超音速流れを用いた液体の微粒化凍結技術の開発 - 福岡県工業技術

福岡県工業技術センター
研究報告 No.14(2004)
超音速流れを用いた液体の微粒化凍結技術の開発
周善寺 清隆*1
Development of Atomization and Freezing Technology
by Using Supersonic Airflows
Kiyotaka Shuzenji
液体の微粒化凍結機能を有する新規な超音速ノズルの開発を行うことを目的として,ノズル形状を特性曲線法により
解析し,求められた形状に加工製作したノズルの性能を実験により調べた。特性曲線法を用いることにより,設計マッ
ハ数,スロート高さ等の設計パラメータに対して,ノズルの輪郭形状を決定することが可能となった。また,設計にも
とづき製作したノズル内の流れ場を壁面圧力測定により評価した結果,設計条件に対して流れが適切に作り出されてい
ることが確認された。
1 はじめに
圧縮空気の断熱膨張により液体を微粒化する二流体ノ
ズルは,ボイラーおよび炉等の燃焼設備,水噴霧による
集塵,冷却設備,およびスキー場等の人工降雪機など,
噴霧を利用する様々な分野において広く利用されている。
いて,ノズル内流れ場を求めた。 特性曲線法の境界条件
として,ノズルスロート部の遷音速流れを求める必要が
あり,本解析では級数解2)を用いて得た。
軸対称流れの運動方程式は,特性曲線座標を用いて表
すと,
ノズルが液体を微粒化する性能は,一般に空気の流速に
∂
(ν − θ ) = sin µ sin θ
r
∂η
∂
(ν + θ ) = sin µ sin θ
r
∂ξ
依存するが,従来のノズルでは空気流速を音速以上とす
ることができなかったため,液体を十分に微粒化するこ
とができなかった。そこで本研究では,空気の流速が音
速以上,つまり超音速の流れを発生するノズル技術を開
発する。これにより,従来の二流体ノズルの微粒化性能
を向上させるとともに,断熱膨張により空気温度が低下
することを利用して,液滴の凍結機能を新規に付与する
ことができる。
(1)
これらの式には,r を通じて流れの場の形が入っている
ため,特性曲線の網を作りながら数値的に積分する必要
がある。図-1に,既知の点 1 及び点 2 から,未知の点
3 を解く典型的な網目要素を示す。
η
圧縮空気を適切に断熱膨張させ,液体を微粒化凍結す
(ν 1 ,θ1 )
るためには,ノズルの形状を適切に設計しなければなら
ないため,ノズル内流れ場を特性曲線法によって解析し,
3
∆ξ13
1
(ν 3 ,θ 3 )
ξ
∆η 23
輪郭形状を決定することとした。これによりノズル出口
(ν 2 ,θ 2 )
において,一様な軸方向流れを得ることができる。また,
2
解析により得られた形状となるようにノズルを製作し,
ノズル内の圧力測定を行うことにより流れ場の状態を調
図-1
特性曲線の網
べた。
また未知の点 3 を求める式は,(1)式から以下のように
2 解析方法および実験方法
2-1 特性曲線法
ノズルの輪郭形状を決定するために,特性曲線法1)を用
*1 機械電子研究所
表される。
(ν 3 − θ3 ) − (ν 2 − θ 2 ) = sin µ2 sin θ 2 ∆η23
r2
(ν 3 + θ3 ) − (ν 1 + θ1 ) = sin µ1 sin θ1 ∆ξ13
r1
(2)
福岡県工業技術センター
研究報告 No.14(2004)
ここで,プラントルマイヤー角 ν ,マッハ角 µ は以下
Compressor
のようである。
ν (M ) = ∫
µ = sin −1
M 2 −1
dM
1 + (γ − 1)M 2 / 2 M
1
M
Air dryer
(3)
Tank
(4)
Pressure regulator
式(3)に示されるように,ν はマッハ数の関数であり,
