様式 C19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 23 年 6 月 16 日現在 機関番号:32612 研究種目:基盤研究(C) 研究期間:2008∼2010 課題番号:20590809 研究課題名(和文) 消化器癌における癌幹細胞の同定、分離および生物学的特性の解析 研究課題名(英文) Analysis of biological characteristic features in cancer stem cell in digestive organs 研究代表者 樋口 肇 (HIGUCHI HAJIME) 慶應義塾大学・医学部・助教 研究者番号:20306682 研究成果の概要(和文) : 消化器癌細胞株あるいは臨床検体由来の細胞を用い、癌幹細胞分画を分離し、腫瘍形成能、コロ ニー形成能、薬剤耐性、転移形成能、浸潤能において、高い能力を有することを明らかにした。 とくに、膵癌幹細胞の転移、浸潤、EMTは、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)と の共培養により強く誘導されることを見出した。癌根治のため、あるいは癌進展抑制のための治 療戦略として、癌幹細胞あるいは間葉系細胞を標的とした治療の重要性が示唆された。 研究成果の概要(英文) : Cancer related materials, i.e., cell lines, endoscopic biopthy specimen, or, surgically resected specimen, were analyzed for; i) expression of cancer stem cell markers, ii) tumor formation, iii) colony forming activity, iv) drugresistance, and v) potentials for local invasion and metastasis. Our results suggest that side population (SP) cells isolated from pancreatic cancer have some cancer stem celllike properties; i) high tumorigenic/colony forming activity, ii) resistance to some chemotherapeutic drugs as well as apoptosisinducing molecules such as TRAIL, iii) high metstatic potential, and iv) enhanced capability to undergo epithelialtomesenchymal transition (EMT) and invasion. In hepatocellular carcinoma, CD133positive side population cells were highly tumorigenic and chemotherapyresistant. These cancer stem celllike features were enhanced by coculturing with bone marrowderived mesenchymal stem cells (MSCs) and/or MSCderived myofibroblastlike cells, suggesting MSCs provide microenvironment socalled cancer stem cell niche to maintain stem cell phenotype in cancer derived SP cells. These results suggest that SP cells would be a therapeutic tagrget, especially to prevent cancer sten cell invasion and metastasis. Mesenchymal cellderived microenvironment would be another terapeutic target to regulate cancer stem cell maintenance. 交付決定額 (金額単位:円) 2008 年度 2009 年度 2010 年度 総 計 直接経費 1,400,000 1,100,000 1,000,000 3,500,000 間接経費 420,000 330,000 300,000 1,050,000 合 計 1,820,000 1,430,000 1,300,000 4,550,000 研究分野:消化器癌、化学療法、癌幹細胞 科研費の分科・細目:内科系臨床医学・消化器内科学 キーワード:癌幹細胞、epithelial-to-mesenchymal transition、apoptosis, mesenchymal stem cell 1. 研究開始当初の背景 肝転移モデル) 、④浸潤能(matrigel による 癌幹細胞は、高い腫瘍形成能と増殖のポテ invasion assay) 、⑤EMT(主として TGFb添 ンシャルを有する一方、非幹細胞へと分化す 加による Ecadherin, snail, slug, vimentin る能力を持ち、癌の進展に寄与する。非幹細 などの変化)、⑥薬剤によるアポトーシス感 胞は、一定の増殖能を持つもののそのポテン 受性、を評価した。また、SP 細胞をヒト骨髄 シャルは有限で、幹細胞を持たない細胞集団 由来間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, は腫瘍を形成することが出来ないとされて MSC)と共培養し、癌幹細胞マーカー(主と いる。