目指す - 東京証券取引所

記者会見要旨
日
場
会
見
斉
時:平成22年10月26日(火) 午後2時00分∼午後3時00分
所:東証 ARROWS プレゼンテーション・ステージ
者:代表執行役社長 斉 藤 惇
藤 こんにちは。本日は、まず東京証券取引所グループの平成 23 年3
月期第2四半期決算につきまして、ご説明します。お手元の資料を 1
枚おめくりいただきますと、第2四半期までの累計6カ月の連結損益
の状況について、前年同期と比較した数字を載せております。
まず「営業収益」に関しましては、株券の売買代金が前年同期より
も9%程減少したことで、
「取引参加料金」が前年同期比 7.3%、関連
します「証券決済関係収入」が 7.4%の減収となりました。また、前
年同期は、三井住友フィナンシャルグループや東芝などの規模が大き
い公募増資が相次いで行われましたので、上場関連の手数料が入って
いたのですが、今期は上場会社の公募等による資金調達額が前年同期
比で3割程度の減少となったことから、「上場関係収入」が 14.8%の
減収となりました。「情報関係収入」はリアルタイム個別端末台数の
増加などから前年同期比で 2.4%の増収、「その他」の営業収益では、
コロケーション利用料が増加したことから前年同期比で 3.5%の増収
となりました。営業収益全体では、前年同期に比べ 5.8%減少し、283
億円となりました。
他方、
「営業費用」に関しては、arrowhead の稼働にともない減価償
却費が増加したものの、人件費やシステム維持・運営費等が減少した
ことから、営業費用全体では、前年同期に比べて 2.0%減少し、218
億円となりました。
その結果、第2四半期は、「営業利益」では、前年同期比で 16.6%
減の 65 億 2000 万円、これにシンガポール取引所の株式からの配当収
入などを加減いたしました「経常利益」は、同 14.5%減の 73 億 5000
万円となり、「四半期純利益」は、昨年度は特別利益が発生していた
ので、前年同期比にしますと、経常利益よりももっと落ちて 21%減の
44 億 9000 万円となりました。
これが決算の概略です。
2つ目はご報告だけですけれども、今 Tdex+システムをオプション
に続いて、先物用にもアップデートしております。来年の今頃、ある
いはそれよりもちょっと早いかもしれませんが、Tdex+システムを活
用した先物取引が実現してきます。東証先物市場の利便性向上・活性
化を図る観点から、オプション取引で NYSE Liffe の協力を得て導入
した Tdex+システムを、先物にも活用していくということです。
そういうこともいろいろ準備していますので、先物・オプションの
営業のほうも強化していこうということで、来月1日から「Tdex+営
業推進室」を既存の派生商品部内に設置することにいたします。
これは、派生商品市場における当社の裾野拡大・流動性向上を目指
しまして、IT 部門や情報サービス部門、コロケーション推進部門とい
った関連部門と連携しながら、海外 HFT やネット証券を通じた個人投
資家――これも来年春、かなり入ってくる予定になっておりますが―
―などの新たな投資家層を獲得するための営業を推進してまいりま
す。
これに伴いまして、今までありました派生商品の新商品の上場に係
る企画・立案などを行っていた「新商品推進室」については、派生商
品部内の制度企画部門に統合し、その中で引き続き派生の新商品に係
る業務を行ってまいります。
3つ目は、ご報告ですが、10 月 10 日から 12 日にかけて、世界の
50 カ所以上の取引所のCEOが集まる国際取引所連合(WFE)の総会
や各種セッションが、50 周年ということで、スタートしたパリで開催
され、私も出席して参りました。
このごろいくつか国際会議に出ているのですが、話題は5月6日に
発生したアメリカのフラッシュ・クラッシュに関する証券取引委員会
(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の対応問題、それから今日は
あまりタッチしませんけれども、バーゼルⅢは本当に正しいのか、正
しくないのかという問題、あるいはドッド・フランク法そのものは正
しいのか、正しくないのかというような論議が、今、世界中、非常に
活発に行われているという実情です。この WFE 会議においても、ほと
んどこういう問題が論じられました。
フラッシュ・クラッシュというのは、5月6日の 14 時 40 分から 15
時までのわずか 20 分の間に、株価が急落・急騰するという異常事態
の過程において、アルゴリズム取引を駆使していた機関投資家、高速
取引を高頻度に行っていた HFT 業者、マーケットメーカー、裁定取引
業者といった市場参加者が、そのときどのような行動をとっていたの
かということを何万ページという分厚いレビューをワシントンはや
ったのですね。
