1.道示,補剛板の設計

2015/08/06
技術者のための構造力学
道示,補剛板の設計
道示,補剛板の設計
~道示Ⅱ,
,4.2.5 の背景と適用留意事項~
道示Ⅱ,4.2.4,
の背景と適用留意事項~
三好崇夫
加藤久人
1. はじめに
近年,鋼橋の実務設計では既存の汎用設計ソフトに依存することが多く,そのプログラムの背景にあ
るロジックをあまり理解することがなくとも,あらましの設計が遂行でき,誰しもが専門技術者である
かのごとき錯覚が生まれているようである.身の回りの鋼橋技術者 10 人に道示Ⅱ,4.2.4,4.2.5 補剛板
の設計について内容の理解度を問うたところ,10 人ともの回答が「設計の流れはかろうじて分かってい
るが,背景のロジックについては難しくてよく解らない」という共通のものであった.このロジックに
関して,文献 1),2)で既に解説がなされている.特に諸式の誘導に関しては 2)に詳しい.しかし,残念
ながらロジックの全貌を簡潔に紹介する解説が無く,板座屈に精通しない人にはかなりハードルの高い
内容となっている.
道示 3)のこの規定は昭和 47 年版 4)(1972 年)に現れ,その後,昭和 55 年版 5)(1980 年)で若干改訂が加え
られて以来,現在に至るまで変更なく続いているものである.Giencke6)が直交異方性板を対象に導いた
弾性線形座屈理論に基づき,残留応力の影響を間接的に考慮した内容で,1980 年当時,類似の規格が
DIN41147),AASHTO8)に記載されていることが文献 9),10)に記述されている.
近い将来,道示の本規定も,より実際構造の挙動を的確に網羅する終局強度に基づく規定に変更され
るとの情報は耳にするが,過去 30 年間に渡り,作り続けられた夥しい数の鋼製橋梁はこの基準に拠っ
ており,これらの維持管理,補強に際して実務設計者は建設当時の設計内容をレビューする必要に迫ら
れる.また,最近はアジアの途上国に向けてインフラ技術を積極的に輸出し,リーダーシップの発揮か
らアジアでの我が国のプレゼンスを高める努力が求められている.途上国に我が国の技術を紹介する上
で規格の提示は基本であり,当然その背景をなすロジックの説明が求められる.そもそも新しい規格に
移行するとしても,従来の規格の内容把握が不十分であれば,移行に伴う長所,短所を比較できない.
このコンピュータ化された現代の技術者に今,最も求められることは,まさに温故知新ではないだろう
か.
このような状況を鑑み,本稿の流れは以下とし,上記の課題解決に一助となる情報を提供することが
目的である.道示Ⅱに規定される補剛板の設計に関して,
(1) 補剛板設計のための基礎事項である,無補剛板の弾性座屈,換算幅厚比,耐荷力曲線と幅厚比制限
と許容応力度について説明する.
(2) 補剛板の弾性座屈,座屈係数について説明する.
(3) 補剛板の必要剛比について説明する.
(4) 道示 4.2.4 補剛板に規定されている諸式を誘導する.
(5) 道示の規定を適用するに際して留意すべきいくつかの項目を紹介する.
本稿で用いる記号の定義とそれらの道示 3),文献 2)において用いられている記号との対応関係につい
て表-1.1 に纏めた.
1
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表-1.1 本稿で使用する記号の定義と道示 3),文献 2)で使用されている記号との対応
道示 3)
文献 2)
本稿
-
-
-
N
It
Il
Al
γt
γl
γt req
γl req
-
-
-
δl
-
-
m
n
q
s
It
Il
Al
γt
γl
γt *
γl*
D
E
µ
δl
R
R
m
n
q
s
IT
IL
AL
γT
γL
γT req
γL req
D
E
µ
δL
R
Rp
RR
R
RR
全体パネル内の縦方向座屈波数
全体パネル内の横方向座屈波数
全体パネル内の縦方分割数
全体パネル内の横方分割数
横補剛材 1 本の断面二次モーメント
縦補剛材 1 本の断面二次モーメント
縦補剛材 1 本の断面積
板曲げ剛性 D に対する横補剛材の曲げ剛比(=EIL/(Db))
板曲げ剛性 D に対する縦補剛材の曲げ剛比(=EIT/(Db))
板曲げ剛性 D に対する横補剛材の必要曲げ剛比
板曲げ剛性 D に対する縦補剛材の必要曲げ剛比
補剛板パネルの板曲げ剛性
鋼板の弾性係数
鋼板のポアソン比
補剛板パネルの断面積に対する縦補剛材の断面積比(=AL/(bt))
長方形板の換算幅厚比
両縁支持無補剛板の換算幅厚比,座屈を考慮しない範囲の上限値
補剛板の板要素パネルの換算幅厚比
RF
R
RF
補剛板の横リブ間パネルの換算幅厚比
-
kL
kL
補剛板の全体パネルの座屈係数
-
-
-
-
a
b
-
α
α0
t
-
ka
ks
ka
ks
kL min
ka min
a
b
b0
α
α0
t
β
kL min
ka min
a
b
bs
α
α0
t
b/t
-
βcr
b / t0
-
-
-
t0
-
-
-
Lm
-
-
b / t1
b / t2
Lmin
t0
tx
補剛板の横リブ間パネルの座屈係数
補剛板の板要素パネルの座屈係数
補剛板の全体パネルの座屈係数のみなし最小値
補剛板の横リブ間パネルの座屈係数の最小値
補剛板の横リブ間隔
補剛板の板パネルの全幅
板要素パネルの幅(縦リブ間隔)
板要素パネルの縦横比(=a/bs)
板要素パネルの限界縦横比
補剛板の板パネルの板厚
補剛板全体の幅厚比
RR=0.5 を満たす補剛板全体の幅厚比,あるいは RP=0.7 を満たす両縁支持板
の幅厚比
RR=1.0 を満たす補剛板全体の幅厚比
補剛板全体の最大幅厚比,あるいは両縁支持板の最大幅厚比
全体パネルの座屈係数 kL のみなし最小値を与える仮想長さ
補剛板パネルの降伏限界板厚
検証する板厚
記号の意味
2
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1. はじめに
2. 補剛板設計のための基礎事項
2-1 補剛板と無補剛板
2-2 両縁支持板の弾性座屈応力と座屈係数
2-3 両縁支持板の換算幅厚比と耐荷力曲線
2-4 両縁支持板の許容応力度と降伏限界幅厚比
3. 補剛板の弾性座屈と補剛材の必要剛性
3-1 補剛板の全体パネル,横リブ間パネル,板要素パネル
3-2 補剛板全体パネルの座屈係数と最小値
3-3 横リブ間パネルの座屈係数と最小値
3-4 横リブの必要剛性
3-5 縦リブの必要剛性
4. 道示における補剛板の設計
4-1 補剛板設計の流れ
4-2 補剛板の換算幅厚比と耐荷力曲線
4-3 補剛板の許容応力度と幅厚比制限
4-4 補剛材の剛度規定の概要
4-5 α≦α0 の場合の横リブ必要剛比
4-6 α>α0 の場合の横リブ必要剛比
4-7 t<t0 かつ α≦α0 の場合の縦リブ必要剛比
4-8 t<t0 かつ α>α0 の場合の縦リブ必要剛比
4-9 t≧t0 かつ α≦α0 の場合の縦リブの必要剛比
4-10 t≧t0 かつ α>α0 の場合の縦リブの必要剛比
5. 道示既定の留意事項
5-1 横リブの必要剛比式の近似
5-2 縦リブの断面積比
6. むすび
6-1 応力-幅厚比関係に着目した補剛板の必要剛比
6-2 圧縮,曲げ,せん断の組み合わせを受ける補剛板の設計
付録-A 諸式の誘導
付録-B 縦リブ必要剛比および実際剛比と座屈発生の順番
付録-C 全体パネルの最小座屈係数とみなし座屈係数
3
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2. 補剛板設計のための基礎事項
2-1 補剛板と無補剛板
図-2.1(a)に示すように,縦横のリブを有する縦 L,幅 b のパネルは補剛板と呼ばれる.特に,荷重作
用方向と平行な 2 辺が単純支持されたもの(図-2.1 の破線は単純支持された辺を表す)は両縁支持補
剛板と呼ばれ,一般的に荷重の作用する辺も単純支持とみなされる.このような支持条件については 4
辺単純支持ともよばれることが多いが,本稿では道示の呼称に準拠し,4 辺単純支持される補剛材の無
い板を両縁支持板,補剛材のある板を補剛板と呼ぶことにする.例えば箱桁においては,両サイドのウ
ェブと任意の隣接するダイアフラムで囲まれた部分で縦横のリブにより補剛されたフランジが補剛板
に相当する.一方,図-2.1(b)に示すように,縦横のリブがないものは無補剛板と呼ばれ,その周辺が
単純支持されているものが道示 3)4.2.2 の圧縮応力を受ける両縁支持板である.即ち,無補剛板上に縦横
のリブを設置したものが補剛板であるとも解釈できるため,補剛板の設計では無補剛板の設計について
理解することが基本となる.本稿では,一様な圧縮力を受ける(道示の応力勾配係数 f=1.0),図-2.1(a)
に示すような両縁支持補剛板を対象として説明する.繰返しになるが,本稿では道示との対応を図るた
め,以降の説明では,図-2.1(a)に示す両縁支持補剛板を単に補剛板,図-2.1(b)に示す両縁支持無補剛
板を単に両縁支持板と称することにする.
本章では,まず,両縁支持板の弾性座屈応力,換算幅厚比,幅厚比制限や許容応力度などについて説
明する.
2-2 両縁支持板の弾性座屈応力と座屈係数
図-2.2 に示す,長さ a,幅 b,板厚 t の両縁支持板の弾性座屈応力 σcr は,線形座屈理論より次式で与
σ:一様な圧縮応力
縦リブ
σ:一様な圧縮応力
σ
b
b
t
板パネル
L
t
L
σ
横リブ
(b) 両縁支持無補剛板
(a) 両縁支持補剛板
図-2.1 両縁支持補剛板と無補剛板
σ:一様な圧縮応力
σ
b
t
a
図-2.2 両縁支持板
4
t
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6
5
座屈係数 k
4
m=1
m=2
m=3
m=4
3
2
1
0
0
1
2
6
2
縦横寸法比 α
3
12
4
図-2.3 無補剛板の座屈係数と縦横比の関係
えられる.
1
π 2E
σ cr = kσ e = k
2
12(1 − µ ) (b t )2
(2.1)
ここに,σe:基本座屈応力,E:弾性係数,および µ:ポアソン比である.
また,式(2.1)において,k は座屈係数と呼ばれ,長さ方向に一様な圧縮力を受ける両縁支持板におい
ては,座屈による全ポテンシャルエネルギーを 0 とする方程式から次式のように求められる 11).式(2.2)
の誘導については付録 A.2.1 を参照されたい.
 b n2 a 

k =  m +
 a m b
2
(2.2)
ここに,m,n:それぞれ両縁支持板の長さ方向,幅方向に生じる座屈波形の数である.
式(2.1),(2.2)より,幅厚比 b/t を一定と見なせば,k が小さいほど σcr も小さくなるため,k が最小値を
とるときに σcr も最小となる.よって,設計者が配慮すべき最小の σcr は k の最小値を用いて求められる.
k の最小値は,b が一定の場合,式(2.2)を a について微分して 0 とおいた極値から求められる.もちろん
n は整数のため最小値は n=1 で与えられる.式(2.2)に n=1 を代入して a について極値化すると
dk dk  2 b 2
1 a2 
b2
1 a
 m 2 + 2 + 2 2  = −2m 2 3 + 2 2 2 = 0
=
da da  a
m b 
a
m b
(2.3)
式(2.3)を a について解けば a=mb を得る.式(2.2)に n=1,a=mb を代入すれば座屈係数の最小値 kmin は
次のように求められる.
2
2
mb 
2
 b 1 a  b
k min =  m +
+
 = m
 = (1 + 1) = 4
 a m b   mb mb s 
(2.4)
式(2.2)に n=1,および α=a/b を代入すると,式(2.2)は次のように表される.
m α 
k = + 
α m
2
(2.5)
ここに,α:両縁支持板の長さと幅の比であり縦横比と呼ばれる.
m=1,2,3 および 4 の場合について,式(2.5)の座屈係数 k と α の関係を図示すれば図-2.3 のように
5
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なる.同図に示されるように,kmin(=4)は α に依存しない,あるいは b が一定であれば a にも依存しない
ことがわかる.隣接する m 値の異なる曲線どうしの交点における縦横比 αs は次式で表される.
α s = m(m + 1)
(2.6)
式(2.6)の誘導については付録 A.2.2 を参照されたい.
2-3 両縁支持板の換算幅厚比と耐荷力曲線
式(2.1)によって与えられる両縁支持板の弾性座屈応力 σcr は,鋼材の強度の基準である降伏応力 σY に
比べて大きいか小さいかが直感的に分かりにくいため,次式に示すように,式(2.1)の σcr を σY で無次元
化して σcr/σY と表すと,σcr と σY との比較が行いやすくなる.
σ cr kσ e k
π 2E
1
1
=
=
=
2
2
σ Y σ Y σ Y 12(1 − µ ) (b t )  1 12(1 − µ 2 ) σ b 2
Y


