急性期病棟と療養型病棟の感染対策 ・ 教育のすすめ方 市立長浜病院

急性期病棟と療養型病棟の感染対策・教育のすすめ方
市立長浜病院 看護局 主幹、感染管理認定看護師
中村寛子
1.はじめに
当院は同じ施設内に520床の急性期病棟(以後、急性期)と焉6床の療養型病棟(以後、療養型)
を持つ総合病院である。患者の入退院だけではなく、看護師・介護士などの看護職員もローテンショ
ンするため同じ感染対策の実施が求められる。しかし、患者の特性や医療スタッフの配置状況など異
なる部分が多数あり、足並みをそろえて感染対策を実践することが難しい状況がある。そこで、日頃
の看護ケアや感染防止対策の実施状況を振り返りながら、対策のすすめ方の難しさと工夫点にっいて
述べる。
2.急性期病棟と療養型病棟の相違点と感染対策の違い
療養型は、在宅復帰を目指す患者がリハビリなどの羅的で入院される。高齢者をはじめとする介護
を必要とする患者が中心で、治療の場ではなく「生活の励という環境である。食事ひとつとっても、
各病室(ベッド)で食べるのではなく、ディルームなどの全員が集える場所での食事となる。ここで
の問題が、接触感染対策である。インフルエンザ、感染性胃腸炎など、早期発見や適切な処置を怠れ
ば、たちまち集団発生のリスクにつながる。対策として隔離したくても、患者の状況が許さない場合
もある。多くの患者を少ないスタッフで介助することになり、接触感染対策に気を使う部分である。
高齢者の特徴として感染徴候が判りにくい、訴えられないという点がある。スタッフも十分に観察し
ているのであろうが、多彩な基礎疾患を持つ患者も少なくなく、発見しにくい環境となっている。
経済的側面も、急性期と岡様の感染対策をすすめにくい要因の一つとなっている。介護保険で入院
されている患者が利用できる医療には限界があり、急性期では当たり前の培養などの検査や処置が療
養型では制限されるといった現状がある。吸引を例に挙げると、急性期病棟の吸引チューブは使い捨
て(挿管患者は閉鎖式吸引チューブ)にしているが、療養型病棟は消毒薬に浸漬しているという現状
がある。ICNとしてはどちらも使い捨てにしたいところであるが、1βに使用する吸引チューブの本
数が急性期と療養型では変わらないという状況のため、トータルで考えるとかなリコストアップとな
る。効果的な感染対策を進めていく上ではコストを考慮しないわけにはいかず、病院の負担を考える
と療養型も使い捨てにできない状況となっている。また、吸引チューブの取り扱いについては、在宅
(家族)や訪問看護などと連携をとりながら検討していく必要もあると考えている。
療養型の看護スタッフは、2/3が介護士である。看護師と介護士が一緒に業務をする場合は、看護師
が行わなければならないケア(経管栄養、吸引、配薬など)と介護士が行えるケア(おむつ交換、β
腔ケア、食事介助など)に分担されてしまう傾向にある。そのため、下痢・嘔吐などの感染徴候が見
逃されてしまうリスクがある。岡じ病棟に勤務しながら、感染防止の実践状況が違うといった現象が
起きている可能性がある。そのようなことがないように介護士に対しても、看護師と類似した感染管
理教育が必要になってくる。
療養型に入院する患者の特徴として、感染予防行動を自ら行えない高齢者患者が多いということが
挙げられる。自分で手洗いができない、咳があってもサージカルマスクを装着してもらえないなどの
状況を多く見かける。手洗いができる環境を整えようと目々努力はしているが、認知症の患者による
手洗い石けんの誤飲といったリスクが容易に予測できるため、“手洗い”という標準予防策の基本的対
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策の実践が困難な現状がある。
3.教育の課題と工夫
適切な感染対策を実践するためには、療養型の看護スタッフの中心である介護士が必要な感染対策
をどれだけ理解し実施するかが重要なポイントになる。しかし、介護士が感染対策について集中して
学ぶ機会が少なく、知識が不足しているという現状がある。自分の身を守るための行動はできても、
患者を感染から守るための予防策はなかなか理解されにくいものである。
現在、介護士は看護師と一緒に院内砺修を実施しているが、ケアを分担している現状から看護師と
は実施するケアが異なるため、独自の感染対策研修を実施する必要があるだろう。ひとつのケアにお
いては、マニュアルに記載されていることを行動レベルにまで具体化して示し、感染対策の効果と必
要性が目にみえる形の教育を実践する必要があると考える。看護師と介護士が同じ意識で行動してい
くことが、組織的な感染対策につながる。その上で、役割分担し各々の職種の特性を活かせればと考
えている。
療養型のスタッフは、「急性期と比較して感染対策が遅れている」というイメージを持っている。急
性期は、吸引チューブの使い捨てなどエビデンスに基づいた対策を実施しているのに、療養型はそれ
ができないという現状のためである。しかし、組織からは急性期と同じアウトカムを求められるため
スタッフの思いは複雑である。実践している感染対策の効果は決してエビデンスがないわけではない
が、その効果を十分に伝えきれていないのはICNとしてカを入れなければならない部分である。療養
型の特徴や役割、経済的側面を含めた教育が必要である。さらに、縫織に対しては急性期と療養型が
できるだけ同じ感染対策を実践できるような働きかけと、スタッフの感染対策に対する意識への理解
を求める必要がある。
4.おわりに
標準予防策が十分に実践できない環境の療養型であるが、ワクチン接種や結核感染予防、針刺し対
応などの職業感染防止については、急性期と足並みを揃えて感染対策を実践している。このような職
員に対する感染対策は充実しており、他の対策についても急性期と同じ施設内にあるという環境を最
大限に活用しなければならないと考えている。ICNとして療養型の特徴をしっかり理解し、新たな感
染対策導入時の方法や教育を工夫することで、より効果的な感染対策を組織的に進めていくことがで
きると考える。
5.参考文献
i) 辻明良ほか.高齢者介護施設における感染管理のあり方に関する研究報告書.平成絡年度厚
生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)高齢者介護施設における感染対策マニュ
アル.東京,三菱総合研究所ヒューマンケア事業開発部,2005,1・23
2) 中村寛子.介護福祉施設のチェックポイント,mFECTION CONTROL.i5(1),2008,
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