点 3 のマッハ数を知ることができる。また全温T0,音速
Valve
Vs,マッハ数M,流れ角θ ,比熱比 γ ,ガス定数Rから
静温T,流速V,Vx,Vy を求めることができる。
T=
Nozzle
T0
1 + (γ − 1)M 2 / 2
図-2 実験装置系統
Vs = γ RT
V = MVs
(5)
1.5
Vx = V cos θ
Vy = V sin θ
1.0
2-2 実験装置
ノズルの性能を確認する実験において,九州工業大学
R/R0
M1.0 M1.1 M1.2
0.5
Satellite Venture Business Laboratory (SVBL)の風洞
設備を利用した。実験装置系統を図-2に示す。コンプ
レッサにより圧縮された空気は,エアードライヤにより
0.0
-1.0
除湿された後,タンクに 0.8 MPa まで貯気される。この
タンク内の空気を,減圧弁により設定圧力に調整し,電
-0.5
0.0
0.5
1.0
Z/R 0
図-3
スロート部における等マッハ線
磁弁を開くことにより空気流れを作り出し,ノズルに導
入することが可能である。タンク内温度は熱電対により
は放物線の形をとり,M = 1.0 のマッハ線は,スロート
常時測定可能で,ノズルの壁面静圧を測定することによ
中央より幾分上流で交わることがわかる。本解析では,
り,流れの状態を把握,評価することができる。
図中に示されるM = 1.2 の等マッハ線を境界条件として,
特性曲線法による解析を行った。
3 結果と考察
3-1 ノズル形状
3-1-1 ノズルスロート部流れの解析
3-1-2 特性曲線法によるノズル内部流れの解析
図-4に特性曲線法による解析結果の一例として,軸
特性曲線法を用いてノズルの末広部の輪郭形状を決定
対称ノズルの末広部における特性曲線網と輪郭形状を示
するためには,境界条件が必要となるため,ノズル入口
す。設計条件として,スロート部直径 10 mm,出口マッ
条件としてスロート部におけるν および θ を求めておく
ハ数 3 とした。ノズルの輪郭は滑らかな線からなり,ノ
必要がある。そこでノズルスロート部の流れを,遷音速
ズル出口直径は約 20.6 mmであり,スロート部との断面
流微分方程式の簡略化と級数解の手法によって解析した
積比は 0.236 である。これは一次元定常流れの式から得
2,3)。解析結果として,図-3にスロート部における等マ
られる値と一致しており,解析結果が適切であることを
ッハ線を示す。軸方向距離Z,半径方向距離Rとして,そ
示している4)。
れぞれをスロートの半径R0 で無次元化している。音速線
福岡県工業技術センター
研究報告 No.14(2004)
20
R / mm
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
Z / mm
図-4
特性曲線網とノズル輪郭線(解析結果)
(a) 速度ベクトルとマッハ数分布
℃
(b) 温度分布
図-5
M3 ノズル内の流れ場(解析結果)
次に,特性曲線におけるプラントルマイヤー角ν およ
ており,出口付近では -150 ℃に達することがわかる。
び流れ角θ から,ノズル内流れ場の状態量について求め
た結果について図-5 (a),(b) に示す。図-5中の点は,
3-2 壁面静圧分布測定
特性曲線が交差する点であり,図-4に対応している。
3-2-1 マッハ数と圧力比
また図-5(b)は,全温を 27 ℃と仮定した場合の温度分
布を示している。
ノズルスロート部において,速度ベクトルの向きはほ
ぼ軸方向であり,その大きさは境界条件として与えた M
=1.2 である。これがノズルの末広形状により,半径方向
に傾き,速度が増加する。その後,ノズル出口部分にお
ノズルスロートと出口のマッハ数と圧力比には,一次
元定常流れの式から以下のような関係が成り立つ。
