計測工学講義 第9回目 担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] 1 プラズマ実験装置NSTX(Princeton) 目 次 • 前回演習の答え • 第3章 信号処理の方法 – スペクトル解析の応用とその例 2 演習 • ある周波数範囲以外の周波数を全く通さない理想的な帯 域フィルター(Band-pass filter )を用意する。 • このフィルターを通過した白色雑音のパワースペクトル S(ω)は、以下の式で表させる。ここに、ω1,ω2は定数であ る。 a S (ω ) = 0 0 < ω1 ≤ ω ≤ ω2 ω < ω1 or ω2 < ω • Wiener-Khintchineの関係を使って、フィルターを通過した 白色雑音の自己相関関数を求めよ。 3 解答例 • 題意により、以下のパワースペクトルのフーリエ変換を 求めて見る。 a S (ω ) = 0 0 < ω1 ≤ ω ≤ ω2 ω < ω1 or ω2 < ω −ω1 ω2 iωτ iωτ iωτ C (τ ) = ∫ S (ω )e d ω = a ∫ e d ω + ∫ e dω −ω2 −∞ ω1 ∞ iωτ −ω1 iωτ ω2 e e = a +a i τ i τ − ω2 ω1 a − iω1τ a iω2τ a − iω2τ iω1τ = e −e + e − e = 2 ( sin ω2τ − sin ω1τ ) τ iτ iτ 4 続き • よって, ω2 − ω1 ω2 + ω1 τ sin τ sin C (τ ) = τ 2 2 4a sin (α + β ) = sin α cos β + cos α sin β sin (α − β ) = sin α cos β − cos α sin β A =α + β, B =α − β A− B A+ B sin A − sin B ∴ = sin cos 2 2 2 5 第3章 信号処理の方法 −スペクトル解析の応用とその例− • この章では、得られたデータから,測定者にとってより質 の良い信号を得るための処理方法を説明する. • より良い信号とは何か? Î余分な物がない信号 =雑音がない信号のこと • 計算機やパソコンの普及により,近年における信号処理 技術は,ディジタルデータ処理といって過言でない. • 本章では、ディジタルデータの信号対雑音比(SN比、S/N) 改善処理について述べる。 6 3章の目次 • 3−1 移動平均を用いた平滑化処理 – 単純移動平均 – 重みつき移動平均 – 適応化平滑化法 • 3−2 積算平滑化処理 • 3−3 装置関数の補正 • 3−4 周波数領域における処理 • 時間が許せば、以下を概説する – 重畳波形の分離 – FFT – 最大エントロピー法 7 移動平均を用いた平滑化処理 • 移動平均とは、測定されたデータ(例えば,時系列データ) に対して、各点での値をその周りのデータの平均で置き 換える方法である. • 平滑化とは、雑音が入った測定値を雑音成分をなるべく とって滑らかにすること 20 20 15 15 15 10 10 10 + 5 -5 -5 -10 -10 -10 測定値 信号 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 7 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 7 10 4 1 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 7 10 4 1 -5 10 0 0 0 5 4 = 5 1 20 雑音 8 アルゴリズムの図 • 単純移動平均 – アルゴリズムの説明 – 等間隔離散点に対する信号xiについて 1 m x j = ∑ xi + j , N = 2m + 1 N i =− m xj – が単純移動平均データ を与える. • つまり、注目する点jのデータをj点を中心とした元の データの平均値に置き換える. • では,実際にどのような演算をしているか見てみる. 9 単純移動平均の考え方 1. 平均を取る区間幅を決め(下図では9点),最初の区間を設定する 2. 3. 4. その区間で平均をとる 平均値を区間の中央点の値とする新しいデータを作る 平均を取る区間をひとつずらして,3から繰り返す 20 15 10 5 49 43 37 46 40 35 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 0 -5 -10 測定値 区間幅9点 16 14 12 10 8 6 4 2 43 41 39 33 31 29 27 25 23 21 19 17 15 13 11 9 7 5 3 1 0 -2 10 -5 -10 信号 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 15 10 5 0 13点 -4 -2 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 9 27 29 29 31 33 45 43 41 39 37 35 25 27 43 41 39 37 35 33 31 23 21 19 17 15 13 11 25 23 21 19 17 15 13 20 11 測定値 7 -10 9 9点 5 0 7 10 3 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 15 1 20 3 5 • 以下の測定値は、ガウス分布 に乱数を加えて人為的に作っ た模擬測定値である。 