滑動抑止シート付きケーソン岸壁の静的模型実験 - 土木学会

VI-318
土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)
滑動抑止シート付きケーソン岸壁の静的模型実験
五洋建設(株) 正会員 ○矢澤 岳 新明克洋 亀山和弘
中野正之 田村 保 水流正人
1.はじめに
180cm
近年の岸壁は,船舶の大型化や防災意識等の高まりに
ともなって大水深化,高耐震化の傾向にある.静穏域に
模型土槽
80cm
60cm
裏込石
建設されるケーソン式岸壁は,地震時の安定性からその
10cm
堤体諸元が決定される場合が多いが,大水深に対応可能
シート材
ケーソン
滑り出し
でかつ耐震性能を高めるためには,ケーソンの堤体幅を
傾ける
大きくせざるを得ない.
基礎捨石
そこで本研究では,滑動抑止効果を期待してケーソン
模型架台
背面側にシート材を取り付けた断面構造により,ケーソ
図1 模型実験の概要
ン堤体幅縮小の実現可能性を,気中における静的載荷実
験に基づき検討した.
表1 実験ケース
2.実験方法
図1に示すように,滑動抑止シート付きケーソンと裏込材の入
ケース
った模型土槽を傾斜させ,ケーソンの滑動破壊が生じるまで水平
Type-0
Type-A1
Type-A2
Type-B1
Type-B2
Type-C1
力を段階的に増加させた.計測項目は,模型傾斜角,ケーソン変
位,シート材に作用する引張力である.
ケーソン模型は実規模の 1/20 程度の縮尺を想定して幅 60cm,
高さ 80cm,奥行 60cm,重量 1960N とした.基礎捨石と裏込石に
取付位置
なし
下部
下部
上部
上部
上下
シート材
硬さ
長さ(cm)
-
-
軟
40
硬
40
軟
100
硬
80
軟
上 100+下 40
は単粒度砕石5号(粒径 13~20mm)を用いた.シート材につい
(Type-A)
いる中で,引張強度が大きいものを実規模へ適用するという仮定
裏込石
3
シート
で,相似則を考慮して,表2に示す特性値の繊維質シートを実験
に用いた.なお,シートの引張弾性率によってケーソンの挙動が
ケー
ソン
(Type-B)
変化することが予想されたため,2種類のシート材を準備した.
40
10
0
1: or
1. 8 0
2
シート
8
ては高強度,長期耐久ジオテキスタイル等の一般的に市販されて
表1および図2に示すように,シート材の取付位置や長さ,引
張弾性率をパラメータとした実験を行った.
(Type-C)
3.実験結果および考察
40
天端における地盤面と平行方向の変位(以下,ケーソン水平変位)
図2 実験ケース模式図
の関係を示す.図4には,ケーソンとシート材の取付
表2 材料物性値等
図3(a)を見ると,ケーソンにシート材を取り付けた
項 目
ケーソン底面の摩擦係数
シート材と砕石の摩擦係数
砕石の単位体積重量
砕石の内部摩擦角
場合(Type-A1,B1,C1)は,シートなしの場合(Type-0)よ
シート材の引張弾性率
傾斜角の関係を示す.それぞれ,図の(a)ではシート材
の取付位置による比較を,(b)ではシート材の硬さによ
る比較を示す.