アメリカはフラグメントされていますから、ニューヨーク証券取引
所だけではなくて、パブリック市場で 10、ダークプールで確か 30、
インターナル・ブローカー・トレーディングで 200 くらいありますか
ら、ものすごいドキュメンテーションを解読したわけですが、SEC 委
員長のシャピロさんがまとめたレポートを出しております。皆さんお
読みになっているかもしれません。
これは特定の投資家のアルゴリズム取引による先物市場における
大量の売り注文がきっかけです。ギリシャの問題等々が先に流れて、
先物市場が暴走したわけですけれども、これがきっかけで当初は買い
向かっていた HFT 等が買いポジション解消のために一斉に売り手に回
って、先物価格が暴落しました。そこで割安となった先物に着目した
裁定業者の先物買い・現物売りの裁定取引により、現物市場へもその
影響が波及し、現物株が暴落する。その中でマーケットメーカー等が
手を引いて流動性が枯渇する。そのために数十ドルしていた株が、わ
ずか1セントくらいになった株がたくさん出てきました。瞬間1セン
トをつけまして、そこから買い戻しが入りまして、暴騰するという場
面になりました。
これは、まさしく犬の尻尾が胴体振る、先物が現物を振り回すとい
う一番恐れていた現象が起きた。実体経済とはほとんど関係しないと
言うとおかしいのですけれども、関係はしているのでしょうけれども、
あまり意味の深いものではなくて、ほとんど投機状態で暴落、暴騰を
繰り返しました。
ワシントンを含め、世界でも、市場がこういうことになったら、も
う市場機能はだめだということで、学者先生方も何が起きたのだとい
うことを徹底的に解明したわけです。最初は、皆さんの報道にもあり
ましたけれども、
「HFT による取引や注文が実はフラッシュ・クラッシ
ュの原因ではないか」ということを先走って決めつけたような報告も
一部の新聞、雑誌にありました。しかし、よく調べてみると、実は HFT
はそれほど大きく関わっていなかったというのがシャピロさんのレ
ポートであったわけです。
フラッシュ・クラッシュは巨額の売りアルゴリズム取引を引き金と
したということは事実ですけれども、結局は投資家の投資行動が複合
的に集まった結果ということになっております。彼らはあまりフラグ
メンテーションを問題にしたような言葉を使っておりませんが、私は
過剰、異常なフラグメンテーション、市場外取引を拡大して、しかも
ルールを一本化していないということも問題だったと思います。全く
ばらばらのルールというか、実際はアドミニストレーションはしてい
なかったと思いますね。
そういうことで、市場間を同じ玉がスキップして歩く。ニューヨー
ク証券取引所はルールを持っていましたから、止めたわけですけれど
も、そうすると、止めていない取引所へオーダーが流れていく。とこ
ろが、止めていない取引所は流動性がないので、値段だけが暴落する、
あるいは暴騰するという現象が起こったわけです。
そういうふうな問題で、HFT については、いろいろ意見はあるので
すが、WFE のパリの会合においても、結論としては「HFT は流動性を
高め、ask・bid のスプレッドを縮小し、公正な価格形成を促進し、取
引コストを引き下げる肯定的な存在であり、高度な IT 技術を駆使し
た HFT をいたずらに規制することは証券市場全体のイノベーションを
阻害するもの」という合意をみんなで得た、そしてこれをお互いに認
識し合ったという結論になりました。
フラッシュ・クラッシュは、理由や実態がよく分からないまま株価
が急落するパニック的な状況を、米国特有の行き過ぎた市場分裂によ
る不透明性が助長したと私は思っております。したがって、会合でも
私は、日本では HFT をどれだけスピードアップしてもフラッシュ・ク
ラッシュは起きないという日本の取引手法のメカニズムを説明しま
した。アメリカも含めて、日本のルールを非常に感心して聞いていま
した。スピーチやパネルが終わった後、たくさんの人が寄ってきて、
東証はいつから例えば値幅制限を導入していたんだとか。我々は特別
気配という、売り注文がないところに買い注文だけが入ってきた場合
は、時間を制限して、5分くらい停止して、売り注文が出るまで待つ
とか、1つの板寄せですけれども、そういう制度を入れている。
非常におもしろいことですけれども、東証というのは長い間、規制
市場で、こういう市場は最も遅れた市場だと言われて、日本でも実際
あまり取引もしたことのない評論家が、東証は遅れているという言葉
だけ使って喜んでいた世界があるわけです。ところが、いろんなこと
がリーマン・ショック以降、あるいはその前後から起こってきたり、
その前の原因をいろいろ調べてみると、どうも野放図にただ好き勝手
にトレーダーにやらせていただけではないかという大反省に入って
いるわけです。
私どもは大体 20%前後の値幅で、前日のクロージング・プライスか
ら各銘柄を規制していますね。これがすばらしいアイデアだと外国の