式(6)において,全圧P0,静圧Pであり,マッハ数Mに対
1
P
=
P0 ⎛ γ − 1 2 ⎞ γ /(γ −1)
M ⎟
⎜1 +
2
⎝
⎠
(6)
いては,速度ベクトルは軸方向に再び戻り,出口マッハ
数は設計の通り,M = 3 になっている。ここで,温度分
布に着目すれば,速度の増加により温度は急激に低下し
する圧力比P /P0を表 1 に示す。
表-1より,M = 1 において全圧P0の約半分まで圧力
福岡県工業技術センター
研究報告 No.14(2004)
が低下し,M = 3 では約 1/40 程度まで低下することがわ
P/P0 = 0.014/0.42 = 0.033 ( Z = 30 ) となっており,一次
かる。
元定常流れの理論により得られた表-1の結果とほぼ一
致している。したがって,今回作成した軸対称ノズル設
表-1
計プログラムを用いることで,任意の設計マッハ数のノ
マッハ数と圧力比
M
P/P0
ズルを製作可能であることがわかった。また,ノズル出
0.0
1.000
口は大気に開放されているため,一度末広部において膨
1.0
0.528
張し静圧が低下した後,再びノズル出口付近において,
1.5
0.272
大気圧まで徐々に静圧が回復していることがわかる。
2.0
0.128
2.5
0.058
3.0
0.027
4 まとめ
液体の微粒化および凍結機能を有する新規なノズル技
術の開発を目的として,特性曲線法による軸対称超音速
ノズルの設計プログラムを作成し,ノズルを試作,風洞
3-2-2 壁面静圧測定
解析により得られた形状となるようにノズルを製作し,
ノズル内の壁面圧力の測定を行うことにより流れ場の状
態を調べた。実験は,九州工業大学 Satellite Venture
Business Laboratory (SVBL)の風洞設備を利用して行
った。ノズル前の全圧は 0.42 MPa,タンク内温度は 約
30 ℃である。
図-6に設計マッハ数 1,2,3 の各ノズルによる壁面
静圧分布を示す。スロートからノズル出口までの長さは
130 mmであり,出口は大気に開放されている。M1 ノズ
ルにおいて,壁面静圧は出口に向かって,徐々に低下す
る 傾 向 に あ る 。 ノ ズ ル 出 口 に お い て , 圧 力 比 P/P0 =
0.23/0.42 = 0.55 ( Z = 120 )であり,表-1から音速M =
1 に漸近していることがわかる。
次にM2,M3 ノズルにおいて,ノズル膨張部によりZ =
0-40 において急激に圧力低下が生じており,M2 ノズ
ルでP/P0 = 0.056/0.42 = 0.13 ( Z = 30 ),M3 ノズルで
れた知見は以下のようである。
1) 軸対称超音速ノズルの外郭線を,特性曲線法により
求めることができた。
2) プラントルマイヤー角ν および流れ角θ からノズル
内のマッハ数分布および温度分布を求めることがで
きた。
3) 特性曲線法にもとづき設計試作されたノズルの壁面
静圧の測定結果は,一次元定常流れの理論と非常に
よく一致した。
以上より,任意の設計条件に対して,軸対称超音速ノ
ズルの設計及び製作が可能となった。
5 参考文献
1) Sauer: NACA Tech. Memo. 1147 (1949)
2) 木村逸郎:「ロケット工学」,p.148-152,養賢堂
0.4
M=1
M=2
M=3
0.3
壁面静圧 Pt / MPa
実験によりノズル内流れ場を調べた。本研究により得ら
(1993)
3) H. W. Liepmann and A. Roshko: Elements of
Gasdynamics (1960)
4) 久保田浪之介:「ロケット燃焼工学」,p.9-15,日刊
0.2
工業新聞社 (1995)
0.1
0.0
0
20
40
60
80
スロートからの距離 Z / mm
100
図-6 設計マッハ数と壁面静圧分布
120