k
E t 
π
(2.7)
式(2.7)の最右辺において,次式のパラメータ R を定義する.
R=
(
1 12 1 − µ 2
π
k
)
σY b
(2.8)
E t
パラメータ R は換算幅厚比と呼ばれ,σcr/σY を幅厚比 b/t のみならず,降伏応力 σY,弾性係数 E 等の材
料特性値の関数として表現したものである.換算幅厚比を用いると,弾性座屈応力を幅厚比のみならず
材料特性値の関数として統一的に表現できるため,座屈に対する強度を与える設計式にも多用されてい
る.R を用いると,両縁支持板の無次元化された弾性座屈応力 σcr/σY は次のように表される.
(0 ≤ R < 1.0)
σ cr 1
= 2
σ Y 1 R (1.0 ≤ R )
(2.9)
式(2.9)において,弾性座屈応力が降伏応力を超えることはないと考えられるので,0≦R≦1.0 の範囲
では σcr/σY=1.0 として弾性座屈に対する強度を頭打ちにしている.式(2.9)は,いわゆる Euler 曲線を表し
ている.式(2.9)を図-2.4 に示す.一般的に,溶接製作部材は溶接時の熱影響によって残留応力や初期
1.2
Euler曲線
1
耐荷力曲線
σu/σY or σu/σY
0.8
0.6
0.4
0.2
座屈を考慮
しない領域
0
0
0.5
座屈を考慮する領域
0.7 = R p
1
換算幅厚比 R
弾性座屈が生じない領域
1.5
弾性座屈が生ずる領域
図-2.4 無補剛板の Euler 曲線と耐荷力曲線
6
2
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たわみが発生し,それらはその強度を低下せしめる.即ち,実際には溶接製作部材の断面を構成する両
縁支持板は σcr よりも小さな圧縮応力で崩壊するため,道示 4.2.2 では両縁支持板に対して式(2.9)に代え
て基準圧縮強度 σu を規定する耐荷力曲線として以下を採用している.
(0 ≤ R < 0.7)
σ u 1
=
2
2
2
σ Y 0.5 R ≒ 0.7 R (0.7 ≤ R)
(2.10)
図-2. 4 には,式(2.10)の両縁支持板の耐荷力曲線も示した.式(2.10)は,R≦0.7(厳密には R≦0.707・・)
では両縁支持板が降伏によって破壊するため,設計上は座屈を考慮する必要のないことを意味しており,
R>0.7 では両縁支持板が非弾性座屈(弾性座屈応力よりも小さな圧縮応力で発生)によって破壊するた
め,設計上は座屈を考慮する必要があることを意味している.このことから,特に R=0.7 の場合の R を
降伏限界換算幅厚比 Rp と称する.
2-4 両縁支持板の許容応力度と降伏限界幅厚比
道示では,式(2.10)の耐荷力曲線を約 1.7 の安全率で除して許容応力度を与えている.しかし,鋼材は
材質ごとに降伏応力が異なり,しかも一般的に板厚の増加につれて降伏応力が低下するため,直接的に
式(2.10)から許容応力度を算定するのは煩雑である.このため,道示では表-4.2.2 のように,材質ごと,
板厚ごとに幅厚比の関数として両縁支持板の許容応力度が与えられている.さらに同表では,2-3 節で
述べたように R≦Rp においては座屈を考慮しないことから,降伏限界換算幅厚比に対応する降伏限界幅
厚比を鋼材ごと,板厚ごとに定めて,降伏限界幅厚比を境界値として許容応力度を与えている.
両縁支持板の換算幅厚比が降伏限界換算幅厚比に等しくなる場合,即ち R=Rp=0.7 の場合の降伏限界
幅厚比 B/tp は,式(2.8)の R に 0.7 を代入し,t=tp とおくと
0.7 =
1 12(1 − µ 2 ) σ Y b
k
E tp
π
(2.11)
式(2.11)を降伏限界幅厚比 b/tp について解けば次のようになる.
b
k
E
= 0.7π
2
tp
12(1 − µ ) σ Y
(2.12)
例えば,SM490Y,板厚 t < 40mm の場合について,降伏限界幅厚比 b/tp を求めれば,GIS G 3106 に従
って式(2.12)に σY =355 N/mm2,E=200,000 N/mm2 を代入すると,次のようになる.
b
4
= 0.7・3.14
tp
12 1 − 0.32
(
)
200,000
= 2.2・0.605・23.7 = 31.6
355
(2.13)
式(2.13)は道示 表-4.2.2 の分母と一致している.即ち,SM490Y,板厚 t<40mm の場合,両縁支持板
の幅厚比が 31.6 以下では座屈は考慮しないが,31.6 を超えると座屈を考慮するため式(2.10)の第 2 式に
従って許容応力度が低減されている.許容応力度の低減を厭わなければ,かなりスレンダーな両縁支持
板の使用も可能となるが,製作,運搬,架設時の破損や,供用後に予想外の振動を招く恐れがあるため,
道示では幅厚比の最大値を b/t<80 として制限している.この幅厚比は最大幅厚比と呼ばれ,本稿では,
このときの板厚を特に t2 として,両縁支持板の最大幅厚比を b/t2 と表すことにする.
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σ 全体パネル
σ
bs
bs
b=s×bs
横リブ間パネル
bs
板要素パネル
a
a
L=q×a
t
a
t
a
図-3.1 補剛板の全体パネル,横リブ間パネルと板要素パネル
3. 補剛板の弾性座屈と補剛材の必要剛性
鋼構造部材はできるだけ薄い鋼板を用いて断面を構成するほど薄肉軽量で経済的なものとなる.しか
し,2 章において述べたように,薄っぺらな鋼板を用いて断面を構成すると,座屈に対する強度は大き
く低下する.そこで,鋼板の座屈強度の向上を目的に,鋼板の縦横にリブを設置したのが補剛板である.
縦横に配置されるリブは,鋼板(以下では板パネルと称する)の座屈強度向上を目的に配置されるもの
であるから,縦横リブはそのために必要な剛性(断面二次モーメント)を確保するように設計される.
本章では,道示の補剛板設計に向けた導入部分として,まず補剛板の板パネルに生ずる座屈のパターン
について分類し,各パターンに対する弾性座屈応力を求める.そして,各パターンに対する座屈の発生
を防止するために必要な縦横のリブの剛性について説明する.
3-1 補剛板の全体パネル,横リブ間パネル,板要素パネル
図-3.1 に示すように,横リブにより長さ方向が q 分割,即ち L=q×a,縦リブにより板幅方向が s 分
割,即ち b=s×bs に分割された補剛板を考える.図-3.1 に示すように,4 辺が単純支持された L×b の
領域を全体パネル,横リブ間で区切られた a×b の領域を横リブ間パネル,ならびに縦リブと横リブも
しくは単純支持辺で囲まれた最小単位の a×bs の領域を板要素パネルと称することにする.
補剛板パネルに生ずる局部座屈としては,次の 3 つのパターンを考慮する.
①全体パネル(縦 L,幅 b のパネル)の座屈
②横リブ間パネル(縦 a,幅 b のパネル)の座屈
③板要素パネル(縦 a,幅 bs のパネル)の座屈
2-2 節で述べたように,4 辺を単純支持した長さ a,幅 b,板厚 t の両縁支持板の弾性座屈応力 σcr は式
(2.1)で与えられる.補剛板の設計では,上記①~③の座屈について,式(2.1)の座屈係数 k に代えて各々
の座屈係数を kL,ka,ks とするとき,基本的には,板厚,補剛材の剛性調整により,kL >ka >ks の関係が
満たされることを確認することになる注 1).これにより,座屈は最初に板要素パネルに生ずることとなり,
このとき横リブ間パネル,全体パネルには座屈が発生しない.即ち,作用応力が板要素パネルの弾性座
屈応力以下であれば板パネルの安全が確保されることを保証するものである.
式(2.1)より,それぞれ①,②の座屈に対する弾性座屈応力 σL cr,σa cr は次式で表される.
σ
L cr
= k Lσ e = k L
π E
12(1 − µ )(b t )
2
2
2
注 1) 実務的には必ずしもこの関係が満たされなくなることがあることを付録 B に記する.
8
(3.1)
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縦リブ(曲げ剛比 γL,
断面積比 δL)
m=1
m=2
m=3
bs
bs
bs
b=s×bs
座屈係数 kL
横リブ(曲げ剛比 γL)
σ
a
a
a
L=q×a
σ
a
kL
kL min
t
Lmin
全体パネル
L
t
全体パネルの長さ L
図-3.3 みなし最小座屈係数 kLmin
図-3.2 補剛板の全体パネル
σ
π E
=kσ =k
12(1 − µ )(b t )
2
a cr
a
e
a
2
(3.2)
2
ここに,kL ,ka:それぞれ,①と②の座屈に対する座屈係数であり,縦リブ,横リブの影響を考慮し
て後の 3-2 節,3-3 節で算出する.
一方,③の座屈に対する弾性座屈応力 σs
cr は,式(2.1)より,両縁支持板の座屈係数の最小値が
4.0 で
あることから,b を bs(=b/s)と置きかえることによって,次式で表される.
σ
π E
π E
π E
=4
=4
= 4s
= 4s σ = k σ
12(1 − µ )(b t )
12(1 − µ )(b st )
12(1 − µ )(b t )
2
2
2
2
s cr
2
2
2
2
2
2
2
e
s
e
(3.3)
s
式(3.3)において,ks は③の座屈に対する座屈係数であって,次式で表される.
k s = 4s 2
(3.4)
3-2 補剛板全体パネルの座屈係数と最小値
図-3.2 に示すように,縦横のリブによって補剛され,4 辺を単純支持した長さ L,幅 b,板厚 t の補
剛板全体パネルの線形座屈理論に基づく弾性座屈応力 σLcr は式(3.1)で与えられる.ただし,同パネルは,
横リブにより L=q×a,縦リブにより b=s×bs に分割されているものとする.付録 A.3.1 に示すように,
式(3.1)における座屈係数 kL は,座屈による全ポテンシャルエネルギーを 0 とする方程式から求められる.
このとき座屈のモード形状として縦方向に m 個,横方向に n 個の波が生じているとしている.
1
kL =
1 + sδ L
 mb n 2 L 

n4 L
2 b 
+
 + m   s γ L + 2 qγ T 

mb 
mb
L
 L

2
2
(3.5)
ここに,q,s:それぞれ横リブ間パネルの総数,縦リブ間パネルの総数,γL:板パネルの板曲げ剛性
に対する縦リブの曲げ剛比(=EIL/(Db)),γT:板パネルの板曲げ剛性に対する横リブの曲げ剛比(=EIT/(Db)),
D:板パネルの板曲げ剛性(=Et3/(12(1-µ2))),E:鋼材の弾性係数,µ:鋼材のポアソン比,IL:縦リブ 1
本の断面 2 次モーメント,IT:縦リブ 1 本の断面 2 次モーメント,δL:板パネルの断面積に対する縦リ
ブの断面積比(=AL/(bt)),および AL:縦リブ 1 本の断面積である.
部材の弾性座屈応力を考えるとき,その最小値が重要となる.式(3.1)より,b/t を一定とすれば σL
は kL に比例するから,σL
cr
cr
の最小値を求めることは kL の最小値を求めることに対応する.以下では kL
の最小値を求めることを考える.式(3.5)において,n は全て偶数べき乗であるから,kL は n=1 のときに
最小となることは明らかである.式(3.5)に n=1 を代入すると
9
2015/08/06
技術者のための構造力学
1
kL =
1 + sδ L
 mb L 

L
2 b 
+
 + m   s γ L + 2 qγ T 

mb
L
 L mb 

2
2
(3.6)
この式は複雑であり,他の座屈係数と比較するためにはもう少し単純な形が望ましい.q = L/a を代入
し,式(3.6)を L の関数として kL をグラフ化すると図-3.3 のようになる注 2).同図から kL は L=Lmin でその
最小値 kLmin をとり,kL が kLmin であると捉えることは,設計において常に最小の弾性座屈応力を考える
ことになるため安全側の解釈となる.Lmin は式(3.6)を L について微分して 0 とおくことによって次のよ
うに求められる.
mb(1 + sγ L )
(1 + γ T α )0.25
0.25
Lmin =
(3.7)
なお,式(3.7)において,α=a/b=L/(qb)である.式(3.7)の誘導については,付録 A.3.2 を参照されたい.
また,kL の最小値 kLmin は式(3.7)を式(3.6)に代入することによって次のように求められる.
k L min =
2
1 + sδ L

1 +

 

α  
(1 + sγ )1 + γ
L

T
(3.8)
式(3.8)の誘導については,付録 A.3.3 を参照されたい.
式(3.8)の kLmin は座屈係数 kL の式(3.6)において,q = L/a として a を定数と考え L の関数と見なしたと
きの最小値で,L×b の全体パネルの本来の座屈係数 kL とは異なる.ただし,極小値であるから常に kLmin
≦kL の関係にあるため,その意味において本稿では kLmin を座屈係数のみなし最小値と呼ぶ.また,式(3.8)
の kLmin の式は kL に比べて単純であり,他の座屈係数と比較でき,q = L/a を代入することによって後述
γL の算出式が簡潔に導出できる.以後,全体パネルの座屈係数としてはみなし最小座屈係数として kLmin
を考える.
3-3 横リブ間パネルの座屈係数と最小値
横リブ間パネルの座屈係数 ka は図-3.4 に示す a×b のパネルの面外たわみをフーリエ級数で表現し,
座屈によるポテンシャルエネルギーを 0 とする方程式を解くことによって次式で与えられる.
1
ka =
1 + sδ L
2
(3.9)
IL,AL
bs
bs
b=s×bs
横リブ間パネル
横リブ
bs
bs
bs
bs
b=s×bs
縦リブ
 m n 2α 

m2
 + 2 sγ L 
 +
m  α
 α

a
a
a
L=q×a
a
σ
t
t
σ
図-3.4 補剛板の横リブ間パネル
注 2) 以下の説明については具体例を用いて付録 C に解説する.
10
σ
a
σ
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技術者のための構造力学
式(3.9)において m,n は座屈波形を表す 1 以上の整数値であり,α は縦横比(=a/b)である.式(3.2)
の弾性座屈応力 σacr は b/t を一定値とすれば ka と比例関係にあり,式(3.9)より ka は m,n や縦横比 α な
どによって変化することがわかる.設計上問題になるのは σacr の最小値であるから,それを求めるため
には ka の最小値を求める必要がある.式(3.9)より,m が一定の場合,ka は n=1 で最小となることは明ら
かであるから,式(3.9)に n =1 を代入すると次式を得る.
1
ka =
1 + sδ L
 m α 

m2
+
+
sγ L 



2
 α m  α

2
(3.10)
式(3.10)において b を一定として ka の最小値を求めるため,式(3.10)に α=a/b を代入して a に関して極
値化し,a について解けば次式を得る.
a = bm(1 + sγ L )
0.25
(3.11)
式(3.11)の誘導については,付録 A.3.4 を参照されたい.この横リブ間パネルの座屈係数 ka を最小にせ
しめる横リブ間隔 a を特に amin と表すことにすれば,式(3.11)より amin は次のように表される.
a min = bm(1 + sγ L )
0.25
(3.12)
amin を縦横比 α で表すことにすると,ka を最小にせしめる縦横比 αmin は次のように表される.
α
min
a min
0.25
= m(1 + sγ L )
b
=
(3.13)
式(3.10)に α=αmin を代入すると,ka の最小値 kamin は次のように表される.
k a min =
(
2
1 + 1 + sγ L
1 + sδ L
)
(3.14)
式(3.14)の誘導については付録 A.3.5 を参照されたい.
式(3.14)には座屈波形を表す整数 m は含まれず,最小値は m に依存せず一定値をとることがわかる.
ここで,限界縦横比 α0 として次式を定義する.
α = (1 + sγ
0
L
)
0.25
(3.15)
式(3.15)を用いると,式(3.13)の縦横比 αmin は次のように表される.
a min = ma 0
(3.16)
座屈係数 ka
式(3.10)より,m=1,2,3,4 と変化させた場合の横リブ間パネルの座屈係数 ka と縦横比 α の関係は図
m=1
m=2
m=3
m=4
kamin
式(3.18)の
適用領域
α0
式(3.14)の適用領域
2 α0
2α0
6 α0
3α0
12 α 0
4α0
縦横比 α
図-3.5 横リブ間パネルの座屈係数 ka と縦横比 α の関係
11
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技術者のための構造力学
-3.5 のようになる.なお,隣接する m 値の異なる曲線どうしの交点の α 座標は次式から求められる.
本式の誘導については,付録 A.3.6 を参照されたい.
(m + 1)m α
α=
(3.17)
0
図-3.5 において α≦α0 の場合の最小の座屈係数は,式(3.10)に m =1 を代入した次式で与えられる.
1
ka =
1 + sδ L
 1