皆さんが寄ってきました。それがこれで終わらないで、何日か前にあ
る外国メディアの有名な女性コメンテーターが、市場は規制すべきだ、
値幅制限は当たり前であるということを書いたり、格付機関の社長が、
何も現物市場だけではなくて、先物もオプションも全部値幅制限をす
べきであるということを書いていました。
私はいつも言っているのですけれども、取引所は決して賭場ではな
い。これは大きな資本主義経済の中に仕組まれたエンジンみたいなと
ころでありまして、流動性を保つという意味で、ある程度の投機性は
むしろあるべきだと思いますけれども、決して短期的投機の場として
もてあそんでいい場所ではないと思っております。
そういう話は、私はずっと世界中でいろいろなところでやっている
のですけれども、この東証が持ちます値幅制限、あるいは特別気配、
特に arrowhead を入れましたときに説明したと思いますけれども、連
続約定気配というのを我々は入れたわけです。値段が飛んだときには
機械が自動的に止まるような制度を入れています。こういうのを見て、
arrowhead のメカニズムをぜひ学びたいというようなアジアの諸国か
らの声も聞かれました。
我々は派手ではないのですけれども、地に足をつけたしっかりした
考え方をやっていけば、必ずいつかは尊敬をもって見られるときが来
ると思っております。特にこういうときにはワシントン筋も東京のル
ールというものに相当注目している。もちろん私は何が何でも規制し
ろと言っているわけではありません。秩序のある自由というのが一番
大事であって、規制がすべてではないということはもちろん当然であ
ります。
アメリカは個別株にサーキットブレーカーを入れましたね。その対
象を今どんどん広げていっておりますけれども、多分リミットアップ、
リミットダウンという値幅制限制度も検討されるのではないかと友
達からは聞いております。
HFT につきましても、一般の取引と同様、今後も適切な売買審査機
能を発揮していくのは当然ですけれども、やはり取引コストを下げて、
理論的には少なくともプライス・ディスカバリーの機能が高まるもの
は、私は大いに前向きに取り入れていきたいと思っております。
以上、WFE での雰囲気といいますか、ご報告をつけ加えておきます。
本日の説明は以上でございます。
記
斉
者
2∼3質問させてください。
1点は、決算を拝見しましたが、減収減益で苦しい決算だと思いま
す。マクロの経済環境もこういう状況ですのでお尋ねするのですけれ
ども、円高が進んでおりまして、先の政府の月例経済報告も景気判断
を下方修正いたしました。足元の社長の景気のご認識と今後の見通し、
それから現在、政府サイドに求められる政策的な対応等でお考えがあ
ったら、ご所見をお願いします。
藤 確か先回も申し上げたと思いますが、特に第1、第2クォーターに
比べまして、来るべき第3、第4クォーターの企業業績というのは、
ちょっと警戒型になってきております。それは言われるように、今ま
で導入しておりましたいろいろなエコカー減税やエコポイントなどの
景気刺激策というのですか、そういうものの時期が来て、予算がなく
なって終わったといったようなこともあったし、それから中国あたり
が金利を上げたり、少しバブルを抑えようとしているということ、ア
メリカも思ったほど健全な回復をしていないのではないかというよう
な見通しで、幾ばくかの警戒的な見方が増えていることは承知してい
ますが、やっぱり私はとどめは為替だと思います。
為替がもし 90 円くらいだったら、日本経済は今恐らく世界でドイツ
と同じように最もうまく行っているのではないかと思います。ドイツ
はなぜうまく行っているかというと、これは非常に皮肉なことですけ
れども、ギリシャ等々の影響でユーロが安くなった。その弱くなった
カレンシーを使って、うまく輸出ドライブをかけている。GDP の 35%
くらいが輸出ですからね。
いろいろ言いますけれども、日本は 16%くらいしか輸出はない。日
本というのは、それほど輸出依存国家ではないわけで、自虐的に日本
人が日本を批判していますけれども、正しい数字で認識すべきだと思
います。しかし、16%といえども、非常に利益性の高いものを稼いで
いるトップ企業が、いろいろな見方がありますけれども、20%とか、
15%のカレンシー・アップ・バリュエーション。
それに対して、競争相手である韓国が 30%、40%のデバリュエーシ
ョン。恐らく中国も実質的に計算すれば、多大なる介入をしているわ
けですけれども、数十%のデバリュエーション。ヨーロッパも、実際
の経済力から見ると、ユーロカレンシーもデバリュエーションされて
いる。もちろんドルに対してはアップ・バリュエーションになってお
り、一番デバリュエーションされているのは、実はドルだと私は思い
ます。
世の中というのは非常に皮肉で、一番デバリュエーションしている