5点 1 -5 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 単純移動平均の適応例 18 16 14 12 10 8 6 4 2 -2 0 -4 5 16 14 12 10 8 6 4 2 0 -2 11 単純移動平均の期待値と分散 • xnをn番目の標本値とし、その平均値 、 E ( xn ) = µ 2は、 分散を とすると、標本平均の分散s σ 2 ( xn ) = σ 2 x 0 N N 1 2 s 0 = 2 E ∑∑ ( xn − µ )( xm − µ ) N n =1 m =1 • で表わされた。 [ ] E xn xm • 但し、 は標本間の相関である。 σx 1 1 2 2 完全不相関 s0 = 2 E ∑ ( xn − µ ) = 2 Nσ x = N N N 2 2 完全相関 1 1 2 2 2 s0 = 2 E ∑∑ ( x − µ ) = 2 N σ x = σ x 2 N N 2 12 実際は不完全な相関である • 上記の中間の時、すなわち、各標本点に部分相関があると し、各標本が周期T,間隔Δtの時系列データとすると、 σ x2 2 k t ) Cx (k t ) − µ 2 t s0 = + ∑ (1 − N T T 2 • となる。ここで、Ckは自己相関関数 • である C x (k t ) = E xi x j , k = j − i ポイントは,標本値が互いに独立である時に、処理後の 1 雑音の標準偏差は に比例して減少するが、標本値間 N の相関が大きいほど処理効果が小さくなる。 13 単純移動平均の特徴 • N→大にすると、通常、雑音成分は減少するが、信号波形も 平滑化される欠点がある。 • T=一定とし、N→∞とすると、 2 τ s0 = ∫ (1 − )(C x (τ ) − µ 2 )dt T 0 T T 2 (k t → τ ) • 従って、Tが大の時、 ∞ s0 2 Px (0) 2 2 (C x (τ ) − µ )dτ = ∫ T 0 T Px (ω ) • ここに、 は雑音パワースペクトル密度である。 14 単純移動平均の特徴 • 上式からもわかる様に、平滑化処理は低周波成分に 対して有効ではない。(例、1/fゆらぎ) • 実用例 この様に、移動平均法は、高周波成分の雑音の中から低周 波の信号成分を抽出するのに有効となる。 15 単純移動平均の流れ図 • 以下に,単純移動平均の流れ図(フローチャート)の例を示す. N個のデータ NQ個(奇数)で平均 Begin End YES I=(NQ+1)/2 NO I>N-NQ/2 J=−NQ/2, SUM=0 I=I+1 SUM=SUM+DATA(I+J) J=J+1 NO J>NQ/2 YES SMOOTH(I)=SUM/NQ 16 説明 • N個のデータが配列DATAに入っている。DATAの添え 字は1から始まる。 Begin I=(NQ+1)/2 • は、NQ個の平均を取るので、その中心の点は、DATA (I)である。 配列DATAの添え字は0以下はないとした。 J=−NQ/2, SUM=0 • 平均を取るための初期値操作 17 DATAの中のNQ個の平均を取る • 以下の式でまずNQ個のデータの総和を取っている。 SUM=SUM+DATA(I+J) J=J+1 J>NQ/2 NO NQ個数えて終了する YES SMOOTH(I)=SUM/NQ 総和をNQで和って、 平均を取る その後、新しい配列 SMOOTHに入れる 18 平均値を次々求める • 平均を取るデータ点を進ませる(移動) あれば、平均を 取る操作へ I=I+1 NO I>N-NQ/2 YES End まだ、処理すべきデータが あるかどうか判定する。 19 重みつき移動平均 • 前節の単純移動平均は、平均を取る点数Nを大きくと ると,信号歪も大きくなりやすい欠点があった. • 実際は、平滑化の性能を落とさず,簡単な演算処理で, なるべく信号歪を小さくしたい. • そこで,考え出されたのが重みつき移動平均で、代表 的な平滑化法の一つである. • 今,重み係数Wiとすると o jw = u 1 u ∑W i =− L ・∑ x j +・ i Wi i =− L i • ここで、L及びUは重み関数の下限と上限を表してい る。 20 では、最適な重みは? • 平滑処理後の不規則雑音の分散を示す式は、 U U −1 i =− L i =− L s0 2 = σ x 2 ∑ W 2 (i t ) + 2 ∑ U 2 − W ( i t ) W ( j t )× C ( k t ) µ ∑ x j =i +1 • • • • 但し、Wは正規化した重み関数である。 重み関数は、処理対象により、適当な係数が選ばれる。 逆に言うと、処理対象毎に最適値を捜す必要が生じる。 