また、癌幹細胞は多くの抗癌剤に対し して CD133)の発現レベル、EMT、ならびに腫 て抵抗性であり、腫瘍の再発や転移に関与す 瘍形成能を検討した。 ると想定されている。しかしながら、癌幹細 胞の生物学的特性に関してはいまだ解明す べき問題が多く、とくに、転移・再発におけ 4. 研究成果 膵 癌 細 胞 に おい て は、side population る癌幹細胞の役割や抗癌剤抵抗性の分子学 (SP)細 胞 が 非 S P 細胞 と 比 較し て 、 ①腫 的機序に関しては、不明な点が多い。 瘍 形 成 能 及び コ ロ ニー 形 成 能が 高 い こと 、 ② 抗 が ん 剤 ( 5-fluorouracil, 2. 研究の目的 本申請研究の目的は、消化器癌における癌 幹細胞を同定、分離培養し、その生物学的特 性を解析することである。癌幹細胞における アポトーシス抵抗性、腫瘍形成能、転移・浸 潤能を解析し、治療標的細胞としての癌幹細 cisplatin)あ る いは ア ポト ー シス 誘 導分 子 ( tumor necrosis factor-related apoptosis inducing ligand, TRAIL) に 対 す る 抵抗 性 が高 い こと 、③ in vivo転 移 モ デ ル に お け る 転 移 能 及 び in vitro invasion assayに お け る 浸 潤能 が 高 いこ と( 図 1)、④ 転 移浸 潤 の過 程 にお い て重 胞の意義を明らかにする。癌幹細胞のアポト 要 な プ ロ セ スで あ る EMT誘 導 刺 激 ( TGF-b ーシス抵抗性機構ならびに癌幹細胞の維持 ) に 対 す る反 応 性 が高 い こ とを 明 ら かに 機構を解析し、将来的に癌幹し癌幹細胞を標 し 、 報 告し た 。 的とした分子標的治療を構築することを目 的とする。 3. 研究の方法 ヒト消化器癌細胞株(胃癌、大腸癌、膵癌、 肝細胞癌)ならびに、臨床検体由来の培養細 胞(胃癌、大腸癌、膵癌)を用い、癌幹細胞 の分離培養を試みた。癌幹細胞の同定・分離 法は、side population (SP)法、表面マーカ ー(CD133, CD44, CD24, など)を主として 用いた。癌幹細胞分画が得られた場合は、 FACS にて分離し、①腫瘍形成能、②コロニー /sphere 形成能、③転移能(脾臓局注による 肝 癌 細 胞 に おい て は 、既 存 の 癌幹 細 胞 マ ー カ ー で あ る CD133陽 性 細 胞 の 分 画 中 に SP細 胞 と 非 SP細 胞 が 存 在 する こ と を見 出 し 、CD133陽 性 細胞 群 の中 で も SP細 胞の み が 高 い コロ ニ ー 形成 能 や 腫瘍 形 成 能を 能 お よ び 分化 能 を 有し 、 ア ポト ー シ ス抵 も つ 癌 幹 細胞 分 画 であ る こ とを 明 ら かに 抗 性 を 有 する た め 腫瘍 の 再 発に 大 き な役 し た( 2010年 , American Association for 割 を 果 た す。 本 研 究の 結 果 によ り 、 遠隔 Cancer Research, AACR, annual meeting 転 移 や 局 所浸 潤 に おい て も 癌幹 細 胞 が重 に て 発 表)。 要 な 役 割 を果 た す こと が 示 唆さ れ た 。ま 上 記 の 他 に 、幹 細 胞 分離 ・ 同 定法 と し た 、癌幹 細胞 の 転移 、浸 潤、EMTに は 、間 て 幹 細 胞 特異 的 シ グナ ル に 着目 し 、 幹細 葉 系 細 胞 由来 の 因 子が 重 要 であ る こ とが 胞 さ ら に、胃 癌、膵 癌に お いて 、stem cell 示 さ れ た 。癌 根 治 のた め 、 ある い は 癌進 geneで あ る Nanogの promoter依 存 性 に GFP 展 抑 制 の ため の 治 療戦 略 と して 、 癌 幹細 を 発 現 す るレ ポ ー ター 遺 伝 子導 入 細 胞を 胞 あ る い は間 葉 系 細胞 を 標 的と し た 治療 作 製 、膵癌 に おい て は Notchシ グ ナ ル 依存 の 重 要 性が 示 唆さ れ た。 性 に 改 変型 GFP( dVenus)を 発 現す る レポ ー タ ー 遺 伝子 を 導 入し た 細 胞を 作 製 し、 Nanogあ る い は Notchを 発 現 する 細 胞 分画 は 高 い sphere形 成 能 を 有 す るこ と を 見出 し た ( 2009年 , AACR annual meetingに て 発 表 )。 さ ら に、 大腸 癌 細胞 、膵 癌 細胞 を 用 い 、抗 癌 剤( 5-FU, gemcitabineな ど ) の 短 時 間投 与 に よる 細 胞 選択 を 行 い、 薬 剤 性 ア ポト ー シ ス抵 抗 性 の分 画 を 採取 し た と こ ろ 、 こ れ ら の 細 胞 に は Oct-4, Nanogな ど の 幹 細 胞 特 異 的 遺 伝 子 が 高 発 現 し て お り 、高 い sphere形 成 能 を も つこ と を 見 出 し た ( 2010 年 , AACR annual meetingで 発 表 )。 膵 癌 SP細 胞 の 転移 、浸 潤、EMTは 、間 葉 系 幹 細 胞 ( mesenchymal stem cell, MSC ) と の 共 培養 に よ り強 く 誘 導さ れ 、 さら に NOD-SCIDマ ウ ス への 共 移 植実 験 で は、 MSCと 膵 癌 細 胞 を 共 移 植 し た 際 に 著 し く 強 い 腫 瘍 形成 能 が 観察 さ れ うる 事 を 見出 し た ( 2010年 , AACR annual meetingに て 発 表 )。