というか、されているドルの国の代表がよその国に、おまえたちはカ
レンシー・デバリュエーションはやめようよというのがG20 ですから、
G20 が中で紛糾するのは当たり前ということです。もちろん賢いアメ
リカのことですから、為替介入なんていうことは当然やらない。ベー
シックマネーですから、為替介入はないわけですけれども。
ただ、何度もQE1、QE2として異常なくらいセントラル・バン
クのバランスシート――日本以外の中央銀行のバランスシートという
のは数倍にふくらんでいます。日本だけがふくらんでいないわけです。
アメリカがここのところずっとやってきたことは、マネーをじゃぶじ
ゃぶにして、中央銀行のお金、つまり国のお金を流しまくって、実質
ゼロ金利で、クオンティテーティブといいますか、量的な緩和も異常
にやって、アメリカの資産バリューを何とかしてインフレート化させ
ようとしているわけです。
それはもう放っておいたら、今でもフォアクロージャー、いわゆる
家を持っている人が担保流れといいますか、家賃が払えない、借りた
お金の金利が払えないということで、銀行が担保にとるということが
どんどん起こっている。ただ、銀行もとった担保を今度は売れないと
いうような状況でして、各ステートのバジェットも真っ赤っかになっ
ています。
したがって、警察官とか、学校の先生とか、消防士とか、いわゆる
地方公務員はすごい失業です。学校の先生なんかものすごいですよ。
イギリスでも 49 万人の公務員のクビを切るということをはっきり宣言
して、政府がやっている。どこも必死です。ただ、アメリカの場合は、
それやると、結局はドルがバリューを下げるという政策であることは、
明白です。言葉は使っていませんけれども。意図はしていないと言い
ますけれども、私は意図していると思います。
だって、一方では5年で輸出を倍にすると言っている。輸出を倍に
するということは、年間7%上昇して、10 年で倍ですから、5年で倍
ということは、年間 10%以上の輸出アクセルをかけるということを意
味しています。あの大国が世界に宣言しているわけですよ。毎年十数%
の勢いで輸出アクセルをかけますよと。その政策として、当然ドルを
弱くしているということは、明白です。
そういうことは、もう大人の世界といいますか、プロの世界では当
たり前のことになっているのに、実に日本は歯がゆい。私は直接介入
しろということはあまり言うつもりはありません。日銀ができること
はぎりぎりのところまでほとんどやっておられるだろうと思います。
何ぼゼロ金利、金融緩和をやっても、20 年やってきて、結局、GDP は
ゼロ・グロースです。
ということは、やっぱり構造を変えなければだめなんですよ。政府
の役割があるはずです。減税、規制緩和。シンガポールや香港や韓国
に負けないくらいのアグレッシブな外資導入だとか、医療の開放とか。
医療・介護というのならば、海外のお医者さんが日本に来て働いても
いいというふうなことをやるとかね。口先だけで医療だ、介護だと言
うのはおかしいわけです。実際そういう政策を打たなければ、この国
は反転しない。言葉だけが走っている。
こういうことをやっている限り、残念ながら我が取引所の出来高も
増えない。株というのは、上がるところにはカネは来るんですよ。取
引時間とか何かの問題でも何でもない。
現実にこの市場は、かつてはこのルールのまま世界一取引があった
んですよ。なぜなら世界一、東証は株が上がってたからです。私はア
メリカで日本株を売っていましたけれども、それこそジョージ・ソロ
スだろうが、何だろうが、必死で日本株の話を聞かせてくれ、どの銘
柄がいいんだ、今日何時にオフィスへ来てくれと、何回も言われて行
ったものですよ。
だけど、今 20 年間で 70%以上インデックス・ベースで株は下がっ
ている国が、具体的な刺激政策――刺激政策というよりも国としての
外国人が流れ込んでくるような対応策ですね。
例えば外国の人が丸の内からどれだけ出ていきましたか。シンガポ
ール政府は東京に来ている外資系企業に直接外交しているんですよ。
日本はだめだから、やめてシンガポールへ来いと。シンガポールの金
融庁長官が自ら外交している。その電話を受けたという人がいるので
すから。会社ごと来たら、従業員の子どもの学校まで、我々は全部ア
レンジします、あなたは所得税は払わなくていいですと。そういうこ
とまでやって勧誘している。
それがいいかどうかは別ですが、少なくとも全体のパイを大きくし
て、実をとるという政策。部分部分の手当では、経済政策は効かない
ということをみんなわかっているわけです。パイを大きくする。そし
てドリッピングして、大きな利益団体から恵まれない人たちへお金を
回すという、この政策をずっと香港も中国もシンガポールもやってき
て、成功しているわけです。
日本はそういうモデルチェンジをしないと、為替はなかなかこの領
域から出づらいといいますか、アメリカは恐らくQE2を本格的にや