り滑り出しの模型傾斜角が大きい.このことから,シ
0
シート
図3に,模型土槽の傾斜角(以下,模型傾斜角)と,ケーソン
部に作用した引張力(以下,シート引張力)と,模型
10
試験結果
μ= 0.4
(軟)μ= 1.2(シート両面)
γ= 13.2 kN/m3
φ= 約 40°
(軟) 49 N/60cm 幅/伸び%
(硬)490 N/60cm 幅/伸び%
キーワード:ケーソン,岸壁,補強土,滑動,模型実験
連絡先:五洋建設(株)〒112-8576 東京都文京区後楽 2-2-8,TEL:03-3817-7804,FAX:03-3817-7805
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ていることがわかる.また,シート材
4
の取付位置に着目すると,上下(TypeC1) > 下 部 (Type-A1) > 上 部 (Type-B1)
の順で,より大きな滑動抑止効果が発
揮されている.本実験装置では滑動破
5
上部シート(軟)
(Type-B1)
3
下部シート(軟)
(Type-A1)
ケーソン変位量(cm)
5
ケーソン変位量(cm)
ート材による滑動抑止効果が発揮され
シートなし
(Type-0)
2
1
上下シート(軟)
(Type-C1)
壊に限定した結果しか導くことができ
下部シート(軟)
(Type-A1)
3
下部シート(硬)
(Type-A2)
2
1
0
0
ないが,転倒や支持力の破壊モードが
4
0
5
卓越する条件では,ケーソン上部にシ
10 15 20 25
模型傾斜角(°)
30
0
35
5
10 15 20 25
模型傾斜角(°)
30
ート材を取り付けた方が,端し圧の低 (a)シート取付位置による比較 (b)シート硬さによる比較
減を図ることができるので,ケーソン
図3 模型傾斜角とケーソン天端水平変位
堤体の安定性向上が期待できると考え
500
1000
い も の (Type-A1) よ り 硬 い も の (TypeA2)の方が滑動抑止効果は大きい.ま
た図4(b)から,硬いシート材の方がよ
り大きな引張力,すなわち滑動抵抗力
が作用していることがわかる.これら
のことから,シート材の引張弾性率が
滑動抑止効果に大きな影響を与えるこ
とがわかる.
下部シート(軟)
(Type-A1)
400
シート引張力(N)
図3(b)を見ると,シート材は軟らか
300
上下シート(軟)
(Type-C1)
800
シート引張力(N)
られる.
上部シート(軟)
(Type-B1)
200
100
※)Type-C1は上部シートに
作用した引張力を示す
600
下部シート(硬)
(Type-A2)
400
下部シート(軟)
(Type-A1)
200
0
0
0
5
10 15 20 25
模型傾斜角(°)
30
35
0
5
10 15 20 25
模型傾斜角(°)
30
(a)シート取付位置による比較 (b)シート硬さによる比較
図4 模型傾斜角とシート引張力
図5は,ケーソン滑動時の模型傾斜
角とシート引張力の関係を示したものである.ここでは,ケーソ
ン天端水平変位が 3cm に達した時点を滑動破壊と判断して整理し
抑止効果が大きいと解釈できる.Type-C1 を除けば,ケーソン下
部に硬いシート材を取り付けた Type-A2 が,最も大きな滑動抑止
効果が発揮されている.
図5には,横軸に模型傾斜角から換算される水平震度も示す.
シートなしの場合は水平震度 0.17 で滑動破壊したのに対して,シ
ート材を取り付けた場合の滑動破壊の水平震度は 0.30~0.57 とな
る.模型縮尺や実験方法等を勘案すると一概にはいえることでは
ないが,ケーソン背面側にシート材を取り付けることでケーソン
岸壁の耐震性が飛躍的に向上し,ケーソン堤体幅の縮小化が図れ
る可能性があると考えられる.
滑り出し直前のシート引張力(N)
た.図5で右上にプロットされるほど,シート引張力による滑動
00
水平震度(換算値)
0.09
5 0.18
10 0.27
15 0.36
20 0.47
25 0.58
30 0.70
35
1000
※)Type-C1は上部シートに
作用した引張力を示す.
800
Type-0
Type-A1
Type-A2
Type-B1
Type-B2
Type-C1
600
400
200
0
0
5
10
15
20
25
30
滑り出しの模型傾斜角(°)
35
図5 滑動時の模型傾斜角とシート引張力
(ケーソン水平変位 3cm 時)
4.おわりに
シート材の取付位置,長さ,引張強度,引張弾性率などを実際の設計にどのように反映させるかといった課題
は残されたものの,ケーソン背面側にシート材を取り付けることによって,滑動抑止効果が発揮されることが確
認できた.引き続き振動台実験 1) を実施したので,そちらも参照されたい.今後もケーソンの堤体幅縮小に基づ
くコスト縮減を実現するため,残された課題を解決すべく研究を継続していく予定である.
参考文献
1) 水流正人,中野正之,矢澤岳,田村保,亀山和弘:滑動抑止シート付きケーソン岸壁の振動台実験(土木学会
第 57 回年次学術講演会投稿中)
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