株式会社 冨士鉄工所 - 大阪府工業協会

◇ 会員企業訪問 ◇
『誠実製作』をモットーに
技術立国日本に貢献する
㈱冨士鉄工所 代表取締役社長 山本 裕司 氏
大阪府工業協会の会員企業訪問。今月の連載で
の従業員数は6名程度で、まさに家族経営でし
は【株式会社 冨士鉄工所】をご紹介いたします。
た。そこから少しずつ従業員が増え、現在では25
同社の創業は昭和23年(1948年)
。今年で65年
名程度です。
目を迎える老舗企業です。同社が掲げる経営理
念、従業員への思い、今後の夢などを存分にお話
― 御社の取引先や業界の最新動向などにつ
いて教えてください
しいただきました。
当社は現在、180社ほどのお客様とお付き合い
させていただいております。さまざまなお客様と
お付き合いさせていただいて思うことは、毎年の
ように品物が少しずつ「変わりつつある」という
ことです。
変わりつつあるというのは、品物の形状が大幅
に変わるのではなく、例えば要求される材質が変
わったり、もちろん大きさも変わったりします。
そうかと思えば、前回よりも複雑な設計でより高
機能なスペックを要求してくるケースもあります。
これはどういうことかと言いますと、あくまで
山本 裕司 代表取締役社長
私の感覚ですが、コストを意識されて製品の仕様
をシンプルに変えていく企業と、より高機能・高
― はじめに会社概要と沿革について教えて
ください
性能な仕様を追求する企業との二極化が進んでい
るのではないかと思います。
当社は先代の社長、つまり私の父親が起こした
当社のスタンスとしましては、コストダウンに
会社で、創業当時はボルト・ナットなどのいわゆ
ついても、高機能化についても、どちらの要求に
る「鋲螺」を販売しておりました。
も応えられるように、お客様とじっくり話し合い
私は20代前半で入社し、それから鋲螺類だけで
ながら進めていくようにしています。
なく機械部品なども手掛けはじめ、今では機械部
品に特化した事業内容となっています。創業当時
商工振興・2013.11
― 競合他社と差別化を図っておられる点を
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教えてください
し、ITでの管理を徹底するのはもちろんです
当社の業界は日々熾烈な争いです。扱っている
が、それにもまして従業員には「品物を製作する
製品も非常に汎用性の高いもので、言ってしまえ
人間、品物を動かす人間が、自分の手で何度も触
ばどの企業でも手掛けるローテク製品です。
れなさい」と教えています。
しかしどの企業でもできるとはいえ、コストを
つまり、五感で品物の良し悪しが判断できるよ
抑えるというのはやはり並大抵のことではありま
うになりなさいと。そういう感覚を養うことで、
せん。
不良品を次工程に流さない、異常があればすぐに
そこで、あえて差別化を図っている点を挙げる
気がつくことができる、傷が浅いうちに対処する
とすれば、昔から会社の方針として『誠実製作』
ことができます。全ては自分の感覚を磨くことで
という言葉を大切にしています。コストだけで勝
解決することばかりです。
負する、品質だけで勝負するというのではなく、
とはいえ、製造工程内で不良を徹底してなくす
その品物の中に「気配り」や「思いやり」といっ
ようにしていますが、お客様の手元に届いてしま
た、ちょっとした作り手の気持ちを込めるように
う不良品や品物間違いがあります。不良をゼロに
しています。
する取り組みとして、毎朝前日に発生した不良品
なんといっても私たちが作るものはメイド・イ
の内容を発表させるようにしています。どの品物
ン・ジャパンですから、その気持ちを忘れること
で間違えたのか、どの工程で失敗したのか。全て
がないようにしています。
は目標とする『誠実製作』につながっていけば、
との思いからです。
同社の製品例①
同社の製品例②
― 多品種少量を実現する工夫などあれば教
えてください
さらに言えば、不良品が発生した時にどのよう
在庫管理、納期管理、欠品防止に関しましては、
な対応を取るかで、その会社の本質が分かりま
今の時代ですから全てITで管理しています。I
す。いかに素早く対応し、リカバリーを図れるか。
Tの導入に関して言えば、会社の規模から言うと
例えばお客様の会社の始業前に、玄関の前で作り
かなり早く導入したのではないでしょうか。しか
直した品物を持って立っていることができるかな
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商工振興・2013.11
ど、不良品が発生した時には、土日関係なく品物
教科書を使って勉強しています。毎日その教科書
の再製作をします。まずはお客様に迷惑をかけな
を使って一時間程度学んでいきます。現場で使う
い。本当の意味でお客様第一を貫くということを
さまざまな用語や製図に関するもの、5SやQC
心がけています。
な ど、 誰 に 教 え て も ら っ た わ け で は な い の で
すが、モノづくりとしての基礎の基礎を教えてい
― 若い従業員の方々に期待されていること
ます。
はありますか?