さ ら に その 後 の 解析 に よ り、 MSC と の 共 培 養 に よ っ て 膵 癌 SP 細 胞 中 の CD133陽 性 細 胞 が 増 加 す る こ と が 明 ら か に な り 、MSCに よ り癌 幹 細胞 維 持の た めの 細 胞 外 微小 環 境( cancer stem cell nishe ) が 形 成 され て い るこ と が 示唆 さ れ た( 未 発 表)。現在 MSC由 来 の 諸 因子 に よる EMT 誘 導 の 機序 を 解析 し てい る 。 癌 幹 細 胞 は 腫瘍 を 構 成す る 癌 細胞 の う ち の ご く 一部 の 細 胞群 で あ り、 自 己 複製 5.主な発表論文等 (研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線) 〔雑誌論文〕 (計 2 件) ① Satoshi Kurita, Hajime Higuchi, Yoshimasa Saito, Nobuhiro Nakamoto, Hiromasa Takaishi, Shinichiro Tada, Hidetsugu Saito, Gregory J. Gores, Toshifumi Hibi. Cancer Sci 101:14311439, 2010 査読有 ② Ayano Kabashima, Hajime Higuchi, Hiromasa Takaishi, Yumi Matsuzaki, Sadafumi Suzuki, Motoko Izumiya, Hideko Iizuka, Gen Sakai, Shigenari Hozawa, Toshifumi Azuma, Toshifumi Hibi. Side population of pancreatic cancer cells predominates in TGFbetamediated epithelial to mesenchymal transition and invasion. IntJCancer 124:27712779, 2009 査 読有 〔学会発表〕 (計 4 件) ① Masayuki Adachi, Hajime Higuchi, Ayano Kabashima, Shinsuke Funakoshi, Shoko Nakamura, Hiromasa Takaishi, Toshifumi Hibi. Wnt signaling contributes to the maintenance of cancer stem celllike populations in Huh7 hepatocellular carcinoma cell line: Role of hepatic stellate cells. AACR meeting abstract 2010,203 April 1721, 2010, Washington ② Motoko Izumiya, Hajime Higuchi, Ayano Kabashima, Toru Igarashi, Shoko Nakamura, Shinsuke Funakoshi, Masayuki Adachi, Hiromasa Takaishi, Toshifumi Hibi. Cancer stem cell like properties of 5fluorouracil resistant Panc AACR meeting abstract 2010, 335 101st American Association for Cancer Research, April 1721, 2010, Washington ③ Ayano Kabashima, Hajime Higuchi, Yumi Matsuzaki, Shinsuke Funakoshi, Masayuki Adachi, Motoko Izumiya, Gen Sakai, Toru Igarashi, Shoko Nakamura, Hiromasa Takaishi, Toshifumi Hibi. Mesenchymal stem cells induce epithelialtomesenchymal transition (EMT) in metastatic SP cells in pancreatic cancer. AACR meeting abstract 2010, 387 101st American Association for Cancer Research, April 1721, 2010, Washington ④ Gen Sakai, Hajime Higuchi, Hiromasa Takaishi, Motoko Izumiya, Masaya Adachi, Ayano Kabashima, Shouko Nakamura, and Toshifumi Hibi. Isolation and identification of Notch signal positive cells in pancreatic cancer cell line. AACR meeting abstract 2009, 193 100th American Association for Cancer Research.April1822,2009 Denver 〔図書〕 (計 0 件) 〔産業財産権〕 ○出願状況(計 0 件) ○取得状況(計 0 件) 〔その他〕 ホームページ等 なし 6.研究組織 (1)研究代表者 樋口 肇(HIGUCHI HAJIME) 慶應義塾大学・医学部・助教 研究者番号:20306682 (2)研究分担者 なし (3)連携研究者 なし
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