 4.1)
V(n
Ip Sin( t) V(n) Gc
1)
Gs
Geq Gc
…4.1 式
・放電中(図 4.2)
V(n
V(n) Gc
1)
Geq Gc
図 4.2 放電中の Spice 等価回路
…4.2 式
これらを順次繰り返して数サイクル経過すれば安定するので、容量 C の電圧 V の定常解とすることができ
る。4.1 式と 4.2 式の切り替えは I(Rs)の値、即ち、電源電圧 V1 の瞬時電圧と、C の充電電圧 V(n)を随時
比較することで切り替える事ができる。
又、Excel のような、自動繰り返し計算機能を利用できるのなら、1 サイクル終了時の値を初期値としてや
れば、簡素化できる。この方式は、マクロを使わずに実現できる。
負荷は定電力負荷であることを考えると、負荷コンダクタンス Geq は V(n)を使って瞬時々に Geq( n)
P
V(n)
で計算をした方がリップル電圧が大きくても影響を避ける事ができる。しかし、V(n)=0 になると計算が破綻
するので V(n)が低下しないよう配慮が必要になるが、これも Excel の条件式で対応できる。このような計算
チャートを別途作成しておくと便利である。
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Rs には商用ラインの配線抵抗以外にも電流ループの部品の抵抗も含まれることを忘れてはいけない。
実際の商用ラインの抵抗は JIS-C-61000-3-2 等の規格では商用ラインの歪波測定用の標準インピーダン
スが定められているのが、これらの規格はあくまでも歪波電流測定用のインピーダンスで国内の実態を表し
ている訳ではない。
国内の配線インピーダンスはパナソニック電工技報(Vol. 58 No. 1)によれば 50%の確率で 0.135Ω+180
μH であり、下限としては、その半減値 67mΩ程度を考えればよいであろう。
ただし、欧州等の系統は明確なデーターが
ないが、日本の電源事情より良いとは思わ
れない。何故なら、欧州はレンガや石造りの
建物が多いので、商用配線を太くできず、仕
方なく大電力が送れるように 200V 系を採用
したのであるから、元々の配線が細いので
ある。欧州系の商用ラインの配線インピー
ダンスは日本と同じだとしても、良くて、上記
の値の 4 倍程度であろう。
中国、北京市内の電源事情はパナソニック
図 4.3 中国、北京市内の電源インピーダンス
電工技報(Vol. 59 No. 3)によれば、図 4.3
のような分布をしており(N=24)、最小値は 0.23Ωとある。100V 換算では 60mΩ程度であり、その面では日
本と配線事情は変わらないと思える。 X =0.55Ω/50%値=0.5∼0.6Ωだから最小値≒半減値である。
5.
保持時間
4 項のようにして求めた容量 C の充電電圧波形であるが、C の許容リップル電流に対して問題ないことの
他に電源用としての動作保持時間の要求がある。
これは瞬時停電、あるいは低電対策として、電源喪失の時間規定があることに起因する。例えば、最低電
圧 VL で停電した場合、どれだけの時間、電源の動作を維持できるか?である。
従って、この停電期間中、電源は容量 C のエネルギーだけで動作しなければならない。
保持時間を TH、保持時間を規定する時の電力を Ph とすれば必要な容量値は 5.1 式となる。
Ph TH
1
C(VL2
2
Vstop 2 )
C
2 Ph TH
VL2 Vstop 2
…5.1 式
Vstop は電源が特性保証できなくなる下限電圧であり、通電時比率δや、各部品の能力や定格、ストレス
を考慮して決められる。
5.1 式から保持時間 TH を長くするには、容量 C の増減以外にも
・規定電力 Ph を小さくする⇒仕様の問題
・ Vstop を小さくする
⇒部品のストレス、能力
の手法が考えられ、マージンや設計指針を考慮して決める必要がある。保持時間 TH としては商用ライン
の周波数の半サイクルの要求が多い(50Hz→10mS/60Hz→8.3mS)。
瞬断条件としては以前は入力電圧下限の要求が多かったが、最近の低価格モデルでは定格入力電圧が
指定されることもある。しかし、PC 用の電源ではデータ保持の観点から保持時間は重要項目であり、入力
下限での規定が好ましい。
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