R4-13 西の湖の濁水および栄養塩に関する浄化機能について 京都府立大学 流域情報学研究室 有間美加 松村和樹 1.はじめに 日本の河川・湖沼において,富栄養化は深刻な問題となっている。日本最大の面積で,多種多様な生態系 を有し,多くの水利用がある琵琶湖では,1970 年代に水質汚染が大きな問題となり,窒素やリンの汚染物質 の流入による富栄養化など,生物・水環境の劣化が進んできた。琵琶湖は 1985 年に湖沼水質保全特別措置法 に指定され,1993 年にはラムサール条約に登録された。琵琶湖の水質保全対策として,排水規制を中心に積 極的に進められてきたが,農業排水対策については目に見える形で対策の効果は表れていない。そこで,農 地および市街地の面源負荷対策として,ため池や内湖を利用することが提案されている。内湖・湿地の浄化 機能については,地形効果による栄養塩を含んだ懸濁物質の沈殿作用と,水生植物による栄養の吸収による 浄化能力があると言われており,人工的に設置した湿地や湖内湖での栄養塩の総収支の観点からの研究が行 われている。本研究では降雨による栄養塩の流出に着眼し,内湖において比較的大きな降水による栄養塩流 出の状況を把握し考察する。 2.調査対象地および調査方法 2.1 調査対象地 西の湖は琵琶湖の周囲に存在する内湖の一つで, 安土川 その中で最大の面積を有している。水域面積は約 220ha で,平均水深は約 1.5m である。ヨシ群落の 面積は約 109ha あり,まとまったヨシ群落としては 近畿圏最大級である。西の湖へは黒橋川,蛇砂川, 蛇砂川 山本川 山本川, 安土川, および小中排水路が流入しており、 西の湖 その他 長命寺川 琵琶湖 西の湖に流入した水は長命寺川を通って琵琶湖へ流 出する。 図1 西の湖の流入・出河川 2.2 調査方法 本研究では,西の湖へ流入する 5 河川のうち 3 つの河川(蛇砂川,山本川,安土川)および流出河川の長 命寺川の上流と,下流においてEC,DO,濁度,pH,水温を計測した。また,同地点においてサンプル を採水して持ち帰り,水質分析で全窒素,全リン,CODを測定した。蛇砂川河川敷には雨量計と降雨採水 器を設置した。また,滋賀県琵琶湖環境科学研究センターが公表する過去のデータから,西の湖の経年栄養 塩収支と浄化率を求めた。 西の湖の物質循環および水質浄化量は,全窒素,全リン,CODの負荷量を各河川の流域面積とその計測 点での濃度から,次の式を用いて計算することによって求めた。 L=S’/S×C L は負荷量,S は全体の流域面積(km2),S´は河川の流域面積(km2),C は物質濃度(mg/l)である。蛇砂川, 山本川,安土川とその他の負荷量合計を流入,長命寺川の負荷量を流出として,濁度,EC,COD,全窒 素,全リンの流入と流出を比較する。 P=(1-Lout/Lin)×100 P は浄化率(%) ,Lout は流出負荷量、Lin は流入負荷量である。 - 226 - 3.結果および考察 流入 2 0 20 40 1.5 60 1 養塩に関して若干の浄化機能が認められる。しかし, 0.5 降雨時にはいずれも流出が流入を上回った。これは, 0 80 100 120 平常時 水深の浅い湖内に溜まった栄養塩が降雨による流量の 増加での底泥の巻きあげにより流出したためと考えて これは西の湖での栄養塩堆積容量が小さくなっている と推定され,今後降雨によって逆に流出が増加する現 全窒素(mg/l) とんどが流速の低下による栄養塩を含む懸濁物質の沈 経年データから,その浄化能力が低下が認められる。 象が起こりうると考えられる。以上のことから,西の 流入 雨量 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 60 80 100 120 平常時 全リン(mg/l) COD(mg/l) 9/2① 9/2② 図3 全窒素負荷量 流入 5 4 0 40 要である。 6 流出 20 負荷の削減や持続的利用を可能にする新たな対策が必 流出 降雨時 0 湖の浄化機能は限界に近づいていると考えられ,流入 流入 9/2② 図2 COD 負荷量 いる。よって,内湖の浄化機能と呼ばれるものは,ほ 殿によるものであると考えられる。また,これまでの 9/2① 3 2 降雨(mm) 時は効果は小さいが窒素と似た挙動を示しており,栄 雨量 流出 降雨時 雨量 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0 20 40 60 80 降雨(mm) 40~60%の浄化率を示した。リンについても,平常 流出 降雨(mm) することでむしろ増加している。全窒素は平常時には COD(mg/l) CODは浄化率がほぼ0%以下であり,西の湖を通過 2.5 100 120 平常時 1 9/2① 9/2② 降雨時 図4 全リン負荷量 0 2000 2001 2002 2008 2009 図5 COD 経年平均負荷量 流出 流入 流出 3 0.14 2.5 0.12 2 0.1 全リン(mg/l) 全窒素(mg/l) 流入 0.08 1.5 0.06 1 0.04 0.5 0.02 0 0 2000 2001 2002 2008 2009 2000 2001 2002 2008 図7 全リン経年平均負荷量 図6 全窒素経年平均負荷量 - 227 - 2009
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