血管移植後の動脈硬化 S3 松本祐直 (浜松医科大学・薬理学) 移植後、比較的短期間(数ヶ月)の急性拒絶反応(acute rejection)は、効果的な 免疫抑制剤の開発やオペ技術の向上などにより飛躍的に抑えられるようになったも のの、移植後、長期間(数ヶ月~)の慢性拒絶反応(chronic rejection)は、未だあまり 改善されないままである。後者の主な原因は、移植後動脈硬化(graft vessel disease または transplant arteriosclerosis)によるといわれており、その病態は“一般的な動脈 硬化“と類似している。すなわち、新生内膜における血管平滑筋細胞の過増殖によ る血管閉塞である。従来、新生内膜でみられる平滑筋様細胞は、血圧や血流を調 整している中膜に由来すると考えられてきた(Ross の仮説)。しかし、近年、この仮説 を覆す研究結果が次々と報告されている。 我々は全身にマーカー遺伝子である GFP(green fluorescent protein)を発現する 遺伝子組み換えマウス を用いて、血管移植後の動脈硬化巣を調べた。C57BL/6 (B6)マウス、および GFP-transgenic BALB/c(GFP-B/c)マウスをドナーあるいはレシ ピエントとして用いた。この組み合わせは MHC(major histocompatibility complex) が完全不一致であるため、非常に強い拒絶反応を引き起こす。頚動脈移植は同所 性に行い、組織切片を経時的に解析した。移植 8 週間後の新生内膜において、平 滑筋細胞マーカーの一つである α-アクチンを発現しているドナー由来の細胞はみと められず、それらは全てレシピエント由来の細胞であった。この結果は上記 Ross の 仮説と全く異なる。また、免疫抑制薬の cyclosporine A、または、rapamycin 誘導体 である everolimus(SDZ RAD, Certican™, Novartis Pharma AG)を処置すると、新生 内膜形成、α-アクチン陽性レシピエント細胞の蓄積を有意に抑制した。しかし、抑制 の程度は、B6 から GFP-B/c へ移植した場合と、GFP-B/c から B6 に移植した場合と では異なっていた。 本シンポジウムでは、上記研究結果の詳細と共に、他研究グループによる研究成 果(骨髄由来細胞の移植後動脈硬化巣への関与、移植された血管の内皮・平滑筋 の機能など)について述べたい。
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