1

 + α  + 2 sγ L 
 α
 α

2
(α ≤ α )
0
(3.18)
一方,α>α0 の場合の最小の座屈係数は,任意の m に対して式(3.14)で与えられるものとしている.即
ち,補剛板の設計では,横リブ間パネルの座屈係数として,α≦α0 では α によって変化する ka を座屈係
数とするが,α>α0 においては図-3.5 に示すように,座屈係数の最小値 kamin からの ka の変化は然程大き
くないことから,一定値の kamin を座屈係数としている.
3-4 横リブの必要剛性
道示に準拠して設計される補剛板の横リブは,②横リブ間パネルの座屈を①全体パネルの座屈に先行
させるために設置される.よって,横リブの必要剛性は,②が①に先行する条件から求められる.①,
②に対する弾性座屈応力 σLcr,σacr は式(3.1),(3.2)で表され,σLcr>σacr であるためには各々の座屈係数が
kL>ka である必要がある.ただし,全体パネルの座屈係数 kL はその見なし最小値 kLmin をとり,横リブ間
パネルの座屈係数 ka については,3-3 節にて説明したように,α≦α0 では ka であるが,α>α0 では kamin を
とることに注意が必要である.
α≦α0 の場合について,kL>ka となるための条件式を導くため,図-3.6 には,式(3.8)で与えられる全体
パネルの座屈係数のみなし最小値 kLmin,ならびに式(3.18)で与えられる横リブ間パネルの座屈係数 ka と,
横リブ剛比 γT の関係を示した.同図において,式(3.8)の kLmin を与える曲線と式(3.18)の ka を与える曲線
の交点における横リブ剛比を γT req と表すことにすれば,γT req は式(3.8)と(3.18)を kLmin≧ka に代入して γT =
γT req することによって次のように求められる.本式の誘導については付録 A.3.7 を参照されたい.
γ Treq ≥
1 + sγ L
α5
α
+
−
3
4(1 + sγ L ) 2
4α
(3.19)
座屈係数 k
図-3.6 より,α≦α0 で横リブ剛比が γT ≧γTreq を満足する場合には kLmin>ka となり,ひいては σLcr>σacr
kLmin
ka
式(3.18)
式(3.8)
kamin
式(3.14)
γT=0
γT
γT req
横リブ剛比 γT
図-3.6 座屈係数 k と横リブ剛比 γT の関係
12
2015/08/06
技術者のための構造力学
となることから,横リブ間パネルの座屈が全体パネルの座屈に先行することになる.
一方,α>α0 の場合について,kL≧ka となるための条件式を導くことを考えると,横リブ剛比 γT に関す
る条件式は kLmin≧kamin から求められる.即ち,式(3.8)と式(3.14)を kLmin≧kamin に代入して γT について解
けば次式を得る.本式の誘導については,付録 A.3.8 を参照されたい.
γ Treq ≥ 0
(3.20)
即ち,α>α0 の場合については,横リブ剛比は少なくともゼロ,あるいは横リブが不要でもよいという
条件が導かれる.ちなみに横リブ剛比がゼロのとき,この点は図-3.6 の γT =0 として示される.実は横
リブが無いのであるから全体パネルと横リブ間パネルは同一のものであるが,これはそれぞれ 3-1 節,
3-2 節で説明した全体パネル,横リブ間パネルに対する最小座屈係数の求め方を踏襲しても両者の最小
値が等しくなることから確認される.即ち,全体パネルの座屈係数のみなし最小値を与える式(3.8)に式
(3.20)を代入すると,
k L min =
(
2
1 + 1 + sγ L
1 + sδ L
)
(3.21)
式(3.21)の右辺は横リブ間パネルの座屈係数の最小値を与える式(3.14)の右辺と一致している.よって,
k L min = k a min
(3.22)
全体パネルの座屈係数のみなし最小値 kLmin は,全体パネルの座屈係数 kL を L の関数と見なしたとき,
それが最小となる仮想の長さ Lmin によって算出される.そのようにして計算されたみなし最小値 kLmin
が,横リブ間パネルの最小座屈係数 kamin と等しくなる条件,kLmin=kamin を付与することにより,kL>kLmin
=kamin となる.これより,全体パネルの座屈係数が横リブ間パネルの座屈係数より大きくなり,横リブ
間パネルの座屈が全体パネルの座屈に先行することが保証される.
例えば,表-3.1 に示す No.1 のパネルを最初に想定する.想定した板厚,縦リブ剛比からこのパネル
について縦横比 α1=a0/b>α0=(1+sγL)0.25 という結果が得られたとする.この場合,同じ板厚,板幅,縦リ
ブ剛比で横リブの無い No.21 のパターンのパネルでも横リブ間パネルの座屈係数は図-3.6 を参照して
kamin となる.横リブを 2 本省略した No.11 でも座屈係数は kamin である.ここに,α21= 4a0/b >α11 = 2a0/b >α1
= a0/b >α0 である.即ち,α21,α11,α1 はいずれも α0 より大きく,図-3.5 では α0 の右側にある.
表-3.1 では座屈形状として m = n = 1 の場合を考えたが,任意の m,n を考えた場合においても式(3.14)
表-3.1 長さ L,幅 b と縦リブ間隔が等しく,横リブ間隔のみの異なる補剛板の縦横比
L
補剛板の平面図
No.
と座屈波形
b
a
q
s
m
n
縦横比
全体パネル長さ パネル幅 横リブ間隔
1
L
b
a0
4
3
1
1
α1=a0/b
11
L
b
2a0
2
3
1
1
α11=2a0/b=2α1
21
L
b
4a0
1
3
1
1
α21=4a0/b=4α1
bs:縦リブ間隔,L = q×a,b = s×b0,m,n は縦方向,横方向の座屈半波の数
13
2015/08/06
技術者のための構造力学
には m,n が含まれていないため,No.1,No.11,No.21 の横リブ間パネルについては同一の最小座屈係
数 kamin となる.なお,表-3.1 の No.1~21 について,式(3.8)よりそれぞれ全体パネルの座屈係数のみな
し最小値 kL1min,kL11min,kL21min を求めると次のようになる.
k L 21 min =
k L1 min =
2
1 + 3δ L

1 +

(1 + 3γ )1 + bγ
k L11 min =
2
1 + 3δ L

1 +

(1 + 3γ )1 + bγ
2
1 + 3δ L

1 +

L
(3.23)
 

2a 0  

(3.24)


L



4a 0  


(1 + 3γ )1 + b ⋅ 0   =
L
 

a 0  


T
T
(
2
1 + 1 + 3γ L
1 + 3δ L
)
(3.25)
式(3.23)~(3.25)より,次の関係が成立することは明らかである.
k L1 min > k L11 min > k L 21 min
(3.26)
表-3.1 の No.1~21 に関する全体パネルの座屈係数をそれぞれ kL1,kL11,kL21 と表すことにすれば,
式(3.23)~(3.25)は全体パネルの座屈係数のみなし最小値であるから,それぞれ kL1>kL1min,kL11>kL11min,
kL21>kL21min の関係にあることはいうまでもない.一方,No.1~21 に関する横リブ間パネルの座屈係数と
全体パネルのみなし座屈係数の関係はそれぞれの縦横比の間に α21>α11>α1>α0 の関係が成立するので式
(3.21),(3.22)に s=3 を代入することによって次式で表される.
k L min = k a min =
(
2
1 + 1 + 3γ L
1 + 3δ L
)
(3.27)
したがって,各々の座屈係数の間には次の関係が成立することになる.
k L1 or k L11 or k L 21 > k L 21 min = k L min = k a min
(3.28)
式(3.28)は表-3.1 に示した No.1~21 のいずれにおいても,横リブ間パネルの座屈が全体パネルの座屈
に先行することを表している.
3-5 縦リブの必要剛性
3-4 節で述べた横リブの必要剛比 γT req を確保しておけば,横リブ間パネルの座屈を全体パネルの座屈
に先行させることができるから,さらに板要素パネルの座屈が横リブ間パネルの座屈に先行するように
縦リブの必要剛比を確保すれば,板要素パネルの座屈は全体パネルの座屈にも先行することになる.
縦リブの必要剛性は,横リブ必要剛性の場合と同様に,式(3.2)で与えられる横リブ間パネルの弾性座
式(3.3)で与えられる板要素パネルの弾性座屈応力 σscr よりも大きくなる条件,即ち σacr>σscr
屈応力 σacr が,
の関係から求められる.これは,横リブ間パネルの座屈係数 ka と板要素間パネルの座屈係数 ks を用いる
と,ka>ks を満たす縦リブ剛比を求めることと同じである.ただし,ka については,3-3 節で述べたよう
に,横リブ間パネルの縦横比 α とその限界縦横比 α0 との大小関係によって異なる.即ち,α≦α0 ならば
式(3.18)の ka をとるが,α>α0 ならば式(3.14)の kamin をとることに注意が必要である.
図-3.7 は,座屈係数 ka または ks と縦リブ剛比 γL の関係を示したものである.同図から γL > γL req の領
域では ka≧ks となるため,板要素パネルにおける座屈が横リブ間パネルの座屈に先行することが保証さ
れることを意味している.
14
2015/08/06
技術者のための構造力学
ka または kamin
座屈係数 ka,ks
ks=4s2
式(3.4)
式(3.14)
または
式(3.18)
γL req
γL
縦リブ剛比 γL
図-3.7 座屈係数 ka,ks と縦リブ剛比 γL の関係
縦リブ(AL,IL)
b
t
板パネル
t
L
横リブ(IT)
図-4.1 補剛板と縦横リブの断面諸量
α≦α0 の場合については,式(3.4)と(3.18)を ka≧ks に代入して γL= γL req と置き,γL req について解けば次
のように求められる.図-3.7 中に示される ka は式(3.18)がγL の 1 次式のため右上がりの直線である.
γ L req ≥ 4α s(1 + sδ L
2
) − (1 + α )
2
2
s
(3.29)
式(3.29)の誘導については,付録 A.3.9 を参照されたい.
α>α0 の場合については,式(3.4)と(3.14)を kamin≧ks に代入して γL=γL req と置き,γL req について解けば次
のように求められる.図-3.7 中に示される ka min は式(3.14)がγL の 0.5 次式のため右上がり曲線である.
γ L req ≥
[{
}
]
2
1
2 s 2 (1 + sδ L ) − 1 − 1
s
(3.30)
式(3.30)の誘導については,付録 A.3.10 を参照されたい.
4. 道示における補剛板の設計
本章では,まず,道示における補剛板設計の流れについて説明する.次に,道示における補剛板の換
算幅厚比と耐荷力曲線,また,幅厚比制限と許容応力度について説明し,最後に道示における縦横リブ
の必要剛比規定について説明する.
4-1 補剛板設計の流れ
図-4.1 を参照して,補剛板設計の手順について説明すると下記の(1)~(3)のようになる.
15
2015/08/06
技術者のための構造力学
(1) 縦リブ,横リブの配置を設定し,おおまかに,また,過去の実績等を加味して母材の板厚 t,縦リ
ブの断面積 AL,断面 2 次モーメント IL を仮定する.
(2) 軸力,曲げモーメント等の断面力により縦方向に生じる板パネルの応力が許容応力度を下回るよう
に,t,AL の調整を繰り返す.
(3) 横リブの断面 2 次モーメント IT を仮定し,IL,IT が所要値を満たすこと,すなわち,γL >γL req および
γT >γT req を確認する.満足されない場合は(1)に戻って満足されるまで手順(1)~(3)を繰り返す.
許容応力度については,それぞれ道示 3)4.2.4 の表-4.2.5 に示されている.これらの表では後述する換
算幅厚比 R に対応する幅厚比に応じて,座屈を考慮する必要があるか否かに場合分けして許容応力度を
定めている.本稿では便宜的にこれらの場合分けを行う補剛板の幅厚比の境界値を b/t0,b/t1,b/t2 とし
て説明する.端的には b/t≦b/t0 のとき,即ち b が一定であるならば t≧t0 が座屈を考慮しない場合である.
b/t1 は補剛板の座屈に対する強度の基本となる耐荷力曲線形状が変化する点(弾性座屈応力が降伏応力
に等しくなるときの幅厚比)における換算幅厚比に対応する幅厚比である.b/t2 は過度にスレンダーな
補剛板を使用しないようにするための最大幅厚比である.これらについては,4-3 節にて改めて説明す
る.また,補剛材の所要剛比については道示 4.2.5 に規定されている.
4-2 補剛板の換算幅厚比と耐荷力曲線
道示では,両縁支持板に関して 2-3 節で述べたのと同じ理由により,補剛板の材質や幅厚比に関わら
ず統一的に座屈に対する設計強度を与えるため,換算幅厚比が定義されている.3-1 節で述べたように,
補剛板の板パネルの座屈モードには,①全体パネルの座屈,②横リブ間パネルの座屈と③板要素パネル
の座屈があり,補剛板はこれらのうち③に対する強度が最小となるように設計される.よって,換算幅
厚比に関しても板要素パネルに対して求める必要がある.補剛板に関する換算幅厚比を求めるため,式
(3.3)で表される板要素パネルに対する弾性座屈応力 σscr を降伏応力 σY で無次元化すると,
σ
E
4s π
1
=
⋅
=
12(1 − µ )(b t ) σ
σ
 1 12(1 − µ

4s
π
2
2
s cr
2
2
Y
Y
2
)
σ b
2
2
(4.1)

