次世代低電圧駆動トランジスタの 作製技術について 福井 孝志 (北海道大学・大学院情報科学研究科・教授および 量子集積エレクトロニクス研究センター・センター長) 冨岡 克広 (科学技術振興機構・さきがけ専任研究者) JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ) 研究領域名:「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」 研究課題名:「Si/III-V族超ヘテロ接合界面を用いた低消費電力スイッチの開発」 1 謝辞 本研究は、JST戦略的推進事業さきがけの支援を受けて、 北海道大学・量子集積エレクトロニクス研究センターで行われました。 福井 孝志 教授 (北海道大学・大学院情報科学研究科、 量子集積エレクトロニクス研究センター、センター長) 佐藤 勝昭 先生 (JST戦略的推進事業さきがけ「革新的次世代デバイスを目指す 材料とプロセス」研究総括、東京農工大学・名誉教授) 橋本 典親 氏 (JST戦略研究推進部主査) 泉 弘一 氏 (JST戦略的推進事業さきがけ「革新的次世代デバイスを目指す 材料とプロセス」技術参事) 前田 謹一郎 氏(JST戦略的推進事業さきがけ「革新的次世代デバイスを目指す 材料とプロセス」事務参事) 2 本研究のポイント • 低消費電力を実現できる新型トランジスタ-を開発。 • スイッチングの良さを示すサブスレッショルド係数で世界最小値を実現 • ナノメートルレベルの結晶成長技術で新しい界面を創成。 • 従来からあるシリコントランジスター工程を使える。 • 次世代エレクトロニクスの省エネルギー化への道を開く。 3 トランジスター 1947年 最初のトランジスター(点接触型) 1960年 電界効果型トランジスター (MOSFET) http://www.ssis.or.jp/mus eum2010/exhibi304.htm US特許3102230号 トランジスタ:電圧をかけて電流の大きさを制御する仕組み 例) 水道の蛇口と感覚は一緒 バルブ => 電圧 水量 => 電流の大きさ 4 集積回路 トランジスターのスイッチ 電圧をかけた時に電流が流れるか流れないかで 1 (ON) と0 (OFF)を判定 => デジタル計算に応用 マイクロプロセッサ 現在 トランジスタースイッチを小さくして、 沢山敷き詰めることで、高性能化 大きさ:22ナノメートル 髪の毛の太さの4000分の1 赤血球の大きさの300分の1 Intel ホームページ トランジスターの数: ~15億個 5 マイクロプロセッサの問題点 LSIチップの電力密度(発熱量)が非常に大きい!! どんな最新技術を駆使しても、 集積回路の電力をさげることはできない。 ロケットノズルの温度 原子炉の温度 今のLSIはどうやって対処しているか? =>扇風機で対処 6 トランジスター微細化の問題点 (1)リーク電流 スイッチOFF状態で小さな電流が流れる バルブを閉めてもちょろちょろ水が流れる状態 待機電力が大きくなる ON状態 OFF状態 最新のトランジスター: 立体ゲート構造を導入 => 一本の蛇口に3つ バルブを取り付けて、 漏れを防ぐ 7 トランジスター微細化の問題点 (2)トランジスターの物理限界 トランジスターのスイッチ性能:サブスレッショルド係数 電流を一桁上げるのにどのくらい電圧をかけるか? 水道で1Lから10L流すのにバルブをどれくらい開ければよいか? トランジスターの電流は電子(正孔)の拡散機構で流れる サブスレッショルド係数に理論限界をもたらす SS = 2.3kBT/q = 60 mV/dec バルブの開き具合に限界ができる。 電圧・電力が急増 OFF状態 ON状態 8 トランジスターの物理限界を突破するには? 拡散機構を使わない電流の流し方が必要 =>新型トランジスター トンネル効果 エネルギー的に通常は超えることのできない領域 を粒子が一定の確率で通り抜ける現象。 半導体中のトンネル効果は、江崎玲於奈博士に よって発見された(1972年ノーベル物理学賞) Physical Review 109 (1958) pp.603-604 9 トランジスターの物理限界を突破するには? トンネルトランジスター: トンネル効果を使ったトランジスター 電子がトンネルするかしないか でON,OFF状態を決める 従来のトランジスターの サブスレッショルド係数で 理論限界がなくなる。 