今、音楽科で目指したい授業 - 4つのポイント - 1 児童生徒の実態と教材の価値を踏まえた指導計画の作成 ○ 〔共通事項〕を要として複数の指導内容や教材を関連付けるなど、題材構成を工夫する。その際、 取り扱う〔共通事項〕の具体的な内容を明確にする。 ・ 例えば、〔共通事項〕の「リズム」を要として、リズムに特徴がある曲を歌ったり、楽器で演 奏したり、「リズム」に着目して曲を創ったり、音楽を聴いたりする活動を組み込んだ題材を構 成しましょう。 2 「感じる」ことをベースとした「わかる・できる授業」の展開 ○ 曲想にふさわしい表現とするために、どのように表したらよいか考え、試す。 ・ 自分が聴き取り(知覚し)、感じ取った(感受)ことを基にして、強弱や速さの変化等の曲想 を工夫する授業を展開しましょう。 3 「音楽活動の質的な高まりが見られる言語活動」の授業への位置付け ○ 表現活動において、楽曲に対する思いや意図を相互に伝え合う活動を位置付けて、仲間とともに 創意工夫して表現する喜びを味わうような活動を取り入れる。(小) ・ 合唱や合奏、重唱や重奏などの表現形態を選んで学習できるようにするとともに、なぜその形 態を選んだのか、どのように表現したのか、思いや意図を話し合う機会を設けましょう。 ○ 鑑賞活動において、感じ取ったことや考えたことなどを言葉を用いて表す主体的な活動や、客観 的な理由をもとにして自分にとってどのような価値があるのか評価する活動を取り入れる。(中) ・ 単なる感想(感じたこと)ではなく、音楽を形づくっている要素を知覚、感受したことを言葉 で表すようにしましょう。 4 評価の工夫改善 ○ 「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料」 ( 国立教育政策研究所) を活用し、 題材の目標、評価規準及び指導計画を作成し、指導と評価の質を高めていく。 ・ 指導を改善し、質を高めていくための評価であることを意識して、評価規準及び指導計画を作 成しましょう。 ・ 「音楽表現の創意工夫」(第2観点)の趣旨を理解し、「このように表現したい。」という思い や意図をもち、それを言葉等で表現している状況を確実に評価しましょう。 曲想にふさわしい表現とするために、どのように表したらよいか考え、試す場を 設定した実践事例 小学校第3学年『音楽科』学習指導案 1 題材名 盛り上がりを工夫して表現しよう 2 教材名 「ふじ山」 3 題材の目標 (1) 「ふじ山」の後半の盛り上がりを聴き取り、それが山型の旋律と強弱の働きで生み出されているこ とに気付き、それを生かして後半を勢いよく歌おうとしている。(音楽への関心・意欲・態度) (2) 「ふじ山」の後半の盛り上がりを聴き取り、それが山型の旋律と強弱の働きで生み出されているこ とに気付き、それを生かして後半を勢いよく歌おうという思いや意図をもっている。 (音楽表現の創意工夫) (3) 「ふじ山」の後半の盛り上がりを聴き取り、それが山型の旋律と強弱の働きで生み出されているこ とに気付き、それを生かして後半を勢いよく歌うための技能を身に付けている。(音楽表現の技能) 4 本時の目標 「ふじ山」の後半の盛り上がりを聴き取り、それが山型の旋律と強弱の働きで生み出されていることに 気付き、それを生かして後半を勢いよく歌おうという思いや意図をもっている。 5 学習過程 段階 学 習 活 動 ・ 内 容 1 2 既習曲を歌う。 本時の学習課題を確認する。 導入 「ふじ山」のいいところを出せる ように工夫して歌ってみよう。 時間 形態 〇教師の働きかけ ◇評価 5分 一斉 〇 既習曲「森の子もり歌」を歌う。曲にあっ た歌い方で学習したことを生かして、本時に 繫がるように働きかける。 〇 本時の課題を板書し 、しっかり把握させる。 3 範唱を聴く。 5分 一斉 (1)感想を話し合う。 〇 雄大な歌詞に注目させるようにする。 (2)歌詞を朗読させ、そのスケールの 〇 難解な語句をわかりやすく解説する。 大きさに気付かせる。 (かすみのすそ、等) 〇 写真はできるだけ見せないようにして、児 童に自分なりの雄大な富士山を想像させるよ うにする。 4 歌詞唱する。 10分 一斉 (1)聴唱する。 〇 ある程度 、旋律を正しく歌えるようにする。 5 展開 表現の工夫について考える。 20分 個人 (1)どのように歌えば曲のよさを生か 〇 教師が歌って聴かせたり、実際に歌ったり せるか話し合う。 グルー して、曲のイメージや雰囲気を感じ取らせ、 〇曲の雰囲気を話し合う。 プ なぜそう感じるのかを教師が援助しながら考 ・雄大な感じがする えさせる。 ・スケールが大きい 一斉 ・雄大な歌詞を味わわせる(気付かせる 。 ) ・元気が出る感じ ・上昇音型と下降音型の組合せで盛り上がり ・最後が盛り上がる が作られていることに気付かせる。 〇必要に応じて歌ってみる。 〇 教師が、強弱を強調して歌うなどして後半 〇なぜ、そう感じるのか話し合う。 の盛り上がりに気付かせる。 ・歌詞がとても雄大だから 〇 様々な意見がある場合でも、教師が後半の ・終わりの旋律に山があって盛 盛り上がりに気付かせるようにする。 り上がるから 〇 書き込みができる楽譜を使用して、強弱記 〇必要に応じて歌ってみる。 号等自由に書き込ませながら、個人の思いや 〇教師が意見をまとめる。 意図を明確にしていく。 ・今回は、後半の盛り上がりに ○ 音楽から離れないように、書き込んだら試 注目させるようにする しにそれを歌って試させるようにする。 前ページの、「5 表現の工夫について考える」がこの授業の山場です。 合唱曲や唱歌を扱って表現の工夫をさせる場合、先生が、「どんな工夫をすればいいですか?」と問 いかけ、児童が、 「最後を大きな声で歌いたいです。」と答えたことに対して、 「 それはどうしてかな?」 と問いかけることをせず、また、問いかけたとしても、児童の答えは、「なんとなく・・・・」となっ てしまう場合が多かったように感じています。これでは、根拠となる音楽の要素に気付かせる機会を 逃してしまっていることになります。 大切なことは、児童に、楽曲のよさや面白さを感じ取らせ、それが音楽の要素の働きから生まれて いるということを聴き取らせる手立てを行うことです。「ふじ山」の場合、そのよさである「雄大さや 最後の盛り上がり」は、「雄大さを表した歌詞」、「ちょうどいい速さ」、「後半に盛り上がりのある旋律 線」が生み出しているということに気付かせる手立てを行うことです。 本事例では、歌詞を朗読して情景を想像させたり、先生が後半の盛り上がる箇所を強調して歌って 聴かせたり、児童が考えたことを試しながら繰り返し歌わせる、といった手立てを行っています。 表現を工夫させる授業の場合、話し 合いの時間ばかりが長く、歌う時間が 少ししかない場合がありました。音楽 活動から離れてしまわないように、考 えたら歌ってみる、そしてまた考える、 という、言語活動と音楽活動を行った り来たり(往還)することが大切です。 表現の工夫を考えて、それを生かし て口ずさみ、自分のイメージと違った らまた考える、そしてまた口ずさむ、 というイメージです。 本時の評価規準は、第2観点の「音楽表現の創意 工夫」です。この観点は、 「聴き取り感じ取ったこと を生かしてどのように表現を工夫するか、思いや意 図をもっている」ことについて言葉などで表したこ とを評価します。実際に歌って表現したことを評価 するのではないことに気を付けなければなりません。 本事例の場合は、「ふじ山のよさは雄大さや後半の 盛り上がりだから、歌詞をはっきりと、後半を大き くたっぷりと勢いよく歌いたい。 」という内容の発言 や、ワークシートへの記載の状況を評価するように なります。 ◇ この曲のよさが後半の盛り上がりである ことに気付き、それを生かすため後半を勢 いよく(強く)歌おうという思いや意図を もったか、発言やワークシートで把握する。 終末 6 表現の工夫について、発表する。 5分 一斉 (1)自分の思いや意図を発表する。 〇 内容としてはほとんど同じになることが予 〇何人かに発表させる。 想されるが、児童が自分なりの言葉で表現し 〇音楽の要素と関連させて発表す たことを大切にし称賛することで、次時への るよう促す。 意欲を高める。 (2)次時は決めたことを生かして歌う ことを知る。 鑑賞活動において、感じ取ったことや考えたことなどを言葉を用いて表す主体的な活動や、客観 的な理由をもとにして自分にとってどのような価値があるのか評価する活動を取り入れた実践事例 中学校第2学年『音楽科』学習指導案 1 題材名 音楽の仕組み 2 教材名 交響曲第5番『運命』 3 題材のねらい ベートーヴェン作曲 (1) ふたつの主題が反復したり変化したりしていることによる雰囲気の違いに関心をもち、鑑賞する活 動に主体的に取り組もうとしている。 (音楽に対する関心・意欲・態度) (2) ふたつの主題が反復したり変化したりしていることを知覚し、それによって生み出されている雰囲 気の違いを感受しながら、音楽を形づくっている要素や構造と曲想との関わりを理解して、解釈した り価値を考えたりし、根拠をもって批評するなどして、音楽のよさや美しさを味わって聴いている。 (鑑賞の能力) 4 本時のねらい ふたつの主題が反復したり変化したりしていることを知覚し、それによって生み出されている雰囲気の 違いを感受しながら、音楽を形づくっている要素や構造と曲想との関わりを理解して、解釈したり価値を 考えたりし、根拠をもって批評するなどして、音楽のよさや美しさを味わって聴いている。 5 学習過程 段階 学 習 活 動 ・ 内 容 1 時間 形態 本時の学習課題を確認する。 導入 曲の仕組みを聴き取ろう ~ 反復と変化に注目して 〇教師の働きかけ ◇評価 5分 一斉 〇「小フーガト短調」の学習を振り返ることに よって、学習課題にスムーズに取り組めるよ うにする。 ~ 2 曲を聴きイメージとその根拠を考 える。 展開 (1)第1楽章を聴く。 〇 雰囲気を感じ取る。 〇 音楽の要素を考える。 ※ 大まかにとらえる。 「イメージと根拠」を関連付けて聴き取らせる ことがとても大切です。ここでこのことが確実に 行われていました。 ○「小フーガト短調」で学習したことを生かし て自由に発表させることで意欲を高める。 以下が第1楽章を聴かせた後の先 生と生徒のやりとりの概要です。 T:全体的にどんなイメージをもち ましたか? S1:全体としては暗いけど、時々 やさしい音楽 が聴こえてきまし た。 S2: 何かから逃げているようなイメ ージが浮かびました。 T:では、どうしてそのようなイメ ージが浮かんだのでしょう。 〇マグネットを使用し 、簡単な図に表すことで 、 ソナタ形式の仕組みが容易に理解できるよう にする。 S3:時々やさしい雰囲気を感じた のは、そこの部分だけ音が な めらかにつながっている(レガ ート) からじゃないかと思いま した。 S4:全体として大きい音だけど、 そこだけ 音が小さくなった(強 弱)から、やさしく感じたんだ と思います。 S5:何かから逃げているように感 じたのは、 テンポが速くて(速 度)、同じリズムが繰り返し(反 復)出てくるからだと思いまし た。 T:そうですね。 小さい音で、つな がりがなめらかな旋律だとやさ しい感じがするんですね。また、 速いテンポ で 同じ旋律が次々と 繰り返される と、 追いかけられ ているような感じ をイメージす るのですね。みなさん、よく聴 き取り、感じ取りましたね。 ※ 実際の場面では、先生がていね いに補助質問を行い、生徒の発言 をわかりやすくしています。 3 ソナタ形式の仕組みを知る。 ・ ・ ・ ・ 提示部 展開部 再現部 終結部(コーダ) 4 主題の性質と提示部の特徴を聴き 取る。 (1) 第1主題を聴く (2) 第2主題を聴く (3) 5 イメージと要素について感じた ことを話し合う。 主題が発展する様子を聴き取る。 (1) (2) 展開部を聴く イメージと要素について感じた ことを話し合う。 6 提示部と再現部の違いを聴き取る。 (先生と生徒のやりとりは略) ※ 終末段階略 ソナタ形式の概要の説明の後、第1主題と第2 主題の違い、展開部、再現部について、それぞれ 聴き取り、感じ取る活動が行われました。ここで は、ねらいに結び付く、音楽の仕組みのひとつで ある「反復や変化」の効果を実感させていました。 以下、先生と生徒のやりとりの概要です。 T:第1主題と第2主題をそれぞれ聴いてみまし たが、どんなことがわかりましたか? S1:最初に聴いたときに、 やさしい感じに聴こえ たのが第2主題だとわかりました。第1主題 と第2主題は雰囲気が全然違います。 S2: 「タタタターン」というリズムが、第1主題だと わかりました。 T:第1主題と第2主題の雰囲気はどのように違 いますか? S3:第1主題は激しくて、重々しい感じがします。 第2主題は、穏やかで、軽い感じがします。 S4:第1主題は何かに追いかけられているような感 じがします。第2主題は、ゆったりくつろいで いる感じがします。 T:そうですね。ではどうしてそう感じると思い ますか?。音楽の要素の違いから考えてみま しょう。例えば、音の大きさはどうですか? S6:第1主題は、とても 大きな音で迫力がありま す。それに比べて第2主題は小さめの音です。 T:その他にはありませんか? S8:第1主題は「タ・タ・タ・タ」という歯切れ よいリズムだと思いました。第2主題は、 「タ ーラララララララ」という なめらかな旋律だ と思いました。 S9:第1主題は 暗くて激しいから、 短調じゃない かと思いました。第2主題は、穏やかなので 長調ではないかと思いました。 T:第1主題と第2主題の違い(変化)を聴きと ることができましたね。 では、曲が発展する部分である展開部はどん なイメージを持ちましたか? S1:「タタタタ」というリズムが繰り返されて曲が 盛り上がっていくと感じました。 最初は小さ い音で途中からどんどん音が大きくなっていき ました。 迫力と緊張感が増していったと思い ます。 T:みなさん、第1主題のリズムが繰り返し(反復) 使われているのを聴きとれましたか? では、この曲のよさ(自分にとっての価値)は どのようなところだと思いましたか? S3:この曲を聴いて、とてもおもしろい(価値を考 えている) と感じました。なぜかというと、 雰囲気の違う2つの旋律をひとつの曲に入れ ることで、それぞれの旋律のよさがひきたっ ていると思ったからです。 S5:第1主題の「タ・タ・タ・ターン」という旋 律やリズムはとても印象的で、先生の説明に あった作曲者の思いというのがなんとなくわ かったような気がします。(曲の創られた背 景) ※ 実際の場面では、先生がていねいに補助質問を 行い、生徒の発言をわかりやすくしています。 難しいと言われている鑑賞領域の指導事例です。この事例の参考になるところは、誰もが共通に聴き取 ることができる、客観的な音楽の要素を知覚させることを確実に行っているところです。 鑑賞の指導で大切なことは、音楽を形づくっている要素を知覚し、それらの働きが生み出す特質や雰囲気 を感受することです。「この曲を聴くとうきうきした気分になる(感受)のは、拍がはっきりした、リズミ カルで速いテンポ(音楽の要素)だからだと思う。」というようにです。 これを確実に行った上で、 解釈したり価値を考えたりしてよさや美しさを味わう活動を行うようにし ましょう。
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