どれだけ基礎を教えても、本当にものづくりが
当社では従業員の世代の比率で見ますと、20代
好きかどうかはわかりませんが、そのなかで私が
の従業員が半分を超えています。若い社員にはな
一番重要視しているのは、その人間が「真面目か
かなか『誠実製作』という思いが伝わらないかも
どうか」を見ています。真面目さというのは何に
しれませんが、品物を製作していくうえで、モノ
もまして大切なものです。
「正直であること」、
「誠
づくりの面白さを感じてもらえれば良いなと思い
実であること」に勝るものは何一つありません。
ます。
真面目な人間は5年、10年経つと一気に成長しま
逆を言えば、モノづくりの面白さが分からなけ
す。そんな人材が集まってくれれば良いなと思い
れば、この仕事を続けていくことは難しいのかも
ますし、やはりモノづくりとは人づくりです。人
しれません。加工していくうちに品物の形が変わ
間が成長していかないと、良い品物ができないと
り、表面処理をすれば光沢を発する。もちろん作
思います。横着な人間にはモノづくりは務まりま
るだけでは意味がありません。どうすればお客様
せん。
の要望に応えていけるか、よりよい品物を作るに
そして技能伝承という面でいうと、なかなか難
はどうすれば良いかを思案する。今の若い人たち
しい面があります。ただ、さまざまな協力企業様
には試行錯誤を積み重ねて欲しいです。
そして、もうひとつ期待していることは、自分
たちが作っている品物はどの製品のどの部品にな
るのか、ということを意識して仕事をして欲しい
です。つねづね品物については説明しているので
すが、やはり実物を見る機会が少ない。営業であ
ればお客様のところへ行って打ち合わせしている
ので、ある程度は把握しているのですが、製造部
門の人間はそうはいかない。
なので実際の写真や製品を見てもらうようにし
ています。そうすることで仕事の効率があがる、
不良が減る、社員の意識も確実に変わっていき
ます。
― 社員教育について教えてください
当社では新入社員が入社すると、私が作成した
商工振興・2013.11
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品質を保証する検査工程
とお付き合いがありますので、非常に助けられて
従業員を職人に育てあげることは、中小企業の生
いる部分があります。緊急課題というところまで
命線でもあります。
はきておりませんが、解決すべき問題だと考えて
おります。
最後になりますが、私たちのような中小企業
は、町の灯火(ともしび)ではないかと思います。
そして地域に密着し社会と共生していく必要があ
― 製品の不良対策について教えてください
るとも思います。製造業だけに限ったことではな
人が作業するものですから、思い込みやヒュー
いのですが、大人が一生懸命になって働いている
マンエラーによってどうしても不良は発生しま
姿を子供たちに見せることは、非常に意味があ
す。不良ゼロにはなかなか到達しないのではない
り、一生懸命さというのはやっぱり子供たちに伝
か、というのが正直な感想です。
わると思います。
では、そこでどうするのか。必ずチェック機能
を設けてやることが重要だと思います。
この仕事を通じて地域と社会に、そして日本の
モノづくりに、これからも貢献していければと思
二人で検査をする、次工程の人間がもう一度図
います。
面を見直すという単純なことで、不良率というの
は一気にさがっていきます。
難しいことですが、やはり工程内での品質の作
り込みを徹底していかなければなりません。製品
の工程数で言いますと、平均して8~12工程ほど
あります。その全てで品質の作り込みの意識を徹
底していきます。
― 最後にモノづくりに対する思いや夢をお
聞かせください
最初にも申しあげましたように、当社の仕事は
ハイテクノロジーではありません。どちらかと言
えばローテクです。さらに独自の製品を持ってい
るわけでもありません。しかし旋盤にしても、溶
接にしても、製罐にしても、非常にノウハウのつ
まった仕事です。一朝一夕には伝承できないもの
なので、後継者がいないのが現状です。
人材育成についても少し申し上げましたが、後
継者問題・技能伝承についても積極的に取り組ん
でいきたいと思います。昔は職人が大勢いて、問
題はなかったのですが、これからはそうはいかな
いと思います。中小企業ともなるとこれらの問題
を解決するのは非常に難しいです。しかし、若い
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株式会社 冨士鉄工所
所 在 地:大阪市西区本田3-5-35
事業内容:ボルト・ナット・機械部品の製作、
販売
従業員数:25名
※このコーナーでは、会員事業所にご訪問さ
せていただき、インタビューをさせていただ
いたうえで、記事として掲載させていただい
ております。
取材をお受けいただける場合は、商工振興担
当までご連絡くださいますよう、お願い申し
あげます。
TEL:06-6251-1138
商工振興・2013.11