ってくるでしょう。やってきたら、相当のインフレート政策ですよ。
資産インフレート政策ですから、経済理論的にはドルはデバリューす
るということですね。
そういうことで、本当の経済が悪いというよりも、はっきり言うと
日本人がみんなでそういう政治を選んでいるのだし、日本人全体の目
が覚めていないということではないんですか。同じような状況が 20 年
もたっているのですから。それで同じことを言っているんですよ。
20 年前、皆さんがお書きになった新聞とか、25 年前の新聞を見ても、
同じことを書いてありますよ。結局、言葉だけで制度は何も変わって
いない。変えたらいいのですよ。変えたら、業績も悪くない、株は割
安、PER で今 14∼15 倍ですか、PBR だと1を切っている企業ばっかり
上場しているのですから、私はお金は入ってくると思いますけれども
ね。
そういう感想です。
記
者
あと2つだけお願いします。
1つ目は、先ほど冒頭で、東証の仕組み・システムについて、見直
し、評価が国際的に進んでいるというお話のご披瀝がありました。今、
取引時間の延長等の議論が進められていると思いますが、現状どうい
う状況にあるのかということ、今後の見通しも含めてお願いします。
斉
藤 現状は、東証自身の決めた案は何もありません。昨日もメモを流し
たと思いますけれども、何らかの形を東証の案として提案していると
いうこともありません。何か決まったということを東証が発表したこ
ともありません。我々は、市場の参加者、つまりこの取引所の所有者、
株主がどういう意見、どういうのが一番いいとおっしゃっているのか
ということをずっと聞いている。
私が海外に行った使命の半分くらいは、HFT の人たちの意見を聞くと
いうことも一緒にやったわけですが、内容的にはいっぱい意見が分か
れています。HFT であっても、もちろん昼休みはおかしいと言う人もい
ますけれども、中にはそんなのは国の制度だから、あるいはおまえの
取引所の慣習だから、別に何でもいいよ、何時から何時までとか、そ
んなものは何もないと言う人もいるし、昼休みがあることは非常にい
いことだ、パラメーターを修正しやすい、市場とマッチングしていな
いなと思って、それが 14 時間、20 時間走っちゃうと困る、むしろ東証
の制度は非常にいいと言う人もいるし、いろいろですよ。
国内において、板寄せ時に大口のクロストレーディングを行ってい
る業者の方などは、昼の板寄せがなくなってしまった場合、東証でク
ロストレーディングができなくなってしまうので、取引所市場外で執
行するから東証なんかに来ないよと言う方もいらっしゃいます。昼休
みを閉鎖すれば流動性が上がるという論拠をもし皆さんがお持ちなら
見せていただきたい。そういうことを言葉で言う人はいますけれども、
1人もデータ的、科学的に見せた人はいません。板寄せを使って、大
取引が行われていて、板寄せの回数を減らせば流動性が減るというの
も日本の現実でもあるのです。
そういうこともあって、いろんな意見を聞いています。我々の予定
では 11 月 10 日に市場の運営委員の方々の意見をもう一回聞かせてい
ただく。1回なのか、2回なのかわかりませんけれども、一応 11 月 10
日に1回聞く予定であります。そして、皆さんも思っていらっしゃる
とおりでありまして、結論はどこかで出さなければいけませんが、前
から言っているとおりです。全然変わっていません。早くて 11 月末、
場合によっては 12 月になる。
取引時間を変えるというのは、そうたやすいことではないのですね。
みんなが使っているシステムを変えなければいけない。コストがかか
る。また、制度を変更することになると当然、金融庁との調整とか、
様々なことが絡むのです。だから、そう簡単なことではありません。
皆さんにお願いしたいのは、私ども経営者は株主から経営を委託され
ている人間であって、こういうことを最終的に決定する機関は株主、
つまり参加者が選んだ社外取締役を持ったボードメンバーで決裁する
のであって、利用者から経営を委託されている私が、こうあるべきだ
という決定はできないということは、株式会社理論上、東証がこうい
うことを一方的に決められるはずがない。プロセスというのがあるわ
けでありまして、我々はプロセスを踏んでいる最中であるということ
です。できれば、その辺のご理解をいただきたい。これが私の答えで
す。
記
者 最後に1問。従来の東証の表明していた経営計画では、早ければ今
年度の上場ということになっていたと思いますが、今年度中の上場の
可能性がまだ残っているのかどうか、社長のご所見をお願いします。
斉
藤 私の所見は、非常に難しくなったなということですね。というのは、
上場というのは、2010 年度以降、可及的速やかにという言葉を使わせ
ていただいているわけですが、2010 年度の決算が、ただいま報告しま
したように、もちろん赤字になることはないのですが、来年の3月で
閉めます数字も、去年の数字には及ばないのではないかなと。つまり、
