新潟市西海岸の飛砂現象

新潟市西海岸の飛砂現象
新潟市西部の海岸では、毎年、冬季に起こる北西の季節風により砂が吹き飛ば
され、道路や家屋に対して飛砂害が発生している。飛砂現象は毎年変化し、気候
変動によりその量にもかなりの差が生じるが、飛砂の高さや風速との関係などにつ
いて観測と解析を行なった。
飛砂現象の調査地点および方法
1.
観測は、新潟市西海岸の関屋・小針・寺尾・内野の 4 地
点。汀線からの距離は関屋 65m 、小針 140m 、寺尾
85m 、内野 55m でいずれも汀線と国道 116 号バイパスに
挟まれた海岸内において行なった。
3.
飛砂採集における採集器は、鉄パイプに直径 4cm のエ
ンビ管を取りつけた自作のものを使用し、飛砂は 10cm ・
30cm ・ 60cm ・ 100cm ・ 150cm の高さに分けて採集した。
5.
観測時間は、風速計の平均風速が算出される時間にあ
わせて 10 分間を 1 回の測定とした。
7.
飛砂の観測は期間を通して、関屋 39 回、小針 32 回、寺
尾 33 回、内野 34 回、あわせて 138 回行なった。
気象条件と飛砂現象
の経時変化
飛砂発生時における気象条件
飛砂現象が起こった時には飛砂がなかった場合より気温が約 2℃ 低かった。
湿度はややばらつきがあるものの、飛砂が有った場合の方が湿度が平均約 6%
高かった。 気温が低く、湿度が高い状況は冬型の気圧配置時に起こり、これが飛砂の発
生に大きく関わっている。
平均風速と飛砂の関係
飛砂が発生するのは平均風速が 2m/s 以上の時であり
、それ以下で飛砂が発生したことは 1 度もなかった。
高度の低い 10cm では飛砂量は風速が増すにつれて指
数関数曲線を描いて増加していき、 30cm においてもほぼ
同じ傾向がみられた。しかし 60cm 以上の高さでは、風速
が増してもその規則性はあまりみられなくなった。
またこのような関係は、最大風速と各高度別飛砂量の関
係の場合も同じであった 。
最大風速と飛砂の関係
風向
飛砂の観測回数は 76 回、飛砂がなかったのは 65 回。
飛砂発生時の風向は、ほとんどが北西中心の方向で全体の約 41% であった。しかし南よりの風
で飛砂が観測された日もわずかにあった。
また飛砂が発生しなかった日は、南南西方向を中心とした風が一番多く 29% であった。飛砂は冬
型の天候による北西の季節風の影響を大きく受けている結果となった。
砂が動き始める時 ( 飛砂量 1g 以下の時 ) の平均風速は 4.3m/s で、このような風は 4 ヶ月間に全
時間の約 42% にあたる 1223 時間発生している。また大量の飛砂 ( 飛砂量 10g 以上 ) が発生する
13m/s 以上の風は全時間の約 11% にあたる 321 時間であった。飛砂が発生するような風は、西か
ら北西にかけての風が中心となる結果となった。
新潟砂丘の砂は移動している方向はおよそ西北西の風により東南東に向かって移動しており、
これは季節風の影響を大きく受けたことによる。
飛砂の高度別変化
飛砂を 5 つの高度 (10cm ・ 30cm ・ 60cm ・ 100cm ・ 150cm) に分けて採取した。
地表からの高度が低いほど飛砂量が多く、高くなるにつれて減っていく傾向がある。これは風速
が大きい場合にはっきりと現れるが、風速が弱い場合にはみられない。
また、高度が 60cm 以上では飛砂量に大きな差はみられず、むしろ逆転している場合もあった。
含水量が及ぼす影響
、観測の際に観測地点の表面の砂を採取し、 10g 当りの水分量を量って含
水量とした。
含水量が 0.2g 以下の範囲では採集される飛砂量も風速に応じて層状を
成し、規則性があるかのようにみえる。しかし含水量の増加と共に飛砂量
が一定に減少しているのは、風速が 5.0m/s 未満の時だけであり、 5.0 ~
6.9m/s では、減少幅にばらつきがみられ、 7.0m/s 以上では逆に飛砂量が
増えている。
含水量と飛砂量の関係については、風速が弱い時にはある程度の規則
性がみられるが、強くなるとその規則性は失われるようである。特に風速
8.5m/s 以上では、飛砂が発生しなかった日は 1 度もなかった。
粒度による地域的特性
関屋分水と新川に挟まれた 28 地点の表面の砂を
海側と陸側に分けて採取し、それを粒度分析し 。この
地域の表面の砂はほとんどが中粒砂 (2φ) と細粒砂
(3φ) から構成されている結果となった。平均粒径は
、海側・陸側による違いはあまりみられないものの、
新川に近い西の地点の粒度は細かく、関屋分水より
の東側地点の砂は粗いという傾向はみられた。
西の寺尾・内野では風速 4.5m/s 以下での飛砂の発
生する割合が 4~5 割であるのに対し、東の関屋・小針