E t
Y
式(4.1)の最右辺において,次式のパラメータ RR を定義する.
RR =
1 12(1 − µ 2 ) σ Y b
4s 2
E t
π
(4.2)
このパラメータ RR が補剛板の換算幅厚比である.補剛板の無次元化された弾性座屈応力 σscr/σY は,両
縁支持板に対する式(2.9)と同様に,RR を用いて次のように表される.
1
σ
=
σ
1 R
(0 ≤ RR < 1.0)
scr
Y
2
R
(1.0 ≤ RR )
(4.3)
式(4.3)は式(2.9)と同様に Euler 曲線と呼ばれている.式(4.3)を図-4.2 に示す.
2-3 節で両縁支持板に関して説明したのと同様に,補剛板についても溶接時の熱影響に伴う初期たわ
みや残留応力などの初期不整によって,換算幅厚比の小さな補剛板を除いては,実際には式(4.3)で表さ
れる弾性座屈応力 σscr よりも小さな圧縮応力で破壊する.そこで道示 4.2.4 では,補剛板の基準圧縮強度
σu を与える耐荷力曲線を以下の式で与えている.
16
2015/08/06
技術者のための構造力学
1.2
1
σscr/σY or σu/σY
0.8
0.6
0.4
Euler曲線
無補剛板の耐荷力曲線
補剛板の耐荷力曲線
0.2
0
0
0.5
0.7
1
1.5
換算幅厚比 R or RR
2
局部座屈を考
慮しない領域
局部座屈を考慮する領域
図-4.2 補剛板の Euler 曲線と耐荷力曲線
1
σu 
=  1.5 − RR
σY 
2
(0 ≤ RR < 0.5)
(0.5 ≤ RR < 1.0)
2
0.5 RR ≒ (0.7 RR ) (1.0 ≤ RR )
(0 ≤ t < t 0 )
(t0 ≤ t < t1 )
(t1 ≤ t < t2 )
(4.4)
式(4.4)によって与えられる補剛板の耐荷力曲線を図-4.2 に示す.式(4.4)は,RR<0.5 では補剛板が降
伏によって破壊するため設計上は座屈を考慮する必要のないことを意味しており,RR≧0.5 では補剛板
が非弾性座屈によって破壊するため,設計上は座屈を考慮する必要があることを意味している.また,
図-4.2 には道示 4.2.2 に規定される両縁支持板の耐荷力曲線もあわせて示した.これより,0.5 < RR < 1
において,補剛板の基準圧縮強度 σu は既往の実験結果をほぼ安全側にカバーするように,両縁支持板の
それよりも低くなっていることがわかる.式(4.4)を約 1.7 の安全率で除して,鋼材ごと,板厚ごとに幅
厚比の関数として許容圧縮応力度に書き直したものが道示 表-4.2.5 の規定である.
4-3 補剛板の許容応力度と幅厚比制限
道示では,補剛板についても両縁支持板に関して 2-4 節で述べたのと同じ理由により,材質ごと,板
厚ごとに幅厚比の関数として許容応力度が表-4.2.5 に与えられている.そこでは,両縁支持板と同様に
降伏限界換算幅厚比,耐荷力曲線式が折れ曲がる換算幅厚比を基準として,幅厚比ごとに境界値を設け
て許容応力度の計算式を変化させている.
両縁支持板に対して式(2.12)を導いたのと同様にして,補剛板の座屈を考慮する最小の RR を求めると,
式(4.2)において板厚 t は降伏限界を意味する板厚 t0 に代えて,式(4.4)の第 1 式と 2 式の境界である降伏
限界換算幅厚値 RR =0.5 を代入すると,
R R = 0 .5 =
1 12(1 − µ 2 ) σ Y b
π
4s 2
E t0
式(4.5)を降伏限界幅厚比 b/(st0)について解けば
17
(4.5)
2015/08/06
技術者のための構造力学
b
4
E
= 0.5π
2
st 0
12(1 − µ ) σ Y
(4.6)
例えば SM490Y,板厚 t<40mm の場合について,JIS G 3106 に従って降伏応力 σY=355N/mm2,弾性係
数 E=200,000 N/mm2 を式(4.6)に代入すると,
4
b
= 0.5・3.14
12 1 − 0.32
st0
(
200,000
= 1.57・0.605・23.7 = 22.5
355
)
(4.7)
式(4.7)は道示 表-4.2.5 の分母に概ね一致することがわかる.
また,式(4.7)において板厚 t を耐荷力曲線式の変化する点の換算幅厚比に対応する板厚 t1 に代えて,
変化点の換算幅厚値 RR =1.0,σY=355N/mm2,E=200,000 N/mm2 を代入して幅厚比 b/(st1)について解けば
4
b
= 1・3.14
12 1 − 0.32
st1
(
)
200,000
= 3.14・0.605・23.7 = 45
355
(4.8)
式(4.8)は道示 表-4.2.5 の分母に概ね一致することがわかる.
なお,既に 4-1 節で述べたが,補剛板においてもスレンダーな板の利用を回避するため,最大幅厚比
は b/(st2)に対して 80 以下の制限を設けている.
4-4 補剛材の剛度規定の概要
3-1 節で説明したように,補剛板の板パネルの座屈パターンとしては,①補剛板全体の座屈,②横リ
ブ間パネルの座屈,および③板要素パネルの座屈がある.それらに対して,3-4,3-5 節で説明したよう
に,道示においても②が①に先行するように横リブの剛比が規定されており,さらに③が②に先行する
ように縦リブの剛比が規定されている.剛比は縦横リブの剛性と板パネルの剛性との比として定義され,
縦リブ 1 本については次式で表される.
EI
γL = L =
Db
EI L
12 × (1 − 0.3 2 )I L 10.92 I L
I
=
≈
≈ L3
3
3
3
Et
bt
bt
bt
b
2
12(1 − µ )
11
(4.9)
同様に,横リブ 1 本については次式で表される.
EI
γT = T =
Db
EI T
12 × (1 − 0.3 2 )I T 10.92 I T
I
=
≈
≈ T3
3
3
3
Et
bt
bt
bt
b
2
12(1 − µ )µ
11
(4.10)
横リブが確保すべき剛比,縦リブが確保すべき剛比についてはそれぞれ既に 3-4,3-5 節で述べた通り
表-4.1 道示における補剛板の補剛材剛比とその照査式([ ]は本稿にて解説する節番号を表す)
剛比
α≦α0
t < t0
t≧t0
の場合
の場合
横リブ γT
式(4.2.6)
[4-5]
式(4.2.6)
[4-5]
縦リブ γL
式(4.2.5)の第 2 式
[4-7]
式(4.2.5)の第 1 式
[4-9]
横リブ γT
剛度照査不要
縦リブ γL
式(4.2.7)の第 2 式
の場合
α>α0 の場合
18
[4-6] 剛度照査不要
[4-8]
式(4.2.7)の第 1 式
[4-6]
[4-10]
2015/08/06
技術者のための構造力学
であるが,横リブの必要剛比 γT
req は全体パネルの座屈係数
きくなる条件から,縦リブの必要剛比 γL
kL が横リブ間パネルの座屈係数 ka よりも大
req は横リブ間パネルの座屈係数
ka が板要素パネルの座屈係数
ks よりも大きくなる条件から導かれる.ただし,ka については横リブ間パネルの縦横比 α と限界縦横比
α0 の大小関係によって値が異なる.また,ks については板要素パネルの座屈を考慮する場合には ks に基
づいて必要剛比の計算式を導くことができるが,板要素パネルの座屈を考慮しない範囲では,板要素パ
ネルには座屈が発生せずに全断面塑性状態に到達するため,必要剛比の計算式に修正が必要となる.し
たがって,道示では,縦横比 α=a/b と限界縦横比 α0 の大小関係,ならびに板パネルの板厚 t と降伏限界
幅厚比に対応する板厚 t0 との大小関係に応じて表-4.1 に整理したように縦横リブの必要剛比の確認方
法を規定している.
以下では,まず,4-5,4-6 節にて,それぞれ α≦α0 の場合,α>α0 の場合における横リブの必要剛比に
ついて説明する.続いて,4-7,4-8 節では板要素パネルの座屈を考慮する場合を対象として,t<t0 かつ α
≦α0 および α>α0 のそれぞれの場合に対する縦リブの必要剛比について説明する.そして 4-9,4-10 節で
は,板要素パネルの座屈を考慮しない場合を対象として,t≧t0 かつ α≦α0 および α>α0 の場合における縦
リブの必要剛比の算出方法について説明する.
4-5 α≦α0 の場合の横リブ必要剛比
全体パネルの座屈係数の見なし最小値 kLmin は式(3.8)で与えられる.また,α≦α0 の場合,横リブ間パ
ネルの座屈係数 ka は式(3.18)で与えられる.よって,kLmin≧ka となるために必要な横リブの剛比 γT req は,
式(3.8),(3.18)を kLmin≧ka に代入して導かれる式(3.19)で表される.式(3.19)を再記すると次のようである.
γ T req ≥
1 + sγ L
α5
α
+
−
3
4α
4(1 + sγ L ) 2
(3.19 再)
式(3.19)の右辺第 2,3 項を省略すると次式が得られる.
γ T req ' ≥
1 + sγ L
4α 3
(4.11)
ただし,式(3.19)の右辺第 2,3 項を省略して導かれた式(4.11)の妥当性については 5 章にて説明する.
式(4.11)の γT req'を式(4.10)の γT に代入して横リブ 1 本あたりの断面二次モーメント IT について解けば次
式を得る.
IT ≥
bt 3 1 + sγ L
⋅
11 4α 3
式(4.12)の縦補剛材剛比 γL を必要縦補剛材剛比 γl
(4.12)
req とすると,道示(4.2.6)式に対応している.
4-6 α>α0 の場合の横リブ必要剛比
全体パネルの座屈係数の見なし最小値 kLmin は式(3.8)で与えられる.また,α>α0 の場合,横リブ間パネ
ルの座屈係数 kamin は式(3.14)で与えられる.よって,kLmin≧kamin となるために必要な横リブの剛比 γT は,
式(3.8),(3.14)を kLmin≧kamin に代入して導かれる式(3.20)で表される.式(3.20)を再記すると次のようであ
る.
γ T req ≥ 0
(3.20 再)
この式は,α>α0 の場合については少なくとも γT=0 でよい,即ち横リブは必要ないことを意味してお
19
2015/08/06
技術者のための構造力学
り,道示においても,α>α0 の場合については横リブ剛比の照査は省略されている.
4-7 t<t0 かつ α≦α0 の場合の縦リブ必要剛比
t<t0 であれば板パネルの座屈を考慮するから,板要素パネルの座屈係数 ks は式(3.4)にて与えられる.
また,α≦α0 であれば横リブ間パネルの座屈係数 ka は式(3.18)で与えられる.よって,ka≧ks となるため
に必要な縦リブの剛比 γL req は,式(3.4),(3.18)を ka≧ks に代入して導かれる式(3.29)によって表される.
式(3.29)を再記して,改めて式(4.13)として次のように表す.
γ L req ≥ 4α s (1 + sδ L
2
) − (1 + α )
2
2
(4.13)
s
道示では,縦リブの必要剛比を γl・req なる記号で表記しており,またそれは最低値として規定されてい
る.式(4.13)の不等号を等号に変更し,γL req を γl req としたものが道示(4.2.5)の第 2 式に一致する.
4-8 t<t0 かつ α>α0 の場合の縦リブ必要剛比
t<t0 であれば板パネルの座屈を考慮するから,板要素パネルの座屈係数 ks は式(3.4)にて与えられる.
また,α>α0 であれば横リブ間パネルの座屈係数 kamin は式(3.14)で与えられる.よって,kamin≧ks となる
ために必要な縦リブの剛比 γL req は,式(3.4),(3.14)を kamin≧ks に代入して導かれる式(3.30)によって表さ
れる.式(3.30)を再記して,改めて式(4.14)として次のように表す.
[{
]
}
2
1
2 s 2 (1 + sδ L ) − 1 − 1
s
γ L req ≥
(4.14)
道示では,縦リブの必要剛比を γl・req なる記号で表記しており,またそれは最低値として規定されてい
る.式(4.14)の不等号を等号に変更し,γL req を γl req としたものが道示(4.2.7)の第 2 式に一致する.
4-9 t≧t0 かつ α≦α0 の場合の縦リブの必要剛比
t≧t0 の場合,板要素パネルの換算幅厚比は RR<0.5 であり,板要素パネルの弾性座屈応力 σscr は降伏応
力よりも大きいため,その圧縮強度は降伏応力に等しいものとしている.道示では,この場合の縦リブ
の必要剛度の計算式は,横リブ間パネルの弾性座屈応力 σacr が板要素パネルの圧縮強度以上になるもの
と仮定したときに成立する横リブ間パネルの座屈係数 ka と板要素パネルの座屈係数 ks 間の関係式から
導かれている.
t≧t0 の場合の板要素間パネルの圧縮強度 σu は降伏応力に等しいから,σu は弾性座屈応力 σscr が降伏応
力 σY に到達するときの板厚 t0 を式(3.3)の板厚 t に代入した次式で表される.
σ =σ
u
s cr
= σY =
π Ek
12(1 − µ )(b t
2
s
2
0
)
2
(4.15)
式(3.2)で与えられる横リブ間パネルの弾性座屈応力 σacr が式(4.15)で与えられる σu 以上になるための
条件は,σu≦σacr より次式で表される.
π Ek
12(1 − µ )(b t
2
s
)
2
2
0
≤
π Ek
12(1 − µ )(b t )
2
a
2
2
式(4.16)を横リブ間パネルの座屈係数 ka について解けば次式を得る.
20
(4.16)
2015/08/06
技術者のための構造力学
t 
ka ≥ ks  0 
t
2
(4.17)
よって,t≧t0 かつ α≦α0 の場合の縦リブの必要剛比は,式(3.18)と式(3.4)を式(4.17)に代入することに
よって次のように導かれる.
1
1 + sδ L
 1

t
1

2 0 
 + α  + 2 sγ L  ≥ 4 s  
 α
t 
 α

2
2
(4.18)
式(4.18)を γL について解き,縦補剛材剛比 γL を必要縦補剛材剛比 γL req とすると,
(
2
γ L req
)
α +1
t 
≥ 4α s 0  (1 + sδ L ) −
s
t 
2
2
2
(4.19)
式(4.19)の誘導については付録 A.4.1 を参照されたい.
道示では,縦リブの必要剛比を γl・req なる記号で表記しており,またそれは最低値として規定されてい
る.式(4.19)の不等号を等号に変更し,γL req を γl req としたものが道示(4.2.5)の第 1 式に一致する.
4-10 t≧t0 かつ α > α0 の場合の縦リブの必要剛比
一方,t ≧ t0 かつ α > α0 の場合の縦リブの必要剛比は,式(3.14)と式(3.4)を式(4.17)に代入することに
よって次のように導かれる.
(
)
2
t 
1 + 1 + sγ L ≥ 4 s 2  0 
1 + sδ L
t 
2
(4.21)
式(4.21)を γL について解き,縦補剛材剛比 γL を必要縦補剛材剛比 γL req とすると,
γ L req
2
2



1  2  t 0 
≥ 2 s   (1 + sδ L ) − 1 − 1
s   t 




(4.22)
式(4.22)の誘導については付録 A.4.2 を参照されたい.
道示では,縦リブの必要剛比を γl・req なる記号で表記しており,またそれは最低値として規定されてい
る.式(4.22)の不等号を等号に変更し,γL req を γl req としたものが道示(4.2.7)の第 1 式に一致する.
式(4.19)を式(3.29)と比較すると,式(4.19)の右辺第 1 項には(t0/t)2 (≦1)が乗じられている.同様に,式
(4.22)を式(3.30)と比較すると,式(4.22)の右辺中括弧内の第 1 項には(t0/t)2 (≦1)が乗じられている.これ
らは,設計上,t≧t0 の場合には板要素パネルに座屈が発生しないと考えるため,同じ縦横比,縦リブ本
数,断面積比で比較すると,この場合の縦リブの必要剛度は板要素パネルに座屈が発生する場合に比べ
て結果的に小さくなることを意味している.
本節の最後に,道示における縦リブの必要剛比の計算式の誘導に際して仮定されている,板要素パネ
ルと横リブ間パネルの換算幅厚比 RR,RF 間の関係について纏めておく.
まず,横リブ間パネルの換算幅厚比 RF は次のようにして求められる.式(3.2)の両辺を降伏応力 σY で
無次元化すると次式が得られる.
21
2015/08/06
技術者のための構造力学
σ
σ
a cr
Y
=
ka
σ
Y
⋅
1
π E
=
12(1 − µ )(b t )
 1 b 12(1 − µ ) σ 
⋅
 ⋅

k
E 
π t
2
2
2
2
(4.24)
2
Y
a
式(4.24)の右辺より,横リブ間パネルの換算幅厚比 RF は次のように表される.
RF =
1 b 12(1 − µ 2 ) σ Y
⋅
⋅
π t
ka
E
(4.25)
式(4.25)を(4.24)に代入して横リブ間パネルの弾性座屈応力 σacr について解けば次式を得る.
σ
a cr
=
σ
Y
RF2
(4.26)
同様に板要素パネルの弾性座屈応力 σscr についても,式(4.1),(4.2)から次のように表せる.
σ
s cr
=
σ
Y
RR2
(4.27)
t<t0 即ち RR>0.5 の場合は板要素パネルの座屈を考慮するので,縦リブの必要剛比は横リブ間パネルの
弾性座屈応力 σa cr が板要素パネルの弾性座屈応力 σs cr よりも大きくなる条件(σacr>σscr)によって決定さ
れる.式(4.26),(4.27)より,この条件を換算幅厚比で表せば次のようになる.
σ
Y
2
RF
>
σ
Y
(4.28)
RR2
式(4.28)より,RR>0.5 では次式を得る.
RF < RR
(4.29)
t≧t0 即ち RR≦0.5 の場合,板要素パネルの圧縮強度は降伏応力に等しく,その圧縮強度は弾性座屈応
力 σs cr が降伏応力に等しくなる時の RR=0.5 を式(4.27)に代入して次のように表される.
σ
s cr
=
σ
Y
0 .5 2
(4.30)
道示では,t≧t0 即ち RR≦0.5 の場合の縦リブの必要剛度の計算式は,横リブ間パネルの弾性座屈応力
σa
cr
が板要素パネルの圧縮強度以上になるものと仮定して導かれているから,式(4.26),(4.30)より次の
関係が成立する.
σ
Y
2
RF
≥
σ
Y
0.5 2
(4.31)
式(4.31)より,RR≦0.5 では次式を得る.
RF ≤ 0.5
(4.32)
式(4.29)と(4.32)をまとめると次のように表される.
RF ≤ 0.5
RF < RR
( RR ≦ 0.5)