また、真の実時間処理を望むのであれば、非対称(未 来のデータがないため)な重みとなるが、多少でも遅 れを許しうるのであれば対称形重みを用いることがで きる。 • そこで、汎用性のある重みがいくつか提案されている。 21 多項式適合法 • データ(標本点)が多項式に適合するとして、2乗誤差 を最小とするように係数を決める方法で,多項式適合 による重み係数(Savitzky-Golayの表)がある. • • • • • 2次3次多項式:2次多項式と3次多項式は同じ係数 4次5次多項式:4次多項式と5次多項式は同じ係数 ・ ・ 一般的な2n次2n+1次多項式の求め方を以下に述べる. 22 多項式適合法の係数の求め方 • 等間隔データ2m+1個を考える. • Pn をiについてのn次の直交多項式とすると、任意の 多項式Fiは、 Fi = a0 P0 + A1 P1 +・・・・・+an Pn ,n<2m+1 • と表されるÎベクトルの近似を思い出せ! • ここで、整数の関数で性質の良い直交多項式にGramの 多項式を用いると、 (k ) n n + k i Pn,2m(i)=∑ (−1) k ( )( ) (k ) k k 2m k =0 n • • • 但し、 i ( k ) = i (i − 1)・・・・・(i − k + 1) 23 Gramの多項式の性質 • 以下に、Gramの多項式の例を挙げる P0,2 m (i ) = 1 i i = 1− P1,2 m (i ) = 1 − 2 m 2m i i (i − 1) +6 P2,2 m (i ) = 1 − 6 2m 2m(2m − 1) • 直交性より 2m ∑P i =0 j ,2 m (i ) Pk ,2 m (i ) = 0, j ≠ k 24 最小2乗適合法を利用 • 観測値(標本の値)をとし、2m+1点において、n次 多項式を最小2乗適合する。 2m Q = ∑ (a0 P0 + a1 P1 +・・・+ an Pn − Yi ) 2 i =0 • を最小とする様に係数akを求める。よって、 ∂Q =0 ∂ak ∴ 2m 2m i =0 j =0 J ≠k 2 ( a P ∑ k k + ∑ a j Pj Pk − Yi Pk ) = 0 • 直交性を利用して、 2m 2m i =0 i =0 ak ∑ Pk 2 − ∑ Yi Pk = 0 2m ∴ ak = ∑Y P , i =0 2m i k 2m (i ) 2 P ∑ k ,2m (i) i =0 25 最小2乗適合法 続き • すると、Yiの推定値 は、 Yi 1 2m Yi = ∑ ak Pk ,2 m (i ) = ∑ ∑ Y j Pk ,2 m ( j ) × Pk ,2 m (i ) k = 0 Ak j = 0 k =0 2m • 但し、 A = k 2m 2m ∑P j =0 k ,2 m 2 ( j) • 最後に,以下の式が得られる 2m P k ,2 m ( j ) ˆ Yi = ∑ Y j × ∑ × Pk ,2 m (i ) j =0 k =0 Ak 2m 26 最小2乗適合法 続き • n=2 の時、すなわち、2次多項式適合の場合は、重 みWiが得られている。 • 今、推定したい観測値の点の指標を0として2m+1点 でこの値を推定したいとすると • 各標本点の指標iは i = − m, − m + 1,・・・・・0,1, 2,・・・・, m • となる。この時、各点の観測値に対する重みは、 W (i ) = {3m(m + 1) − 1 − 5i 2 } , i = −m ∼ m 2 W ( i ) = (4 m − 1)(2m + 3) / 3 ∑ 27 実際に利用する場合の注意点 • 汎用性の重み係数は、観測値相互の相関を無視して 決められている。従って観測値の波形歪みをできる だけ小さくして雑音を除くためには、最適な重み係 数を選ぶ必要がある。 • あらかじめ観測値の波形がわかっている場合は、そ の波形歪みが重み係数によってどう変わるか、そし て、雑音の軽減度はどの程度かを見積り、最適な重 み係数を選定する。 • 通常,重みつき平均を取る点数は25点以下の場合が多 い.(データ点数は1024点など、2のべき乗である) 28 Savitzky-Golayの係数表 • 以下に、2次3次多項式適合による平滑化重み係数 を挙げる • 重みは中心対称であるので、片方のみ書いてある. • 中心点x0である。 x0 x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 x8 5 17 12 -3 7 7 6 3 -2 9 59 54 39 14 -21 11 89 84 69 44 9 -36 13 25 24 21 16 9 0 -11 15 167 162 147 122 87 42 -13 -78 17 43 42 39 34 27 18 7 -6 -21 29 -10 -2 -4 46 43 0 40 5 37 13点 34 10 31 15 28 -4 25 20 22 -2 19 -10 16 -5 16 14 12 10 8 6 4 2 0 13 10 7 4 43 41 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 