米 国 大 学 図 書 館 に お け る オ ー ラ ル ヒ ス ト リ ー 収 集 の 現 在

─ 特 集
─
新しい
研究図書館を描
く
【学術情報の発信】
米国大学図書館における
オーラルヒストリー収集の現在
やロサンゼルスの歴史を記録する
ことを目的に、一九五九年より五
〇年以上活動を継続している。ア
フリカンアメリカンの歴史、アジ
アンアメリカンの歴史、ラテンア
メリカンの歴史、社会運動等、計
一九の主題に分類されたインタ
降、社会運動と連動したことによ
米国におけるオーラルヒスト
リ ー の 収 集 は、 一 九 六 〇 年 代 以
ンセント・ヴォイス図書館、ケン
大学図書館のG・ロバード・ヴィ
ストリーセンター、ミシガン州立
ル、主題、インタビューの受け手
)。 各 イ ン タ ビ ュ ー に
ucla.edu/
は、 ラ イ ブ ラ リ ア ン が、 タ イ ト
(
―UCLAの事例を中心に―
小林 磨理恵
ビューの音声と書き起こしはウェ
ブサイトで公開され、世界中から
本稿では、米国におけるオーラ
ルヒストリーの収集と公開の現在
り 飛 躍 的 に 拡 大 し た。 白 人 の エ
タッキー大学図書館のルイ・B・
( 以 下、 語 り 手 ) と 聞 き 手 の 氏
アクセスすることが可能である
を、主にカリフォルニア大学ロサ
リート男性を主体とした米国史に
ナ ン・ オ ー ラ ル ヒ ス ト リ ー セ ン
名、作成年などのメタデータを付
図書館のコロンビア・オーラルヒ
ンゼルス校(以下、UCLA)の
異議を唱える、声なき「普通の」
ター等が挙げられる。
その寄贈は、後にバンクロフト図
贈したのは一八六〇年代に遡る。
フォルニア大学バークレー校に寄
な人物への聞き取りを纏め、カリ
ロフトが、米国西海岸に住む様々
歴史は古く、歴史家のH・バンク
の進展に広く貢献してきた。その
任務を負い、地域研究や歴史研究
集・蓄積する点で歴史を記録する
は、 一 般 市 民 の 生 き た 経 験 を 収
米国の大学図書館におけるオー
ラルヒストリー収集の取り組み
●米国の大学図書館における
オーラ ル ヒ ス ト リ ー の 収 集
リージョナルオーラルヒストリー
例 え ば、 バ ン ク ロ フ ト 図 書 館 の
学図書館の事例も多く存在する。
ウェブサイト上で「発信」する大
タビューの音声と書き起こしを
イブズであった。今日では、イン
管理を担ったのは図書館やアーカ
し(トランスクリプト)の保存・
たカセットテープやその書き起こ
文 献 ① )。 イ ン タ ビ ュ ー を 録 音 し
ビューがさかんになされた(参考
運動の関係者に対するインタ
メリカン、また、女性運動や労働
ティブアメリカンやアフリカンア
ビューを通じて南カリフォルニア
UCLA図書館のOHRCは、
オーラルヒストリーのインタ
⑴OHRCの概要
づくものである。
ン・コリンズ氏への聞き取りに基
〇月に実施したOHRCのジェー
取り上げる。本節は二〇一三年一
を精力的に行うUCLAの事例を
の収集とウェブサイト上での公開
HRC)を設置し、インタビュー
ここでは、図書館にオーラルヒ
ストリー研究センター(以下、O
●UCLAの事例
た複数の語り手のインタビューの
よりも、同一のテーマに集められ
ることもある。他のインタビュー
し、インタビューをシリーズ化す
テーマに関係する人物を複数選定
こ と が 多 い。 あ る い は、 特 定 の
ずれかに精通した人物を選定する
語り手には、すでにあるインタ
ビューコレクションのテーマのい
⑵インタビューの実施
に関する情報を提供している。
ンタビューの状況説明を文書で掲
http://oralhistory.library.