そういうことになりますと、3年連続で業績が低迷している会社にな
ります。
東証に上場においでになる会社さんに対して、林理事長以下の自主
規制機関では、3 年連続して業績が低迷している会社がおいでになった
ら、少なくとも転換点を見てから来てくださいと言うのではないかと
思います。多分私どもがうちの上場審査部にデータを出したら、増収
増益になってから来てくださいと言うと思います。残念ですが、現実
的には今年度の作業は無理だなと思っています。
記
者 週末にシンガポール取引所がオーストラリア取引所を買収するとい
うようなニュースが出ましたけれども、これによって、東証のアジア
での競争力について何か変わることがあれば、どういうふうにお考え
か教えていただけますか。
あともう1つ、先ほどの IPO の件ですが、今年度難しいということ
ですけれども、早くていつごろを目指すというような考えがあればお
願いします。
斉
藤 SGX、ASX については、皆さんは自ら報道なさっているかもしれませ
んが、私も新聞でしか知らなくて、しかも週末は国際会議に行ってい
たものですから、日曜日に知ったという状況です。
戦略的な絵図を考えていくうえでは、1つのいい機会になったかな
というのはあります。ただ、報道されるように、もう既にオーストラ
リアで議員が2人、強く反対を表明しています。それから、オースト
ラリアにも 15%の一人株主の保有制限というのがあって、案ではどう
も SGX が 100%保有するということですね。英語では「合併」という言
葉を使っておられますけれども、実質的な内容はテイク・オーバー・
ビッドです。
オーストラリアの取引所の社長さんは、非常にインターナショナ
ル・マインドなのだろうと思います。ただ、あそこは役所だけではな
くて、確か 15%ルールについては、国会とか、いろんなところの承認
を通っていかなければいけない。オーストラリアは、今数名で右にで
も左にでも移るようなポリティカル・ピクチャーですから、あれが実
現するだろうと言う人もいるし、かなりの人は実現しないだろうと言
っているし、ビジネスモデルも無視したような暴走であるというよう
な評論もあるし、シンガポール側の株主も、何でこんなことをするん
だと言っている人もいる。オーストラリアは 40%くらいプレミアムを
つけているのですが、それでもオーストラリアの人は、反対意見も強
いようです。
SGX の大株主は1番目は 24%くらい持っているシンガポール政府そ
のものですけれども、我々は 4.9%持っており、2番目に大株主なのに、
何の相談もありませんでした。5%以下ですから、やむを得ないと言
えばやむを得ないのですが、現在伝わっている内容で統合されれば保
有比率は 3.1%くらいになってしまいます。大ダイリューションです。
我々はただただバリューが下がるだけでありまして、私としては非常
におもしろくない話です。
しかし、さっき言いましたように、頭の中ではいろいろあったけれ
ども、行動をとるということが起こったかということで、ヒントを与
えられる。当然、皆さんも含めて、国内外を含んだ論争が今から始ま
るのだろうなと。あの図は非常にダイナミックな、OMX という機械をベ
ースとした流れですね。あれがもし認められれば、もっと大きい流れ
になっていくだろうと私は思います。
東証としても、様々なことを考えなければいけない。今、何を考え
ているかというのはありません。ただ、決してクールに、外側から傍
観しているつもりはない。やっぱり様々なことを考えたいとは思いま
す。
IPO がいつかというのは、約束どおり、条件が整えば、すぐやります
よ。上場というのは、どこの数字を使うかというのがあります。例え
ば今年の9月、来年の3月、来年の9月、再来年の3月とこうなって
いく。大体3月が決算ですから、本当は3月、もし来年の3月が使え
なければ、再来年の3月の数字が見られるか見られないか、どこから
見えてくるか。来年の 11 月ごろになってくると見えてくるか。あるい
は 12 月を超えたら見えてくるか。その辺で感じが変わってくるだろう
と思います。
やっぱり増収増益という絵がちゃんと出ないと、ちょっとどうでし
ょうね。減収減益が続いている限りは、難しいのではいうことです。
記
者 SGX と ASX の合併の件ですけれども、先ほどの社長のお話ですと、お
もしろくない話とおっしゃっていましたが、これはシンガポール取引
所の株主として、この合併には反対の意向であるという解釈でよろし
いでしょうか。
斉
藤 まず金銭的にうちは損するんですよね。シンガポール側は、株はも
う現実に下がりました。オーストラリア側は確か 16%くらい上がった
のですか。40%くらいプレミアムをつけているのですからね。それで
もいかに人気がないディールか。40%プレミアムをつけてビッドをか
けたのに、16%しか株が上がっていない。それから全然上がらないの
ですよ。