( RR > 0.5) 
(4.33)
道示の解 4.2.4 では,板要素パネルの換算幅厚比 RR と横リブ間パネルの換算幅厚比 RF は式(4.33)の関
係を満足するように規定している.RR と RF の許容される範囲を図-4.3 の斜線部に示す.図-4.3 にお
いて,RR>0.5 は t<t0 に対応しており,その時の縦リブ必要剛比は,4-7,4-8 節で述べたように α≦α0 な
22
2015/08/06
技術者のための構造力学
γT1*, γT2* or γT3*/ΣγTi*
横リブ間パネルの
換算幅厚比 RF
6
0.5
4
2
0
γ T 1 ∑ γ Ti
γT1*/ΣγTi*
γγT2*/ΣγTi*
T 3 ∑ γ Ti
γ T 2 ∑ γ Ti
γT3*/ΣγTi*
γ T 1 ∑ γ Ti = 1
γT1*/ΣγTi*=1
-2
-4
許容される範囲
-6
0.5
0.0
板要素パネルの換算幅厚比 RR
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
α/α0
図-5.1 無次元化された縦横比 α/α0 と γT1/ΣγTi,
図-4.3 許容される換算幅厚比 RR
γT2/ΣγTi,γT3/ΣγTi の関係
と RF の範囲
らば式(4.13)(道示の式(4.2.5)の第 2 式),α>α0 ならば式(4.14)(道示の式(4.2.7)の第 2 式)で与えられる.
また,図-4.3 において,RR≦0.5 は t≧t0 に対応しており,この場合には RF≦0.5 となるように縦リブの
必要剛比を与える式が導かれている.
材料使用から述べれば,RR,RF は大きいほど経済性が増す.RR>0.5 においては板要素の座屈を配慮す
る必要から RF の最大値は RR 以下となるが,RR<0.5 では板要素の座屈を考慮する必要がなくなり,RF は
0.5 まで許容される.図-4.3 の格子模様で示す部分がこの許容される部分である.RF<0.5 により横リブ
間パネルの座屈も考慮する必要はなくなる.
5. 道示規定の留意事項
5-1 横リブの必要剛比式の近似
3-4 節では,t<t0 かつ α≦α0 の場合について,横リブ間パネルの座屈が全体パネルの座屈に先行するた
めの横リブ必要剛比 γT
req として式(3.19)を導いた.また,4-5
節では,同式の右辺第 2,3 項を省略する
ことによって,道示 4.2.5 の式(4.2.6)が導けることを説明した.本章では,この省略の妥当性を確認する.
式(3.15)を用いて,式(3.19)右辺の sγL を限界縦横比 α0 で表せば,
γ T req
{(1 + sγ ) }
≥
14 4
+
L
3
4α
α5
{
4 (1 + sγ L )
}
14 4
−
α
2
 1  1  1  α  1 α 
α4
α5 α

 +   − ⋅ 
≥ 03 +
−
=
α
0 
4α
4α 04 2
4  α α0  4  α0  2 α0 
3
5

(5.1)

式(5.1)の最右辺の括弧内第 1~3 項をそれぞれ次のように表すことにする.
3
5
1 1 
1 α 
1 α
 , γ T 2 =   , γ T 3 = − ⋅
γ T 1 = 
4  α α0 
4  α0 
2 α0
(5.2)1~3
式(5.2)を式(5.1)に代入すると,横リブ必要剛比 γT req は次式で表される.
γ T req ≥ α 0 (γ T 1 + γ T 2 + γ T 3 ) = α 0 ∑ γ Ti
(5.3)
いま,α≦α0 即ち α/α0≦1 であるから,式(5.2)のパラメータ α/α0 を 1.0×10-4~0.9999 まで変動させた場
合の横リブ必要剛比に及ぶ影響について調べるため,α/α0 と γT1/ΣγTi,γT2/ΣγTi,γT3/ΣγTi の関係について示
せば図-5.1 のようになる.なお,同図中には γT1/ΣγTi=1.0 を表す横線も示した.これより,0≦α/α0≦1.0
23
2015/08/06
技術者のための構造力学
表-5.1 実橋における無次元化された縦横比 α/α0 と必要横リブ剛比の実績
分類
横リブ(ダイアフラム)間隔 a (mm)
板幅 b (mm)
縦横比 α (=a /b )
縦リブ本数+1 s
2
弾性係数 E (N/mm )
パネル板厚 t (mm)
ポアソン比 µ
パネル曲げ剛度 D (kNm)
縦リブ板厚 t L (mm)
縦リブ板幅 b L (mm)
箱桁橋
1450
1950
0.74
6
200000
14
0.3
50.3
12
130
4
縦リブ断面二次モーメント I L (cm )
縦リブ剛比 γ L
限界縦横比 α 0
α /α 0
横リブ必要剛比 γ t
*
横リブ必要剛比 γ 't
*
γ 't /γ t
*
ラーメン橋脚柱1 ラーメン橋脚柱2
斜張橋主塔1 斜張橋主塔2
3275
2470
1.33
6
200000
30
0.3
494.5
16
190
2772
2484
1.12
6
200000
16
0.3
75.0
14
160
3000
3528
0.85
7
200000
23
0.3
222.8
25
260
2879.2
3528
0.82
7
200000
23
0.3
222.8
25
260
219.7
914.5
477.9
3661.7
3661.7
4.48
2.30
0.32
1.50
1.78
0.75
5.13
2.37
0.47
9.32
2.85
0.30
9.32
2.85
0.29
16.60
0.51
5.17
26.50
30.04
16.97
1.07
5.72
26.92
30.45
1.02
2.10
1.11
1.02
1.01
*
では ΣγTi は γT2,γT3 を無視して ΣγTi = γT1 として計算したとしても,ΣγTi < γT1 より安全側の評価であるこ
とがわかる.
α/α0 の実績について把握するため,表-5.1 には実橋における箱形断面部材を構成する圧縮フランジの
補剛板について,α/α0,γT の実績を調査した結果を示した.同表において,箱桁橋は連続箱桁橋の中間
支点部の圧縮フランジ,ラーメン橋脚柱 1 は 2 層門型ラーメン橋脚 1 層目柱部材の基部,ラーメン橋脚
柱 2 は同橋脚 2 層目柱部材の基部,斜張橋主塔 1,2 は斜張橋の逆 Y 形主塔ブロック内の補剛板である.
これより,ラーメン橋脚柱 1 を除けば,α/α0 は 0.5 以下であることがわかる.さらに,表-5.1 には,式
(5.1)で与えられる厳密な横リブ必要剛比 γT req と,式(5.3)の中辺括弧内第 2,3 項の γT2,γT3 を省略した次
式で計算される γ’T req,および γ’T req と γT req との比 γ’T req / γT req も示した.
γ T′ req = α 0γ T 1
(5.4)
表-5.1 より,ラーメン橋脚柱 1 を除けば,γ’T req / γT req はいずれも 1.01~1.11 であることがわかる.即
ち,式(5.3)において γT2,γT3 を省略したとしても,それによって横リブ必要剛比 γT*に生ずる誤差は概ね
10%以内で,しかも γ’T req > γT req であるから安全側に横リブ必要剛比が評価できることがわかる.
したがって,α/α0≦1 では式(3.19)の右辺第 2,3 項を省略した式(4.11)によって横リブ必要剛比を計算
しても安全側であることから,道示では,横リブの必要断面二次モーメント IT の計算式として式(4.12)
が用いられている.
5-2 縦リブの断面積比
道示では,縦リブの断面二次モーメントに関係する剛比に加えて,縦リブの必要断面積に関しても規
定されている.縦リブの 1 本の断面積比は次式で定義される.
AL
bt
δ =
L
(5.6)
ただし,縦リブの断面積 AL は次の条件を満足するものでなければならない.
AL ≧
bt bs t
=
10 s 10
24
(5.7)
2015/08/06
技術者のための構造力学
6. むすび
6-1 応力-幅厚比関係に着目した補剛板の必要剛比
これまでの解説を応力-幅厚比のグラフに立ち戻り再び説明し結びとする.
全体パネルの弾性座屈応力は(3.1)より,
σ
π E
C
=kσ =k
=k
(b t )
12(1 − µ )(b t )
2
L cr
L
e
L
2
2
L
(6.1)
2
横リブ間パネルの弾性座屈応力は(3.2)より,
σ a cr = kaσ e = ka
π 2E
C
= ka
2
2
12(1 − µ )(b t )
(b t )2
(6.2)
板要素パネルの弾性座屈応力は(3.3)より,
σ s cr = 4
π 2E
π 2E
π 2E
C
2
4
4
s
=
=
= ks
2
2
2
2
2
2
12(1 − µ )(bs t )
12(1 − µ )(b st )
12(1 − µ )(b t )
(b t )2
(6.3)
式(6.1)~(6.3)において,C は次式で表される定数である.
C=
π 2E
12(1 − µ 2 )
(6.4)
板要素パネルの終局強度は降伏応力より高くなることはないので,座屈が発生しない範囲では次の関
係式が成立する.
σ s cr = σ y
(6.5)
道示の図-解 4.2.4 に示される基準耐荷力曲線は以下である.
(0 ≤ RR < 0.5)
1
σu 
= 1.5 − RR
σY 
2
(0.5 ≤ RR < 1.0)
2
0.5 RR ≒ (0.7 RR ) (1.0 ≤ RR )
道示-(解 4.2.3)
弾性座屈応力が降伏応力に到達するときの幅厚比を b/t1 とする.
溶接製作部材では溶接時の熱影響によって残留応力や初期たわみが発生し,これらは一般的に溶接製
作部材の強度を低下せしめる.即ち,それらの部材断面を構成する補剛板の強度は,弾性座屈応力 σs
よりも小さいため,式(6.3)に代えて基準圧縮強度 σu を規定する
σ
耐荷力曲線として以下を採用している.
式(6.3)
σ u = 0.5σ s cr
C
= 0 .5 k s
(b t )2
(6.6)
これは,道示 (解 4.2.3)の第 3 式の無次元表示を応力表示
式(6.6)
A’
σs cr=4σY
4σY
に変えたものである.
また,座屈を考慮せず,基準圧縮強度を σY とすることがで
きる幅厚比の範囲を 0~b/t0 とし,b/t0=0.5 b/t1 としている.
応力と幅厚比の関係を表すグラフにおいて,道示
C’
A
図-解
4.2.4 に示される基準耐荷力曲線は図-6.1 に示す O-A-B-C であ
25
O
σY
b/t0
B
C
b/t1
b/t2
b/t
図-6.1 補剛板の圧縮強度と幅厚比
cr
2015/08/06
技術者のための構造力学
る.図-6.1 に示す点 C は以下の b/t2 に対応する点である.
許容応力度の低減を厭わなければ,かなり薄っぺらな補剛板の使用も可能となるが,このような補剛
板は製作,運搬,架設時の破損や,供用後に予想外の振動を招く恐れがあるため,道示では幅厚比の最
大値を b/t2<80 として制限している.
図-6.1 に示す点 B は b/t1 に対応する点であり,点 B~C 間の基準耐荷力曲線は式(6.6)で表される.ま
た,点 O~A 間は σscr=σY を示す直線,点 A は b/t0 に対応する点である.点 A~B 間は再び直線であり,
道示(解 4.2.3)の第 2 式の応力表示である.さらに,点 A'は式(6.3)で表される板要素パネルの Euler 曲線
上で b/t0 に対応する点で σs cr=4σY である.図中の点 C’は式(6.3)の曲線上で b/t2 に対応する点である.
以下では,t0≧tx≧t2 の場合と tx≧t0 の場合について縦リブ,横リブの必要剛比の考え方を示す.ここ
に,tx は検証する補剛板の板厚を表す.
Ⅰ.t0≧tx≧t2 の場合
この場合には板要素の座屈を考慮する必要があり,補剛板の幅を b とすれば,図-6.2 に示すように
この範囲の弾性座屈応力を与える Euler 曲線は式(6.3)の点 A'~点 C'間である.
板厚 tx の補剛板の幅厚比 b/tx を同図中に破線で示している.
板要素パネルの座屈が横リブ間パネルの座屈に先行し,横リブ間パネルの座屈が全体パネルの座屈に
先行する条件は,それぞれ ks≦ka と ka≦kL であるが,このことは同図中では式(6.2)で表される σa cr の曲
線が式(6.3)で表される σs
cr の曲線より上にあることを要求するものであり,さらに,式(6.1)で表される
σL cr の曲線が式(6.2)より上にあることを要求するものである.
前者より縦リブの必要剛比 γL の算出式が誘導され,後者から横リブの必要剛比 γT が誘導される.
Ⅱ.tx≧t0 の場合
この場合には板要素の座屈を考慮する必要はなく,補剛板の幅を b とすれば,図-6.3 に示すように
この範囲でもⅠ.と同様の考え方により,ks≦ka と ka≦kL なる関係から縦横リブの剛比を決定する.た
だし,Ⅰ.で説明した図-6.2 の式(6.3)の代わりに以下に示す式(6.7)を弾性座屈応力の曲線として用いる.
σ s′ cr = k s x
2
t
C
C
= ks 0 2
2
2
(b t )
t x (b t )
(6.7)
σ
σ
式(6.3)=σs cr
式(6.3)=σs cr
A”
式(6.1)=σL cr
式(6.6)
O’
A’
式(6.6)
式(6.2)=σa cr
4σY
σa cr,A=4σY
A’
O
σY
C’
A
b/t0
O
σY
C
A B'
B
C
C’
式(6.7)
B
b/t1 b/tx b/t2
座屈を考慮
する範囲
b/tx b/t0
座屈を考慮
しない範囲
b/t
図-6.2 座屈を考慮する場合の圧縮強度
b/t1
b/t2
b/t
図-6.3 座屈を考慮しない場合の圧縮強度
26
2015/08/06
技術者のための構造力学
式(6.7)は,tx≧t0 の場合に仮想の板要素パネルを想定し,その座屈係数を ks x と考えている.式(6.3)と
式(6.7)の比較から,同じ b/tx に対して ksx は ks より(t0/tx)2 倍小さい値をとる.このことは,tx≧t0 の場合に
は板要素パネルに座屈を考慮しないため,同じ縦横比,縦リブ本数,断面積比で比較すると,縦リブの
必要剛比は板要素パネルに座屈を考慮する場合に比べて小さくできるとの解釈から定められている.ま
た,式(6.7)は t が tx のとき図-6.3 の A"で示されるように 4σy となる.このことは後述,式(6.12)~(6.13)
で確認する.
式(4.17)の t を tx とし,両辺に C/(b/t)2 を乗ずると,
2
ka
t
C
C
≥ ks 0 2
2
2
(b t )
t x (b t )
(6.8)
式(6.8)の左辺は式(6.2)より横リブ間パネルの弾性座屈応力度 σa
cr
を表しており,式(6.8)の右辺は式
(6.7)より仮想の板要素パネルの弾性座屈応力度 σ's cr を表している.よって,次の関係が成立する.
σ a sr ≥ σ s′ cr
(6.9)
式(6.9)は tx≧t0 の場合には横リブ間パネルの弾性座屈応力が板要素パネルの弾性座屈応力以上になる
ことを表している.
式(6.7)は以下のように書き改められる.
σ s′ cr = k s x
2
t
C
C
= ks 02
= ks
2
2
(b t )
t x (b t )
C
b2
 t0 
 t 
 tx 
(6.10)
2
一方,式(6.3)は以下のように書き改められる.
σ s cr = k s
C
C
= ks 2
2
b
(b t )
t2
(6.11)
式(6.10),(6.11)の比較から,式(6.10)は板厚が t・(t0/tx)の仮想板要素の弾性座屈応力と解釈される.つ
まり,tx≧t0 では板要素の座屈を考慮しなくてもよいので,横リブ間パネルの強度を式(6.3)に対して低下
させることができ,経済性を向上させることができる.ちなみに,式(6.10)による t=tx の弾性座屈応力は
次式で表される.
σ s′ cr = k s
C
b2
 t0 
 t 
 tx 
C
b2
= ks
2
 t0 
 t x 
 tx 
= ks
2
C
b2
t 02
(6.12)
道示-(解 4.2.3)の設定より,t0 = 2t1 であり,式(6.3)の t が t1 のとき σs cr = σy となることから,
σ′ = k
s cr
s
C
C
C
= ks
= 4k s 2 = 4σ y
2
2
b
b
b
2
2
t0
(2t1 )
t12
蛇足ながら,式(6.10)による t=t1 の場合の弾性座屈応力は次式で表される.
27
(6.13)
2015/08/06
技術者のための構造力学
t0 の計算 式(4.6)⇒道示 表-4.2.6
α0 の計算 式(3.15)⇒道示 4.2.5(4)の式注
Yes
Yes
α≦α0 ?
No
t<t0 ?
No
Yes
No
α>α0 ?
γT の計算
γT の計算
γT の計算
γT の計算
4.5 ⇒
4.6 ⇒
4.5 ⇒
4.6 ⇒
道示 式-4.2.6
γT =0
道示 式-4.2.6
γT =0
γL の計算
γL の計算
γL の計算
γL の計算
4.7 ⇒
4.8 ⇒
4.9 ⇒
4.10 ⇒
道示 式-4.2.5-2
道示 式-4.2.7-2
道示 式-4.2.5-1
道示 式-4.2.7-1
図-6.4 補剛板の設計基準
C
b2
σ s′ cr = k s
 t0 
 t 
 tx 
本稿の掲示章節と道示適用式
C
b2
2
C
= ks
= ks 2
b
2
t12
 t0 
 t1 
 tx 
2
 t0 
t 
  = σ y  0 
 tx 
 tx 
2
(6.14)
横リブ間パネルの座屈係数 ka が上記 ksx より大きくなることを保証し,縦リブの必要剛比を算出する.
α≦α0 では ksx ≦ka の関係に式(6.10)の第 2,第 3 式を用いて,以下の通り式(4.18)が導かれる.
2
2
t
t
1
ks x = ks 0 2 = 4s 2 0 2 ≦
1 + sδ L
tx
tx
2
 1