18 16 -5 17 -10 15 13 0 11 5 13 10 10 15 9点 9 20 7 -5 5 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 0 7 1 7 10 5点 3 1 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 4 15 4 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 1 20 1 -5 7 雑音 4 1 信号 4 測定値 1 2次3次多項式適合の重みつき移動平均の例 20 15 10 5 10 5 0 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 30 7 0 20 15 15 10 10 5 5 0 0 -5 -5 -5 -10 -10 -10 39 20 37 -10 35 -10 33 -10 -5 31 -5 -5 29 43 41 39 37 35 33 31 0 29 0 27 5 25 5 27 10 25 10 23 15 23 15 21 20 21 -10 20 19 -10 19 7 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 重みつき 17 -10 17 -5 15 0 15 0 13 0 11 5 13 5 11 10 9 10 5 9 10 7 15 7 15 5 15 3 1 20 4 20 5 43 41 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 17 15 13 11 9 7 1 20 3 1 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 17 15 13 5 11 10 9 15 7 20 5 -5 5 3 1 0 -5 10 5 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 15 3 7 10 20 1 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 雑音 4 1 測定値 4 信号 1 単純移動平均と 2次3次多項式適合重みつき移動平均の比較 • 乱数の大きさを変化させて比較した例1 単純 5点 9点 13点 31 20 20 15 15 10 10 10 5 5 5 0 0 0 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 17 15 13 0 -5 -5 -10 -10 -5 -5 -5 -10 -10 -10 39 0 37 5 35 5 33 10 31 10 29 15 27 15 25 15 23 20 21 20 43 41 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 -10 19 -10 17 -5 17 -5 15 -10 7 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 4 1 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 重みつき 15 0 13 0 11 -5 13 5 11 5 9 0 9 10 7 10 7 5 5 15 4 15 3 1 10 5 20 1 43 41 39 37 35 33 31 29 27 25 23 21 19 17 15 13 11 9 7 5 20 3 15 1 20 3 20 4 20 11 -10 9 -5 7 0 1 5 5 10 3 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 1 15 1 49 46 43 40 37 34 31 28 25 22 19 16 13 10 7 雑音 4 1 測定値 4 信号 1 単純移動平均と 2次3次多項式適合重みつき移動平均の比較 • 乱数の大きさを変化させて比較した例2 単純 5点 9点 13点 32 重み係数の形による分類 • いろいろな移動平均を重みによって分類すると,例えば下 図のようになる. W(j) W(j) W(j) j 0 単純移動平均 j 0 2次3次多項式適合 0 j 擬似RCフィルター 33 演習 • 単純移動平均のアルゴリズムを使用して、重み付移動 平均のアルゴリズムを作成したい。 • どの部分を変更すると合理的か? • 変更部分を具体的に示せ。 34 単純移動平均の流れ図 • 以下に,単純移動平均の流れ図(フローチャート)の例を示す. N個のデータ NQ個(奇数)で平均 Begin End YES I=(NQ+1)/2 NO I>N-NQ/2 J=−NQ/2, SUM=0 I=I+1 SUM=SUM+DATA(I+J) J=J+1 NO J>NQ/2 YES SMOOTH(I)=SUM/NQ 35
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