ということは、このディールをオーストラリアの人は実に冷やかに
見ているという証拠ですね。40%も高く売れる株を持っている市場で
すら、あまりポジティブに反応していない。ましてや、シンガポール
の株主、24%持っている国もダイリューションで損するわけです。1
株当たり利益も下がるし。
私としては、そのままいけば、4.9%が 3.1%くらいになりますから、
それはまずおもしろくないですね。金銭的に何億かの損になります。
評価損ですけれどもね。その後、ものすごく成功して、新しい取引所
が高収益となれば別ですが。もちろん向こうの社長さんは、既存の株
主にはちゃんと株が上がるように、一生懸命頑張るよとはおっしゃっ
ているんだけれども、いろんなアナリストが評価しているように、必
ずしも株が上がるモデルではないです。
シンガポールというのは、もともと先物市場ですね。現株の取引時
価総額は本当に小さいわけです。
それに対して、オーストラリアというのは、先物がないわけではあ
りませんが、どちらかというと、当社みたいな完全な現物市場で、し
かも 900 社も世界を代表するようなマイニングが上場されている。そ
うすると、今からインフレが来るかもしれないような時代、こういう
ときに大変な財産の株だと思います。オーストラリア人の人たち、あ
るいは国会の先生方から見ると――あの図を見る限りですが、副会長
くらいに一部オーストラリアの方を入れて、シンガポールの方がみん
な社長など重要な役職を占めているわけですよね。。なかなかそう簡単
にいくディールとは思わない。
我々にとって2つの意味があります。1つは、はっきり私どもの財
布が評価上少し痛むという問題と、もう1つは、そういう市場ができ
て、先物市場としては、現物を持った巨大でグローバルな大阪市場が
もう1つできるような感じになるのですね。それは正直言いますと、
ストラテジカルには「強敵あらわる」ですよ。
先ほど言いますように、東証は基本的には、我々の先物・オプショ
ンというのは今ずっと積み上がってきています。取引の単位として、
TOPIX のオプションというのは、我々が思っていたよりもずっと出てき
ました。今回は JGB の先物も前年同期比で 15%くらい伸びてきていま
すし、東証のデリバティブは伸び始めたんですよ。したがって、我々
はかなり総合取引所としできるようになってきている。
そういう意味で、次の戦略をいろいろ考えなければいけないのです
けれども、これは私のほうから大喜びする案ではないですが、刺激に
なると言ったほうがいいですかね。
記
者 大株主として、反対という立場でよろしいのでしょうか。この回答
はいかがですか。
斉
藤 人のところのディールに反対と、仁王立ちになるつもりはありませ
んが、向こうから電話してきた際に、たまたま私が重要な会議中だっ
たものですから、出られなかったということもあるのですけれども、
向こうのベッカーCEO と話していないのですよ。本来は2番手の大株主
ですから、お話もあっていいのではないかなという慣習上の違和感も
ありますね。よく話も聞いてみますけれども。
ただ、もうはっきりしているのは、現行の案のまま実行することに
なると、私どもは大ダイリューションで財産上は大変損をするという
ことです。
記
者 改めて円高のことをお伺いしたいのですが、史上最高値の 79 円台に
迫っている今の状況を率直にどう受けとめられているかということと、
また、企業業績への影響は、非常に懸念されると思いますけれども、
その点、もう一度お願いします。
斉
藤 まず企業業績は、よくソニーさんやトヨタさんが1ドルでいくら損
が出ると。これは明らかに間違いなくネガティブなインパクトが大き
い。
今、何をやればいいかということを考えると、ドルに変えればいい
わけですよね。ドルを買えばいいわけでしょう。だから、ドル決済の
ものをばんばん買いまくればいいんですね。私が政府にお願いしたい
のは、今、お金を持っている人は、海外の、あるいは国内でもいいん
ですが、ドル決済で物を買いまくりなさい、その人に対しては、例え
ば税のメリットを与えますとか、むしろ促進するんですよ。
直接カレンシー・マーケットで介入するのはけしからんとかと言っ
ているわけでしょう。それはしなくて、かつてアメリカがやったよう
に、日本は強くなった通貨で、アメリカの工場だろうが、中国はドル
決済するかどうか知りませんけれども、ドル決済をする国、オースト
ラリアの山とか、将来を見越してありとあらゆるものを買えばいいの
ではないでしょうか。我々がバブルのときに、アメリカのゴルフ場や
ビルを私自身も随分買いました。ピークで買って、どん底で売るとい
うばかなことをやったわけですけれども、あの勢いはすごかったんで
すよ。金の山から何から、海外のあらゆる財産を買いに行った。なぜ
今それをやらないのか。
それをやるためには、やれやれと言うだけではやらないから、政府
がやることは、そういう人たちにはインセンティブを与えるというこ