1

 + α  + 2 sγ L  = k a
 α
 α

(6.15)
一方で,α>α0 では ksx ≦ka min の関係に同じ式(6.10) の第 2,第 3 式を用いて,以下の通り式(4.21)が導
かれる.
(
2
)
t
2
k s x = 4 s 02 ≦
1 + 1 + sγ L = k a min
1 + sδ L
ti
2
(6.16)
これらの座屈係数は結局のところ,横リブ間パネルの強度を図-6.3 の O’-A’-C’より高くすることか
ら決定されている.
さらに,全体パネルの弾性座屈応力の曲線としてはこれよりさらに上の曲線が要求される.そして,
α≦α0 では,式(3.19)から横リブの必要剛比 γT req の算出式が誘導され,α>α0 では式(3.20)から γT req = 0 で
ある.
最後に補剛板の設計基準の流れを総括すると図-6.4 の流れ図となる.
28
2015/08/06
技術者のための構造力学
6-2 圧縮,曲げ,せん断の組み合わせを受ける補剛板の設計
本稿では,補剛板が純圧縮を受ける場合について,道示に与えられている縦横補剛材の必要剛比等に
ついて説明した.しかし,例えば鋼製橋脚に用いられている補剛板は,圧縮力のみならず曲げやせん断
力を受けることとなる.このような組み合わせ断面力を受ける補剛板の設計に関しては道示をはじめと
して海外の設計基準においても十分に明記されておらず,純圧縮を受ける補剛板の設計法に関するほど
の資料も用意されていない.
補剛板の組み合わせ断面力に対する設計法としては,例えば,文献 2)では,曲げについては応力勾配
による係数 f にて考慮し,せん断については板要素パネルを両縁支持板と見なして道示の(解 4.2.2)によ
って照査する方法が提案されている.また,組み合わせ断面力を受ける場合のせん断力の影響について
は,圧縮と曲げが卓越していれば僅少のため無視,せん断力が卓越していればせん断力のみに対する照
査を行うなどが考えられる.しかし,これらの簡易的設計法についてはその妥当性を確認するための解
析的研究が必要であり,適切な簡易照査法が必要である.その際には,縦横補剛材の必要剛比について
は純圧縮を受ける場合,つまり f = 1 としての必要剛比を準用するなどの簡易化が必要であろう.
【参考文献】
1) 中井 博,北田俊行:鋼橋設計の基礎,共立出版,1992.
2) 大倉一郎:鋼構造設計学の基礎,東洋書店,2004.
3) 社団法人 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅰ共通編,Ⅱ鋼橋編,2012.
4) 社団法人 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅰ共通編,Ⅱ鋼橋編,1972.
5) 社団法人 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅰ共通編,Ⅱ鋼橋編,1980.
6) Giencke. E.:Uber die Berechnung regelmassiger Konstruktionen als Kotinuum,Stahlbau,Jg. 33,H.1,
S.1~6, und H. 2, S. 39~48,1964.
7) DIN 4114 Blatt 1:Stahlbau,Stabilitatsfalle(Knickung,Kippung,Beulung),Berechnungsgrundlagen,
Vorshriften,1959.
DIN 4114 Blatt 2:Stahlbau,Stabilitatsfalle(Knickung,Kippung,Beulung),Berechnungsgrundlagen,
Richtlinien,1953.
8) AASHTO:Standard Specifications for Highway Bridges,12th. edition,1977.
9) 小松定夫,牛尾正之:圧縮補剛板の弾塑性座屈強度と合理的設計法について,土木学会論文報告集,
第 278 号,1978.10
10) 三上市蔵,
堂垣正博,
米沢 博:連続補剛板の非弾性座屈,
土木学会論文報告集,
第 298 号,
pp.17-30,
1980.
11) 福本唀士:土木学会編
新体系土木工学9 構造物の座屈・安定解析,技報堂出版,1982.
12) 土木学会:鋼構造シリーズ 2 座屈設計ガイドライン,技報堂出版,1987.
付録-
付録-A
A.2.1 両縁支持板の座屈係数
両縁支持板の座屈係数 k
図-A.2.1 に示すように,x 軸方向に一様な圧縮応力を受ける長方形板の座屈に関する微分方程式は次
式で与えられる.
29
2015/08/06
技術者のための構造力学
x
O
b
σ
y
σ
a
x
t
O
t
σt
z
図-A.2.1 純圧縮を受ける両縁支持板
σt
 ∂4w
∂4w
∂4w 
∂2w
D 4 + 2 2 2 + 4  + σt 2 = 0
∂x ∂y
∂y 
∂x
 ∂x
(A.2.1.1)
ここに,D:板曲げ剛性(=Et3/{12×(1-µ2)}),t:板厚,w:板の面外たわみ,σ:x 軸方向に作用する
圧縮応力である.
図-A.2.1 において,長方形板が 4 辺で単純支持されている場合を考える.この境界条件,即ち,4 辺
で曲げモーメントが 0 という条件を満たす,座屈後の面外たわみとして次式を仮定する.
w = Amn sin
mπx
nπy
sin
a
b
(A.2.1.2)
ここに,Amn:係数,および m,n:正の整数(=1,2,3,…)
式(A.2.1.2)の x に関する 2 階偏導関数は次のように求められる.
∂2w
m 2π 2
mπx
nπy
=
−
A
sin
sin
mn
2
2
∂x
a
a
b
(A.2.1.3)
式(A.2.1.3)の y に関する 2 階偏導関数は次のように求められる.
∂2  ∂2w 
∂4w
m 2 n 2π 2
mπx
nπy
sin
sin
 2  = 2 2 = Amn
2
2
2
∂y  ∂x  ∂x y
ab
a
b
(A.2.1.4)
式(A.2.1.2)の x に関する 4 階偏導関数は次のように求められる.
∂4w
m 4π 4
mπx
nπy
=
A
sin
sin
mn
4
4
∂x
a
a
b
(A.2.1.5)
式(A.2.1.2)の y に関する 4 階偏導関数は次のように求められる.
∂4w
n 4π 4
mπx
nπy
= Amn 4 sin
sin
4
∂y
b
a
b
(A.2.1.6)
式(A.2.1.3)~(A.2.1.6)を式(A.2.1.1)に代入すると次式を得る.
2
2 2
2
 

m
π
n
π
mπx
nπy





 mπ  
 D 
+
−
t
sin
=0
σ
 
 

 Amn sin
a
b
  a   b  
 a  


(A.2.1.7)
式(A.2.1.7)が任意の x,y に対して成立するためには,左辺の大括弧内が 0 でなければならない.よっ
て,次式が成立する.
2
2
 mπ  2  nπ  2 
 mπ 
D 
 +
  − σ t
 =0
 a   b  
 a 
30
(A.2.1.8)
2015/08/06
技術者のための構造力学
式(A.2.1.8)を σ について解けば次のようになる.
Da 2
σ= 2 2
tm π
2
 mπ   nπ  
Da 2
+
=
 
 

tm 2π 2
 a   b  
2
2
2
2
n 2π 2 
m π
+
 2

b2 
 a
2
Da 2 π 2  m 2 n 2 
Da 2 π 2 m 2  m a n 2 
Dπ 2
=
+
=
+
=




m 2t  a 2 b 2 
m 2t a 2  a m b 2 
b 2t
2
2
(A.2.1.9)
a n2 
b
 m+

m b 
a
2
式(A.2.1.9)は σ に等しい圧縮応力が生じた際にこの長方形板に座屈が生ずることを意味している.ま
た,この応力 σ は,板曲げ剛性,板幅と板厚の関数であるとともに,板の縦横の寸法の関数としても表
される.式(A.2.1.9)より座屈係数は次式で表される.
2
 b n a
k = m +

 a m b
2
(2.2)
A.2.2 両縁支持板の座屈係数曲線の交点における
両縁支持板の座屈係数曲線の交点における縦横
板の座屈係数曲線の交点における縦横比
縦横比 αs
隣接する m 値の異なる曲線どうしの交点における縦横比 αs は,式(2.5)において α=αs を代入して,式
(2.5)と同式において m を m+1 とした式を等しく置くことによって,次のように求められる.
 m αs   m +1 αs 
 +  = 

+
m + 1 
αs m   αs
2
2
(A.2.2.1)
式(A.2.2.1)の両辺について平方根をとると,
m
α
+
s
α
s
m
=
m +1
α
+
s
α
s
m +1
(A.2.2.2)
式(A.2.2.2)を整理すると,
α =m
s
1
α
+
s
m
αs
m +1
(A.2.2.3)
式(A.2.2.3)の両辺に m+1 と αs を乗ずると,
(m + 1)α
式(A.2.2.4)を αs2 について解けば,
2
s
= m(m + 1) + mα s
2
α = m(m + 1)
2
s
(A.2.2.4)
(A.2.2.5)
式(A.2.2.5)を αs について解けば,式(2.6)が次のように得られる.
α = m(m + 1)
s
(2.6)
A.3.1 全体パネルの座屈係数
全体パネルの座屈係数 kL
図-A.3.1 に示すように,4 辺単純支持された L×b の補剛板が x 軸方向に一様な圧縮応力 σ を受けて
いるものとする.A.2.1 の両縁支持板と同様に,この補剛板に対して面外たわみを仮定し,エネルギー
法を適用して弾性座屈応力の近似値を求める.この式の詳細誘導は別資料,補剛板全体パネルの座屈応
力と座屈係数を参照のこと.
式(A.2.1.2)と同様に,図-A.3.1 に示す補剛板の支持辺における境界条件を満たす座屈後の面外たわみ
として次式を仮定する.
31
2015/08/06
技術者のための構造力学
bs
bs
bs
b=s×bs
縦リブの断面二次モーメント IL,断面積 AL
横リブの断面二次モーメント IT
σ
σ O
x
a
a
L=q×a
a
y
t
a
σt
σt
y
t
x
図-A.3.1 純圧縮を受ける補剛板
w = Amn sin
mπx
nπy
sin
a
b
(A.3.1.1)
ここに,Amn:係数,および m,n:正の整数(=1,2,3,…)
板パネルの座屈変形によるひずみエネルギーUp は次式で与えられる.この式の詳細誘導は別資料,は
り要素,板要素に蓄積される内部エネルギーを参照のこと.
2
2
 ∂ 2 w  ∂ 2 w ∂ 2 w 
D b L  ∂ 2 w ∂ 2 w 
 − 2
U p = ∫0 ∫0  2 + 2  + 2(1 − µ )
 dxdy
2 
2
∂y 
 ∂x∂y  ∂x ∂y 
 ∂x
(A.3.1.2)
式(A.3.1.1)の x に関する 1 階偏導関数は次のように求められる.
∂w
mπ
mπx
nπy
= Amn
cos
sin
a
a
b
∂x
(A.3.1.3)
式(A.3.1.3)の y に関する 1 階偏導関数は次のように求められる.
∂  ∂w  ∂ 2 w
mnπ 2
mπx
nπy
A
=
=
cos
cos
 