では 2 割程度であった。
新潟市西部の砂丘地における前浜と後浜の関係
昭和 6 年の新潟市西部の地形図を使用して 7 地点の地形
断面図を作成した。
砂丘の形成が、前浜 ( 標高 0~5m) からの砂が飛砂とし
て後浜 ( 標高 5m 以上 ) を形成すると仮定し、前浜の長
さと後浜の断面積を求めた。
前浜の平均値は、約 359m で後浜の断面積は約
12728 ㎡であった。
冬期間の飛砂総量の推定
関屋分水から新川に至る地域の砂丘が形成されるまでにどのくらいの時間がかかったのかを推
定するために、ひと冬 (12 月 15 日 ~3 月 15 日 ) の総飛砂量を求めた。
平均風速 5m/s 以上でまとまった飛砂が発生し、その高さは地表から 60cm 以下が最も影響を与
えることから、横幅 1m 、高度 0 ~ 60cm における面を通過する飛砂のひと冬の総量を計算した。
総飛砂量の値は、関屋で総飛砂量約 27t 、体積にして約 17 m 3 という結果になった。また観測地
全体の総飛砂量の平均は約 21t で、体積にして約 14 m 3 となった。
この量の砂が幅1 m ・高さ 60cm の面を移動し、砂丘形成に寄与していると考えられる。
飛砂発生のさまざまな要因
1.
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7.
飛砂発生時の気象条件は、低温、高湿で、また北西の季節風の影響を大きく受ける。こ
れは冬型の気圧配置の出現と関係している。
しかし冬型でも、平野部に大雪をもたらす気象下(いわゆる里雪型)では、積雪により飛砂
は発生しない。むしろ山間部に大雪をもたらす時(山雪型)に飛砂が発生する。里雪型で
は、逆に飛砂量を減少させる効果がある。
風速が強まると飛砂量も増加し、地表からの高さが低いほど規則性が見られる。これは砂
の移動様式がもっぱら表面葡行( surface creep )もしくは跳躍( saltation )であることを示
している。高くなると規則性が無くなるのは、飛砂への影響力が風速のみでなく、含水量・
粒度・砂粒子の移動様式(浮遊 suspention) など、より多くの要因の複合により発生してい
るためであると思われる。
風速に大きく左右される低い高さの飛砂量こそが、飛砂害や砂丘形成に関わるものであ
る。これらの各高度と飛砂量との関係は、高度 30cm での飛砂量は 10cm の 10 分の 1 以
下、高度 60cm では 10cm の 100 分の 1 以下となり、高度 60cm 以上で取れる飛砂量の総
量に対する割合は極わずかである。したがって、地表から高さ 60cm 以下の飛砂量が重
要んことになる。
新潟市東海岸を調査した荒川 (1972) も、 30cm までに総飛砂量の 95 %が飛ぶという結果
を得ている。ただしこの法則が適用しうるのは、平均風速がおよそ 5.0m/s 以上の時であり
、高度と飛砂量が逆転するような弱い風速においては適用できない。
飛砂の含水量は、弱い風速下においてはその影響を顕著に示している。しかし風速が増
すにつれ、その影響は少なくなる。特に風速 8.5m/s 以上における飛砂の発生は、含水量
に関わらないという結果がえられた。やはり荒川 (1972) も同様の結果を得ており、さらに
降雨時でも 12.0m/s 以上では必ず飛砂が発生することを観測している。含水量は風速に
比べると影響は小さく、砂の移動は風速が強ければ必ず起こるのである。
飛砂の粒度も同様に弱い風速での影響はみられるものの、強い風速では関係ない。
新潟市西部の砂丘の形成時間
ひと冬の総飛砂量から、新潟市西部の砂丘地はどのくらいの時間をかけて形成されたかを推定す
る。
関屋付近の地形断面の面積は 8687.5m2 で、後浜は 8687.5 m 3 である。総飛砂量の体積 17m3 で
割ると、およそ 511 年という値が算出される。この値は、関屋の前浜の砂が飛んで後浜を形成する
のにかかった時間に相当する。
関屋分水から新川までの砂丘地の横断面の面積の平均値は約 12728m2 であった。これを飛砂が
埋めるためにかかる年数は、全体平均の総飛砂量の体積 14m3 で割って、およそ 909 年という値
が算出される。この値が、関屋分水から新川までの砂丘地を形成するのにかかった平均時間と考
えることができる。
したがって、関屋のような後浜の断面積の小さい場所で砂丘の形成はおよそ 500 年、全体ではお
よそ 900 年かかっており、 12 ~ 16 世紀より形成され始めたと推測される。
これは、新潟東港建設時に新砂丘Ⅲから室町時代の遺跡が出土したことから、これが 14 世紀後
半から形成され始めたとされていることとよく適合している。