とでしょうね。そして、そういう政策が決まった途端に、ドル・円関
係は逆転すると思いますよ。これは明らかにドルのショート・セラー
がかなり入っているのですから。
年末に向かいますと、一応ブックを1回整理しますから、そこでは
ドルの買い戻しが入るわけで、年末に向かって、一たんドルは上がる
と私は思います。今のままでは大して上がらないけれども。だけど、
そういうタイミングを見て、ぜひ現政府の方々や、政策担当者は、ド
ル決済でどんどん物を買いなさい、何でもいいですと。そういう人た
ちには消費税がかからないとか、いろいろあると思いますけれども、
何か特別のことをやったら、買いますよ。要するにドルを買えばどっ
かでドルが上がるのですから。
記
者 そういった意味では、マーケットへの影響という点で、特に東京市
場の株価というのは、ほかの先進国と比べても、年初来高値を更新し
ているような各国と比べて、非常に低い水準でとどまっていると思い
ます。その点についてはどうお考えですか。
斉
藤 全くそうですね。MSCI ベースで見て、マイナス 2.7%くらいは日本
だけですか。ほとんど7%から5%の間で上がっていますね。これは
やっぱり通貨ではないでしょうか。アナリストは株価の将来、企業の
将来の利益を見ますから、この通貨は厳しいだろうなと分析していて、
恐らく積極的なところは日本株の売り推奨をやっているのでしょうね。
そして入れ換えなさいと。
むしろアメリカ株なんかは、アメリカの経済自体は必ずしも健康体
ではないのですけれども、とっている政策が非常に明確なうえに、刺
激的なんですよね。どんどん助成金といったものをくっつけていくし、
出口政策と言っていたのを一切もうやめた、出口はしばらくはないと
言ったし、これは株はいいなと思っているんです。だから、アメリカ
の株はずっと連続的に上がっているんじゃないですか。
企業体、あるいは金融機関の健全性から言ったら、日本のほうがは
るかに健全ですよ。結局、政策の差で、これだけ株価の動きの差が出
ている。非常に残念だと思いますね。
記
者
よろしくお願いします。
冒頭のお話ですが、日本はモデルチェンジしないと、為替はこの領
域から出づらいとおっしゃった意味をもう少し具体的に教えていただ
けますか。結局、今のドル安を前提に、日本も産業構造を変えていく
必要があると、そういうことまで含まれているのか。具体的にはどう
いう意味なのか教えてください。
斉
藤 輸出依存度を下げろという人が非常に多いのだけれども、16%が 12
∼13%になってもいいが、資源も何もない国がそれ以下に輸出を落と
す必要は全くない。むしろいろいろなハイテクだとか、新しい電気自
動車だとか、薬とか、そういうので輸出をどんどん伸ばすべきだと思
います。
今、やっぱり社会全体に非効率的な部分が非常に隠れているわけで
すよ。一番の基本は、お金というのは企業しか生まないのですよ。い
くら多くの介護施設を作っても、お金は生まないのです。そこの企業
体としての利益はともかくとして、本当に国家にお金を生むのは企業
だけ。日本がここまで来たのは、輸出企業や、企業が中心になって、
企業が税金を払い、給料を払い、お金をクリエートした。そのクリエ
ーターをエンカレッジすると言っておいて、ちっとも実際エンカレッ
ジしませんよね。
5%企業減税だというならば、第1番目にこの国会でやればいいん
ですよ。そのジェスチャーだけでも違う。例えば、デフレ 20 年ですか
ら、私どもはデフレ 20 年を止めます、その第1策として、実は 15%く
らい下げたいけれども、それは急だから、5%下げると。まず第1案
は、今回の選挙は5%カットです、どうですかと言って、攻めればい
いんですよ。口だけで全然法案にもなって出てこないじゃないですか。
そういうことがやっぱり円をだらだら強くしていっている。
アメリカは、実体はもっと悪いのに、行動のほうがむしろ先を行く
くらい。バーナンキ議長自身もそうですけれども、当然、バーナンキ
議長があれだけアクションをとられる後ろには、財務省や政府がサポ
ートしているはずです。それでも、オバマさんはもうだめだとアメリ
カ人は言っているわけですね。非常に評判が悪いのですけれども、あ
れでも、同じように彼は口先だけだと言われているのですよ。だけど、
日本に比べれば、随分いろいろアクションをとっていると私は思いま
す。
11 月2日を過ぎたら、相当難しい政治情勢にはなるけれども、一応
このがたがたは終わって、2番底というのは避けられるだろうと思い
ます。しかし、アメリカの経済自体は非常にきつい。
そこで私は、円が強いのをフルに国民を挙げて利用しようと。旅行
もいい。旅行も決して悪くないんですよ。韓国のウォンを買ったり、
元を買ったり、ドルを買ったりするのですから、それはそれでいいの
です。決済をドルでやるということをすると、自然に円は弱くなる。
使いすぎるくらい使うということが大事なのだろうと思います。
以
上