世界中のトランジスターメーカーが、トンネルトランジスターの 開発にしのぎを削っている。 インテル、IBM、サムソン、TMSCなど 学術研究機関 10 ルンド大学 サムソン IBM IMEC 産総研 TMSC シンガーポール インテル IBM MIT カルテック カリフォルニア大 主要LSIメーカは、トンネルトランジスターの研究・開発を スタートしています。 =>次のインテルになれるから。 11 研究の概要 ナノメートルスケールの結晶成長で、 シリコンとIII-V族化合物半導体 族化合物半導体を接合し、 これまで難しかったシリコン シリコン 族化合物半導体 電子がトンネルしやすい界面を作り、トンネルトランジスターを開発する。 半導体の二大材料 LSI シリコン LED 携帯の無線 III-V族化合物半導体 GaAs, InGaAs, InP シリコンと化合物半導体を接合することは難しかった。12 実験の概要:新しい接合の作り方 シリコン基板 ガラス ガラス 穴あけ ナノワイヤの作製 13 発見:ナノスケールのシリコンとIII-V族化合物界面 トンネル輸送が起こりやすい界面が自然につくられる 高分解能断面透過電子顕微鏡観察像 砒化インジウム 砒化インジウム シリコン シリコン Si-doped InAs ナノワイヤ シリコン 砒化インジウム 砒化インジウム EC 0.4 eV p+-Si EV B-doped p+-Si(111) : 4 x 1019 cm-3 EF EV 0.1 eV 14 本研究の成果: トンネルを起こしやすい界面をシリコンと化合物半導体の接合で 実現し、新型トンネルトランジスターを開発しました。 15 試作品 16 従来のトランジスターの理論限界を突破 - - 電子がシリコンと砒化インジウムの 間を電子がトンネル効果で すり抜けるため、電流が流れる。 17 今のトランジスター工程にも導入できる (I) (II) (III) (IV) ・これまでは特殊な面で作っていたが、 今のシリコントランジスターで使われている市販基板に ナノワイヤを作るだけで、新型トンネルトランジスター ができる。(特許出願済み) 18 本研究がもたらすブレイクスルー 従来のトランジスタースイッチ ・サブスレッショルド係数 最小値は60 mV/decまで 市販品:60 – 100 mV/dec ・消費電力の急増が問題 新しいトンネルトランジスター ・サブスレッショルド係数の 理論限界突破 試作品最小値は21 mV/dec 理論的には10 mV/dec以下可能 ・駆動電圧を3分の1以下にできる => 電力は10分の1以下に。 エレクトロニクス分野の省エネ化に貢献 19 本研究がもたらすインパクト インテルホームページより スマートフォン、ノートパソコン、デスクトップなど あらゆる電子機器について、理論上、消費電力を10分の 1にできる要素技術を開発した。 世界の半導体売上:20-30兆円規模*) この根幹を担う基礎技術を開発 *)http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20120419-01.html 20 なぜインテルやIBMにはできない? 既存の技術でトンネルトランジスターを作 るには? ・髪の毛の4000分の1ほどの小さな領域に 不純物原子を入れなければいけない。 今の科学技術では不可能。 筆者の技術は? ・ナノワイヤを作るだけで、トンネルを 起こしやすい構造を自然に創れる。 21 まとめ • 低消費電力を実現できる新型トランジスターを開発。 スイッチングの良さを示すサブスレッショルド係数で 世界最小値を実現。 ナノメートルレベルの結晶成長技術で 新しい界面を創成。 • 次世代エレクトロニクスの省エネルギー化への道を開く。 2025年のIT機器の電力消費量は、すべての電力需要 の20%を占めると予想されている注)。 これらを大幅に削減する基礎技術の一端を開発。 注)経済産業省商務情報政策局 「グリーンITイニシアティブ」平成20年5月より 22
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