事例から考察したい。
人に声を与える方策として、ネイ
書館と名付けられた同大学図書館
オフィスのほか、コロンビア大学
と関連しない単独のインタビュー
載し、インタビューの背景や文脈
与する。また、語り手の経歴やイ
の重要な所蔵資料となった。
アジ研ワールド・トレンド No.222(2014. 4)
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海外の実践に
みる
知の集積・発
信のいま
特集 新しい研究図書館を描く る。語り手の語る歴史の背景を把
物を聞き手として雇うこともあ
インタビューのテーマに詳しい人
聞き手は、OHRCのスタッフ
やUCLAの大学院生が担うが、
きい。
体系的に管理することの役割は大
ため、図書館等がインタビューを
価値が上がると考えられる。その
関連も明らかになり史料としての
に捉えやすく、インタビュー間の
方が、そのテーマの背景を多角的
⑶公開をめぐる問題
能な新たな方法である。
ある。デジタル録音だからこそ可
定の時点を選びやすくしたもので
る際、あるトピックが語られた特
て記述する方法で、録音を再生す
が語られた時(何分何秒)を加え
る。これは、語りの内容に、それ
タイムログを記録して公開してい
行われてきた書き起こしではなく
リーの記録方法として、伝統的に
校 図 書 館 で は、 オ ー ラ ル ヒ ス ト
る。その際も、複写は禁止してい
利用者の求めに応じて閲覧に供す
ビューの記録を紙媒体で保存し、
得 ら れ な い 場 合、 短 い イ ン タ
書き起こしの全文の公開に同意が
ブサイトで公開するか、あるいは
秘密にしたい箇所のみ除いてウェ
る。また、書き起こしについては
ウェブサイトでは非公開にしてい
サーバーにアップロードするが、
合、インタビューは保存のために
いことが少なからずある。その場
るという従来の図書館の機能が重
の制約を課したうえで利用に供す
験を蓄積していくためには、一定
を尊重しながら、個人の貴重な経
る。公開を望まない語り手の意思
用などといった問題も危惧され
ない人物によるインタビューの悪
意識的な語りの制限や、特定され
ることによる語り手自身の(無)
味し、広範囲への公開を前提とす
の人々の目と耳に触れることを意
は、すなわち世界中の不特定多数
保存箱に保管している。
一部を除き、大部分は複製せずに
ウェブサイトにアップロードした
の 音 声 記 録 は、 デ ジ タ ル 化 し て
セットテープに録音されたかつて
サーバーにアップロードする。カ
せ ず に、 カ リ フ ォ ル ニ ア 大 学 の
録は、CDなどの記憶媒体に複製
現在、インタビューの録音はI
Cレコーダーで行われる。録音記
RCはセミナーを実施している。
ビュースキルを養うために、OH
の 業 で あ る。 聞 き 手 の イ ン タ
示唆するように、ウェブサイトで
公開を認めるものがある。後者が
後」のように一定期間を経た後に
同意書には、語り手が、すぐに
公 開 を 認 め る も の と、「 自 分 の 死
手の同意を明確にする書面である。
ことを承諾することに対する語り
研究や教育等の目的に使用される
すること、また、インタビューが
をカリフォルニア大学理事に譲渡
ビューの著作権を含む全ての権利
る こ と で あ る。 こ れ は、 イ ン タ
ことへの同意書を、語り手から得
こしをウェブサイト上で公開する
インタビューの際重要になるの
が、インタビューの音声と書き起
サイトを利用した効果的な情報発
は、新たな局面を迎えた。ウェブ
ラルヒストリーと図書館との関係
無限の世界に転じたことで、オー
た)空間からウェブサイトという
インタビューを公開する場が、図
「 私 的 」 な 経 験 や「 私 情 」 を 含 む
そ の 発 信 を 強 く 意 識 し て い る。
ながら、インターネットを介した
積するという当初の目的を重視し
の 収 集 は、「 歴 史 の 声 」 を 集 め 蓄
UCLAの事例にも明らかなよ
うに、今日のオーラルヒストリー
●「私的情報」の発信
① Charlton, Thomas L., Lois
《参考文献》
重さを求められている。
れる一方で、発信すべき情報の整
2007.
and Methodology, Altamira,
Oral History: Foundations
Sharpless, eds., History of
E. Myers, and Rebecca
( こ ば や し ま り え / ア ジ ア 経 済 研
究所 図書館)
理とその見極めに、なお一層の慎
情報のグローバルな発信を期待さ
要になる。図書館は、多様な学術
他機関の試みとして、コロンビ
ア大学図書館は重要人物のインタ
の公開を前提としていても、イン
信の意義は指摘するまでもない。
るという。
ビューのビデオ撮影を、学内のス
タビュー後に語り手が公開に難色
しかし、ウェブサイト上での公開
握し、的確に質問することは至難
タジオで行っている。また、カリ
を示し、同意書に署名を得られな
書館の限られた(あるいは守られ
フォルニア州立大学ロングビーチ
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アジ研ワールド・トレンド No.222(2014. 4)