mn
∂y  ∂x  ∂x∂y
ab
a
b
(A.3.1.4)
式(A.3.1.1)の x に関する 2 階偏導関数は次のように求められる.
∂2w
m 2π 2
mπx
nπy
=
−
A
sin
sin
mn
2
2
a
a
b
∂x
(A.3.1.5)
式(A.3.1.1)の y に関する 2 階偏導関数は次のように求められる.
∂2w
n 2π 2
mπx
nπy
=
−
A
sin
sin
mn
2
2
∂y
b
a
b
(A.3.1.6)
式(A.3.1.4)~(A.3.1.6)を式(A.3.1.2)に代入して積分すると,次式が得られる.
Up =
π DLb  m
4
8
2
n2  2
 2 + 2  Amn
L b 
2
(A.3.1.7)
y=ibs(i=1,2,…,s-1)に取り付けられた縦リブの座屈変形によるひずみエネルギーUL は次式で与え
られる.
EI s−1 L  ∂ 2 w 
U L = L ∑ ∫0  2  dx
2 i =1  ∂x  y =ibs
2
式(A.3.1.8)に式(A.3.1.5)を代入して積分すると次式が得られる.
32
(A.3.1.8)
2015/08/06
技術者のための構造力学
UL =
π EI m
4
4
inπ
s
s −1
Amn2 ∑ sin 2
L
3
4L
i =1
(A.3.1.9)
式(A.3.1.9)において,n=s,2s,3s,…のときは,
inπ
=0
s
sin 2
(A.3.1.10)
であるから,UL=0 となる.一方,n≠s,2s,3s,…のときは,次の公式
n
∑ sin rx =
2
r =1
n cos(n + 1)x sin nx
−
2
2 sin x
(A.3.1.11)
inπ s
=
s
2
(A.3.1.12)
を用いると次式を得る.
s −1
∑ sin
2
i =1
したがって,式(A.3.1.9)より
UL =
π EI m s
4
4
L
3
8L
Amn2
(A.3.1.13)
x=ia(i=1,2,…,q-1)に取り付けられた横リブの座屈変形によるひずみエネルギーUT は次式で与え
られる.
2
EI q −1 b  ∂ 2 w 
U T = T ∑ ∫0  2  dy
2 i =1  ∂y  x=ia
(A.3.1.14)
式(A.3.1.14)に式(A.3.1.6)を代入して積分すると次式が得られる.
UT =
π EI n
4
4
4b
q −1
Amn2 ∑ sin 2
T
3
i =1
imπ
q
(A.3.1.15)
式(A.3.1.15)において,m=q,2q,3q,…のときは,
sin 2
imπ
=0
q
(A.3.1.16)
であるから,UT=0 となる.一方,m≠q,2q,3q,…のときは式(A.3.1.11)を用いると次式を得る.
q −1
∑ sin
2
i =1
imπ q
=
q
2
(A.3.1.17)
したがって,式(A.3.1.15)より
UT =
π EI n q
4
4
T
8b 3
Amn2
(A.3.1.18)
板パネルに作用する圧縮応力 σ によって,座屈中になされる仕事 Tp は次式で表される.
Tp =
σt
2
b
L
0
0
∫∫
 ∂w 
  dxdy
 ∂x 
2
(A.3.1.19)
式(A.3.1.19)に式(A.3.1.3)を代入すると次式が得られる.
Tp =
σ tm 2π 2b
8L
2
Amn
縦リブに作用する圧縮応力 σ によって,座屈中になされる仕事 TL は次式で表される.
33
(A.3.1.20)
2015/08/06
技術者のための構造力学
σA
 ∂w 
∑
∫0   dx
i
=
1
2
 ∂x  y =ibs
TL =
2
s −1
L
L
(A.3.1.21)
式(A.3.1.21)に式(A.3.1.3)を代入すると次式が得られる.
TL =
σA m π
2
2
s −1
Amn2 ∑ sin 2
L
4L
i =1
inπ
s
(A.3.1.22)
式(A.3.1.22)において,n=s,2s,3s,…のときは,式(A.3.1.10)により TL=0 となる.一方,n≠s,2s,
3s,…のときは,式(A.3.1.11),(A.3.1.12)を用いると次式を得る.
σA m π s
2
TL =
2
L
8L
Amn2
(A.3.1.23)
次式に示すように,座屈による全ポテンシャルエネルギーΠ は 0 である.
Π = U p + U L + U T − Tp − TL = 0
(A.3.1.24)
式(A.3.1.24)に式(A.3.1.7),(A.3.1.13),(A.3.1.18),(A.3.1.20),(A.3.1.23)を代入して整理すると次式を得
る.
σ =kσ
cr
L
(A.3.1.25)
e
ここに,σcr:圧縮応力 σ で表した座屈応力であり,σe は基本座屈応力であり次式で表される.
σ =
e
π E
12(1 − µ )β
2
2
(A.3.1.26)
2
式(A.3.1.26)において β は幅厚比であり,次式で表される.
β=
b
t
(A.3.1.27)
また,式(A.3.1.25)において,kL は座屈係数であって,次式で表される.
1
kL =
1 + sδ L
 mb n 2 L 

n4 L
2 b 
+
 + m   s γ L + 2 qγ T 

mb 
mb
L
 L

2
2
(3.5)
A.3.2 全体パネルのみなし最小座屈係数を与える仮想長さ Lmin
a を定数と考えて,式(3.6)に,q =L/a を代入すると,
kL =
1
1 + sδ L
L2
L2
 2 2 −2

2
2
−2
m
b
L
+
2
+
+
m
b
L
s
γ
+
γT 

L
2
2
2
mb
m ab 

(A.3.2.1)
式(A.3.2.1)右辺の括弧内を整理すると,
kL =
1  2 2
L2
L2

−2
m b (1 + sγ L )L + 2 + 2 2 + 2 γ T 
1 + sδ L 
mb
m ab 
(A.3.2.2)
式(A.3.2.2)を L で微分して 0 とおくと
dk L
1
=
dL 1 + sδ L
2L
2L


2
2
−3
− 2m b (1 + sγ L )L + 2 2 + 2 γ T  = 0
mb
m ab 

(A.3.2.3)
式(A.3.2.3)の中辺の括弧内を整理すると,
− 2m 2 b 2 (1 + sγ L )L− 3 +
34
2L  1 γ T 
 + =0
m2b  b a 
(A.3.2.4)
2015/08/06
技術者のための構造力学
式(A.3.2.4)の左辺第 2 項を右辺に移項して,両辺に L3 を乗ずると,
L4  1 γ T 
 + 
m 2b  b a 
m 2 b 2 (1 + sγ L ) =
(A.3.2.5)
式(A.3.2.5)右辺の括弧内を整理すると,
L4
m2b 2
m 2 b 2 (1 + sγ L ) =

γ 
1 + T 
 a b
(A.3.2.6)
式(A.3.2.6)において,a/b を α とおいて L4 について解けば
L4 = m 4 b 4 (1 + sγ L )
式(A.3.2.7)を L について解けば
1
(A.3.2.7)
1+ γ T α
mb(1 + sγ L )
=
(1 + γ T α )0.25
0.25
Lmin
(3.7)
Lmin は kLmin を求めるための仮想の長さである.
A.3.3 全体パネルのみなし最小座屈係数
全体パネルのみなし最小座屈係数 kL min
式(3.6)の L=Lmin,kL=kL min と表せば
k L min =
1
1 + sδ L
2
2
 2 2
 Lmin

Lmin
−2

(
)
m
b
s
L
1
+
γ
+
2
+
+

L
min
 m 2 b 2 m 2 ab γ T 



(A.3.3.1)
式(A.3.3.1)右辺括弧内第 2 項を整理すると,
k L min =
1
1 + sδ L
 2 2
Lmin  1 1 
−2
m b (1 + sγ L )Lmin + 2 + 2  + γ T 
m b  b a 

2
(A.3.3.2)
式(A.3.3.2)に式(3.7)を代入すると,
k L min
1
=
1 + sδ L
0.5
 m 2 b 2 (1 + sγ L )  γ T 
1 m 2 b 2 (1 + sγ L ) 1  γ T
1
2
+
+
+


1 +
 2 2
0.5
0.5
2
m
b
(
1
+
s
γ
)
α
m
b
(
1
+
γ
α
)
b
α



L
T

0. 5



(A.3.3.3)
式(A.3.3.3)の右辺括弧内を整理すると,
0.5
γT 
(
1 + sγ L )  γ T
1 
0. 5 
=
1 +
(1 + sγ L ) 1 +  + 2 +
α
1 + sδ L 
(1 + γ T α )0.5  α

0. 5
k L min



γT  
γT 
1 
0.5 
0.5 
=
(1 + sγ L ) 1 +  + 2 + (1 + sγ L ) 1 +  
α 
α 
1 + sδ L 


0.5
=
2
1 + sδ L
0.5
(A.3.3.4)

γT  
0.5 
1 + (1 + sγ L ) 1 +  
α 


0.5
よって,
k L min =
2
1 + sδ L

1 +

 

α  
(1 + sγ )1 + γ
L
35

T
(3.8)
2015/08/06
技術者のための構造力学
A.3.4 横リブ間パネルの座屈係数
横リブ間パネルの座屈係数の最小値
パネルの座屈係数の最小値 ka min を与える横リブ間隔 amin
式(3.10)に縦横比 α=a/b を代入すれば次式を得る.
1
ka =
1 + sδ L
 bm a  b m 2

+
sγ L 
 +

2
a
 a bm 

2
2
(A.3.4.1)
式(A.3.4.1)右辺の括弧内を展開すると,
 2 2 −2

2
−2
a
2
b m a + 2 + 2

+
b
m
a
s
γ
L
2


b m


2
1
ka =
1 + sδ L
(A.3.4.2)
式(A.3.4.2)の右辺括弧内を整理すれば,
1
ka =
1 + sδ L


2
−2
a
2
2 + 2 2 + b m a (1 + sγ L )
b m


2
(A.3.4.3)
式(A.3.4.3)を a に関して微分して 0 とおくと,
2
−3
 a

2
 2 2 − b m a (1 + sγ L ) = 0
b m

dk a
2
=
da 1 + sδ L
(A.3.4.4)
式(A.3.4.4)より,
a
2
−3
= b m 2 a (1 + sγ L )
2
b m
(A.3.4.5)
a 4 = b m 4 (1 + sγ L )
(A.3.4.6)
2
式(A.3.4.5)を a4 について解けば,
4
式(A.3.4.6)を a について解けば
a = bm(1 + sγ L )
0.25
(3.11)
A.3.5 横リブ間パネルの座屈係数
横リブ間パネルの座屈係数の最小値
パネルの座屈係数の最小値 ka min
式(3.10)の右辺の括弧内を展開すると.
2
α 2 m2
m

+
2
+
+ 2 sγ L 
 2
2
m
α
α

2
2
α
1 
m 
=
2 + 2 + (1 + sγ L ) 2 
1 + sδ L 
m
α 
ka =
1
1 + sδ L
(A.3.5.1)
式(A.3.5.1)において,ka=ka min,α=αmin として式(3.13)を代入すると
k a min
1
=
1 + sδ L


b 2 m 2 (1 + sγ L )
2
1
(1 + sγ L )
2
+
+ b m2 2 2

2
0.5
2
b m (1 + sγ L )
b m


0.5
1
{2 + (1 + sγ L )0.5 + (1 + sγ L )0.5 }
=
1 + sδ L
式(A.3.5.2)より,
36
(A.3.5.2)
2015/08/06
技術者のための構造力学
k a min =
{
2
1 + 1 + sγ L
1 + sδ L
}
(3.14)
A.3.6 横リブ間パネルの座屈係
横リブ間パネルの座屈係数
パネルの座屈係数曲線の交点
隣接する m 値の異なる曲線どうしの交点では,各々の曲線の座屈係数 ka が等しくなることから,式
(3.10)と式(3.10)において m を m+1 と置き直した式を等置することによって,以下が成り立つ.
1
1 + sδ L
 m α 

1
m2
 +  + 2 sγ L  =
 α m  α
 1 + sδ L
2
2
 m + 1

α  (m + 1)
+
sγ L  (A.3.6.1)
 +

2
m + 1
α
 α

2
式(A.3.6.1)より,
m2
α  (m + 1)
m α 
 m +1
+
sγ L
 +  + 2 sγ L = 
 +
2
m +1
α
α m α
 α
2
2
2
(A.3.6.2)
式(A.3.6.2)の両辺の第 1 項を展開すると,
m2
m
α 
 m + 1
 α  (m + 1)
sγ L (A.3.6.3)
  + 2 +   + 2 sγ L = 
 +2+
 +
2
α
α 
m α
 α 
 m + 1
2
2
2
2
2
さらに式(A.3.6.3)の右辺を展開すると,
m2
α
2
+2+
α
2
m2
+
m2
α
2
sγ L =
m 2 + 2m + 1
α
2
2
 α  m + 2m + 1
+2+
sγ L
 +
2
α
 m + 1
2
(A.3.6.4)
式(A.3.6.4)を整理すると,
α
2 m + 1  α  2m + 1
=
+
sγ L
 +
2
2
m
α2
α
 m +1
2
2
(A.3.6.5)
式(A.3.6.5)の両辺に m2,α2,および(m+1)2 を乗ずると,
α (m + 1) = (2m + 1)(m + 1) m + α m + (2m + 1)(m + 1) m sγ
4
2
2
2
4
2
2
2
L
(A.3.6.6)
式(A.3.6.6)を α4 について解けば,
α = (m + 1) m + (m + 1) m sγ
2
4
2
2
2
= (m + 1) m (1 + sγ L )
2
L
2
(A.3.6.7)
式(A.3.6.7)を α について解けば,
α=
(m + 1)m (1 + sγ )
α=
(m + 1)m α
0.25
L
(A.3.6.8)
式(A.3.6.8)に式(3.15)を代入すると,
A.3.7
(3.17)
0
α≦
≦α0 における横リブの必要剛比
における横リブの必要剛比 γT req
kLmin≧ka となるときの横リブ剛比が γT req であるから,kL min≧ka に式(3.8)と(3.18)を代入て,
2
1 + sδ L

1 +


(1 + sγ L )1 + γ T
α

 
1
  ≥
  1 + sδ L
37
2
 1

1

 + α  + 2 sγ L 
 α

 α
(A.3.7.1)
2015/08/06
技術者のための構造力学
式(A.3.7.1)を変形すると,

(1 + sγ L )1 + γ T  ≥ 1  1 + α 



α 
2  α
2

+

sγ L − 2 

α
1
2
1 + 2α + α 4 + sγ L − 2α
2
≥
≥
2α
2
2
(A.3.7.2)
1 + α 4 + sγ L
2α
2
式(A.3.7.2)の両辺を自乗すると,
(1 + sγ L )1 + γ T  ≥ 1 + α



α 
8
+ s 2γ L + 2α 4 + 2α 4 sγ L + 2sγ L
4α 4
2
(A.3.7.3)
式(A.3.7.3)の両辺を(1+sγL)で除して,さらに-1 を足すと,
γ T 1 + α 8 + s 2γ L2 + 2α 4 + 2α 4 sγ L + 2sγ L
≥
−1
α
4α 4 (1 + sγ L )
≥
1 + α 8 + s 2γ L2 + 2α 4 + 2α 4 sγ L + 2 sγ L − 4α 4 − 4α 4 sγ L
4α 4 (1 + sγ L )
≥
1 + α 8 + s 2γ L2 − 2α 4 − 2α 4 sγ L + 2 sγ L
4α 4 (1 + sγ L )
(A.3.7.4)
式(A.3.7.4)の両辺に α を乗じると,
γT ≥
1 + α 8 + s 2γ L2 − 2α 4 − 2α 4 sγ L + 2 sγ L
4α 3 (1 + sγ L )
1 + 2 sγ L + s 2γ L2 + α 8 − 2α 4 (1 + sγ L )
≥
4α 3 (1 + sγ L )
≥
(A.3.7.5)
(1 + sγ L )2 + α 8 − 2α 4 (1 + sγ L )
4α 3 (1 + sγ L )
式(A.3.7.5)の右辺を整理して,γT = γT req と表すことにすると,
γ T req = γ T ≥
A.3.8
1 + sγ L
α5
α
+
−
3
4α
4(1 + sγ L ) 2
(3.19)
α>α0 における横リブの必要剛比 γT req
kL min≧ka min となるときの横リブ剛比が γT req であるから,kL min≧ka min に式(3.8)と(3.14)を代入て,
2
1 + sδ L

1 +


(1 + sγ L )1 + γ T   ≥

α  
{
2
1+
1 + sδ L
(1 + sγ L )}
(A.3.8.1)
式(A.3.8.1)を整理すると次式を得る.
(1 + sγ L )1 + γ T  ≥ (1 + sγ L )

α 
38
(A.3.8.2)
2015/08/06
技術者のための構造力学
式(A.3.8.2)の両辺を自乗すると,
1+
γ
≥1
α
T
(A.3.8.3)
式(A.3.8.3)を γT について解き,γT = γT req と表すことにすると,
γ T req = γ T ≥ 0
A.3.9
(3.20)
≦α0 における縦リブの必要剛比 γL req
t<
<t0 かつ α≦
ka≧ks となるときの横リブ剛比が γL req であるから,ka≧ks に式(3.4)と(3.18)を代入て,
ka =
1
1 + sδ L
2
 1

1

+
α
+ 2 sγ L  ≥ 4 s 2 = k s



 α

 α
(A.3.9.1)
式(A.3.9.1)より,
2
1
1

2
 + α  + 2 sγ L ≥ 4 s (1 + sδ L )
α
 α
(A.3.9.2)
式(A.3.9.2)の左辺第 1 項を展開して右辺に移項すると,
1
α
2
sγ L ≥ 4 s 2 (1 + sδ L ) −
1
α
2
− 2 −α
2
(A.3.9.3)
式(A.3.9.3)の両辺に α2 を乗ずると,
sγ L ≥ 4s 2 (1 + sδ L )α − 1 − 2α − α
2
2
(
≥ 4s 2 (1 + sδ L )α − 1 + α
2
2
4
)
(A.3.9.4)
2
式(A.3.9.4)の両辺を s で除し,γL = γL req と表すことにすると,
γ L req = γ L ≥ 4α s(1 + sδ L
2
A.3.10
) − (1 + α )
2
2
s
(3.29)
t<
<t0 かつ α>α0 における縦リブの必要剛比 γL req
kamin≧ks となるときの横リブ剛比が γL req であるから,ka min≧ks に式(3.4)と(3.14)を代入して,
k a min =
)
(
2 1 + 1 + sγ L
≥ 4s 2 = k s
1 + sδ L
(A.3.10.1)
式(A.3.10.1)より,
)
(
2 1 + 1 + sγ L ≥ 4 s 2 (1 + sδ L )
(A.3.10.2)
式(A.3.10.2)において,両辺に 1/2 を乗じた後に,両辺に-1 を加えると,
(1 + sγ ) ≥ 2s (1 + sδ ) − 1
2
L
L
39
(A.3.10.3)
2015/08/06
技術者のための構造力学
式(A.3.10.3)の両辺を自乗すると
{
}
1 + sγ L ≥ 2 s 2 (1 + sδ L ) − 1
2
(A.3.10.4)
式(A.3.10.4)の両辺から 1 を減じた後に,両辺を s で除せし,γL = γL req と表すことにすると,
γ L req = γ L ≥
A.4.1
[{
]
}
2
1
2 s 2 (1 + sδ L ) − 1 − 1
s
(3.30)
t≧
≧t0 かつ α≦
≦α0 における縦リブの必要剛比 γL req
式(4.18)より,両辺に(1+sδL)を乗じると
2
1
t 
1

2
 + α  + 2 sγ L ≥ 4 s (1 + sδ L ) 0 
α
 α
t 
2
(A.4.1.1)
式(A.4.1.1)の両辺に α2 を乗じると,
(1 + α )
2
2
t 
+ sγ L ≥ 4α s (1 + sδ L ) 0 
t 
2
2
2
(A.4.1.2)
式(A.4.1.2)の両辺から(1+α2)2 を減ずると,
2
(
2
t 
sγ L ≥ 4α s (1 + sδ L ) 0  − 1 + α
t 
2
2
)
2
(A.4.1.3)
式(A.4.1.3)を s で除せし,γL = γL req と表すことにすると,
(
1+ α
t 
= γ L ≥ 4α s (1 + sδ L ) 0  −
s
t 
2
γ Lreq
A.4.2
2
2
)
2
(4.19)
t≧
≧t0 かつ α>α0 における縦リブの必要剛比 γL req
式(4.21)より,
t 
1 + 1 + sγ L ≥ 2 s (1 + sδ L ) 0 
t 
2
2
(A.4.2.1)
式(A.4.2.1)の両辺から-1 を減ずると,
2
t 
1 + sγ L ≥ 2 s (1 + sδ L ) 0  − 1
t 
2
(A.4.2.2)
式(A.4.2.2)の両辺を自乗すると,


t 
1 + sγ L ≥ 2s 2 (1 + sδ L ) 0  − 1


t 
2
式(A.4.2.3)の両辺から-1 を減ずると,
40
2
(A.4.2.3)
2015/08/06
技術者のための構造力学
2


t 
sγ L ≥ 2s 2 (1 + sδ L ) 0  − 1 − 1


t 
2
(A.4.2.4)
式(A.4.2.4)を s で除せし,γL = γL req と表すことにすると,
γ Lreq
2
2



1  2  t 0 
= γ L ≥ 2 s   (1 + sδ L ) − 1 − 1
s   t 




(4.22)
付録-B
縦リブ必要剛比および実際剛比と座屈発生の順番
付録-
道示に従い補剛板の設計を行う場合に想定している座屈の順番は 3.1 で述べたとおり,板要素パネル,
横リブ間パネル,全体パネルの順である.これを満足するため座屈係数に ks < ka < kL の条件を要求する.
縦リブ,横リブの必要剛比それぞれを γLreq,γTreq としてこれらは上記の不等式を満足することから計算
されるが,実務設計の上では場合によって,ks < kL < ka の結果となることがあることを以下に示す.最
初に α≦α0 の場合を考え,次に α<α0 の場合について考える.
(1) α≦α0 の場合を考える.
表-4.1 に示すように,
①不等式 ks < ka を満足するための式は本資料の 4-7,4-9 節に示され,これより γLreq が計算される.
道示では,式(4.2.5)によって γlreq(= γLreq)が計算される.
②不等式 ka < kL を満足するための式は本資料の 4-5 節に示され,これより γTreq が計算される.
道示では,γt req (=γTreq)と It req の関係が次式で表される.
γ
treq
=
EI treq
Db
上式において,D は板パネルの板曲げ剛度であって,
D=
Et 3
Et 3
≈
12(1 − µ 2 ) 11
ここに,E:弾性係数,t:板パネルの板厚,および µ:Poisson 比である.
以上の式に基づいて,道示の式(4.2.6)によって Itreq が計算される.
なお,γTreq については,本資料の式(3.19)の 1~3 項のうち,影響の少ない第 2,3 項を無視している.
詳細は 5-1 節を参照されたい.
ところで道示の式(4.2.6)には,①で計算される γLreq が含まれる.ks < ka < kL の順番を守るためには道示
の式(4.2.6)による IT req の算定には γL req ではなく,実構造の γL を使うべきである.翻って,道示に示され
るとおり γL req を用いると,ks < kL < ka の順になる可能性がある.この状況は γL >>γL req,γT ≒>γT req の場
合に生じる.ただし,通常の設計では経済的に合理性のある最小断面のリブが取り付けられると考えら
れるため,この場合は γL ≒>γL req かつ γT ≒>γT req となり,当初想定の順番が維持される.
(2) α<α0 の場合
①不等式 ks < ka を満足するための式は本資料の 4-8,4-10 節に示され,これより γLreq が計算される.
②不等式 ka < kL は本資料の 4-6 節に示され,これから γTreq > 0 が導かれる.この式には γLreq が含まれな
41
2015/08/06
技術者のための構造力学
いのでどのようなリブが選択されても,当初想定の順番が維持される.
付録-C
全体パネルの最小座屈係数とみなし座屈係数
付録-
本節では,長さ L の変化に伴う補剛板全体パネルの座屈係数の最小値の計算方法について実例に即し
て補足説明をする.
式(3.5)より,補剛板全体パネルの座屈係数 kL は次式で表される.
1
kL =
1 + sδ L
 mb L 

L
2 b 
+
 + m   s γ L + 2 qγ T 

mb
 L
 L mb 

2
2
(C.1)
図-C.1 に示す補剛板を対象として,縦リブと横リブが 2 本ずつ等間隔で配置された補剛板(横リブ
によって区切られるパネル数 s=3,縦リブによって区切られるパネル数 q=3,(道示Ⅱでは縦リブに区
切られるパネル数は n であるが,座屈波形との混同を避けるため s と表記する))を考え,同図中の寸
法は L = 4,500mm,b = 1,200 mm,t = 12 mm,材質は SM490Y 材で,その弾性係数 E = 200,000 N/mm2,
降伏応力 σy = 355 N/mm2,ポアソン比 µ = 0.3 とする.簡単のためリブは平板とし,さらに剛比を必要剛
比に追い込むため少々不自然ではあるが,縦リブ板幅 bL = 103 mm,板厚 tL = 11 mm,横リブ板幅 bT = 78.4
mm,板厚 tT = 9 mm と端数の付く大きさとする.以下では縦リブと横リブを表す右下符号をそれぞれ L,
T と表すことにする.(道示ではこれらをそれぞれ l,t と表記している.)
アスペクト比 α は a = 1,500 mm より,α = a/b = 1,500/1,200 = 1.25 となる.
限界縦横比 α0 は式(3.15)より,次のように求められる.
α = (1 + sγ
0
L
)
0.25
= (1 + 3 ⋅ 21.1)
0.25
= 2.83
(C.2)
式(C.2)より,α<α0 であることが明らかである.
3-2 節に示した各パラメータの定義から,
縦リブの断面積比: δ L =
AL
103・11
=
= 0.0787
bt 1200・12
(C.3)
縦リブの曲げ剛比: γ L =
12 I L (1 − µ 2 ) 12・103 3・11・(1 − 0.3 2 )
=
= 21.1
t 3b
3・12 3・1200
(C.4)
横リブの曲げ剛比: γ T =
12 I T (1 − µ 2 ) 12・78.4 3・9・(1 − 0.3 2 )
=
= 7.61
t 3b
3・12 3・1200
(C.5)
σ
bs
bs
bs
b = 3×bs
σ
a
L = 3×a
t
a
t
a
図-C.1 検討対象とする補剛板の寸法形状
42
2015/08/06
技術者のための構造力学
上記の δL = 0.0787,γL = 21.1,および γT = 7.61 を式(C.1)に代入すると,kL は座屈波数 m の関数として
次式で表される.
 1200m

L 
L
1
2  1200 
kL =
+
⋅
3
⋅
7
.
61
 +m 
 ⋅ 3 ⋅ 21.1 +


1 + 3・0.0787  L
1200m 
1200m 2
 L 

2
2
(C.6)
式(C.6)における m を 1,2,3 と変化させた場合の kL と L の関係を図-C.2 に示す.同図中には,m = 1
~3 の場合の L = 4500 mm における kL の値をそれぞれ①~③としてプロットした.kL の値は,86.0,36.6,
43.9 で最小値は 36.6 である.同図より,kL の最小値が m = 1~3 のいずれの場合に現れるかは,各々の
曲線を図示することによって概ね把握できる.しかし,図化による最小値の把握は厳密ではなく,手間
もかかることから式(C.1)を L で微分して最小値を求めることを考える.
式(C.1)の右辺括弧内第 3 項の q は,横リブに区切られる横リブ間パネル数で,図-C.1 に示す補剛板
では q = 3 で一定値であるが,q = L/a と L の関数であるので,これを当該第 3 項に代入すると,
 mb

L 
L2
2 b 
+
+
m
s
+
γ
γT 





L
2
mb 
m ab 
L
 L
2

1   mb
L 
m2b 2
L2


s
γ
γ
=
+
+
+

L
T
2
2
1 + sδ L   L mb 
L
m ab 
2
1
kL =
1 + sδ L
2
(C.7)
式(C.7)最右辺の括弧内第 3 項には,L2 が含まれていることから,式(C.7)によって L を変化させ,求め
た kL は,式(C.1)によって求めた kL とは異なることになる.図-C.1 に示す補剛板を対象として,a = 1500
mm,b = 1200 mm,s = 3,δL = 0.0787,γL = 21.1,および γT = 7.61 を式(C.7)に代入すると,
 m ⋅ 1200

1
L  m 2 ⋅ 1200 2
7.61 ⋅ L2
kL =
+
⋅
3
⋅
21
.
1
+
 +

 (C.8)
1 + 3 ⋅ 0.0787 
L
m ⋅ 1200 
L2
m 2 ⋅ 1500 ⋅ 1200 
2
式(C.8)における m を 1,2,3 と変化させた場合の kL と L の関係を図-C.3 に示す.同図中には,m = 1
~3 の場合の L = 4500 mm における kL の値をそれぞれ①~③としてプロットした.
この場合も kL の値は,
86.0,36.6,43.9 で最小値は 36.6 である.また,次のようにして導かれる kL の最小値もプロットした.
式(C.7)を L で微分すると,m = 1~3 の場合の曲線は,それぞれ次式で表される.
120
m=1
m=2
m=3
①
②
③
100
86.0
座屈係数 kL
80
60
43.9
40
36.6
20
0
0
1000
2000
3000
4000
5000 6000
長さ L (mm)
7000
8000
9000
10000
図-C.2 式(C.6)による補剛板全体パネルの座屈係数と長さの関係
43
2015/08/06
技術者のための構造力学
120
m=1
m=2
m=3
①
②
③
kLmin
100
86.0
座屈係数 kL
80
60
43.9
40
36.2
36.2
36.6
20
0
0
1000
2000
3000
4000
5000 6000
長さ L (mm)
7000
8000
9000
10000
図-C.3 式(C.8)による補剛板全体パネルの座屈係数の最小値と長さの関係
2
2
2L
2m 2 b 2
2L
 2m b

−
+
−
sγ L + 2 γ T 

3
2
2
3
L
mb
L
m ab 

2
2
1  2m b
(1 + sγ L ) + 22L 2 + 22L γ T 
=
−
3
L
mb
m ab 
1 + sδ L 
dk L
1
=
dL 1 + sδ L
(C.9)
式(C.9)の最右辺を 0 とおいて L について解けば,
(1 + sγ )
0.25
L = Lmin = mb
L
(C.10)
(1 + γ α )
0.25
T
式(C.10)を式(C.7)に代入すると,kL の最小値 kLmin は次のように求められる.
k L min = k L
L = Lmin
=
2
1 + sδ L

1 +

 

α  
(1 + sγ )1 + γ
L

T
(C.11)
図-C.2,C.3 より,L = 4500mm におけるプロット①,②,③はいずれも同一の値をとることがわか
る.これは,L = 4500mm において,それぞれ式(C.6)と(C.8)右辺括弧内の第 3 項が等しくなるためであ
る.また,図-C.3 より,いずれの曲線も下に凸で式(C.11)から与えられる座屈係数の最小(極小)値
kLmin = 36.2 をとることがわかる.これは,式(C.11)で表されるように,kLmin が L に無関係であるためで
ある.図-C.3 において,極小値 kLmin = 36.2 は,①~③のいずれよりも小さく,厳密な最小値 kL = 36.6
よりも小さい.補剛板の設計ではこの極小値をみなしの座屈係数 kLmin としている.
44